『仮面ライダー龍騎』
劇場版 EPISODE FINAL

特設 研究室



  最初に、テレビでの流れを整理してみよう。

 まず、3話『学校の怪談』で、優衣は幼い頃から鏡の中のモンスターを見ることができ、それを信じてくれたのは士郎だけだったこと、その当時モンスターは人を襲わなかったこと、襲うようになったのがここ半年くらい(2001年8月ころ以降)であることを語っている。

 そして21話『優衣の過去』では、まだ士郎と一緒にいる優衣がモンスターの絵を描いている姿が、回想シーンとして描かれている。

 17話『嘆きのナイト』では、優衣が江島研究室の仲村から渡された資料に挟まっていたネガは、20話『裏切りの蓮』で現像され、旧神崎邸が写っていることが分かった。
 そして21話では、優衣が旧神崎邸に近寄ると耐え難い恐怖を感じ、ついには失神するという異常な状態が描かれている。

 また22話『ライアの復讐』では、手塚の調べで、13年前に起きた謎の爆発事故で、士郎は重傷、両親は死亡し、優衣だけが無傷だったことが分かった。
 さらに、その事故以降その屋敷が無人だったこと、その写真が13年前のものではなくここ数年の間に撮影されたものであること、つまりその写真はこの屋敷に住んでいたころの士郎と優衣を写したものではないことが語られている。
 主を失い無人になったはずの旧神崎邸にいる少年少女が誰かということや、爆発事故の原因などには、いまだ触れられていない。

 27話『13号ライダー』では、旧神崎邸の鏡に貼られた新聞紙をはがすと、ギガゼールやデッドリマーなどのモンスターが見えた。
 ということは、あの新聞紙は、何者かがモンスターを出さないように貼ったものである可能性が高い。
 そのくせ鏡だらけの部屋には、金色の羽をまき散らす何者かがいるだけでほかのモンスターの姿はなかったから、あの部屋には何か特殊な事情のあることが分かる。
 さらに、貼られた新聞紙の下には、ところどころに優衣が描いたと思しき絵が隠されており、それらは優衣や士郎の思い出の詰まったものであるらしいことが窺える。
 その上、28話『タイムベント』では、士郎は、たかが破れた絵1枚を修復するためにオーディンによるタイムベントを行っている。
 士郎とオーディンの本当の関係はまだ不明だが、士郎の意志を受けたオーディンが時間を巻き戻したとしか思えない展開だったことは疑いを挟む余地がないだろう。
 また、士郎の方から考えてみると、12話『秋山蓮の恋人』で、2001年の夏に江島研究室で何らかの実験をし、そのせいで小川恵里を意識不明の重態に追い込んだくせに、「妹のために実験は成功した」と言っていたという。

 6話『骨董屋の怪人』では、カードデッキを持った士郎が優衣の前に現れ「もし俺がいなくなったとしても何も心配するな。俺はいつでもお前を守るためだけに生きている」と言い残していったことが語られている。
 優衣は、花鶏に引き取られて以来、士郎にほとんど会っていなかったと言っているが、今回の劇場版で語られた『士郎は別の親戚に引き取られて、すぐアメリカに発った』ということが本当なら、それも無理ないだろう。
 また22話では、士郎がガルドサンダーに手塚を襲うよう命じていたかのような描写もあった。
 とんでもないことに、27話では、士郎がアメリカで死亡していたという新説まで登場している。


 これまでテレビで描かれてきた優衣や士郎、ミラーワールドに関する情報は、おおよそこのようなものだ。
 とりあえず、テレビからの情報だけで整理してみよう。
優衣は幼少の頃から鏡の中にいるモンスターを見ることができたが、それは周囲に理解されず、士郎だけが理解してくれた
士郎自身は、モンスターを見ることはできなかった
優衣は、海の絵や、男の子と女の子(士郎と優衣?)が手を繋いだ絵などを描いていたが、同様にモンスターの絵を描いたりもしていた
13年前(優衣6才)、家が謎の爆発事故を起こし、両親は死亡、士郎も重傷を負い、優衣だけが無傷だった
士郎は、怪我が治ると高見家に引き取られ、沙奈子に引き取られた優衣と引き離されてしまった
優衣は、なぜか子供のころのことをほとんど思い出せない
いつ、誰が撮ったのか分からないが、士郎がここ数年のうちに撮影された旧神崎邸の写真のネガを持っており、写真には男女2人の子供が写っていた
2001年夏、清明院大学の江島研究室に所属していた士郎は、何らかの実験を行い、「妹のために実験は成功した」と言い残して大学を去った
この際、ダークウイングが実験室におり、士郎は蓮にカードデッキを渡した
士郎はその後優衣を訪ね、「俺はいつでもお前を守るためだけに生きている」と言い残して失踪した
その後、士郎は行方不明者として令子のリストに載っている
 と、大体このような流れになる。
  
 つまり、優衣は“ミラーワールド”という言葉はともかく、鏡の中にモンスターのいる世界があることを最初から知っているのだ。
 その意味で、今回の劇場版での描写は明らかにおかしい。
 
 もしかしたらミラーワールド自体が優衣の特殊能力で生み出された異世界なのかもしれないが、幼い頃の士郎には見えなかったのだから、士郎に依存する世界ではあり得ない。
 ならば、士郎が死のうが消滅しようが、元からあった異世界が変質するというのは妙だ。
 百歩譲って、今後のテレビ展開で、士郎がミラーワールドに何らかの手を加えて造物主として君臨する存在になったという描写が出たとしても、今回の劇場版で優衣が“鏡の中の自分にあげたモンスターの絵がミラーワールドのモンスターになった”と悩むのはおかしい。
 鏡の中の優衣にモンスターの絵を渡したのは、士郎と引き離された後のことなのだから、それ以前からモンスターを見ていた優衣が、今更悩むような問題ではなかろう。
 確かに、優衣の渡した絵がドラグレッダーなどになった可能性は否定しないが、モンスターが人間を襲うようになったのは、放送開始の半年くらい前、つまり2001年8月以降のことだから、優衣がモンスターの絵を渡したこととモンスターが人を襲うことはイコールではないのだ。
 士郎がそのモンスターの絵をどうにかして疑似生命体に仕立て上げたと考えることもできるが、その場合でも、元からいたモンスターと優衣がもう1人の優衣にあげたモンスターとは別物として考えるべきだと思う。
 
 そこで、取り敢えず劇場版の情報のうち、テレビと齟齬を来さない部分を抽出して考える方向でいってみよう。
 実は、鏡の向こうの優衣の描写は、結構チグハグだったりする。
 それらをちょっと挙げてみよう。
優衣が真司の遊んだ女の子だったとすると、真司が翌日遊んだのは誰だったのか
優衣が倒れたときに鏡の中にいた幼い優衣は誰だったのか
士郎と引き離されて泣いていた優衣が、あるとき突然明るい子になったのはどうしてか
鏡の向こうの優衣に渡したモンスターの絵はその後どうなったのか
エンディング後にブランコに乗った優衣のところにやってきた幼い士郎は何者か
 これら5点が主なところだろうか。

 1については、優衣が鏡の向こうの優衣と遊んだのが約束の日の翌日以降と考えれば、真司と遊んだのが鏡の向こうの優衣だったということで納得できる。
 2〜5については、1つの疑問に収束する。
 鏡の向こうの優衣の命を貰うなどということがどうしてできるか、そして元々の優衣の命はどうなったか、だ。

 そこで、鷹羽は、1つの仮説を立ててみた。
 2人の優衣は互いの命を交換しており、時の止まった状態で本来の優衣の命がミラーワールドに封じられているのではないかという仮説だ。
 そのままでは、鏡の向こうの優衣の命はいずれ尽きる。
 だが、本来の優衣の命は、現実世界に戻ればすぐに死ぬ。
 ならば、もう1つほかの命をプラスすることで、本来の優衣の命を現実の優衣に戻すことができるのではないだろうか。
 これは、概ね優衣の推測に則った形になるが、鷹羽の説が少し違うのは、最後に残ったライダーの契約モンスターの命を使うのではないか、というものだ。
 ミラーワールドのモンスターが、優衣が幼い頃から描いていた絵から生み出された疑似生命体ならば、それらは全て優衣の分身と言える。
 優衣が爆発事故以来、記憶が判然としないのも、分身を多く生みだしたせいと考えることもできる。
 ならば、全部のモンスターを収束して、本来の優衣の命に上乗せしてやれば、強化された生命力で、優衣は本来の自分の命を取り戻せるのではないか?
 モンスターを収束する…それは、つまり倒したモンスターのエネルギーを吸収するライダーの戦いそのものではないか。
 最後のライダーの契約モンスターは、全ライダーの契約モンスターを吸収している蓋然性が高い。
 なにしろ、ライダーを失った契約モンスターは、契約相手を倒したライダーを付け狙うのだから。
 となれば、そのモンスターは相当多くのモンスターのエネルギーを吸収していることになる。
 また、モンスターが人間を食うようになったのも、少しでも生命力の足しになるようにするため士郎に与えられた新しい本能、とも考えられる。
 
 一方で、本来の優衣の命は、幼い姿のまま、ミラーワールドに残っている。
 これが爆発事故に関係するものなのか、鏡の中の優衣と命を交換したためなのかは分からないが、ともかく本来の優衣の命は、分身としてミラーワールドのどこか、例えば旧神崎邸に残っているのではなかろうか。
 例の写真に写っていた少年少女は、爆発事故のあった日のまま時間を止めて鏡の世界にいる優衣と士郎と思える。
 士郎がどうして子供の姿のままでいるのかも分からないが、やはり士郎の分身が優衣を守るために寄り添っている…そんな気がする。
 あくまで推測の域を出ないが、そう考えると、劇場版ラストの幼い士郎の行動が納得できるのだ。
 鏡の中の優衣と入れ替わりに残った本来の優衣の命が寂しくないように士郎の分身が寄り添い、士郎の本体は、優衣の命を完全に戻すために奔走しているのではないか。
 
 最後のライダーと共に生き残り、最強のモンスターとなった1体を優衣の命、現実世界の優衣と三体合体させることで、1人の完全な優衣を取り戻そうとしているように感じるのだ。
 最後のライダーに特典が本当に与えられるかどうかは分からないが、少なくとも優衣を恨むようなことのないよう、約束を反故にしてそれっきりにはしないだろう。
 単に、ライダーを殺してしまう、というオチかもしれないが。

 ところで。
 今回引用したエピソードは、なんと全て小林脚本の回だったりする
 やっぱ、そういう番組なのね…。

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