『クウガ』の続編ではないが一見続編に見える世界



 『仮面ライダークウガ』において、ン・ダグバ・ゼバとクウガの最終決戦は、 2001.1.30に行われている。
 対して、『仮面ライダーアギト』は、2001.1.21の佐伯信彦殺害から始まっており、しかも劇中で「未確認生命体が滅んでから2年」というセリフが登場している。
 クウガ最後の戦いよりもアギト最初の戦いの方が早くなってしまう。

 これに対して寄せられた視聴者から苦情に答えるため、東映の公式HPでは、3話のあらすじページからリンクさせて白倉プロデューサーの『時間軸の矛盾について』という文章を掲載した。  その文章中には

 「時間軸のブレ」はミスではなく、確信犯的にやっております。
 『アギト』を『クウガ』の続編として楽しむのも、そうではないパラレルワールドとして楽しむのも、皆さまの自由なのですが、こじつけに聞こえるのは承知で申しますと、『アギト』は「“第4号”が“未確認生命体”を滅ぼしてから2年後」の物語ではありますが、「前番組の続編」ではない、というメッセージだと受け取っていただければ幸いです。
(c)2001 石森プロ・テレビ朝日・ASATSU D.K.・東映
という部分がある。
 つまり
   『アギト』は『クウガ』の続編ではないから、時代設定をわざと変えた
と言っているのだ。
 また、その理由として

 裏事情になってしまいますが、『クウガ』担当者の「『クウガ』は『クウガ』で完結させたい」という思いは非常に強いものがあり、「五代雄介がみんなを笑顔にして、世界は平和になったのに、また戦いが起こったら、彼が戦った意味がなくなってしまう」と、続編企画に強く反対しておりました。
 理屈はいろいろありましょうが、そういう「思い」こそが『クウガ』のヒットを支え、ひいては続編企画のオファーをもたらしたのですから、それをないがしろにすることこそ、大きな矛盾であると考えます。
 要するに、「続編を」という声と、「『クウガ』は完結した物語であり、続編はありえない」という『クウガ』チームの声を、双方ともに満たす苦肉の策として、このような企画にさせていただいているわけです。
と述べている。
 なんだか政治家の答弁みたいだが、要約すると「五代雄介がクウガに変身して戦った世界の未来ではない」ということになる。
 つまり、直接の続編ではない。
 では、設定上どういう繋がりになるのかという問題になる。
 つまり「“第4号”が“未確認生命体”を滅ぼしてから2年後」の物語という部分の解釈だ。
 この“第4号”が五代雄介以外の人間が変身するクウガなのか、それとも全く別の存在であるかという点についての認識は、人によってかなり違ったようだ。
 “アギトの世界のクウガは『五代ではないクウガ』ではないか”という考え方に立てば、クウガそのものは存在したことになり、“『アギト』の世界は、五代ではない誰かがクウガに変身し、『クウガ』と同じ事件が起こったパラレルワールドだった”という考えも成り立つ。
 この考え方だと、テレビ朝日の『アギト』公式HPにあるG3の『クウガを基に対グロンギ用に開発していた特種強化装甲服』という記述も嘘ではなくなる。
 だが、白倉Pの文章は、『続編と見てもいいし、パラレルワールドと見てもいいが、続編ではない』となっているわけだから、『パラレルワールドと割り切って見てほしい』ということなのだろう。
 だが、一口にパラレルワールドと言っても、“のび太の奥さんがジャイ子から静香に変わった”程度から、ドラゴンボールでの“人造人間19号と20号に殺されるはずだった悟飯達は、生き延びてセルや魔人ブウと戦った”までピンからキリまであるのだ。
 『アギト』では、どの程度まで設定(世界観)が共有されているのだろうか。
 本当に“クウガが五代雄介でない”だけのパラレルワールドだろうか?

 一応、ここで『クウガ』と『アギト』の世界観についておさらいしておこう。
 前作『仮面ライダークウガ』は、2000.1.29〜2001.1.30までに起きた未確認生命体(グロンギという古代種族)のゲゲル(ルールに則って人間を殺すゲーム)と、それを阻止するために戦う戦士クウガの物語だ。
 たまたまクウガになる力を得た五代雄介が、事件を通じて知り合った一条警部補を介して警視庁未確認生命体関連事件合同捜査本部と協力しつつ戦うのだが、当初はクウガ自身も未確認生命体の1体と思われ、「未確認生命体4号」と呼ばれていた。
 ちなみに、後半は警察内部では4号の正体は判明していたが、公式発表では最後まで「4号」のままであり、『4号は未確認生命体の全滅に伴い消息不明、人間に害をなす恐れがないため警戒の必要なし』ということで2001.4.末に捜査本部が解散している。

 一方、『アギト』の方はと言うと
 未確認生命体が4号に滅ぼされてから2年経った2001.1.29、ヒョウのような怪人による殺人事件が起きた。
 未確認生命体対策班が対未確認生命体用に開発したG3が出動するが、G3の装備はヒョウ怪人には通用せず、4号によく似たもう1体の怪人(アギト)がヒョウ怪人を倒したことでG3は救われた。
 そのため警視庁上層部では、ヒョウ怪人が未確認生命体より強力な新しい敵であると判断、“アンノウン(正体不明)”と命名した。
 また2体目のヒョウ怪人の言葉から、4号に似た怪人の名が「アギト」であることが判明した。
 ということになっている。

 確かに4号が『クウガ』に登場した4号と違う存在であると言明はされていない。
 しかし、逆に同じような存在であるとも言っていない。
 そして続編でないとはっきり言っている以上、同じ事件が起こっているという保証もないのだ。
 最大公約数的に言えることは
   未確認生命体と呼ばれる集団が現れて多数の人が犠牲になったが、4号という存在が全滅させ、4号自身もその後どこかへ消えた
という部分だけだ。
 つまり、4号が人間の変身だったという保証すらなく、ゲゲゲの鬼太郎のように、人間に味方しているだけの怪物だったとしても成り立つ。

 そこで、鷹羽が“クウガと世界観を共有していない”と考える理由だが
1 『クウガ』世界で整備されたインフラが継承されていない
2 未確認生命体対策班の構成はおかしい

ということが挙げられる。
 これをもう少し細かく説明しよう。

 1は、未確認生命体監視カメラが全く登場しないことと、都内であるにもかかわらずTRCS2000Aが走っていないこと、対未確認用の特殊武器が登場しないことなどだ。
 未確認生命体監視カメラというのは、神出鬼没なグロンギ怪人をいち早く発見するために首都圏各地に設置されたものだ。
 確かに1話を見る限りアンノウンの姿は普通のカメラに記録されないこともあるようだが、その後、G3-Xの訓練時にカメ怪人銀(テストゥード・オケアヌス)の画像が使われているところを見ると、既にアンノウンの姿を画像として残すことが出来るようになっていたようだ。
 実際、G3やG3-XをモニターしているGトレーラーの方で、画像が不自然に途切れたことはほとんどなかったはずだ。
 また、よしんば画像が乱れたとして、その後回復すれば、むしろアンノウンが通過したといういい証拠になる。
 これを利用すれば、アンノウンの暗躍を発見することができそうなのに、警察はちっとも使おうとしない。
 このカメラは、マッハで飛行するフクロウ種怪人(ゴ・ブウロ・グ)の映像すら捕らえたほどの高性能だから、カラス怪人(コルウス・クロッキオ)を発見しても良さそうなものだ。
 それが全く言及されないのだから、やはりないと考えるべきだろう。

 次にTRCS2000Aだが、これはクウガが使用していたトライチェイサーの量産型(というより、クウガが使っていたのが試作機の横流しなのだが)で、新型の白バイとして全国規模で配備が始まり、『クウガ』EPISODE33の時点で既に神奈川県警には5台以上配備されていた。
 『アギト』はそれから2年後の世界なのだから、当然警視庁にも相当数配備されていなければおかしいが、1台も走っていない。
 念のために言っておくと、TRCS2000Aは、グロンギの登場以前から配備計画のあった次代の白バイであって、グロンギが滅んだとしても配備が中止されることはあり得ない。
 つまり、ガードチェイサーは、名前が似ているだけで、トライチェイサーやビートチェイサーの後継機でも改良型でもないのだ。
 単に“右グリップを外して武器にする”という設計思想が似ているだけだ。
 どおりで形が全然違う。

 また、神経断裂弾などの通常拳銃で発射可能な対グロンギ用の強力弾丸も使われていない。
 確かにアンノウンに対してどれほどの効果が期待できるかは不明だが、少なくとも親族護衛に当たっている警官にとって、通常の弾丸よりもありがたい存在のはずだ。

 というわけで、『クウガ』当時のインフラは全く継承されておらず、“同じ事件”が起こったとは考えられない世界だ。
 少なくとも試作機のトライチェイサーを横流しした刑事がいたという事実は消滅するし、警視庁が全力を挙げて事件の早期発見に努めたという根拠もない。
 というより、あの警察が“4号と協力して未確認生命体に立ち向かった”かどうかすら怪しい

 そして、2の『未確認生命体対策班』だが、こんなものが2年も残っていることは『クウガ』世界ではあり得ない。
 そもそも名前からして違うのだが、その点に目をつぶってもやはり納得できない。
 『クウガ』世界においては、グロンギの数は200体強ということになっており、ダグバの手によって“整理”された分も含めれば、ほぼ全滅したことが確認されている。
 念のために3か月間も捜査本部を存続させていたのは、生き残りが現れたときの用心だ。
 それが解散したということは、各県警からの派遣捜査員を現地に帰すという意味があるにせよ、既にグロンギの脅威はなくなったとの判断に基づいているわけで、その後に対グロンギ用装備を開発する理由はない。
 もちろん類似の怪人が現れたときのために装備を開発することがあってもおかしくないが、2話での北條の言葉からすると、G3は未確認生命体の再襲来に備えて開発されたものであり、それ以外の怪人の存在など考慮されていないようだ。
 つまり、G3はその開発過程において、はっきりと対グロンギの思想の下に作られていることになる。
 だが、それにしてはG3の設計思想は妙だ、
 グロンギの殺人には、ゲゲルという重要な意味があり、出現場所も東京都内だけではなく、かなりの広域にわたって出現している。
 それに対抗するために、『クウガ』世界では、各県警から精鋭を集めて共同捜査本部を組織して対応してきた。
 だが、未確認生命体対策班は警視庁の一部門であり、G3は量産体制を整えられるような装備でもない上、Gトレーラーによる移動という機動性に欠ける構成になっている。
 つまり、東京23区内のみをターゲットに絞って開発されたように思われるのだ。
 Gトレーラーがグロンギのゲゲルに対応して出動できるかどうかはかなり疑問だ。
 その上、対グロンギにおいては、ゲゲルの法則性をいち早く看破して防御体制を敷くことが重要なのであり、よほどの大物相手でなければ制服警官の神経断裂弾でも排除が可能だ。
 腹部のアマダムという弱点がはっきり分かっている敵に対し、G3の装備は汎用的すぎる。
 確かに通常戦闘力は高い方がいいが、かといって本来の目的であるゲゲル阻止に不可欠な高速移動力を犠牲にしたのでは本末転倒だ。
 また、アンノウンが佐伯一家を殺したとき、唯一氷川が「超能力」というキーワードでアプローチしただけで、「未確認生命体同様に何らかの法則性を持って殺しているのではないか」と仮定した人間はいなかった。

 また、未確認生命体対策本部内にオーパーツ研究室があることも疑問だ。
 グロンギは古代人類の一種族であり、一応は人類の端くれだ。
 九郎ケ岳遺跡も、人類以前の文明としてではなく古代の遺跡として発掘されていたわけで、オーパーツを研究するのとは意味が違う。
 オーパーツが発見されたとしても、それがグロンギと関連があると目されない限りは、未確認生命体対策班で研究する意味はない。
 このオーパーツ研究室がいつごろ発足したかは知らないが、オーパーツなんぞ民間の研究施設にでも送るべきシロモノだろう。
 ということは、『アギト』世界における未確認生命体は、グロンギではなく、アトランティス人とかムー原人などのようなオーパーツに関連のある生物であると考えるべきだ。

 これらのことから、『アギト』世界で2年前に暗躍した未確認生命体は、日本の古代種族でなく、ゲゲルという法則性のある殺人を行っていない集団である可能性が高い。

 逆のアプローチから見てみよう。
 五代雄介以外の人間がクウガになれるだろうか?
 『クウガ』の本質は、良くも悪くも五代雄介という稀代のキャラクターに支えられている。
 一条ですらベルトに選ばれなかったものを、ほかの誰かが選ばれるだろうか。
 第一、普通なら、百歩譲ってクウガにはなれたとしても、間違いなく凄まじき戦士になってしまう。
 これをクリアする方法は、凄まじき戦士の定義を変えるなど、クウガ自身の設定をいじることが必要だ。
 だが、放送終了後に世界観を覆すほど設定をいじることはできない。
 となると、やはり『アギト』世界での4号は、クウガとは性質や能力の異なる存在だったと考えるほかない。
 クウガと姿形が似ていてもいいが、中身は全くの別物だ。
 もちろん見た目が似ているという保証もない
 もしかしたら『アギト』世界の4号は、本当に鬼太郎やエン魔くん、デビルマン(TV版)のように、人間ではないかもしれないわけだ。

 ここまで書いた段階で、『アギト』世界は、警視庁が監視カメラを設置していない世界で、4号はトライチェイサーやビートチェイサーに乗らず、未確認生命体は法則性のない無差別殺人を行う超々古代生物であるという枠が見えてきた。
 更に言うなら、4号は人間でなく、警視庁と協力体制もなかった可能性が強い
 そう考えれば、アギトと接触して共闘態勢を作ろうと考える人間が全く出なかったことにも納得できる。

 では、どうして『アギト』は敢えてこんなややこしい作り方にしたのだろう。
 そのヒントは、前掲の白倉Pの文章にある。
 『ひいては続編企画のオファーをもたらしたのですから』ということは、つまりスポンサーないしは東映サイドから、「『クウガ』の続編を作ってほしい」との依頼を受けたということだ。
 その上で、『クウガ』スタッフからは「続編は作るな」と言われ、苦肉の策として『一見続編のように見えて続編でない世界』などという妙なものを作る羽目になったのだ。
 そして、そのための手っ取り早い隠れ蓑が『未確認生命体4号』だった。
 幸い、『クウガ』世界では、一般にはクウガは最後まで「4号」だったし、グロンギは「未確認生命体」と呼ばれていた。
 それを逆手に取ってごまかしたのだ。
 誰に向かってのごまかしかと言えば、スポンサー・東映に向かってのごまかしだろう。
 一般に、他人の作ったものの続編を作りたがる人間はいない。
 細かい経緯は知る由もないが、『クウガ』の続編という立場から解放された『アギト』スタッフは、もはや『クウガ』世界との共存などは考えずに自分達の作りたいものを作るようになった、ということなのだろう。

 つまり、書込みにあった「『未確認生命体』なんて言葉を劇中に出す必要はなかった」という点については、「一番誤魔化しやすい単語だったから」という説明ができる。
 そして、その傍証として“4話以降、『未確認生命体』や『4号』という単語は二度と出てこない”のだ。
 氷川達が、『S.A.U.L』というかっこいい名前があるのに、わざわざ『G3ユニット』などと呼ばれ続けていたのは、スタッフの「未確認生命体なんて言葉、もう使ってやんねえぞ!」という意志の表れだったのではないだろうか。

 ちなみに、G3が対未確認生命体用に作られたのは確かだが、実は、本編中どこを見ても“4号をモデルにした”という話はない
 『アギト』の特徴として、本編に登場した設定以外は信用できないというものがある(アギト研究室第1回参照)から、これ自体怪しい設定だ。
 もしかしたら、あのデザインは小沢澄子の趣味にすぎないのかもしれない。
 一応参考までに、テレビ朝日の公式HPを見ると、G3の解説として
 警視庁未確認生命体対策班が企業連合体の協力を得て、クウガを基に対グロンギ用に開発していた特種強化装甲服。
 その開発には、現代科学の粋が集められている。
 完成前にグロンギが壊滅したため、研究は中断、破棄されるところだった。
(C)2001 ISHIMORI PRO・TV Asahi・・ASATSU D.K.・TOEI
と、いきなり「クウガを基に対グロンギ用に開発」などと信用できない文章が並んでいる。
 未確認生命体対策班などという組織は『クウガ』世界には存在しない。
 また、未確認生命体が壊滅する前に開発が始まっていたということは、ますます『クウガ』世界と違うことがはっきりする。
 だが、「クウガ」を「4号」、「グロンギ」を「未確認生命体」と読み替えて、『アギト』世界の説明文だと思って見ると
 未確認生命体対策班が4号を基に対未確認生命体用に開発していた特種強化装甲服。
 完成前に未確認生命体が壊滅したため、研究は中断、破棄されるところだった。
となる。
 これなら納得できる。

 では、G3のデザイン・能力・武装は4号に則したものなのか。
 やっぱりクウガとは違う姿と能力の持ち主のようだ。
 G3の顔は、バイオライダーをモデルにしたようにも見えるから、もしかしたら『アギト』世界の4号は、バイオライダーみたいな姿だったのかもしれない。
 もっとも、アギトを目撃した氷川の印象は、「4号に似ていた」だったから、“角があって目が赤くて腹部にベルト状の模様がある”くらいの印象しかないのかもしれないが。


 以上見てきたとおり、『アギト』と『クウガ』は世界観が似ているようで大きく違う世界であり、『アギト』は『クウガ』の続編ではないのだ。


未確認生命体が滅んで2年