『仮面ライダーアギト』
劇場版 PROJECT G4

(Story)

 自衛隊員が警護する超能力者養成施設…ここでは、超能力を軍事利用するために孤児を集めて超能力の開発を行っていた。
 その施設に突如としてアリ怪人黒(フォルミカ・ペデス)の集団が現れ、警備する自衛隊員は次々と殺され、超能力に目覚め始めていた孤児達のほとんども殺されていく。
 そんな中、予知能力を持つ紗綾香と、その友達のレイだけが別行動を取ったために難を逃れた。
 警備要員でただ1人生き残った水城史朗は、駆け付けたG3-Xが残っていたペデスの1体を撃破する姿を複雑な思いで見つめていた…。

 その事件から約1か月後、自衛隊からG3ユニットの研修生として深海理沙がやってきた。
 だが理沙は、その日のうちに酔い潰した尾室からパスワードを聞き出してG3ルームのコンピュータからデータを盗み出し、翌日には「G3ユニットでの研修には意味がない」と自衛隊に戻ってしまった。
 小沢は、まだ研修も始まらないうちから『意味がない』と帰ってしまった深海に不信感を抱く。
 そして、逃亡生活を続けていた紗綾香とレイは、食い逃げをしたことからはぐれてしまった。

 それから2か月後、ペデスによる殺人事件が多発していた。
 また、紗綾香は交通事故に遭いそうになった太一を予知能力で救った縁で美杉邸で世話になることになった。
 レイがカツアゲしようと狙った男性もペデスに殺され、たまたま通りかかった涼がレイを助ける。
 涼の変身能力を見たレイは、涼なら友達の敵討ちができるだろうと考え、変身のダメージで倒れた涼を介抱する。
 ある日、真魚の携帯にESPクイズが送信されてきた。
 次々と正解していく真魚を見ているうちに、紗綾香は再びペデスが襲い掛かる姿を予知して飛び出す。
 紗綾香を追う真魚だったが、2人の前にペデスの大群が現れた。
 駆け付けたアギト・G3-Xがペデスの大群に手こずっているとき、上空のヘリから黒い影が降り立ってペデスの群を軽くいなし、ミサイルランチャーで全滅させてしまった。
 その姿を見た小沢は顔色を変え、深海のところに抗議に行く。
 深海は、小沢が封印していたG4システムの設計図を盗み出し、完成させたのだ。
 G4システムの欠陥を知っている小沢は深海に食ってかかるが、深海は「大いなる成果の前に犠牲は付き物」と意にも介さない。
 小沢と共に施設を訪れていた氷川は、G4の装着員:水城に出会い、G4装着員だった者達の死体を見せられる。
 水城は、G4を装着することで確実に死に近付くことを承知していた。
 『生への執着がある限り十分に戦うことはできない。今の俺は死を背負って戦っている』と語る水城に、氷川は圧倒される。

 一方、レイの姿を予知した紗綾香は、夜中に美杉邸を出てレイを探しに行く。
 ようやく再会した2人だったが、そこに紗綾香を捜していた深海達が現れた。
 そして、紗綾香のブレスレットが残されていたことに気付いた真魚は、翔一と共に紗綾香を探しに行き、深海に連れ去られそうな紗綾香を見付けた。
 真魚の腕で光るブレスレットを見た深海は、真魚が紗綾香以上の超能力者であることに気付き、真魚は連れ去られてしまった。
 深海は、紗綾香以上の予知能力者である真魚をG4のAIとリンクさせることで、G4に先読み能力を持たせようとしていたのだった。
 翔一は小沢に救いを求めるが、ことが自衛隊という別省庁の機関であるため、話が進まず、直談判に行くことにした。
 深海に会わせるよう交渉している小沢を待つ間、車の中では氷川が翔一に質問していた。
 『死を背負って戦うこと』をどう思うかという氷川の問いに、翔一は
   生きるってことは美味しいってことじゃないですか
   キャベツを食べても大根を食べても、もしかしたら 何も食べなくても美味しいんです
   死を背負ったりしたら不味くなるじゃないですか

と答える。
 氷川は、あくまで前向きな翔一にも圧倒されてしまう。
 小沢から、後は自分に任せてほしいと言われて帰された翔一だったが、やはり真魚が気になり、夜中に施設に忍び込もうとする。
 翔一同様夜討ちに来たG3-Xは、翔一達を発見して迎撃に現れたG4の前に立ちはだかり翔一達を逃がす。
 一旦引いた翔一は、アギトに変身してG3-Xと共闘する。
 モニターしていた深海は、アギトの出現に、絶好のテスト相手とばかりに真魚をG4とリンクさせた。
 真魚の予知能力で攻撃を事前に察知できるG4の前に、アギトもG3-Xも太刀打ちできず、G3-XもG4のGM-01改を受けて倒れた。

 翔一の変身と敗北を見ていたレイは、涼に助けを求めることにした。
 そして、意識を取り戻した翔一は、紗綾香の制止を
   真魚ちゃんが今いる所は真魚ちゃんのいるべき場所じゃないからさ
   それに、真魚ちゃんを守るために戦うなら、そこが俺のいるべき場所なんだ!

と振り切って、再び真魚を助け出しに行った。
 それを聞いて、紗綾香も真魚の元へと向かう。
 氷川は基地の医務室で目覚めた。
 真魚がG4とリンクさせるために捕らわれていること、自分同様やがて真魚も死ぬことを淡々と語る水城に、氷川は
   僕は生きるために戦う!
   生きてることが素晴らしいと思いたい

と反論する。
 だが、そこに姿を見せた深海は
   脆弱な人間の精神を語ってどんな意味があるの?
   人間はただG4に感謝すればそれでいい
   今やG4はあの子の力を得て、時間を超越する存在となった
   この意味が分かる?
   G4は今や別次元の存在。何者もG4に触れることすらできないのよ

と嘲笑した。
 その時、ペデス侵入の警報が鳴り響き、深海の命令で早速出動したG4は、真魚の予知に従ってペデスの群を粉砕していく。
 アギト・ギルスも加わり、ペデス達との乱戦が続く。
 そんな中、真魚は翔一が何者かに絞め殺される予知をしてしまった。
 翔一の死というショックに真魚の自我は目覚めかけ、G4のための戦闘予知ができなくなってしまう。
 そのためG4は、先読みができないばかりか、戦闘と関係ない思考ノイズが流入してほとんど戦闘不能なまでに能力減退してしまった。
 一方、警備員らを蹴散らし真魚のいるオペレーションルームに侵入したペデスの群は、駆け付けたG3-Xによって撃退され、同じく駆け付けた紗綾香が真魚を連れて逃げる。
 そんな中、ギルスはペデスに地下通路に落とされ、女王アリ怪人(フォルミカ・レギア)に右肘から先をもぎ取られてしまった。
 奥へ進んだアギトは、バーニングフォームになってアリ怪人赤(フォルミカ・エクエス)と戦うが、そこにギルスを倒してきたレギアまで現れた。
 バーニングフォームになったアギトでも、レギア・エクエスのコンビには苦戦を強いられるが、エクシードギルスにパワーアップしたギルスは、エクエスを地下に引きずり込み、ヒールクロウで倒した。
 そしてアギトは、真魚の予知どおりレギアに絞め殺されそうになっていた。
 それを察知した真魚の「翔一君!」という声がテレパシーとなってアギトに届き、渾身の力でレギアを押し返したアギトが窓から漏れる日の光を浴びたとき、バーニングフォームの装甲が砕け散ってシャイニングフォームが現れ、空中に紋章を描いてのキックでレギアを撃破した。

 一方、ペデスの群を倒し尽くした格納庫では、水城が氷川の
   水城さん、G4システムは呪われたシステムです
   離脱してください
   これ以上はあなたの命が!

という必死の説得にも耳をかさず
   俺の答えは分かっているはずだ
   どうする?

   俺は死を背負い、お前は生を背負っている
   どちらが正しいか、今この場で答えを出すか?

と言い放ち、G3-XとG4の戦いが始まった。

 先読みができなくなったとはいえ性能的に優位なG4の攻撃に、G3-Xは徐々に破壊されていく。
 そのとき、僅かに回復した通信回線から、小沢の声が氷川に届いた。
   氷川君、G3-XとしてG4と戦っても勝ち目はないわ!
   氷川誠として戦いなさい!!

 その声を聞いた氷川は、G3-Xのマスクを外して戦う。
 その姿を嘲笑いながら見ていた深海は、再び侵入してきたペデスの群に襲われて死んだ。
 そして、氷川と戦うG4にも最期の時が訪れた。
 水城の死によって倒れたG4は、かつて水城が言っていたように、再び起動する。
 それを見た氷川は
   もぉ、いいだろお!!
と絶叫してGM-01を放ち、G4は完全に沈黙した。
 氷川からの
   G4システム、活動を停止しました
との連絡を受けて、その無事を知った小沢の肩が震える…。

 数日後、新しい両親の元へ引き取られた紗綾香とレイを思いながら、真魚はピアノを弾いていた。
 翔一の人差指も加わって連弾のような状態で弾く真魚の脳裏に、翔一の死のビジョンが浮かぶ。
 「人は、人のままでいればいい…」とつぶやく男の拳から伸びた光がアギトを貫き、翔一が死ぬ姿が…。
 しかし、真魚は、翔一ならばまた未来を覆すことを信じるのだった。


(傾向と対策)


 いい映画だった。
 盛り沢山の内容を、どれもこれも巧くまとめていて、キャラクター的に突っ込むところが多いが、演出面でのミスは少ない。
 小沢と深海、氷川と水城、翔一・真魚と紗綾香、紗綾香とレイ、涼とレイといったキャラクター同士の絡みも巧かったし、小道具である走馬燈の使い方も巧かった。

 この走馬燈は、物語冒頭で子供の念動力の訓練用に使っていた物だが、警備に当たっていた水城が意識を失うときに壊れかけたそれが目に入り、その後持ち帰っていたようだ。
 水城にとって、この走馬燈は自分の職務を果たせなかった痛みであり、死の象徴だった。
 驚いたことに、水城はこの走馬燈をその後も持ち歩いていたらしい。
 G4に破れた氷川が運び込まれた部屋には、レントゲンかMRIらしき写真が貼られており、そこが医務室だと分かる。
 つまり、水城は医務室に行くのにわざわざ走馬燈を持っていっていたのだ。
 それはどういうことかと言えば、水城は、このとき“既に死を間近に感じていた”のだ。
 このとき水城の声がやたらとかすれているのは、既に身体に不調を来していたからだろう。
 この後侵入したペデス撃退のため、出動を命じる深海に対し、水城の反応が一拍遅れている。
 これは、出動するのが嫌だったのではなく、「これで最期だな」という感慨から反応が遅れたのだ。
 そういう状態だったからこそ、水城は走馬燈を持って歩いていたのだ。
 走馬燈というものは、元々描かれていた絵が、回転することによって次々と見える仕組みになっている。
 つまり、そこには、そのままでは見えないが最後の絵が描き込んであるのだ。
 見えないけれど確実に決まっている未来…G4を装着することで死という運命を背負った水城にとって、それは自分の運命を投影する存在だったのだろう。
 彼が死に際して、走馬燈に映る自分の姿を見たのは、そういうことだったのだ。

 万事こういった具合で、アイテムの使い方やキャラクター相関に至るまで実に巧く絡めている。
 これは、この映画が現在放映中のテレビ番組の映画用エピソードとして作られたことによる。
 終了した番組の総集編や続編でなく、放送中の番組の番外編という立場での映画化だったことが功を奏したのだ。
 これにより、客が『仮面ライダーアギト』という番組を知っていることを前提に作ることができる。
 見ればすぐに分かることだが、レギュラーキャラクターに関する説明は全くと言っていいほど行われておらず、『アギト』という番組を見ていない人間が見てもさっぱり分からない。
 『仮面ライダー』というビッグネームだから、知らない人が見ても翔一が変身すること自体には疑問を抱かず、「へぇ、これが今度のライダー? あ、ライダーが3人もいるんだ?」くらいで済むだろうが、変身を解いたギルスが倒れたり、G3-Xが強化服だったりすることを知れば、「へ? なんで倒れたの? あれ、仮面ライダーって改造人間じゃねーのか?」という疑問を持つだろう。
 特に、この劇場版は、アギト・ギルスの新フォームが登場するものの、G3-XとG4の激突がメインなので、ますます分かりにくい。
 『あかつき号』や『アンノウン』などのテレビ本編に登場する固有名詞、“G3、G4、G3-Xの関係”といったテレビを見ていないと分からない(見ていても十分ややこしい)情報など、「知らないなら見るな!」と言わんばかりの構成になっており、1本の独立した映画として見れば、不親切かつ消化不良なとんでもない失敗作ということになる。
 そして、テレビ用の1エピソードにするには、挿入されるべき場所がない。

 巷でも本編のどの時期に挿入されるべきか話題になっていたが、少なくともこのエピソードは、G3-X登場後の物語だ。
 そして研究所が襲撃されてから真魚誘拐までに2か月の空白期間があるので、その間に涼の死んでいた期間が入るとしても、翔一の記憶復活などの出来事、沢木の暗躍などとの絡みで、挿入できるような空白期間がない。
 なにしろG3-Xの完成と同時に翔一は記憶を取り戻して動き回り、2〜3日後の記憶再喪失と同時に涼は死に、約1週間後に涼は復活している。
 つまり、G3-Xの完成からギルス復活までには10日か、いいとこ2週間しか経っていない。
 しかも、映画公開翌日である9/23放映の34話『呼び遭う魂』では、番組内時間はまだ10/1だ。
 余談だが、計算上はどう考えても8月末か9月頭にしかならないので、放送時期が9月末になってしまったことの辻褄合わせとして無理矢理1か月すっとばしたものと思われる。
 とにかく、最短コースとなるギルス死亡(8月中旬)直後に1回目の襲撃があった場合でも、その2か月後たるG4事件解決は10月中旬になってしまう。
 氷川らが劇場版冒頭で夏服の制服を、後半で冬服を着ていたり、翔一がやたら暑そうな服を着ているのはそのためだ。
 もし、劇場公開に合わせて劇中時間も9月末から始まったとすれば、事件解決は11月末ということになる。
 ちょっと寒くなりすぎという気もするが、一応服装の面でも問題ない。
 いずれにせよ、現実時間ではともかく劇中時間では、テレビでのバーニングフォーム登場時期よりも劇場版の時期の方が遅いのだ。
 どおりで美杉邸に見たこともないグランドピアノが置いてあるわけだ。
 映画デビューのシャイニングフォームにしても、恐らくテレビ本編の方で10月前半には登場するだろう(実際に10/14放映の37話からだった)から、劇場公開当初に見に行った人が感じたであろう“真魚の祈りとシャイニングフォームへの初変身”という燃えるシチュエーションは存在し得ないことになる。
 これは、『アギト』の展開がかつてのヒーロー物に比べて連続性が強くなっているせいなのだが、テレビでの各エピソード間の隙間というものがほとんどないため、どこにも入れようがないのだ。
 しかも総合3か月という長期にわたってペデス達が活動していることに、テレビの方では何も触れることができない。
 もっと驚いたことに、9/30放送の35話『謎の救世主』中で、涼は復活後、ギルスに変身しても老化現象が起きなくなったことが明言されてしまった。
 これは、劇場版の脚本執筆中(劇場版と同じ井上氏)には予定していなかった設定だったためなのだろうが、これにより、劇場版は涼の復活前でなければ辻褄が合わず、しかもG3-Xの完成から涼の死までの間は2〜3日しかないという「どないせーっちゅうねん!」状態になってしまった。
 もはやテレビ本編のどこにも挿入しようがない。
 つまり、この映画は、『マジンガーZ対デビルマン』のような、劇場用番外編だと解釈するしかないのだ。
 そして、番外編だと割り切ってしまえば、この映画は相当デキがいい。
 “基本的な内容は知っていて当たり前”ということをフルに活用してシェイプアップされた展開を見せる。
 それぞれ独自のスタンスでアンノウンと戦っているアギト・ギルス・G3-Xを巧く絡めつつ最終決戦に持ち込み、ギルス・アギトの新フォームを登場・活躍させつつG3-X:氷川を主軸にしてまとめる。
 3人のライダーに相関関係を持たせることなく、それぞれアンノウンと戦わせた手腕は見事としか言いようがない。
 正直言ってギルス=涼まで映画に出さない方が紗綾香の心情を軸にストーリーを展開できて綺麗にまとまったんじゃないかとも思うが、レイの存在により、ギルスが戦うことに不自然さを感じさせない。
 レイという超能力を使うことに疑問を抱かない存在を入れることで、超能力に後ろめたさを持つ紗綾香と対比させ、更にレイと絡めることで無理なくギルスが最終決戦に登場してしまった。

 また、紗綾香・レイ・深海・水城といった劇場版キャストも巧い役者を集めており、某『ティガ&ダイナ』のように重要なキャラなのに大根で興醒めという現象を起こしていない。
 レイも小生意気そうな顔と念動力を使うときの一種無機質な表情が光っていたし、紗綾香はいらない能力を持ったせいで振り回されるヒロインに相応しかった。
 特に深海理沙役の小沢真珠は絶品で、とにかく憎たらしい役を演じきっている。
 これでもかという憎まれ役であり、下手に大根役者など使われた日には、映画そのものが吹き飛んでしまった可能性もあるくらいだ。
 こういう憎まれ役が最後に痛い目に遭ってこそ視聴者の溜飲も下がるというもので、最後にペデスの群に襲われる様は、“深海自身は超能力者でもなく、超能力者殺害の邪魔をしている状態でもないのに襲われた”という演出上のアラであるにもかかわらず、なくてはならないシーンになっている。
 深海がむごたらしい最期を迎えてくれないと、見ている側の腹の虫が治まらないから、あのシーンが入っているのだ。

 また、戦闘シーンなどでもなかなか凝ったことをしており、ペデスを狭い通路に誘い込んで次々とフレイムセイバーで叩き斬ったり、トルネイダーのスライダーモードを横にしてペデス数体をなぎ倒したりと面白い試みをしている。
 また、コンテナの上で戦うアギトなどという昔のヒーロー物のようなシーンも見られた。
 アギトのシャイニングフォームも、登場までのシチュエーションで盛り上がった上に、目が光っていたこともあってすごく格好良く見えたし、空中紋章キックも綺麗だった。
 このときバックに流れた『仮面ライダーアギト〜24.7version』も印象を高めるのに一役買っている。
 また、特に面白かったのが、ペデスのパンチを受け止めて変身するギルスだろう。
 涼が右手を挙げると、その右手よりも前にギルスの右腕が現れてペデスの拳を止めるという演出は、きっと賛否あるだろうと思うが、超能力の行き着く先=変身というイメージからはなんとなく納得できるものだった。

 話題の藤岡弘出演については…、小沢の行動を野放しにしているのが警視総監だったという説明はなかなかだと思う。
 『そうやって突っ走るのが君のいいところだ。そして、それが見えない目の悪さが俺のいいところだ。そうだろう?』という総監の言葉は、大人物っぽい印象を受ける。
 翔一に向かっての「君達が、今の俺にできないことをやってくれ」というセリフも、若者に向かっての“まだ守るべき立場も地位もないうちに無茶をやってくれ”と言っているようだった。
 なるほど、あれなら警察官である氷川よりも一般人である翔一に向かって言うわけだ。
 警察官に無茶をやれとは、直接は言いにくいもんね。
 心配していたよりはまともなシーンで良かった。
 でも、そうなると…、やっぱ北條の無茶苦茶に目をつぶっているのもあなたですか?

 それでは、各キャラクターごとに見てみよう。
 超能力を持つが故に生きてこられた紗綾香とレイは、それゆえに深海からもアンノウンからも狙われる。
 紗綾香達が付けていたブレスレットは、超能力を使うときのある種の精神波(以後「ESP波」と記述)を受けて光るものと見受けられ、そのときの力のレベルによってLEDの光る数が違っているようで、紗綾香が予知能力を発揮するとLEDが2つ光る。
 紗綾香は、当初このブレスレットを特に何とも思っていなかったようだが、襲いくるペデスを予知したりしているうちに、自分が普通の人間でない象徴と思うようになり、外してしまった。
 それを事情を知らない真魚が持っていってしまって墓穴を掘るという展開もいい。
 展開上、真魚がブレスレットを持っていくことに不思議がないのだ。
 真魚にしてみれば、それまで紗綾香が常に身に付けていたものだから、何か思い出に絡む大事なものだろうと考えても当然だ。
 ちょっと問題なのは、そういう物を自分で身に付けてしまう軽率さなわけだが、それにしても真魚ならやってもおかしくない。
 つまり、キャラクターの性格に基づく行動なわけで、“まったくこいつは”の一言で解決する話であり、演出上のミスではない。
 ただ、真魚が超能力を使っていないであろう紗綾香との再会シーンでLEDが3つも光っていたのは妙に感じる。
 予知能力や透視能力で紗綾香を見付けたわけでもなかろうし、真魚が最初に持ち上げたときには光らなかったのだから、何もしなければ光らないはずだ。
 これは、単純に演出上のミスとして挙げられる数少ない部分だ。

 深海がどうやって紗綾香達を発見できたかということも、突っ込まれる可能性がある部分だが、実はこれについてはある程度説明できてしまうのだ。
 紗綾香達に与えられていたブレスレットには、発信器としての機能はない。
 これは、深海が紗綾香の腕を見るまでブレスレットをしていないことに気付かなかったことから明白だし、2か月にわたって逃亡生活を続けていた2人を発見できなかったことからも分かる。
 だが、あのブレスレットには、前述のとおりESP波を感知する機能が付いているわけだから、逆に言えば、深海らは、少なくとも自分達が研究していた子供達の能力に関する限り、ESP波をキャッチできるということになる。
 ペデス襲撃の後、施設で子供達の死体を処分したときに人数が足りなかったことから、生存者がいることに気付いていたはずだから、恐らく逃げのびた2人が超能力を使うのを待って、その場所を探していたのだろう。
 このことは、今回のペデスの設定にかなり深く関わっているようだ。
 詳しくは後述するが、ペデスはアリ怪人だ。
 アリならば口から吐くのは蟻酸というのが相場で、実際劇場版のパンフレットにも『口から吐く蟻酸で人間を溶かす』と書いてあるのだが、どう見ても被害者はまるで水中にいるかの如く溺れているようにしか見えない。
 これは、“孤児達の死体を処分する”という仕事を自衛隊にやらせるためだったとしか思えない。
 これによって、深海は紗綾香の生存を信じてG4強化策たるプレディクション・システムを用意していたのだ。
 死体が傷1つなく残る殺し方に変更されたのは、そういう事情があったからと思われる。
 また携帯電話に無差別に送られてくるESPテストだが、解答者が全問正解した途端に襲われているとはいえ、北條も言っているとおり今回の事件と無関係の誰かが勝手に送っていることで、別段アンノウンが送っているテストだというわけではない。
 最初、鷹羽は自衛隊が予知能力者をスカウトするためにやっているのかと思ったが、そうでもないようだ。
 予知能力者としての素質を持っている者があのクイズに正解を出しているときは、それなりのESP波を出しているはずだ。
 つまりペデス達は、予知能力のESP波を感知して超能力者を判別し、襲っていたのだ。
 もしかすると、ほかのアンノウン達も超能力者のESP波を感知して行動しているのかもしれない。
 これはアンノウンを知る上で重大なヒントだと思う。
 例えば、超能力の種類によってESP波の波動が違うとすれば、出てくる怪人ごとに狙う相手が変わってもおかしくないのだ。
 ※ 実際には、その辺のシステムははまったく 明かされなかった。

 話を戻そう。紗綾香達が深海に見付かった辺りはレイの行動範囲であり、レイはあの近辺で念動力を使ってカツアゲをしていたようだ。
 だから深海としては、その近辺を探せば、レイと一緒に紗綾香がいると考えていたのだろう。
 深海は、金を持たない紗綾香達が生きて行くには超能力を使うだろうと考え、ESP波の発見でおおよその位置を割り出し、カツアゲされた被害者を見付け出して証言を得ることで、レイの生存を確認し、当然一緒にいるであろう紗綾香を見付けようとしたのだろう。
 深海が欲しかったのは紗綾香の予知能力だから、紗綾香とレイの再会があの日あの場所でなければ今回の事態は起きなかったと言える。不幸な偶然だ。

 そして、それ故に紗綾香は最終決戦で真魚を助けに行くのだ。
 紗綾香は、全登場人物中唯一人、戦う力どころか自分を守る力すらないまま敵地に乗り込んでいく。
 翔一は確かに知り合いだが別行動を取っており、紗綾香を守る者はいない。
 それでも紗綾香が向かったのは、真魚が“自分と同じ超能力者だから”ではなく、真魚が“自分に居場所を作ろうとしてくれた”人だったからだ。
 翔一の言葉に触発され、自分が何をなすべきかを考えたとき、紗綾香は真魚を助けに行くことを選んだ。
 紗綾香は、超能力者としてではなく、1人の少女としての自分が生きられる場所を探し続けたのだ。
 紗綾香がレイと2人でいたころ、超能力を使って稼ごうとするレイを止め、「食い逃げ」という人間としての方法(勿論褒められたものではないが)を選んだのもそういうことだ。
 結局紗綾香は、レイと共に普通の人間として生きられる場所を見付け出したわけだが、彼女はそのために色々ともがいていたのだ。

 レイの方もそれなりの努力をしている。
 生きるために念動力で人を傷つけることを気にもしなかったレイは、涼との出会いで真っ当に生きることの難しさと喜びを知った。
 涼が、盗んだ金で買った弁当には手を着けずに、肩叩きでレイがようやく稼いだ100円で買ったキャラメルでアンノウンとの戦い(敵討ち)を約束するということは、レイにとっては自分の努力が正当に評価されることだった。
 自分で稼いだ金の価値は、額面では計れない。
 レイにとって、生まれて初めて自分で働いた報酬だったはずだ。
 また、キャラメルを黙って口に放り込む涼からは、レイを放っておけなかった涼の気持ちが表れている。
 子供が必死になって稼いだ100円の価値が、涼には伝わった。
 だからこそ、100円で命を賭けた戦いに赴くのだ。
 『肩叩き10分千円』の看板を出してウロウロしているレイは、見ていて痛すぎたけど。

 また、諸悪の根元である深海と、それに珍しく正論で対峙する形となった小沢の対比も面白い。
 悪魔のシステム:G4がG3とG3-Xの中間に位置する存在だということは非常に面白いし、デザイン的にも納得できるものがある。
 G4が封印された経緯やその能力については、研究室の第2回で検証しているので、ここではG4に対する深海と小沢の見解の相違を中心に考えてみよう。
 2人の直接対決となった抗議のシーンでは
   小沢「私のコンピュータから盗んだわね!? G4システムの設計図を!
   深海「盗む? 人聞きが悪いですねぇ
       埋もれていた宝を世に出してあげただけですよ、私は
   小沢「あれが、G4システムがどういうものか分かってるの?
   深海「天才・小沢澄子が設計した最高傑作。素晴らしいシステムです
   小沢「違うわ! あれは存在してはならないシステムよ!
       あなたにも分かってるはずだわ
   深海「あなたはG3システムと同時に既にG4システムを完成させていた
   小沢「違う! 完成なんかしていない!
   深海「そして、テスト段階での些細な事故のせいで同システムを破棄した
   小沢「些細な事故!?
       G4の装着員に会わせなさい、あれを装着してただで済むはずがないわ!
   深海「しかし大いなる成果の前には犠牲は付き物ですよ、小沢管理官?
という具合に、G4の危険性を懸念して興奮気味の小沢に対し、深海は装着員の命と引き替えでも高性能なら問題ないと涼しい顔をしている。
 この酷薄な鉄面皮こそ深海の真骨頂で、自分の理想のために他人の命は何とも思っていないことを公言してはばからない。
 深海は、最初の出撃時点では、G4の武装はともかく、基本設計には手を入れていない。
 と言うよりも、手の入れようがないのだ。
 深海は、人間が着る強化服として、G4以上の性能のものを作れないことは承知している。
 彼女が手を加えたのは、大型火器を装備させ、その電源をG4から供給するようにしたことと、モニター用のカメラを廃したことくらいだ。
 これは、G4を兵器として運用するための仕様変更であり、基本性能に影響を及ぼすものではない。
 そういう意味で、深海は他人の才能を素直に認める人間だと言える。
 ただ、彼女は自分の能力を総合プロデュース力だと理解しているようで、以前から研究していた“兵器としての超能力”をG4にプラスすることを思いついた。
 ノーマルでもG3-Xを凌駕する性能を持つG4にプレディクション(予言)能力を持たせることで更なる戦闘力アップを図ったのだ。
 深海が小沢に語った
   我々はG4システムを更に強化する方法を開発しました
   もしこれが成功すれば、G4システムは科学すら超える存在になる
   そしてG4を量産することにより、我が国の鎧は完成する

という言葉は、“誰のお陰で性能が上がったか”ではなく、“どこまで性能が上がったか”に拘ったものだ。
 つまり、“自分がここまで強くした”などという小さいことには拘っていないということだ。
 深海は彼女なりに、戦力に乏しい自衛隊を憂いて、それを補うための方策を模索しているようだ。
 その結果、利用する超能力が“予知”という戦闘補助能力だったことは理に適っている。
 敵の次の行動が分かるということは、それに対する対応がスムーズに行われるということであり、これを積み重ねていくと、敵が多数の場合、最も効率的な戦術が模索できることになる。
 実際、後半のペデスの群との戦いでは、敵の次の行動が読めることを最大限に生かして攻撃していた。
 しかも、真魚とG4とは精神波のような形で繋がれているらしく、小沢がG3-Xと通信できない(恐らく小沢は一晩中呼び掛けていたはず)ほどの電波状態の中でしっかりリンクし続けていたのだ。
 ジャミングなどにも影響されないとしたら、実戦的な価値は飛躍的に上がる。

 ただし、このシステムには重大な欠陥がある。
 これは、設定・脚本によるアラではなく、深海の考えの欠陥についての突っ込みであることを先に断っておく。
 G4は確実に装着者の命を削るシステムだ。
 装着員の能力はさほど要求しないだろうが、少なくとも出撃を繰り返せば装着員は死んでしまう。
 それでも装着員だけなら補充がきくが、困ったことにプレディクション要員として必要な予知能力者も消耗品扱いになっている。
 ある程度以上のレベルの予知能力者など、そう関単に補充できないにもかかわらず、消耗品にしてしまったのだ。
 G4を量産する上では、真魚クラスとはいかなくても、紗綾香やそれに準ずる能力が必要になるはずだ。
 少なくとも深海は、紗綾香とレイを見付け出したとき、紗綾香同様LEDが2つ光るレイをちっとも気にしていなかった。
 ということは、念動力者がいても役には立たないということなのだろう。
 予知能力者の促成栽培ができるわけではないのだから、この辺のフォローを考えないとG4だけ量産しても深海の望む能力を持つ鎧は完成しない。
 たとえ1人の予知能力者を複数のG4とリンクできたとしても、結局は能力者の負担が大きくなるわけだから命が縮むだけだ。
 そしてもう1つ、ゲリラ戦ならともかく、空爆などに対し、G4が何体あったとしても役には立たない。
 『我が国の鎧』などとよく言ったもので、地上に攻め込まれた後でなければ鎧としての役には立たないシロモノだ。
 どちらかというと、真魚を迎撃ミサイルの照準システムとリンクさせた方が効果がありそうだ。

 ところで、今回深海がしでかしたことの後始末はどうなったんだろう?
 深海がしたことといえば
   1 孤児を集めて超能力開発を行い、死体を秘密裡に処分した
   2 警察をコケにしてG4のデータを盗んだ
   3 死亡したG4の装着員をこっそり保存している
   4 無許可で戦闘行為を行った
   5 真魚を誘拐した

であり、対する小沢・氷川らがしたことは
   6 職務以外でのG3-Xの無断使用
   7 G4という“アンノウン以外の存在”との私的戦闘
   8 氷川によるG4への発砲

というところだろうか。
 1については、恐らく家出少年扱いか何かで行方不明という扱いだろう。
 そして、6のG3ユニット側の勝手な行動については、結果的にアンノウンが基地内に出現していたことによって正当化されるだろう。
 2〜5については、多分不問に付されるだろう。首謀者は死んだのだから。
 そのために7、8も自動的に“G4側からの攻撃に対するやむを得ない反撃”だったということになるはずだ。
 今回の件で死亡した関係者各位は、『アンノウンの襲撃による殉職』ということで、3の死体を含めて合同葬にして誤魔化してしまったのではないだろうか。
 本来的には、深海は自衛隊の一士官でしかないのだから、あんな研究設備を維持できるはずはないのだが、その辺の捜査をすると、深海の公金横領のような形で決着が付いてしまうだろう。
 従って、紗綾香とレイが養親に引き取られた裏には、国家規模の超法規的措置による賠償があったものと思われるが、当然それは口止めを含めたものだろう。
 そうでないと、音楽の先生のところに2人揃って引き取られるなどという都合のいい話にはなりそうもない。
 うーん、まさかこんなところで大人の汚さを見ることになるとは…。

 で、いよいよ本編の主軸である氷川G3-X対水城G4だが、氷川は“死を背負って戦っている”水城に対して気後れを感じているようだ。
 氷川としては、別段死ぬのが怖いというわけではないのだが、助けて貰ったから礼を言っただけなのに『君は死を恐れているから助けられた礼を言った。生への執着がある限り十分に戦うことはできない』などと言われると、なんとなく勝てないような気がしてくるのだ。
 試しに翔一にその意見をぶつけてみれば、『生きるってことは美味しいってことじゃないですか』という答えが返ってくる。
 この両極端な答えの中にあって、氷川は『生きていることが素晴らしいと思いたいから、生きるために戦う』という結論を出したが、これは“他人のために戦う警察官”としては戦う原動力たり得ない。
 生を満喫するために、他人の命を守ることに身体を張る必要などないのだから。
 だからこれは、水城の論理に押し潰されそうな氷川の悲鳴に過ぎない。
 この辺が明確に戦う必然性を持たない氷川の限界なのだろう。
 だが、氷川は決して死を恐れているわけでもないし、他人のために身体を張ることに躊躇もしない。
 ただ、普段そんな難しいことを考えて生きてはいないというだけだ。

 ところで、この映画の山場である
   氷川君、G3-XとしてG4と戦っても勝ち目はないわ!
   氷川誠として戦いなさい!!

という小沢の言葉について考えてみよう。

 『G3-XとしてG4と戦っても勝ち目はない』これは分かる。
 元々G4の方が装着員に負担を強いる分スペックが高いわけだから、正面からぶつかって勝てるはずがない。
 では、『氷川誠として戦いなさい』とはどういうことだろう。
 既にG3-Xは氷川の思うままに動いているのだから、今更AIを切って戦えという意味ではない。
 そもそもAIを完全に切り離してしまえば、装甲強化服としての機能を果たさなくなってしまう。
 つまり、氷川がラストでマスクを外したことは無意味どころか本来自殺行為だったと言える。
 バッテリーは生きているし、スーツそのものを解除してはいないから、“重いだけの鉄の塊”にはならないだろうが、戦闘能力は激減しているはずだ。
 結果的に、水城の命が尽きる方が先だったから勝ったわけだが、あのまま戦闘が続いていれば、氷川の方が負けたはずだ。…水城が人を殺すことに躊躇しなかったならば。
 だから、“氷川誠として戦う”ということには、何かほかの意味があるはずなのだ。
 そう言ったからには、“氷川誠として”戦えば、勝機があるのだ。

 ではその真意は何だろう。
 G3-Xは警察機構の装備だ。
 当然装着者である氷川も警察官なわけで、基本的に“世のため人のため”に戦う義務がある。
 G3-Xの背には、色々な人の命がかかっている。
 そういった枠を取り払って1人の人間として対峙し、水城の言っていることが“気に喰うか喰わないか”でぶつかれば、万に1つの勝ち目があるということだろうか。
 「そうじゃねぇだろう!(バキィッ)」という展開を期待していたのだろうか。
 “負けられない”ではなく、“許せない”という感情からの行動の方が爆発力があるのだ。
 小沢としては、そういう“背中に背負ったものは気にするな”というつもりの激励だったのではないかと思う。

 さて、今回うじゃうじゃ登場のフォルミカ・ペデスだが、フォルミカはヤマアリの学名、ペデスはラテン語で歩兵という意味だ。
 口から吐く液で人間を地上で溺死させたり、噛み殺すといった殺し方をするようだ。
 どうやら着ぐるみは全部で9体前後だった思われ、あとはCG合成などで水増しされていたのではなかろうか。
 フレイムフォームに一気斬りされた時は9体だったようで、どうもそれが一度に出現した最大数だったと思われるのだ。

 次に、あまりいいところがなかった赤アリ怪人:フォルミカ・エクエスだが、エクエスはラテン語で騎兵という意味だ。
 歩兵に対しての騎兵だが、まぁアリが馬に乗っている姿は想像したくないので、装甲、攻撃力がかなり強いということで納得しておこう。
 その割に目立ってない&強かったって気がしないけど。

 女王アリ怪人:フォルミカ・レギアだが、レギアはラテン語で女王(※本当は王族)という意味だ。
 ギルスの腕をもぎ取り、バーニングフォームを絶体絶命に追い込むなど非常に強かったが、シャイニングフォームの空中紋章キックに破れてしまった。
 兵隊アリたるペデスは、女王アリたるレギアによって統括されているようだが、女王なしでもある程度統率の取れた行動は可能なようで、レギアの死後も数体のペデスが行動しており、深海を惨殺している。
 これはこの映画の大きなアラであり、ギルスやアギトが去り、G4が倒れ、G3-Xもほとんど戦闘不能になっているにもかかわらず、ペデスはまだ何体も生き残って活動中なのだ。
 これは、G3-Xのマスクを外した氷川の姿を深海が嘲笑った途端に殺されるという演出上の要求だろう。
 そして、G4の最期をクライマックスにするために、アギトがレギアを倒すのを先にせざるを得なかった。
 そうでないとシャイニングフォームが主役になってしまうからだ。
 個人的な好みとしては、レギアの死後“瀕死のペデスの1体が深海に蟻酸モドキを吐きかけてから絶命し、深海は溺れながら何事かわめく”という展開の方が良かったと思うのだが。
 とりあえず、この描写のお陰で、生き残ったアリ怪人がまだ殺戮を続けている可能性が大きくなってしまい、映画としてオチがつかなかった感じは否めない。

 ほかにも、いくつか首をひねる部分はある。
 いいところの方がはるかに多いけどね。
 例えば、G4に破れた後のG3-Xだが、GM-01改の銃弾を受けていながら、損傷はなかったようだ。
 そのくせ、水城が死んだ後に再起動したG4は、GM-01の弾丸1発で沈黙してしまった。
 装甲の材質は同じだろうに、どうしてG4はあっさり止まってしまったのだろうか。

 また、真魚が最後に見たビジョンでは、真魚にとって顔見知りである沢木が登場している。
 青年のことは知らないにしても、沢木が翔一と知り合いかどうかを確かめたくなったりしないかい?
 どうもこのシーンに沢木がいたのは蛇足だったような気がする。
 真魚にとって知らない男が翔一を殺す場面だけで十分だったんじゃないだろうか?
 その方が不安を強調できるでしょ? それを振り払う希望があるって終わり方なんだから。

 さて、今回の見所は“翔一を友人の「金剛寺」と間違えた男”だろう。
 絶対脚本が狙ってやったはずだが、それでもやはり笑ってしまった。
 むう…修行が足りないかな?

PS G4は、変身前も後もバイクに乗らない初めての仮面ライダーだったわけだけど、仮面ライダーの定義ってどうなっちゃったの?

(あとがき)
 この映画は、諸般の事情により、鷹羽は劇場で1回しか見ておらず、しかもいつものレビューと違って巻き戻し・一時停止などの技を使うこともできないため、いつもに比べて画面からの情報量が少なくなってしまったため、上映当時のこのレビューを発表は、ビデオが出たら加筆修正すると断った上でのものでした。
 鷹羽的には、集中力を総動員して見たつもりですが、やはり一部展開・セリフ等はうろ覚えになっており、今回ようやくビデオを借りて補足できました。
 ただ、明らかな間違いと思った部分以外は、特にいじってはいません。
 やはり、当時感じたことの方が的を射ている部分が多いと思うからです。
 その点はご了承ください。


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