猟奇の檻 第2章 THE VENGEFUL DAYS

鷹羽飛鳥

【注意】
 このページのレビューは、当サイトが頒布した同人CD-ROM「真・九拾八式工房(絶版)」内掲載、「九拾八式降臨(1998年12月30日 に発行した同人誌の再収録版)」 から引用したものです。
 当時書かれたDOS版のレビューなので、WINDOWS用ソフトに関するものではありません。
 予めご注意ください(「真説 猟奇の檻 第2章」はこちら)。

 テーマパークを舞台に繰り広げられる殺人事件。犯人の目的は? 正体は?
 果たして君は、犯人を捕らえることができるか。

  1. メーカー名:PLANTECH
  2. ジャンル:ADV
  3. ストーリー完成度:A
  4. H度:C
  5. オススメ度:A
  6. 攻略難易度:A
  7. その他:総合評価では、'97年一番。でも操作性はとても悪いので、注意しましょう。
■ストーリー
 本社ビルからテーマパーク「ファンタージェン」に転勤してきた警備員の主人公。
 黒い甲冑という新しい制服にもようやく慣れた頃、同僚である梶原が事故死した。
 すべてがコンピューターで制御された園内で、ある筈のないコンピューターミスによる事故。続いて整備員の和子がパレード車に吊された。
 同じ頃出没する“シロえもん”の着ぐるみ。これを着ていた財前瑠璃子は、1年前に投身自殺をしていた。
 はたして彼女の亡霊の仕業なのか。
 責任者である天野女史から、極秘調査を命じられた主人公は、真相究明に乗り出す。
 ファンタージェンを支配するコンピューターシステム“MAOS”の生みの親である、草加部総一郎の失踪の謎を追う彼が見たのは、哀しい復讐鬼の姿だった…。

 このゲームについて語ろうとすると、真相に触れないわけにはいかない。
 バラしてしまうと、真犯人は牧子だ。
 3年前、草加部総一郎は井上に殺された。
 ファンタージェンは特殊な工法で作られており、その建設費がバカにならないため、会社側は構造を簡略化した。
 設計者である草加部は強度が足りなくなると反対し、手抜き工事を公表すると脅しをかけたため、会社側は彼を買収することにした。
 同じ大学の出身である井上、京、梶原、和子の4人が説得に当たったが、口論の末、井上に突き飛ばされた草加部は死んでしまう。
 4人は死体をドラクル城の壁に塗り込め、会社には、草加部は納得し、アメリカへ旅立ったと告げた。
 2年後、草加部の恋人だった牧子は、復讐のためファンタージェンに就職し、梶原とつきあい始める。
 草加部の残した、MAOSを遠隔操作できる“カーミラシステム”を手にして。

 何者かに追われている少女の飛び降りから始まるこの作品は、前作よりも“ストーリーとして見せる”ことに重点が置かれている。
 各キャラクターについての書き込みも結構深く、“どうしてコイツがこんな行動するの?”的な疑問は少ないし、いわゆる悪人もほとんど登場しない。
 また、今回も犯人は複数だが、単純に共犯というわけではなく、それぞれの思惑が絡み合って謎を複雑にしているという構成だ。
 そのため、前作に比べて主人公があまりバカに見えないという特典がついている。
 前作の評論で『全然関係ない人まで犯人として指名できるのはおかしい』、『犯人に反省がない』と書いたけど、今回はそれぞれ改善されている。
 まずシステム的に、主人公が集めた情報の範囲内でしか犯人を指定できない。
 そのかわりニセ情報とでも言おうか、犯人らしく見える人を数人用意している。
 財前瑠璃子はそのための伏線の1つだ。
 話を進めていくうちに、彼女についての情報がいくつか入ってくるようになる。
 自殺は男がらみだという噂、井上と彼女に肉体関係があったらしいこと、彼女の姉・美重子が行方不明になっていること…。
 また主人公は知らないが、プレイヤーには冒頭で飛び降りた少女が瑠璃子であろうことがわかる。
 つまり、彼女が誰かに殺された(も同然)ということがわかるわけだ。
 これらのことから、瑠璃子がらみの犯行という見方が出来るし、実際、登場人物の大半もそう考えている。
 要するに、真犯人への手がかりが得られなければ、他の線から推理することになるわけだ。
 次に犯人の反省についてだが、真犯人である牧子は、復讐を遂げた後自殺するか自首するし、唯一の悪人である井上は必ず死ぬなど、草加部殺しに関与した人間は、皆なんらかの形で報いを受けている。
 また和子や京とのエンディングでは、彼女らはきちんと自首し、和子は懲役刑に服している。
 京は不起訴になっているが、まあ罪は死体遺棄でしかないし、関係者が全員死んでいるわ、隠した死体は瓦礫の下でメチャクチャだわで、立証もできまい。
 本人の自白だけじゃ、有罪にならないしね。
 そんなこんなで、納得のできるエンディングを迎えられるので、実に気分がいい。
 特に牧子シナリオで、彼女は、隠そうとする主人公をよそに自首している。
 突然の主人公の変節が気にはなるが、いいエンディングと言えるだろう。
 もう一つ新たな要素として、事件そのものに関係のないキャラクターが多いということが挙げられる。
 前作ではくらら1人だけだったが、今回は志津子、ひかる、たまみ、さくらなど、半分は無関係だ。これは、事件が静かに進行していることを示している。
 ひかるやたまみは、シロえもんに体現される瑠璃子の亡霊の方に関心があるし、志津子は、彼氏を失ったばかりの牧子が心配だ。
 そして京は、草加部の亡霊におびえている。
 確かに大事件なのだが、当事者以外にとっては、犯罪などとは思いもつかないことなわけだ。
 各キャラクターはそれぞれの立場から、等身大で対応しているのだ。
 事件に対して以外でも、その姿勢は貫かれている。
 例えばひかるは、ミュージカルスターになることを夢見て頑張っている普通の女の子だし、志津子はちょっと気になる男(主人公)をからかったり誘ったりしているだけの、単なるファンタージェンの従業員だ。
 彼女らは事件など関係なく生きているし、主人公が上手く立ち回れば、事件に巻き込まれることなく主人公と恋に落ちる。
 主人公が恋人を得ることができたのは、事件解決の報酬としてではなく、適当に仕事をサボっている1人の男としての魅力故だ。
 由佳里の場合が顕著な例だ。
 彼女のシナリオでは、事件の真相は究明できない。にも関わらず、事件を解決しようと一緒に頑張ったことが縁で、恋人になる。
 主人公は、仕事の合間に仲良くなった女性とつき合うようになっていくわけで、より多く関わった相手とくっつく。
 その相手が、事件の解決に寄与したかどうかは関係ない。
 前述のとおり、事件に関係のないキャラが多いから、入ってくる情報も個人情報が中心となっており、前作のような聞き込みのつもりでいると、肩すかしを食うことになる。
 だからこそ、ふとした会話の中の手がかりが重要なわけで、この辺も推理物らしくて好感が持てる。
 前作のような合理的な犯罪ではなく、多分に情緒的な事件だから、後味の苦さも心地いい。
 サブタイトルの“THE VENGEFUL DAYS”は『復讐に燃えた日々』というような意味で、事実この事件は復讐劇だ。
 恋人を殺された女の、妹を殺された姉の行き場のない怒りと悲しみを持て余し続けた日々。
 クローズアップはされていないが、森本も復讐鬼である。
 彼女は妹を殺した犯人を求めて、男装して侵入している。
 不真面目な主人公に厳しく当たるのは、弱い者を守りたいという思いの現れだ。
 彼女が主人公と恋に落ちるのは、実は意外と実力のある主人公を見直したからに他ならない。
 彼女の復讐は、主人公の手を借りて成就したのだ。
 事件の真犯人である牧子は、相手を捜すところから始めて3年かかっている。
 彼女は最悪の場合、草加部殺しに関わった4人全員を殺す。
 それも、場合によっては入院先の病院まで追いかけてさえ(多分)いる。
 これは一見ひどすぎるようだが、よく考えてみれば、彼女にとってはごく当たり前のことだ。
 草加部が死んだときの詳しい事情を知っているのは、当事者の4人だけ。
 実際は事故で死んだにせよ、真相をウヤムヤにされたまま、草加部が消えてしまったことは事実だ。
 彼の死を隠している以上牧子にとっては、4人がかりで殺したのと同じ。
 “1人たりとも生かしてはおけない”という彼女の決意を、誰が非難できるだろうか。
 『あなたは、愛する人を殺されたことがありますか?』この一言が、牧子の行動の原動力だ。
 愛する人を失った哀しみから闇に落ちた復讐鬼。
 牧子がドラクル城のバルコニーから下界を見下ろし、自らを闇の住人とおとしめることで、決意を新たにしていたのは当然と言えよう。
 ところで主人公が和子を愛した場合、不幸にして和子が殺されてしまうことがある。
 牧子にして見れば至極当然のことだが、この時点で主人公にも復讐鬼になる資格が生まれている。にも関わらず、彼は“恋人を奪った”牧子を許してしまう。
 それどころではない、あろうことか、彼は牧子を愛してしまう。
 それは、同じ思いをしたからわかるというやつかもしれない。
 彼にとって牧子は、つい2日前につきあい始めたばかりの恋人を失った女だからだ。
 傷を舐め合っているうちに、恋心が生まれても無理はない。
 しかし、牧子と草加部の関係に気付いた後も、彼の心は変わらなかった。
 恋人を殺されて狂ってしまった女を守ってやりたいと願う。
 主人公の和子に対する気持ちが変化したわけではない。ただ、復讐心よりも牧子への同情の方が強いだけだ。
 自分の中にもある復讐心。
 牧子が、それによって突き動かされたのも、無理からぬことだと思える彼の心は広いと思う。あるいは、男と女の違いなのか。
 同様に、息子を殺された父の復讐というものもない。
 友蔵は、常に牧子のことだけを案じている。
 牧子の犯行を隠蔽するために、わざわざ自分が表に出ている。
 友蔵が連行される際に、主人公に向かって言うセリフ『後のことは頼んだぞ』は、牧子のことを頼むという意味だろう。
 主人公は、“井上みたいな奴を2度と出すな”という意味にとって納得していたようだが、ファンタージェンのことなど、事件を起こした張本人が言っていいはずがない。
 彼はあくまで、息子を想ってくれている牧子の身を案じ、彼女を守るためにのみ動いていたのだ。
 反対に、復讐される人の側を見てみよう。
 梶原も和子も、恐怖を感じていた様子はなかったが、何年も経ってるのに普段から様子がおかしいとは思えないので、やはりファンタージェンにいること自体が、その現れなのだといえる。
 実際、和子はファンタージェンに転職してきた理由を、主人公に明かさなかった。これもそのせいだ。
 井上にしたって、追われることの恐怖から追う側になろうとして、ああいうことをするようになったとも考えられるしね。
 バッドエンドの場合の、牧子と主人公の関係はちょっと微妙だ。
 友蔵を体よく利用している形の牧子は、復讐と良心との間で揺れている。しかも彼女は、徐々に主人公に惹かれ始める。
 純粋な彼女にとって、主人公への恋は総一郎を裏切ることだ。
 主人公に語ったドラクルの悲しみは、揺らぎ始めた自分を奮い立たせるためだったんじゃなかろうか。
 情報源として梶原を利用し、友蔵の善意を利用し、既に手を血に染め始めた自分…。
 闇に落ちてしまった自分に、もう恋などする資格はないと言い聞かせるために。
 復讐を遂げ、全ての罪を井上になすりつけた(つまり目的を果たした)後も、後ろめたさから主人公に近づけない牧子と、梶原(主人公の頭の中では、牧子の恋人)を失った牧子を慰めることのできない主人公。
 無力感の漂う、いいバッドエンドだなあ。

■総評
 第1章とはいうものの、実質前作とはつながりのないこの作品、システム的にもかなりの変更が施されている。
 ほとんどの点では、前作よりも良くなっている(特に内容的に)のだが、残念ながら悪くなっている部分もある。
 特にヒドいのが、マップ上でデフォルメキャラを移動させるシステムになったこと。
 キャラの動きとマップの動きがマッチしていないため、行きたいところに素直に行けない。
 移動に時間的制限のあるこのゲームの場合、うっかり変なところに行ってしまうと、イベントを見逃したり、目当ての人に会えなくなったりして解けなくなることすらある。
 マウスを使っていると特に顕著で、オフィスとオペレーションルームに入り損ねること数回。
 さらにテキストの表示が遅く、クリックのタイミングが大雑把なので、大事な選択肢でとんでもないのを選んでしまうことすらある。
 これは、ただでさえ難しいこのゲームをやるに当たって、ストレスを尋常でないものにしてしまう。これさえなければなあ。
 ところでこのゲーム、かなめ、和子、京以外の女の子は、本編中に主人公とのHはない。
 全て終わった後でつき合っている2人の姿が、エピローグという形で語られるだけだ。鷹羽個人としては、好感を持っている。
 前述のとおり、事件解決の一環としてではなく、愛を育んでいるせいでもあるが、彼女らが割と好感の持てる人物揃いであること、主人公を好きになっていく過程がある程度納得できるものであることも大きい。
 梶原の死んだ掃除用具倉庫の前で、クッキーを供えているさくらの姿には、彼女の素直さがにじみ出ている。
 だからこそ、説教たれた主人公に、素直に惹かれてしまったのだろう。
 男慣れしていない志津子が、主人公に惹かれたのは、あの悪びれもせずにちょっかいかけてくる割に、牧子やひかるのことを思いやったりする優しさに、無邪気な部分を見出したからだろうし、ひかるやたまみは、ちょこちょこ顔を出しながらかまってくれるところに惹かれたのだろう。
 また裕子は、事件解決のために尽力する主人公との連帯感から、仕事を離れてのつきあいを始めている。
 それぞれつきあいだすのが、事件解決後ある程度たってからということも、好感を持てる理由の1つではある。
 もっとも、速攻でつき合い出す和子や由佳里が良くないかというと、これがそうでもない。
 彼女らは、事件に近いところにいる分、不安を持ち、それを和らげてくれる存在として主人公を頼っているからだ。
 また主人公が、ちょっと(かなり?)強引に由佳里を押し倒す図というのも、なかなか青春してて良かった。
 個人的には、一番好きなのは志津子のハッピーエンドだけど、一番いいエンディングということなら、和子のものだと思う。
 どう転んでもキレイなエンディングになるのは、彼女だけだと思う。
 和子は、草加部の意見に賛同しながら、心ならずも死体隠しに協力する羽目になり、そのため、死体が発見されることにおびえ続けることになった。
 主人公と惹かれ合ったことについては、少々動機が弱い気がするが、和子が寂しかったのは事実だし、和子のもとに足繁く通う主人公のまめさは、和子の気を引くに十分だったとも思う。
 軽いノリから始まる恋愛もアリだとは思うので、恋の始まりとしては、及第点だ。
 そして、始まりこそノリと勢いだったものの、その後は、本気の恋愛に成長している。病院に運ばれた和子を、主人公は見舞い続ける。
 彼は、意識のない和子に話しかけ、様子を見にいくこと、つまり直接的にはなんの得にもならないことに貴重な休日を潰し続け、不幸にして和子が死んでしまえば、墓参りを欠かさない。
 睦月、皐月に恋人がいるかと聞かれ、「和子だよ」と答える。
 これは、主人公の誠実さと和子への想いを如実に示している。
 だからこそ、和子のハッピーエンドは素晴らしい。
 罪を償うため、刑に服する和子と、その帰りを待つ主人公。それから結婚する2人。
 「私たちだけがこんなに幸せでいいのかなぁ」と後ろめたさを感じる和子。
 そんな2人だからこそ、幸せになる資格があるのだ。
 そして「俺達は死んでいった人たちの分まで幸せにならなくちゃいけないんだ」という主人公だからこそ、牧子のシナリオへは、和子のシナリオから続いていくのだ。
 牧子のシナリオは、和子が死んだシナリオから派生する。恋人を殺された人間だからこそ、牧子の凶行を止める資格がある。
 そして、『死んだ恋人は復讐など望んでいないはずだ』、『愛する人を思い出に変えて、その人の分まで自分が幸せになること、それが残された者の義務だ』という主人公は、文句なくかっこいい。
 こんなことを言っても嘘臭くない主人公は、高く評価しなきゃね。