ガイアメモリ使って何が悪い!? 或いは法律的ガイアメモリ論 |
鷹羽飛鳥 |
更新日:2010年9月17日
そして大団円…って、ええぇ? 娘のライバルを蹴落とすためにみゆを老けさせた光子と、仕返しに久美を老けさせた良枝が仲良くしてる?
なんで仲良くしてるの!?
いやいや、問題はそんなところじゃない!
これは、例えば殺し屋を雇って憎い相手を殺す依頼をしたってのと同じタイプの犯罪だ。
「なんで仲良くしてる」とかいうレベルじゃなくて、「なんで逮捕されないの!?」という話なのだ。
今回は、敢えて難しく、法律的に見たときの『W』について考えてみるとしよう。
そもそも、『W』の世界でガイアメモリとはどういう存在なのだろうか。
風都警察署に「超常犯罪捜査課」というものがある、或いは風都で恒常的にドーパントによって建物などが物理的に破壊されているという現実がある以上、ある特殊なアイテムによって人間が怪物化するということは、少なくとも警察上層部や政府に認知されているはずだ。
かといって、フィリップが若菜に「あなたはガイアメモリを持っていますか?」とカマを掛けたことからすると、一般に「ガイアメモリ」という名称は浸透していないようだ。
風都というかなり限定的な流通に留まっていることも、ガイアメモリの知名度の低さに一役買っているのかもしれない。
だが、取り締まるための法律があるくらいならば、例えば「シャブ」が覚醒剤を意味する隠語であることが周知の事実であるように、「ガイアメモリ」という単語も知れ渡っていそうなものだ。
とすると、“ドーパント=ガイアメモリ使用者”による犯罪は、警察関係者などごくわずかな人間にしか知られていないということなのだろう。
取り締まる法律があって、なおかつマイナーという可能性もなくはないが、カマを掛ける材料にされるくらいだと、もしかしたら風都の条例(地方自治体の中でだけ有効)の類なのかもしれない。
「青少年健全育成条例」などのように刑罰のある条例は珍しくないし、条例だと都道府県ごとにあったりなかったりするから、マイナーでもおかしくない。
では、ガイアメモリによる犯罪は、法律や条例でどのように定義され、どうやって裁かれているのか考えてみよう。
本編中、自分ではガイアメモリを使用せず、ドーパントに何かを依頼した人間として、コックローチに千鶴殺害を依頼した弾吾、ライアーにジミーの優勝を依頼したゆきほがいる。
このうち、弾吾は、本気で依頼したわけではない(法律的には「故意がない」という)ので罪にはならない。
ゆきほの場合、一種の買収のようなものなのだが、何しろ頼んだ相手はフーティック・アイドルの関係者ではなく、本来ジミーを合格させるような権限を持っていないから、買収にはならない。
そもそも、ドーパントの能力は不可解なものが多いから、普通の法律で裁くのには無理があるのだ。
警察関係者や公衆の眼前で建物なり車なりを破壊し、その場でメモリブレイクされた場合(ティーレックスとか)は、器物損壊や建造物損壊の現行犯になるだろう。
コックローチなら、千鶴に対する殺人未遂の現行犯という名目が立つから、逮捕してから他の殺人についても追求できるだろう。
しかし、こういった物理力による犯罪でない連中はどうなるのだろう。
ガイアメモリは多種にわたるため、物理的でない能力を持つドーパントも多い。
例えば、睡眠薬を使って他人を強制的に眠らせて衰弱させれば傷害罪が成り立つだろうが、ナイトメアドーパントが人を眠らせて衰弱させたことが裁判で傷害罪と認定されるには、“他人を眠り続けさせる能力がある”ことを証明しなければならない。
しかし、肝腎のメモリは壊れてしまっているから確認のしようもないし、あったとしても倫理的に確認するわけにいかない。
先に挙げた老けさせ屋に依頼した母親達が罪を問われない理由は、これだろう。
証拠がなければ、罪にはならないのだ(別段、完全犯罪を勧めているわけではないので念のため)。
刑法の講義で“罪にならない例”としてよく挙げられるものに、丑の刻参りがある。
夜中に神社でわら人形にくぎを打つ、あれだ。
大変にメジャーな呪いのかけ方だが、あれをやって相手が死んだとしても、殺人には問われない。
なぜなら、呪いを掛けられた人が死ぬということは迷信(という世間一般の見解)だからだ。
平安時代なら、呪いを掛けるよう依頼すること自体が罪だったが、現代日本では、呪殺という殺し方は存在しないことになっている。
例えば、殺し屋に殺人を依頼すれば、「何者かに依頼して殺させた」という形で殺人罪に問える。
しかし、祈祷師に依頼して呪い殺させる行為は、ほぼ全ての学説が、罪に問えないという見解で一致している(1人でも唱えれば学説なので、もしかしたら変わり者の刑法学者が反対論を唱えているかもしれない)。
この考えにのっとれば、“人間を老化させる”という特異な能力を持つドーパントの存在を証明できない限り、犯罪にならない。
人を呪い殺すよう依頼するのと同様、できもしないことを依頼しても罪にはならない。
ドーパントの特殊な能力は、犯罪事実の証明が非常にしづらいものなのだ。
だが、ちょっと待て。
この考え方で行くと、老けさせ屋自身も罪を問われないのではないか?
オールドドーパントは、自分を襲ってきたライダー2人を攻撃したが、その他の人間には、物理的な攻撃は仕掛けていないはずだ。
にもかかわらず、悪人呼ばわりされ退治されている。
一介の探偵である翔太郎はともかく、警察官である照井までが悪と断じて襲い掛かっている。
となると、オールドドーパントは、何らかの法律に触れた行為をした犯罪者と扱われていることになる。
一体、何の罪だろう?
その能力の種類を問わず、実現性の可否を論ぜずに犯罪が成立するとすれば、対象をガイアメモリに限定した法律などが存在するということなのだろう。
まぁ、有り体に言えば“ガイアメモリ取締法(条例)”といったところか。
ガイアメモリの扱いは、作中ではあまり明確ではないのだが、少なくとも「ガイアメモリ流通の罪」というものが存在するようだ。
以前にも書いた気がするが、ガイアメモリは禁制品であるらしい。
怪人体の能力は千差万別だが、ガイアメモリには、使用者の精神を蝕むという共通の問題点がある。
この点をもって、向精神薬、つまり麻薬のようなものとして規制されるということは十分考えられる。
だとすれば、能力の如何を問わず、ガイアメモリを使用したことだけ証明できれば、罪を問えるだろう。
また、「流通の罪」があるのだから、ガイアメモリを製造、所持、使用、流布することを禁止する法律だと考えられる。
では、ガイアメモリを使用することが罪だという前提で、本編中で罪に問われなかったパターンを見てみよう。
あ、ただし、人間でないと犯罪者にならないので、スミロドンとケツァルコアトルス(複製メモリ版)は除くことにする。
それと、死んじゃった人達も。
ガイアメモリを使ったにもかかわらず犯罪者扱いされなかったというと、最も印象が深いのがインビジブル=リリィ白銀だ。
彼女は、手品を成功させるという甚だ利己的な理由からメモリを使ったのだが、照井の機転で、井坂の計画が裏にあったことを口実に“被害者”という立場を得て罪を問われなかった。
これは、例えば覚醒剤を無理矢理注射された人が罪に問われないのと同様であり、理に適っている。
もちろん、リリィは、実態としては自らの意志でガイアメモリを使っていたわけではあるが、少なくとも“ガイアメモリの能力を悪事に使っていない”ことは間違いない。
ほかにも、バイラスだった幸、イエスタディの須藤雪絵、バードを使った中学生達も不問に付されたようだが、バードの中学生達は未成年だからお目こぼしをもらったというところだろう。
とはいえ、生体コネクタなしで使った3人は入院中だし、茜もしばらくは入院する必要があっただろう。
幸は意識不明のまま、雪絵は記憶喪失と、やはり罪には問われなかったものの、それなりのペナルティは受けている。
では、ジーンの透は?
透は、自らの意志でガイアメモリを入手し、自らの欲望のための強制力として使用した。
この点で、インビジブルを“タネも仕掛けもない手品”の道具としてしか使わなかったリリィと異なる。
少なくともジーンは、自分が作ったつまらない映画を見せるため、延々7時間にわたって別の映画を見に来た客を閉じ込めている。
これは、監禁に当たるだろう。
具体的な方法はともかく、“壁を作って出られないようにした”という物理的な、言い方を変えると認識しやすい力を使っている点で、老けさせ屋とは違う。
つまり、透は、明確に犯罪行為をはたらいているにもかかわらず逮捕を免れたわけだ。
ついでに言うと、犯罪ではないがクレイドールをエクストリーム化させるという余計なことまでしている。
それなのに、どうして罪に問われなかったのだろう?
可能性としては、書類送検で済まされたと被害者として終わらせたという2パターンがあり得る。
まず、前者についてだが、ニュースでよく聞く「書類送検」というのは、逮捕されずに送検されること、つまり、罪は問われるが逮捕まではされないということだ。
元々法律上、逮捕・勾留するためには、逃走や証拠隠滅の恐れといったものが必要とされる。
透の場合、既に証拠品は文字どおり握りつぶされているので、今更証拠隠滅の心配はない。
ただ、透が観客を監禁したという証拠も残っていないので、有罪を立証するのは難しいだろう。
日本の裁判の有罪率の高さは、「絶対有罪を取れる!」と判断された時にしか起訴しないという検察の方針による部分が大きいそうだから、透が不起訴になる可能性は高いだろう。
これなら、とても真っ当な処置だと思う。
2つ目のパターンの場合は、裏に、照井の暗躍があったと思われる。
つまり、「彼は利用されただけの被害者だ」という説明(報告)だ。
うまい具合に、透は若菜がエクストリーム化するために利用されたという側面がある。
それを前面に押し出して、「被害者だ、今後、自分からガイアメモリを使用する危険性はない」と報告するわけだ。
普通の刑事、例えば刃野辺りがやろうとするとかなり難しいだろうが、何しろ次々とドーパントを逮捕している若きエリート:照井警視がそう報告すれば、誰もが納得するだろう。
まったく、職権濫用も甚だしい。
鷹羽としては、後者のパターンだと思っている。
というのは、翔太郎の報告書に透のその後が記載されているにもかかわらず、送検されたことが全く触れられていないからだ。
前者のパターンなら、翔太郎の報告書で「送検はされたが、起訴はされないで済みそうだ」とかいう一文が入っていそうなものだ。
リリィの件といい、なんだか、照井が好き勝手やってる悪人に見えてきた。
だが、1つだけ正当性がある。
それは、透やリリィがガイアメモリに毒されていないという点だ。
2人は、ドーパント化していない状態で、ガイアメモリを握りつぶすという形でメモリブレイクされている。
また、メモリブレイク後の目の下にクマができたような状態にもなっていない。
つまり、2人は、ガイアメモリの悪影響を受けることなく通常の精神状態を保っているので、今後再びガイアメモリに関わる危険性が少ないのだ。
だから、放置しても害はない、というわけだ。
では、どうして彼らは毒されないのだろう?
考えてみると、彼らが過剰適合者だったことに起因するのではないかと思われる。
本編中、「過剰適合者」がどういうものであるかは描かれていないので、“適合率100%以上”なのか、“通常とレベルの違う適応を示す”なのかは分からないが、ともあれ普通じゃないから「過剰適合者」なのだろう。
若菜が直挿しに近いドライバーで変身した時はたった1回でクレイドールメモリの毒素の影響を受けたのに、冴子が数週間にわたってナスカメモリを直挿しして使っていても特段の悪影響が見られなかったように、適合率が高いとガイアメモリの毒性の影響を受けにくいのかもしれない。
ともあれ、過剰適合者は、どうやらガイアメモリに耐性のある体質を持っているようだ。
ガイアメモリを取り締まる理由が、人の精神に悪影響を与えるからということならば、流通させる者、使って影響を受けた者、いずれも対象になる。
探偵という自分の正義感で戦う翔太郎はともかく、法律的に動かざるを得ない司法の立場からすると、明確に証明できる条件だけで犯罪が成立してもらわないと困るのだ。
こう考えると、ガイアメモリを使った痕跡が残っていないであろう透は、処罰の対象になりにくい。
支配人に化けたりしたことは目撃者がいるが、観客を閉じ込めた証拠はないのだから。
そう考えると、ドーパントによる犯罪を専門にしている超常犯罪捜査課のトップである照井が仮面ライダーで翔太郎達の仲間だということは、ものすごく便利なのではなかろうか。
いや、そもそも、仮面ライダー自身がガイアメモリを使っているという根本的な問題がある。
ドライバーを使っている園崎家の面々がドーパントである以上、“ガイアメモリを使って変身した者=ドーパント”ということだろう。
ライダーは使っているメモリがシュラウド製だから違うと言いたい人もいるだろうが、劇場版のT2メモリ連中を見れば、ロストドライバーを使用すると直挿しの場合と姿が異なる程度だということが分かる。
違いは、メモリの悪影響を受けないことと姿がスマートになること、変身中にメモリを外してマキシマムドライブが使えることくらいで、ライダー自身もドーパントの一種であることは間違いない。
第一、翔太郎達自身、当初は単に「W」としか呼んでいない。
Wを見た亜樹子の第一声が「半分こ怪人」だったことからしても、怪物にしか見えないことが分かる。
「仮面ライダー」というのは、風都で噂になった際の呼び名でしかなく、ドライバーを使うとドーパントとは違う存在になるというものではないのだ。
そう考えると『W』って、正義の心を持ったドーパントが悪のドーパントを倒すという、いかにも仮面ライダー的な物語構造だったんだなぁ。
いや、それってつまり、仮面ライダー自体が違法な存在ってことでは?
「月光仮面が拳銃の不法所持で捕まったという話は聞いたことがない」という正義の味方の免罪符は、リアルな世界ではあり得ない。
どう見ても銃刀法違反なエンジンブレードを白昼堂々と引きずって歩いている照井も、何故か変身するところは部下に見せないようにしている。
ということは、一応違法なことを自覚しているのだろう。
基本的に翔太郎も照井も、敵と依頼人以外の前では変身しない。
ウォッチャマンやクイーン達の前では変身しないということも一応正体を隠そうという意思の表れと言えそうだ。
依頼者は翔太郎や照井に感謝しているからたれ込まないということか…。
実際問題として、法律的な見地から逮捕したりしなかったりという展開にしたわけではないと思うが、それなりに筋の通る流れになっていることは、作り手の良識を感じさせる。
ヒーロー物における「怪人」を、人間の「犯罪者」として描いたことは、『W』という番組の大きな特徴の1つだ。
Wやアクセルが直接殺したキャラクターが存在しないことも、番組の基本ラインである「探偵」という枠を守ったものと言えるだろう。
この辺の細かいところは、現在準備中の『W』総括に譲るとして、駄文はここで筆を置くとしよう。
…え? 総括? 書けるのか、鷹羽!?