仮面ライダーディケイドあばれ旅 10

後藤夕貴

更新日:2009年7月11日

 9つの世界を巡り終え、ようやく元の世界に戻ってきた光写真館。
 と思われたが、そこは微妙に何かが歪んでいる、別な世界だった。
 士達の世界巡りは、まだ終わってはいなかった……

 第二部ともいえる別展開の開始、そしてディケイドのパワーアップフォーム登場という重要なエピソードとなった20・21話。
 今回は、この「ネガ世界編」について触れていこう。

 尚、便宜上「ネガ世界」の住人にあたるキャラクターは、以降「陰〜」と記述させていただく。

●ネガ世界の闇ライダー

 クウガから始まり響鬼へと続いた九つの世界は、それぞれオリジナル作品が存在する、いわばリ・イマジネーティブな舞台だったが、今回は一転し、原典の存在しない世界となった。
 正しくは、ディケイド第一話の舞台がベースとなっているので、多少無茶な表現をすれば「DCDディケイド世界(或いはDCD夏海編?)」とも云えそうだ。

 スタート地点に戻って来たように思えて、実はそうではないという奇異性を感じさせる展開はなかなか興味深く、それを強調するために、まともな世界(自分が元々いた世界)だと信じ込んでいる夏海を中心に立たせた図式は非常に面白い。
 これまでほとんどスポットが当たることがなく、せいぜいDCD電王編でイマジンに憑依された時の痴態(?!)くらいしか大きく目立つことのなかった夏海が、大々的に前面に出る構成にしたことで、彼女の過去や友人関係、考え方の一端がわかるようになった点は高く評価出来る。
 また、それ故に「この世界の現実はすべて嘘」と判明した時の落差が映える。
 陰夏海との会話中、突如乱入する陰の友人達とのやりとりも、最後まで彼等を信用しようとする夏海の心情が良く伝わって来て、彼女の悲壮さを共感できるようになっている。
 これは演じる森カンナ氏によるところも大きいと思うが、従来よりキャラのブレが激しくなる傾向の多い井上脚本作品において、それほど大きな違和感が生じなかったのも評価したい。
 「TGクラブ」を巡る過去回想など、かなりくどい部分も多かったが、“ライダー世界の旅に巻き込まれた一般人”としての夏海というキャラの掘り下げは、比較的上手に行なわれていたものと思われる。

 本来の夏海の世界をポジと表現し、それに対する「ネガの世界」という表現も独特だ。
 人間の存在が許されず、ダークライダーやミラーモンスター達が支配していることになっている世界。
 こういう触れ込みにして、敵役或いはやや敵役寄りのライダーを、ディエンド・鳴滝を介さずに大量に登場させたのも画期的な点だろう。
 何より、(特に理由らしい理由はないが)登場が危ぶまれていたダークキバが中身も含めてしっかり登場、しかもオリジナルの脚本家の手により活躍したというのもおいしい。
 中にはライダーでもなんでもないオルタナティブ※1までいたりするが、こうすることで比較的無理なく大勢の過去ライダーを登場させられる点は魅力で、しかも彼らはそのままディケイド・コンプリートフォームの討伐対象にもなる。
 新しいパワーアップを引き立てるため、舞台の構成から(良い意味で)捻じ曲げるという、本来なら乱暴極まりない手法も、「仮面ライダーディケイド」ではかえって上手く機能したように感じられる。
 今後、他のシリーズでも用いられる手法とはなりえないが、なんでもあり、に甘んじず逆に活用してこのような異世界を作り出した意味で、今回のエピソードはそれなりに優秀だろう。

 その他、序盤からなぜか紅音也を登場させ、彼独特の妖しさで士達を煙に巻き、微妙な違和感を覚えさせるのもいい。
 恐らく、第一話で紅渡が登場したことに引っ掛けたものだと思うが、どちらもオリジナルの役者が同役を演じている点が面白い。
 なんとなくだが、「仮面ライダーキバ」に登場していた時よりも、あの癖の強い性格が強調されていた感もあるが、この場合はむしろそれで正解だろう。
 それにしても、今回彼の怪しさ(褒め言葉)がいい味付けになっていたのは間違いない。

 冒頭で士が撮影した写真が初めてまともに写っていたのに、後編終盤ではそれがネガ反転しているというのは、実に上手い伏線となっていた。
 こういう意味のあるひっくり返し方は、素直に褒めたい。
 それから、オルタナティブだけが音也にライダー扱いされていない※2のも、さりげに興味深いポイントだった。
 とはいえ、オルタナティブもオーガ達と同格のように立ち振る舞っていたため、一体どこまでが「管理側にいるダークライダー」なのか、ちょっと分かり辛かったのが残念だ。
 ダークキバをはじめ、あの三人までがダークライダーで、オルタナティブだけ格下だったのだろうか?
 そういえば、コンプリートフォームが召喚する最終形態ライダーと対になっている敵ライダーが登場している点も、なかなか面白い。
 また、それぞれに対応した最強フォームの能力でトドメを刺されるという展開も、実によくわかっている。
 ここでも注目すべきは、オルタナティブだ。
 「仮面ライダー龍騎」では特段敵とは云い切れない存在だったためか、彼は龍騎サバイブによってとどめを刺されることにはならず、“レイドラグーン達と共にひっそり巻き添え”で爆散させられている。
 まあ、この手前で龍騎サバイブ対リュウガをやっているため、彼のためだけに同じ能力を連発されるわけにはいかなかったのだろうが、これもまた扱いがよくわかってる演出と云えるだろう。
 というか、あそこは笑い所なのだろうか? とすら思えてしまう。

 だが。
 今回は本来ディケイドのパワーアップ編であり、これをより引き立たせるために、もっとしなければならなかった事があったのもまた事実である。
 しかし、その割にはあまりにも脱線要素が多く、とても尺を上手く利用していたとは云い難い出来となった。
 また、夏海をメインに添えたのはともかく、士を別行動にした上に奇行に走らせ続けたため、彼がパワーアップのチャンスを手にした、というイメージがとても薄まってしまうという事態になってしまったのもまずい。

 今回の「ネガ世界編」は、基本的なものは良く出来ていたし、構成の方向性も決して悪いものではなかったのだが、あまりにも悪乗り? が多すぎたため、総合的にはとても良い評価は下せなくなってしまった。

※1:実は今回登場したオルタナティブは、「ゼロのマスク(額にVの字付)」と「ノーマルのボディ(身体の側面に銀のラインがない)」を併せ持つ亜種であり、なんと呼べば良いのかよくわからない存在だったりする。
その他、肩のパイプ状パーツが銀色でもあるため(これはゼロの特徴。ノーマルは黒)、おそらくはゼロのスーツから銀色のラインと「PROTOTYPE-00」の文字を取り去った物だと考えられる。
「オルタナティブシリーズの違い」について、詳しくはこちらを参照のこと。

※2:劇中の音也の「いいか、もう一つのルールをよぉく思い出せ。お前達は俺達ライダーが管理しているってことを」という台詞から、少なくともオルタナティブは、“ダークライダーに管理される側”とされていることがわかる。
オルタナティブ及びゼロは、「仮面ライダー龍騎」においても擬似ライダーであり、“神崎士郎が作り出したライダーシステムを応用して作られた別物”という存在だった。
ファンの中には、オルタナティブシリーズもライダーと解釈している人がいるが、この辺の線引きを意識した上での演出だとしたら、なかなか細かいところを突いている。

●膨大な矛盾

 「ネガ世界編」は、前後編を通じてあまりにも多くの矛盾に満ち溢れており、これが気になってしまうと、とても内容を楽しむどころではなくなってしまうという欠点がある。
 ここからは、特に気になる矛盾点をピックアップしてみよう。

・TGクラブが存在しなかったネガ世界の住人(陰夏海)が、なぜか夏海の記憶を共有しているような会話を行なっている。

 これは単なる演出の都合による要約、という言い訳では済まないものだ。
 例えばこの世界が、途中まで夏海のいた世界と同一の展開で、ある日突然ライダー達が降り立ち現在のようになったというなら、まだ良かった。
 ライダーの存在理由自体はともかくとして、これなら一応の辻褄は合うし「オリジナル世界とほとんど変わりのない並行世界もある」的理論で、細かな問題点も誤魔化せた。
 しかし劇中の情報を見る限り、とてもそのような展開があったようには感じられない。
 それどころか、オリジナル世界とは全く異なる展開が、TGクラブのメンバー(に該当するネガ世界住人)に訪れている。
 これでは、陰夏海がオリジナル世界のTGクラブの存在など知る筈もない。 

 この程度なら、TGクラブの描写をある程度削って、この世界におけるライダー達の存在理由についての説明を加えるようにすれば良かっただろうに。

・ダークライダー等人間でない者が支配する世界なのに、いまだに生き残っている人間がいる

 ライダーの存在理由が不明瞭だという点は、世界観の描写にも大きく影響している。
 人間がダークライダー達に追い詰められているということは、どこかで「追い詰められる前の状態」が存在していなければならない。
 そうでなければ、そもそも逃げ回る人間そのものが存在出来ないからだ。
 これが、例えば世界の住人全員が元からライダーまたはミラーモンスター等だというのなら、まったく問題はない。
 特にディケイドの世界観だと、ライダーは特に何の説明もなく異世界の情報をキャッチ出来ているようなので、異世界にしかない筈のTGクラブの事情を知るのも問題ないだろう(かなり強引な理屈ではあるが)。
 或いは、オリジナル世界で存在する者とそっくり同一(だがライダー)という者達がネガ世界にはじめから揃っていて、オリジナル世界で起きている事がそのままネガ世界でも起きていることにして、それで情報が共有出来ている設定にしても良かっただろう。
 これくらいなら、特に複雑な説明がなくてもなんとでも調整可能だろうに、本編ではわざわざこういった可能性をぶち壊すような展開を行なっている。

 それは、ライダーがネガ世界のTGクラブメンバーと入れ替わっているという、アレ。
 あれさえなければまだいくらでも言い訳が出来ただろうに……

 ネガ世界のTGクラブ(に相当するメンバー)は、ライダー達に追い詰められている時点でなぜか高校の制服を着ており、どこかからあの隠れ家に逃げ込んできたように見えた。
 ということは、少なくとも彼らが「制服を着ている理由」があるわけで、しかもメンバーの一人が「この世界にはあとどれくらい人間が生き残っているのか」といった意味の発言をしている。
 好意的に解釈すれば、これはある日突然、人類が淘汰されるようなトラブルが発生した事とも判断出来、そこだけ観れば非常に面白そうだ。
 また、最終的に彼等にとどめを刺したオーガやリュウガ、ダークカブトが、「仮面ライダーカブト」のワームのように殺した相手の姿と記憶をトレースしたとすれば、なかなかの表現になったとは思う。
 だがそれをやるためには、実際に被害に遭う→ライダーに成り代わられるという描写が必要になる。
 ただライダーが人間を殺したシーンだけ入れればいいというわけではない。
 せっかく、生き残りの人間が追い詰められ殺されるという場面があったのだから、それを利用して「こうしてライダーがじわじわと世界を侵食している」恐怖を描けた筈だし、それをやっておけば「ネガ世界が何故このようになってしまったのか」を間接的に理解させる役に立った筈だ。
 あとほんのちょっとあれば充分に描けたものなのに、どうしてそれを思いつかなかった(または導入しようとしなかった)のか、本当に惜しい。

・ケータッチを巡る多くの疑問

 ネガ世界のお宝は、夏海の友人・千夏(のネガ世界版)が強奪したケータッチで、これによりディケイドはコンプリートフォームへの進化を遂げられたが、またしてもパワーアップアイテムの由来描写がぞんざいになってしまった。
 これは井上脚本でよく指摘される大変良くない傾向で、どうにもパワーアップ展開が冴えなくなってしまうというものだ。
 「仮面ライダー555」における“いきなり天井から落ちてきたカイザポインター”や“宅急便で送られてきたファイズブラスター”などはその代表例※1で、アイテムではないが、「仮面ライダーアギト」では“弁当食って最強フォーム化”と揶揄されるほど、説得力の薄いパワーアップ描写を行なったりしていた。
 古い例だと、新兵器登場回に限り狙ったように内輪もめを始める「鳥人戦隊ジェットマン」というものもある。
 今回は、ケータッチとディケイドを結びつける接点がまったく存在しない上、士とはまったく縁もゆかりもない人物が所有していたという、(劇中の士も含めて)何がなんだか良く分からない内容だ。

 まあ、脚本の傾向はともかくとして、本編での描かれ方を見てみよう。

 ケータッチは、ネガ世界のライダー達にとって最高の宝物らしく、なぜか士(ディケイド)にのみ使えるものらしい。
 これについては、当初強奪を考えていた海東自身も理解出来たものらしく、一旦手にはしたものの、その後士の手に渡っても「それをこちらに返したまえ」的な発言は一切していない。
 士とケータッチが、いったいどういう理屈で繋がっているのかは現時点ではわからないので、ここではあえて無視しよう。
 問題なのは、その宝を巡り、この世界の中だけで強奪戦が行なわれていたという点だ。

 劇中では、陰千夏がライダー達から命がけでケータッチを強奪してくるという展開があったが、そもそもこれが何を意味しているのかがわからない。
 ライダー達が、TGクラブの面々に擬態して陰夏海をおびき寄せ、ケータッチの隠し場所を突き止めようとするのはまだわかる。
 だが問題は、陰千夏がどうしてそんな事をする必要があったのか、またそうする事で人間側にどういったメリットが発生しえたかが、まったく見えてこない点だ。
 例えば、ケータッチが破壊されると(理由はともかく)ライダー達としては非常にまずいという事情があり、いわば「人質代わり」になっているというのなら良いだろう。
 これなら、人間側は生存する上でライダー側と交渉する材料を持てるわけで、少なくとも現状よりは有利に事を運ぶことが出来た筈だ。
 だが実際は、TGなどというこれ以上ないほど分かりやすいラクガキを施した電柱の下に埋め、そのまま放置するだけで何も活用していないという状況だった。
 戦闘力が圧倒的に違うとわかっている相手の本拠地に、死を覚悟してまで潜入するからには、(そんな奴にみすみすお宝を奪われてしまうライダー達のマヌケっぷりはともかく)それなりの利用目的があったと見るのが自然だ。
 音也の発言から、士の手に渡らないと意味を成さない物と解釈されていたらしいケータッチだが(実際そうだったけど)、わざわざ囮作戦まで遂行するほどなのだから、彼らにとって大事な物品なのは疑いようがない。
 だが、劇中のあの扱いでは、陰千夏達がやったことは単なる嫌がらせの範疇を出ない。
 自分の生命を賭してまで他人に嫌がらせをするという心情には、筆者は共感を抱くのは難しい。

 もし、陰夏海が陰千夏から預かったケータッチを使い、「この後」訪れる何かの機会を狙って、それまでの保身交渉材料にしようとしていたとか、そういうのを匂わせていたなら、これでも良かったと思う。
 つまり、友達の形見? を利用して、自分だけでも確実に生き残ろうと図ったとか、そういう意味だ。
 だが、ケータッチの所在を巡るやりとりが物凄くぞんざいだったため、ようやく出てきた新アイテムが士の手に渡る、というカタルシスが全くなくなってしまったのは痛い。
 加えて音也は、はなからケータッチを士に渡す気マンマンだったこともあり、その過程で所在が不明になっている必要性が乏しくなっていた点もまずいだろう。
 
 例えばだが、行方不明になったケータッチの所在を士に突き止めさせ、その監視役として音也達が立ち回っているといった展開にしていれば、まだ印象は違っただろう。
 これにより、士は本人の意思とは無関係にダークライダー側に近い位置で動くことになり、その経緯で夏海を通じて、ネガ世界の事情を知ることも出来た。
 また、最終的に夏海と陰夏海の両方に関わり、それぞれの理解を得た上でケータッチを手にし、音也が「ようやく手に入れられたな、おめでとう」的に褒め称えたところで反撃開始とか、そういった動かし方もあっただろう。
 少なくとも、ネガ世界は「夏海の世界の陰」としてだけでなく、士にとっても重要な位置づけになりかねない世界だったのだし、彼を“も”中心に添えてもバチは当たらなかっただろう。
 だが実際には、一万人目になったり莫大な遺産を継いだり、見合いをしたりモデルになったりと、物語的にまったく意味を成さない行動ばかり取っていた。
 その上、夏海の過去ばかり無駄にピックアップされていたため、どちらがこの世界編の主役なのかがボケるという、相乗“マイナス”効果が発生してしまっていた。

 上手く使えば、とても面白い内容にまとめられるだけの材料は、充分揃っていたのである。
 今回は、いわば調理法が悪かったわけだが、筆者はなぜか、この表現を過去にも何度か用いたような記憶がある。

※1:一応、花形が堂々と表立って草加雅人や園田真理にアイテムを手渡せないためという事情はあるのだが、そのために取った対策としては、演出上首を傾げざるを得ないものだった。
でもそれは、すべて乾巧という男の仕業なんだ。

・おかしなおかしなおかしな士

 夏海・陰夏海だけでなく、士の行動もかなり変だ。
 とりあえず、不自然に幸運が連続で訪れた事と、その内容については無視しよう。
 疑問なのは、「この世界について疑問を抱いていた筈の士が、場面によってその疑問を都合良く忘れて奇行を演じている」点だ。
 つまり、全編通じて思考と行動に統一性がなさ過ぎる。
 最初のレストラン→見合いまでの展開については、(百歩譲って)目を瞑るにしても、音也asダークキバらとの対戦以降はこの世界の異常性に気付いている筈で、また海東の発言からも、ここが考えていた世界とは異なる場所だと理解していた筈だ。
 まして、戦闘中にライダーカードの能力が消滅するという、ディケイドにとっては一大事なイベントが発生している程なのに、夏海に携帯で連絡をした直後、これをスコンと頭から飛ばしてしまっている。
 確かに、その後夏海に直接ネガ世界の存在を示唆してはいるものの、これ以降士は自身を巡る不可思議な境遇から完全に目を離してしまい、「それまでの世界での立ち振る舞いと同様に」夏海達の傍観者的立場になってしまうため、前編を中心に行なわれた幸運展開は、すべて一気に無駄になった。
 あれだけのことをやったなら、彼も夏海同様、この世界に翻弄され続ける必要性があった筈だし、事実カードの力が消滅したのは、そういうのを狙ったからだろう。
 だが、結局カードの力は何の脈絡もなく元に戻り、当初の士の疑問は完全に忘れられた。
 
 こんな調子で、なんだか妙な受け身体質となってしまった士は、それまでの彼とはまったく異質な存在に感じられてしまうようになった。
 また、こんな状態で最後だけいつもの決め台詞まで決めてしまうものだから、カタルシスどころか必要最低限の説得力すらない。
 しかも、よりによって主人公パワーアップ回でこれなのだ。
 先に述べたケータッチの存在意義が不明確という点と併せて、こんな感じにされてしまっては、そりゃあせっかくの重要エピソードが淡白化するのは当然といえるだろう。

・不要かつ奇妙、そして非現実的な演出の数々

 今回のエピソードの構成が根本的におかしいのは既に述べた限りだが、細かな点を見ていくと、益々そのおかしさが鼻について来る。
 というか、普通に考えてもありえないようなことが連発し、その結果訳の分からない印象ばかりが発生してしまうのだ。

 例えば、TGクラブの過去回想シーン。
 前編がこれに多くの尺を割かれていた点については大目に見るとしても、実は昔の仲間は全員違う存在だという事は、この時点で既に証明されていた。
 ということは、後編では既にスタート段階からTGクラブの裏事情が視聴者に伝わっているわけで、そんな状態で(本物の)彼等との過去回想を繰り返す必要性はまったくない。
 これは、例えるなら既に犯人やトリックが完全判明している推理物で、後から「犯人はどうやって正体を隠しつつ犯罪を遂行したのか」を描写するようなものだ。
 こんな無駄なことはない。
 「結局この世界のTGクラブはニセモノでした」というオチが付き、しかもそうなる事が前編の時点で100%分かっているのだから、ミスリード誘発を狙うような場面は要らない。
 まして、結局この世界のどこにもいない友人達との関係を掘り下げる意味もない。
 その上、TGクラブは無断休校と犯罪行為の果てにあっさりと解散してしまう程度の、(夏海本人はともかくとして)他からしてみればどーでもいい存在に過ぎない。
 また、彼らの発想の薄っぺらさ・軽薄さ・活動内容の異常性を考慮しても、共感を得られるようなものはほとんどないし、仮にあったとしてもそれが本編を観るにあたってプラスに作用することはない。
 確かに、過去いくつか「学校という“檻のような生活”に反旗を翻した学生達の物語」といったドラマは存在しているが、それらは皆「主人公達がある程度“おかしい”という自覚を持っている」上で成立するもので、また長い尺を活用して自身を見つめ直すきっかけを描き、視聴者に共感を促すような造りになっていた。
 だがTGクラブには、そういうものがまったく描かれていない。
 盗難、公共物の破壊行為など、反社会的な行動を強要するまではともかく、それほどの覚悟を強いていながらすぐに辞めたり、またせっかくの決断をあっさり放棄し後悔するだらしなさに、共感を覚えろと云う方が無茶だ。
 まして、その後の先生の「出席記録捏造」発言は、ただでさえ冷めていたところに追加で冷水をぶっかけるほどのお寒いものだ。
 こういうのを、ネガ世界のネタバレをした後に行なうのである。
 しかも、主人公パワーアップ回でだ。
 どういう意図があってのことなのか、本当に理解が及ばない。

 その他、あれだけの暴言を吐いたにも関わらず詫び一つ入れない夏海とか、オリジナル世界から持ち込んだ筈なのに突然ネガ世界の写真に切り替わってしまうアルバムとか、変なポイントは挙げたらきりがない。

・ネガ世界の存在意義

 音也が示唆していた「士はこの世界の住人となるべき」という発言の意図は、果たして今後の何かに関わる伏線たりえるのか疑問だが(個人的には、そこまで深い意味はまったくないと思っている)、とりあえずそれは無視して、ネガ世界を訪ねる必要性について考えてみよう。
 すると、実は全然何の意味もなかったことがわかる。
 正確には、ケータッチを入手しディケイドがパワーアップするという大事な意味がある筈なのだが、先までに述べた通り、ケータッチ自体の存在意義がディケイド的にも、またネガ世界的にも、またまたネガ世界の住人達にとっても不明なため、別になくてもいいじゃん的な印象しか抱けなくなってしまった。
 これでは、物語的になんの効果も発揮していないようなものではないか?

 実は、このエピソードは「仮面ライダーディケイド」という番組の持つ弱点の一つを露呈させるという、本来求められているのとは違う意味で、存在意義がある。

 ご存知の通り、「仮面ライダーディケイド」という番組は、二話で一つの世界を巡る内容だ。
 二話ごとに異世界を巡り、それぞれの世界でそれぞれの世界観やルールを知り、その中で活躍する。
 これは、番組全体に関わるような大きな伏線をさほど用意しなくても面白く見せられたり、また各エピソードに複雑な演出や謎要素を盛り込まなくても新鮮味を維持出来るという強みがあることになる。
 しかし、同時に「その世界で描かれたものは、その世界の中で完結させなければならない」という、もう一つの暗黙のルールが存在している事にも繋がる。
 過去、イマイチ評価が低めだったエピソードを振り返ると、こういった「その世界できっちり終わらせる」べきものが不完全になっていることがわかってくる。
 勿論、鳴滝や海東、また士の正体など、後々のエピソードに関連する謎は別だが、それを差し引いて、「各世界で初出した要素はきちんと消化する」事が暗のうちに求められるのだ。
 
 この視点に基づいてネガ世界編を振り返ると、実に多くのものが投げ捨てられっ放しになっていることが理解出来る。
 また、不必要な描写と必要な演出のバランスが悪く、問題点を更に強調してしまっているのもまずいだろう。
 先述のTGクラブの過去回想や、士の幸運展開などはその一例であり、これによってケータッチの存在意義やコンプリートフォームそのものの存在理由はすべてボカされ、更にはこの世界に来ること自体に意味があるのかという疑問すら抱きかねない。
 これまで、9つのライダー世界を巡ってきたので、ここらで空気の入れ替えを狙った……などという目的だとしても、あまりにも問題がありすぎる。
 こういう、物語の主軸すらボケてしまうような内容を、よりによって重要な転機に当たる回に持ち込むのは、どうしたものだろうか。
 まして、それまでまったく担当回がなかった脚本家に任せる理由もわからない。
 普通に考えるなら、これは米村氏か古怒田氏に任せるのが妥当だったのではないだろうか。

 ベースとなるオリジナル作品がない分、これまでの9つの世界編より遥かに描きやすいエピソードであった筈なのに、ここまですっとぼけた内容にまとまってしまった「ネガ世界編」。
 夏海の誤解や、人間を迫害し成り代わりによって世界を蝕んでいくライダー等、ものすごく興味深い素材は揃っているのだ。
 それらをうまく活用すれば、ここまでのものとは全く雰囲気を異とするあらたな「仮面ライダーディケイド」が始められたというのに、本当に惜しい。

 せめて、もう少ししっかりと練り込んだ上で仕上げていただきたかったものだ。

【個人的感想】

 正直な話、DCDカブト編とDCD響鬼編で盛り上がった分、そろそろ反動が来るなと覚悟していたのだが、見事に予感的中してしまった感はある。
 井上脚本時の独特な演出は来るだろうと覚悟していた分、個人的にはさほどダメージを受けることはなかったが、それでもかなり首を傾げさせられた。
 とはいえ、実はWEB上各所で言われているほど、筆者個人は悪い印象を抱いてなかったりする。
 上では散々書いているが、それはそれとして、やはり「そこまでの雰囲気を大きく変化させ、ディケイドの世界観を一新させようとした」点については、大きく評価している。
 また、多少演出過剰ではあったものの、「オリジナルのない世界での士達の立ち振る舞い」や「ミスリードを狙いつつ、ネガ世界の恐怖を少しずつ浸透させていく」という方式そのものは純粋に面白いと感じたし、出来ればもっと話数を使ってじっくり描いて欲しかった気もした(実際にそれをされたら、また別な感想を述べることになりそうではあるが)。

 だが、そんなことより。
 実は今回最も気になったのが、肝心のコンプリートフォームだ。
 これはストーリーの内容ではなく、あくまで画面上の話。
 個人の好き嫌いに抵触する問題になりかねないため、評論部ではあえて触れなかったが、個人的にはかなり評価が厳しい。
 あまりに厳しすぎて、一時は物語の粗が気にならなくなっていたほどだ。
 感覚がマヒしたんだと思う。

 これまでも、初見でデザインに難色を示したライダーは沢山あったが、いずれも実際に動いているところを観たら、それなりに評価が好転したものだった。
 キバ・エンペラーフォームだけは、実はいまだにどうかと思っているのだが、それでも飛翔態を交えたアクションは大変見応えがあったし、それなりに見栄えのする場面もあったので説得力はあったと思う。
 だが、今回だけはさすがに評価出来ない。
 動いているのを観て、その上で「こりゃダメだ」と思わされたのは、さすがに初めてだった。

 というか、どう考えても扱い方が悪いとしか思えない。
 新登場フォームだから、その外観の露出維持をしつつ他のライダーの能力を使う必要があるのはわかるが、その結果が「トレースモーションする虚像の発生」というのは、あんまりだ。
 二人のライダーが呆然と突っ立って、一緒に同じ動きをして、その場からほとんど移動せずに必殺技→ドーン。
 これのどこがかっこいいのか、また燃えるシチュエーションたるのか、まったく理解が及ばない。
 なんとなくだが、様々な制約を差し引いた結果現在のような動きになったのでは……とすら思わされる。
 よく言われている、「コンプリートフォームは各ライダーの最強フォームに変身できればいいのに」というのは、賛成ではあるものの、それは出来ないだろう事情も理解は出来る。
 何せ、最終フォームに変身してしまったら、その時点でコンプリートフォームの姿は画面から消えるのだ。
 新登場なのに画面に登場しないとなると、販促的にも色々まずい。
 それはわかるが、わかるが……もう少しなんとかならなかったのだろうか?

 最後に、今回個人的にすごくツボだったのが、紅音也だ。
 井上キャラの凝縮版ともいえる濃いキャラだったが、これが他の脚本家の手によりイメージがすりかえられる事がなかったのは、評価したいところだ。
 相変わらずのトンデモキャラだが、逆に彼の特性を知った上で見ていると、これはこれで充分ありだ。
 前作の「仮面ライダーキバ」のイメージを継承しつつ、今回は思いっきり悪役に回っているというアレンジも実に面白く、それなのに違和感が少ないのも笑える。
 個人的には、後編で士に迫られた時のとぼけた表情など、細かな仕草が実にラブリーでとても好印象だった。
 でも、やっぱり「貴様……何者だ?」って台詞は違和感あったなと。
 せめて「貴様、何様のつもりだ?」くらいにまからなかったのかな。
 それでもなんだか変だけど。

 蛇足だが、今回少しおかしな髪型だった音也、実はアレはカツラだったそうで、その下は別な仕事の都合上丸坊主だったとか。

 次は、いよいよ海東の出身世界を訪ねる「ディエンド編」。
 劇場版「仮面ライダー剣」の新世代ライダー達が、オリジナル役者で復活という点で大きな注目を集めたエピソードで、こちらもオリジナル版と同様、井上氏が脚本を担当することになった。

 ――けど、きつかったね、ウン。

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