もうはまだなり、まだはもうなり

柏木悠里

更新日:2007年9月5日

 こんにちは、お久しぶりの柏木です。
 
 私、最近、ちょっとしたきっかけで、株だの何だのを囓るようになりました。
 そこで知ったのが、タイトルの「もうはまだなり、まだはもうなり」という言葉。
 株の売買をやっている人なら、たいがい一度は口ずさむと言われている、超有名な格言だそうです。

 「もう」株価は下がりきったと思った時には、「まだ」下がるかもと考えよ。
 「まだ」株価は下がると思った時には、「もう」これ以上下がらないと思って反省を。

 言葉の意味はこんな感じでしょうか。
 株に全く興味が無いという人の為に、もう少し詳しく説明しますと、株は、いわゆる“変動相場”なので、株式市場が開いていれば、誰かが買ったり売ったりする度に、価格が上がったり下がったりします。
 その辺の流れを語るのが本題では無いので、どういう仕組みでとか、そういった事は省略しますが、株を買う人と言うのは、普通、値上がりを期待して買っている訳ですよ。
 まあ、株主優待(その会社の製品がもらえたり、金券がもらえたり、割引制度が利用できたり……などの株主向けの特典の事)目当てで、あまり価格の上下を気にしない人や、その企業を応援する為(もしくは株主総会で意見を言う為)とか、他の目的で買う人も割といますが、大多数の人は、儲けを期待してやっているんじゃないかと。
 当たり前ですが、安い時に買って、高い時に売れば利益が出るからですね。

 ……とはいえ、そう簡単に事が運べば、株で人生を台無しにする人など居ないのでありまして。
 
 株価の変動というのは、様々な要素が絡む為、どんなに頑張って分析しても、自分が買った会社の株価が上がるかどうかは、神のみぞ知る……でして。
 アナリストとか何とかな肩書きの方は、「ある程度の動きはなんちゃらかんちゃら指標で予測がつきます」とかおっしゃられておりますが、たとえ、そこは予測通りに行ったとしても、その会社が予想外の不祥事を起こしたりしたら、株価は確実に大暴落します。

 結局、予測は予測、予知では無いという事です。
 そういえば、本気なのかネタなのかは分かりませんが、海外には株価予想をする為にエスパーを雇っている証券会社があるらしいと聞いた事もあります。
 占い師が居るという話はよく聞きますが、エスパーか……。

 さて、そんな専門家を雇えない大多数の人の場合、買う時には↓
 「『もう』これ以上この株値段下がらないよ。底値に違いない。後は上がるだけだね!」と思って買ったら、「へっへっへっ、『まだ』まだ下がりまっせ、ダンナ〜」となって一泣き。
 「こ、今度は慎重に行こう。この会社の株(銘柄と言います。以降、銘柄)は、『まだ』下がるだろうから、もっと下がってから買おう。底値待ちだ」と待っていたら、「『もう』下がらないもんね。こないだのCMの評判良くて、株価ウナギ登りだもんね」などとなって、もはや手の届かない金額になり、「ああっ、あの時買っておけば!」となって二泣き。

 さらに、買った銘柄が値下がりし続けている場合、たとえ買った時より安い値段でしか売れなくても、リスク回避の為に、あえて売ってしまう事があります。
 100円で買った銘柄が80円の時に売れば損失は20円で済みますが、50円になってしまったら50円のマイナス、25円になってしまったら、75円のマイナス……となるからです。
 50円、75円程度でガタガタ言うなんて、度胸が足りない! と感じる方もいらっしゃるでしょうが、そこはそれ。
 先述の優待目当てやら何やらで、ちょびっとずつしか買わない人達を別として、株で真剣に儲けようとしている人達は、最低でも1000株……いや、もっともっと、とにかく大量に株を買っている事が多いのです。
 ちょっとの値上がりでも、×持ち株数の利益〜♪ などと思って買った株。
 逆もまた真なりで、ちょっとの値下がりでも、×持ち株数の損失……になってしまう訳ですね。
 なので、頃合いを見て損を切らないといけません。
 こういった損を切る方法を「足切り」と言います。

 しかし、ちょっと慣れた人であっても、「足切り」の時には↓
 「『もう』下がりきった気がするんだよな〜。これ以下にはならないよな〜」と足切りをせずにいたら、「いやんばかん『まだ』下がるわよォ〜」とばかりに下落して一泣き。
 「フッ、こないだで懲りたから、今度は『まだ』下がりそうな、この銘柄は売るぜ! 俺ってクール!」と足切りを敢行した途端、「ウフフ。アタシ、『もう』下がる気は無いの。後は上がるだけよ」となって地団駄踏みつつ二泣き。

 このように、株で泣いた時、哀愁と共に呟くのが、「もうはまだなり、まだはもうなり」です。

 ……なんてね。

 確かに、「結局どっちやねん」というような格言なので、皮肉にも聞こえますから、実際に上記のような状況で口にした方もいらっしゃるでしょうが……。

 本来の、「もうはまだなり、まだはもうなり」とは、「こうなりがちだから、株の売買をする時は、タイミングを見計らって慎重に熟考を」という戒めだそうで。

 さてさて、そう言われると、ちょっと諦観を含んでいるかのようなこの言葉。
 元々、相場格言(株も小豆とかと同じく相場でございます)として知ったので、株取引を例に書いてきましたが、なんだかんだで、様々な物事に当てはまるのでは、と思う次第。

 たとえば、株以外の買い物だって、「売る時に値上がり」という要素こそ無いものの、似たような事はありそうな。
 「夏物大処分セールかぁ。『もう』これ以下の値段にはならないよね、買い!」と思って買ったら、次の週から半期決算セールが始まって、『まだ』下がっていたり。
 逆に、「どうせ、売れ残って『まだ』値段下がるわよ。その時買おう」と待っていたら、売り切れて『もう』買えなくなったり。

 また、転職などでも、近しい事がありそうです。
 「この会社、『もう』転職した方がいいよな。そうしよう」と決断したはいいものの、「いや、あなた程度の経験年数では、『まだ』ウチではちょっと……」と言われたり。
 「いずれ違う会社で働きたいけど、『まだ』転職はいいや」とダラダラしてたら、いざ転職活動という時には、「いや、あなたの年齢では、『もう』ウチではちょっと……」という事も有り得る訳で。

 それから、アボカドの食べ頃でも(いきなり些末な事になったな)。
 「もう」熟したと思ってたら、「まだ」固かった〜! となる事もあれば、「まだ」固いよね、と思っていたのに、「もう」食べ頃は過ぎていた……とか。

 はたまた、目玉焼きの焼き加減(ますます些末に)。
 「ああっ、何故『もう』少し早く火を止めなかったのか!」と、慌てて火を止めたら、「はっ、そう見えただけで、『まだ』好みの固さじゃない!」とか。
 「『まだ』火を止めるの早いかな〜」と思っていたら、「ああっ、『もう』黄身がガチガチだ!」と……アレ?

 あ、目玉焼きの焼き加減なら、後者はどうしょうもないとしても、前者はもう少し焼けばいいだけですね。
 これはどっちかというと、「過ぎたるは及ばざるが如し」がふさわしかったか!
 
 え? アボカドも固い方はどうにかなるんじゃないかって?
 いやあ、切っちゃった後の果物を追熟(収穫後に、時間を置いて熟した状態にする事)させるのは無理ですよ。
 切り口から悪くなっていってしまいますから。

 それはさておき、「まだはもうなり、もうはまだなり」。
 “ベストなタイミングを見計らう為に、熟考せよ”という事を端的に表している、いい言葉だと思います。

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