仮面ライダーカブトの頭突き第九回 「パワーアップの考察」

後藤夕貴

更新日:2007年1月3日

 仮面ライダーカブトは、ハイパーゼクターの力で「ハイパーキャストオフ」して、カブト・ハイパーフォーム(以下ハイパーカブトと表記)になる。
 それによりクロックアップ以上の高速移動が可能となる上、時間逆行まで出来てしまう「ハイパークロックアップ」が実行可能となる。
 さらにパーフェクトゼクターという剣と銃になる必殺武器を使い、「マキシマム・ハイパータイフーン&サイクロン」でワーム達をなぎ払う。
 加えて、「マキシマム・ライダーパワー」とライダーキックを併用し、「ハイパーライダーキック(通称ハイパーキック)」を繰り出す事が出来るようになる。
 さらにハイパーゼクターの能力を使いこなすと、過去の世界にまで移動できるようになる。
 まさに無敵、なんでもありという凄い性能に至ったカブトだが…

 世間では「ここまで強化する必要があったのだろうか?」という疑問の声も出ていた。

 元々カブトは、「仮面ライダーカブト」という世界観の中では無双の強さを誇ってきた。
 一時的な敗退はあっても、絶対的なピンチ(外的要素に頼らなければならないような事態)には至っておらず、また敵ワームの強さもあまり大した事がない(ようにしか見えない)ため、そのままでも充分戦い続けられるだろうとしか思えなかった。
 加えて、ガタックとの共闘も成立しているため、益々ピンチになる機会が減っていった。

 だが様々な事情(笑)で、やはりカブトはパワーアップさせられてしまった。
 特にピンチらしいピンチ描写もなく、必然性もなく。
 突然現れたパワーアップアイテムを次々に手にして、無意味とも取られかねない強化を、よりによって二段階も行った。
 特に武器・パーフェクトゼクターを手にした時は、あまりの適当な扱いにかなりの批判意見が飛び交った。
 その後、時間停止能力を持つワーム、乃木ことカッシスワームが出現したことでハイパーカブトにようやくピンチが訪れたが、次の週にはハイパーシューティングであっさり対応してしまい、危機感らしい危機感を感じさせる事はまったくなかった。

 というわけで、今回は「主役ライダーのパワーアップのあり方」について、カブトを中心に過去シリーズを振り返りながら考えてみたい。

●なぜパワーアップが必要なのか

 ハイパーカブト出現の情報が出回り始めた頃から、ファンの間では「カブトのパワーアップの必要性」についての議論・疑問が唱えられていた。
 しかし同時に、これは番組開始前から充分予想出来た事でもあり、結局は「販促に結びつける要素だから避けて通れないもの」である事も広く理解されていた。

 番組後半の主人公ライダーパワーアップは、平成ライダーシリーズ一作目「仮面ライダークウガ」の頃からの伝統のようなもの。
 また、中盤からの主役のパワーアップは、ライダーシリーズに限らず多くの作品で行われている事だ。
 そしてそのほとんどが、玩具スポンサー側からの要請によって組み込まれる。

 特撮やアニメ番組は商品販促番組でもあるわけだから、これは仕方ないだろう。
 中には、随分無茶なパワーアップ要素を「負荷」されて破綻を来してしまったり、逆に巧く処理して話を盛り上げる事に成功した例も多々あるが、大概において、このパワーアップ要素の付加要請は製作スタッフを悩ませるものらしい。

 とりあえず、ここではハイパーカブトの「パワーアップの必然性」の是非は置いておこう。

 ただ、平成ライダーにおけるパワーアップ描写が過去どのように行われてきたか、そしてそれらはきちんと物語に融合していたかは、検討してみる価値があるだろう。
 その結果、カブトのストーリーベースにおける「パワーアップの必然性の根源」みたいなものがわかるかもしれない。

●パワーアップの系譜

 まず、「仮面ライダークウガ」。

 クウガは元々複数のライダーが登場する番組を希望していたバンダイの要請に反した代わりに、フォームチェンジという概念を組み込んだそうだが、その描写はとても秀逸だった。
 グロンギ怪人の性質に適したフォームを選択して戦い、さらに強い「ゴ」の者達が現れてからは、さらなるパワーアップが求められた。
 五代雄介は体内に電気の力を取り入れる事によって「ライジングフォーム」を手に入れ、30秒間だけ(後にこれを克服して永続的に)特殊強化形態になれる術を身に着けた。
 従来のマイティ(赤)・ドラゴン(青)・ペガサス(緑)・タイタン(紫)各フォームのデザインが微妙に変わり、攻撃能力や特殊性能は格段に上昇した。

 さらに上位強化変身として「アメイジングマイティフォーム(黒と金)」「アルティメットフォーム(黒)」という形態があり、一部では「ライジングフォーム他はアルティメットフォームの能力の部分具現化による一部強化の結果に過ぎなかったのではないか」と考察するファンも居た(個人的にはこの意見に大変同意)。

 クウガのパワーアップ及び能力変化の様子・行程は、平成ライダーシリーズ中最も緻密に描かれていて大変興味深く、素晴らしい効果を発揮していた。
 しかし反面、早くもきしみが見え始めてもおり、いくつかの疑問点も露見していた。

 まず最初に指摘されたのが、「各ライジングフォームの露出頻度」の極端な低さ
 ライジングフォームの能力を手に入れた時点で、製作側はライジング4形態だけでなく従来の4(或いはグローイングを含めた5)形態もきっちり登場させようと試みていたようだ。
 つまり「パワーアップしたからといって、パワーアップ前の能力をおろそかにしない」という、本来ならとても良いスタンスだ。
 ところが、この時点でのクウガは毎回の戦闘シーンの尺が異常に短くなっており、時には必殺技一発放って終わりというケースも多発していた。
 これはひとえに、クウガという番組が主人公の五代や一条薫だけでなく、それを取り巻く人々の個別ドラマまできっちり丁寧に描こうとし始めた事による弊害だった。
 ドラマパートが増え、そちらにウェイトが置かれれば、必然的に戦闘シーンは短くなる。
 結果、ライジングドラゴンはたった二回のみの登場(しかもまともに戦闘をしたのは一回だけ)、アメイジングマイティは一回だけゴ・カドル・バと善戦した後、番組内で描かれていない部分でン・ダグバ・ゼバと戦闘・敗退してしまい、それをオープニング前のアバンで少し匂わせただけで出番終了となった。
 最終形態アルティメットフォームに至っては、なんと最終回前の48話にて実質的な初登場(それまでは五代の抱くイメージビジュアルとして露出していた)で、しかもその活躍時間はたった2分程度だった。
 加えて、アルティメットフォームはダグバとの決着をまともに着けてすらいない。
 せっかく登場したにも関わらず、ただ雪原でダグバと殴り合っているだけだ(しかも双方途中で変身が解ける)。
 このように、ある意味ではシリーズ最悪のパワーアップ描写になってしまった。

 この「アルティメットフォーム登場遅延」については様々な説があるが、現在は「五代雄介の暴走によって発動するアルティメットフォームの情報が事前に公式で流れてしまったため、製作側がこれをわざと捻じ曲げ、本来アルティメットが登場する部分にでっち上げのアメイジングマイティフォームをぶつけ、五代暴走によるアルティメット化の描写を覆した」というのが定説となっている。
 これだけ書くととても信じられないような事だが、「事前に公式でネタバレされた事」と「アメイジングマイティがでっち上げだった事」「アルティメットが意図的に登場を遅らされた事」については、それぞれに明確なソースが存在していたりする。
 ネタバレは当時の某誌インタビューで、オフレコとされていた発言をうっかり掲載してしまったというもの。
 アメイジングとアルティメットに関しては、玩具商品・装着変身「仮面ライダークウガ・アルティメットフォーム」の商品内容(アメイジングと戦ったゴ・ガドル・バ人形が同梱)と、パッケージのコピー

“最強にして最悪の正義をその身にまとえ!”
“心清き戦士力を極めて戦い邪悪を葬る時 汝の身も邪悪に染まりて永劫の闇に消えん”
“ゴ集団最強の怪人「ゴ・ガドル・バ」をクウガと同スケールで再現! 劇中シーンが君の前に!!

と、当時の児童誌上でのアルティメツト登場発表(その号で発表されたネタバレは、必ずその発行月内に登場する法則)の掛け合わせから判断できる。
 少なくとも、バンダイ側と製作側とでアルティメットを登場させるタイミングについての見込みが異なっていたのは事実だろう。

 現在でも色々議論されている事だが、クウガ終盤はかなり内容が煩雑化しており、「描かなければならない描写」と「描きたい描写」の区分の不徹底、主人公・五代雄介の異常なまでの持ち上げ(ある意味神格化とも言えるレベル)、「戦闘の否定」というテーマの(こんなタイミングで行う)表現がぐちゃぐちゃに入り混じっていた。
 そのため、各所に悪影響がにじみ出ており、戦闘シーン内に突然榎田親子の抱擁シーンが何度も挿入されてどちらもふつ切りになったり、突然異質なシーンが割り込んで来たりと不可解極まりない流れに至った。
 その影響で、「本来もっとも露出に力を入れなければならなかった物」はどんどん二の次に扱われ、最終的には五代雄介そのものの存在がヒーローであるクウガの存在感を塗り潰してしまうという異常事態に陥った。
 結果的に、これは熱狂的なクウガファンからは絶賛されたが、純粋にヒーロー番組として観ていたファンは大きく反発。
 このように、とても疑問点の多い内容にまとまってしまった。

 その影響で、「仮面ライダークウガ」はもっともパワーアップを巧く取り扱える作品になりえたにも関わらず、思わぬ方向からの抑制によってその可能性を潰された哀れな作品となってしまった。

 蛇足だが、バイクの強化形態「ライジングビートゴウラム」の露出はアルティメットフォームを上回る悲惨さで、本当にたった一回きり(それもほんのちょっと走るだけ)の登場にされてしまった。
 しかも、「DXライジングビートゴウラムセット」に同梱されていた「ゴウラム・エンシェントバージョン(灰紫色に変色したゴウラム)」は画面内で活躍すらせず、ライジング化の影響で変色したのではと榎田達に分析されただけで片付けられてしまい、以降本編に登場すらしなくなった。
 思えば、平成ライダーシリーズの悪癖とも言える「一回出したんだからもういいでしょ」的な要素は、ここから生まれていたのかもしれない。

 続く「仮面ライダーアギト」では、主人公アギトに全6形態のフォームを与え、さらにG3には上位機種であるG3-Xを絡め、ギルスにはエクシードギルスという強化形態を与えた。
 今のところ、本編のメインクラスライダー全員に明確なパワーアップ形態が存在するのは本作だけだ(「仮面ライダー龍騎」については意見が分かれるところだが、一応ゾルダもメインの一人として扱われているようなので除外する)。
 しかも、一応全員がそれぞれ異なる理由と要因で強化形態を手にしており、はっきりとした区別が付きとても巧く活かされていた。

 アギトは、クウガの応用により3つのフォーム(グランド・フレイム・ストーム)が与えられ、さらに隠しフォームとしてトリニティフォーム(グランドをメインに、右腕がフレイム、左腕がストームという形態)が存在した。
 さらに、変身者・津上翔一(本名沢木哲也)がアギトとして戦う決意をあらためて固めた事で、バーニングフォームという最強形態(の一歩手前)を得る。
 後に、太陽の光を浴びることでシャイニングフォームという更なる形態になる力を得て、最終的にこれが戦いの決着を着けることになる。

 バーニングとシャイニングの専用武器として「シャイニングカリバー」という物が出て来たが、これは変身には関係せず、ストームハルバードやフレイムセイバーの延長として登場している。
 バーニングとシャイニングで形態が変わり、それに伴って形態と使い方が変わるという面白いものだった。
 ただ、これ自体は各フォームの能力強化やアピールにはほとんど繋がっておらず、一応これを用いた必殺技はあるものの、とどめの一撃と言える技は「バーニングパンチ」「シャイニングライダーキック」など肉体だけで繰り出すものばかりだった。

 この時点で注目すべきなのは、クウガのように既存の装備に何かを合体させるだけではなく、「強化フォーム専用のオリジナル形状武器が初登場した」という部分だろうか。
 これについては、G3-XにもGX-05という新武器を装備させる形で対応されている。
 本来玩具製品化を見込まれていなかったというギルスのみ、オミットされているのは寂しい気がするが。

 これら各フォームの登場と能力描写は、それぞれ一話以上割かれており、結構しっかりと進化経緯と能力描写を行っている。
 真魚の弁当食べてパワーアップしたようにしか見えないと言われたバーニングと、翔一の記憶回復の間だけ変身できたトリニティは、さすがに唐突感があるが。

 特に、関連商品やデザインを見ただけではあまり明確な判別が付かないバーニングとシャイニングに、これ以上ないほどハッキリとした能力差を描いた点は高評価に値するだろう。
 とてつもなく強力で大迫力なパンチを打ち放つバーニングと、空中にアギトの紋章を描きながらライダーキックを繰り出すシャイニングのインパクトは強烈で、特に後者は、劇場版で初披露した際新バージョンの主題歌をバックに繰り出しており、後の「ファイズ・アクセルフォーム」によるキックの嵐に匹敵するようなインパクトを与えた(しかも、TV版最終回では紋章を二段階に繰り出し、さらにファンを驚かせた)。

 ただ残念なのは、バーニングとシャイニング、グランド他2形態間の能力関連性が希薄で、パワーアップというよりは「まったくの別物」に変わってしまったようにも見える点と、バーニングとシャイニングの能力区別が「攻撃手段の違い」でしかないようにも感じられた点だ。
 これらは、現在の評価眼ではさほど問題には思えないが、当時はまだ「仮面ライダークウガの秀逸なフォームチェンジ」のイメージの延長線上で見られていたので、現在とは若干評価基準が異なっていたのだ。

 ちなみに、よく言われるフレイムフォームの超感覚やストームフォームの敏捷性についても劇中ではほとんど明確な描写がされておらず、本当にメイン設定として取り扱う気があったのか疑問だという意見もある。
 唯一、ビルに飛び上がるために最初からストームフォームに変身する回があるが、この時の脚本はゲストライターの小林靖子氏であり(氏は元来オフィシャル設定を重視する傾向が強い)、メインライターの井上敏樹氏等とは多少異なる演出方針を用いた可能性が高い。
 同じように、ギルスレイダーが生物マシンだという設定を強調した事もある。
 また、当時のメディア媒体によってはストームが超感覚、フレイムが怪力と記されていたものもあり、実は結構いい加減だったりする
(平成ライダーシリーズの公式設定はあまり信用ならないという定説が生まれたのも、このアギトからだった)

 その他、G3の能力不足を補い様々な機能を導入された新システムという触れ込みで登場したG3-Xは純粋な「機種変更」で、ある意味もっともわかり易く説得力の高いパワーアップだった。
 しかも、ただそれを装備すれば良いという事にはならず、「結局は搭乗者・氷川誠自身が成長しなければならない」という付加設定を与えたのも巧かった。
 いわばG3シリーズは、パワーアップ要素を先に与えられてから後天的強化を促されるという変わった進化を遂げた事になる。
 最終対決では、アギトやギルスに匹敵するほどの大活躍をするほどにまでなり、ファンを驚かせたものだ。

 不完全なアギトの能力に身体を蝕まれ一度は死んだものの、風谷真魚の超能力で復活し、あらたなアギトの力でエクシード化したギルスというのも、実にわかりやすいパワーアップ展開だった。
 一部演出的に唐突感の否めない所もあったが、比較的しっかり話数を割いて強化への経緯を描写しており、それなりに強いカタルシスを与えてくれた。

 ストーリー的には疑問点が多く納得のいかない展開も多かった「仮面ライダーアギト」だが、改めて見直してみると、ヒーロー物としては実に順当な描写を行っており、説得力もかなりのものになっている。
 無論、随所に「クウガの反省」が活かされているのも見逃せない点で、これは第一話でのアギトのライダーキックシーン(クウガでは絶対にやらなかったテーマ曲+ハッタリ動作てんこ盛りのアクション演出)や、比較的早いパワーアップ形態の登場等に見て取れる。

 「パワーアップするからには、それなりのリスクと段階を描く必要がある」という点をしっかり踏まえようとしていた点が、アギトとクウガの美点だったと言えるだろう。

 だがこれ以降のシリーズは、パワーアップ形態の描写が若干性質を変えてくる。
 身体能力の変化による強化ではなく、「外的要素付加による強化」に特化したためだ。

 「仮面ライダー龍騎」以降、シリーズ中身体能力だけで強化形態に至ったのは「仮面ライダー響鬼」の響鬼紅だけであり、それ以外はすべて何かしらのアイテムに頼っている。
 これは恐らく、バンダイがこの時点で「強化変身の“理由”も商品化できる(或いはするべき)」と判断したからではないだろうか。
 クウガ・アギトで強化変身を表現するアイテムの単独販売がなかった事も、それを裏付けるポイントとなるだろう。
(クウガのライジングセットは各種武器とベルトに取り付ける金色の外殻パーツのみ、アギトはDXシャイニングカリバーに付属したベルト強化パーツのみ)

 というわけで、以降の考察は商品展開を主体とした分析になる事を、予め述べておく。

 シリーズ三作目「仮面ライダー龍騎」での強化変身要因は「サバイブカード」と呼ばれる小さなもので、これはライダーバトル主催者・神崎士郎が戦いを発展させるために城戸真司(仮面ライダー龍騎)と手塚海之(仮面ライダーライア)へ与えた。
 しかし、後に手塚のカードは秋山蓮(仮面ライダーナイト)に渡り、ナイトサバイブ化の要因となる(真司はそのままカードを使用し、龍騎サバイブに進化)。
 サバイブカードは、二段変身のキーアイテムとして使用され、それぞれがライダーに変身した後、各バイザーに装填する事で姿を変えるが、サバイブカードを差し込む時点で先にバイザーが変化している。
 これは、実質的な変身キーがカードという「単品商品としては弱い媒体」であったための処置と考えられる。
 商品展開的には、進化したバイザー(ドラグバイザーツヴァイ&ダークバイザーツヴァイ)自体が変身キーアイテムという扱いなのだろう。
 そのため、サバイブ化を表現する音声・ギミック等はすべて各サバイブ用バイザーに集約している。
 この辺は、「ストーリー上の都合」と「商品展開上の都合」の擦り合わせによる結果なのではないだろうか。

 本編内容としては、サバイブカードの登場がいささか唐突すぎた感があり、「進行の遅いライダーバトルをたきつけるため」という苦しい言い訳が提示されていたが、これは神崎士郎という“劇中では災厄の中枢に位置する存在”からしか強化アイテムが得られないという本作独特の縛りが招いた苦しい結果なのではないかと筆者は考える。
 とはいえ、もし神崎士郎以外の存在から龍騎とナイトの強化アイテムが得られる展開になっていたとしたら、それはそれで不満の多い内容になっていたのではないだろうか? とも想像するが。

 「仮面ライダー555」の強化アイテム・追加武装は、いずれもかなり特殊な登場をしている。
 「仮面ライダー龍騎」同様、各ライダーの装備一式がすべて「スマートブレイン」という敵寄りの会社組織から供給されているためで、本編内では「スマートブレインの力を部分的に行使できる別の存在(前社長・花形)」という存在を設け、一部装備の横流しを行っていた。
 これはかなり異質ではあるが、ある意味説得力のある設定描写で、龍騎時の「アイテム供給源の一点化」を反省した結果なのではないかと分析できる。

 しかし、その供給方法が

「宅配便で輸送されてくる」
「天井裏からいきなり落ちてくる」
「身内がいつの間にか入手していたものを譲られた」

という突飛過ぎるものばかりで、これは未だに物議をかもしている。

 中には、ジェットスライガーのように「相手のマシン召喚コードを盗み聞きして自分も召喚した」という面白いアイデアによる入手法もあったのに…。

 本作の主役ライダー・ファイズの強化アイテムは二種類あり、ここから「クウガ・アギト系列とは異なるフォームチェンジ」の流れが生まれた点は見逃せない。
 つまり「強化変身に用いるアイテムの使い分けで複数のパワーアップを行う」というものだ。
 これにより、ファイズは「アクセルフォーム(超加速形態・ファイズアクセルを使用)」と「ブラスターフォーム(最強形態・ファイズブラスターを使用)」という二種類の能力を得た。
 また、ファイズだけが新形態を持っているという理屈も、ファイズギアシステムが一番最後に開発され、安定性と拡張性を重視されたという設定を用いる事で回避している(勿論劇中では明確にされていない設定ではあるが)。

 しかし、その代償として他ライダー・カイザやデルタとの能力差や個性主張度合いがどんどん開いていくという難点を生み出してしまった事も、注目すべきだろう。
 これは三年後の作品「仮面ライダーカブト」に至ってもまだ充分に解決されていない問題で、かなり根深いもののようだ。

 もう一つ、本作は「どの形態が最強なのか」という印象操作を充分に行えなかったという問題も発生させた。

 (主観的か客観的かイマイチ不明瞭だが)10秒間超加速を行い、圧倒的な手数で相手を殲滅するファイズ・アクセルフォームの方が、本来最強形態である筈のブラスターフォームより強く思えてしまうのだ。
 これは、ブラスターフォームに超加速能力がない事と、「一撃必殺」系能力のみを付加してしまった事による悪影響だ。
 いくら一発の攻撃がメチャクチャ強くても当たらなければ無意味なわけで、それなら自分より鈍速の敵に何十発もの攻撃を一度に加えられる方が説得力がある。
 また、アクセルフォームは「本来一画面内に一つしか存在しえない筈のライダーキック(劇中正式名称はクリムゾンスマッシュ)を同時に何発も出現させる」という、仮面ライダーシリーズの常識を覆す驚異的なビジュアルを作り上げてしまい、もはや払拭しようのないインパクトを作り出したのだ。

 さらに、ブラスターフォーム自体「本編内でほとんど登場する意味がなかった」という難点が目立ったため、益々インパクトが弱まったのも痛かった。
 ブラスターフォームが戦闘で存分に能力を振るったのはオクラオルフェノク戦のたった一回のみで、それ以降は装備や必殺技を使用する事はあっても、やはりアクセルフォームを超えるようなものにはなりえなかった。
 新装備・ファイズブラスターのフォトンブレイカー(剣)モードも、唯一の見せ場は「オルフェノクごと止まってる電車を切り裂いた」だけという情けないものだった。
 これは、「仮面ライダー555」という作品の全体尺の関係でブラスターフォーム描写に割く時間が足りなかったのでは、という説も囁かれたが、実状は定かではない。

 ただ本作は、複数のパワーアップアイテムを用いる事が必ずしも良い結果に繋がるとは限らないという、一つの教訓を生み出したという点で評価できる。
 ファイズブラスターは、強化変身と新武器というおいしい所取りをしようとして、逆にずっこけたわけだ。

 これ以降、一人のライダーに対して複数の強化変身アイテムが与えられる事はなくなっていく。

 「仮面ライダー剣」では、仮面ライダーブレイドとギャレンがラウズアブゾーバー(これは二個存在する)というアイテムを使用して「ジャックフォーム」に強化変身する。
 しかし、ブレイドのみ同じアイテムでさらに「キングフォーム」という最強形態に至る事ができるようになった。

 商品展開的に見る限り、これは明らかにファイズアクセルとファイズブラスターの反省点を活かしたものだ。
 形態ごとに複数の変身アイテムを付加するのではなく、「一つのアイテムに挿入するカードのタイプで形態が変化する」という、ある意味オーソドックスなスタイルを選択したわけだ。
 ラウズアブゾーバーは、カテゴリークイーンのカード(アブゾーブ)を挿入した上でジャックのカード(フュージョン)をスラッシュ(ラウズ)すると「ジャックフォーム」に、キングのカード(エヴォリューション)をスラッシュすると「キングフォーム」にチェンジさせる能力を発揮するが、一応理屈上はすべてのライダー(カリスについては不明)が利用できるらしく、その能力付加による影響の有無等は、ライダーシステム使用者のアンデッド融合係数の大小に関係するらしい。
 なお、ジャックフォームになれるギャレンは、最期にダイヤのキングを封印したためにキングフォーム化を試す機会を得られず、レンゲルはキングフォーム化を行ったところ、なんと睦月の姿に戻ってしまうという予想外の結果を引き起こした。
 尤も、これは嶋=タランチュラアンデッドと光=タイガーアンデッドの思惑による結果らしかったが。

 強化変身担当部位が分離した代わりに、新カテゴリとして「新必殺技を使える大型武器」を設定、「重醒剣キングラウザー」を登場させた。

 ブレイドは、「仮面ライダー龍騎」で言う所のドラグバイザーとドラグセイバーを合成させたような位置付けの装備「醒剣ブレイラウザー」を使用していた。
 キングラウザーはいわばこれのグレードアップアイテム的存在で(ただしブレイラウザーとは別個体)、新規装備としては比較的ストレートに認知された。
 また演出的にも、二回に渡る強化変身とアイテム登場のエピソードを切り分ける事が可能になり、それぞれの描写に尺を割けるようになった。
 加えて、本来のパワーアップアイテムである「カテゴリージャック〜キング」のカードを巡る展開はそれらとは別に並行させる事も可能になり、ここで「販促用エピソードと物語進行エピソードの理想的な両立」が行える“素地”が出来た(これが目論み通り行われたかどうかは、また別問題である事に注意)。

 「仮面ライダー剣」という作品内では、キングフォームへの強化変身のリスクを強調し、ストーリーと複雑に絡める事で「アイテムを得る事が必ずしも有利になるとは限らない」という独特の展開に至り、強くなる代わりにブレイド(as剣崎一真)の存在そのものが危ぶまれるという悲壮感を強める流れを作り出した。
 その影響か、キングフォームは「戦闘能力以外の部分でも」ファンに強いインパクトを与える事になり、見事、最終展開の伏線の一部として消化させる事に成功した(同時に、本編内で数少ない成功要素でもあった)。
 またキングラウザー自体、そのインパクトありまくりの造形と大きさで印象強化を図り、また劇中での巧い使い方(ロイヤルストレートフラッシュの各バリエーション描写や、睦月に使用させるという反則?技等)で、高評価を得る事にも成功した。

 ところが、やはり問題も生じていた。
 今度はキングフォームのインパクトが大きすぎて、前段階のジャックフォームの位置付けが希薄になりすぎてしまった。

 ジャックフォームは、キングフォームと異なりライダー自体のデザインは元とさほど変わらず、一見ただ羽が生えただけに見えてしまう(実際は胸の形状等も大きく変わってはいるが)。
 その上、中途半端に混入した金色のパーツが充分な「変化の印象」を引き出すに至れなかった。
 また、本編内での使われ方も疑問の多いもので、特に初登場がギャグ編の蛇足として扱われてしまったギャレン・ジャックフォームは、目立った活躍もろくに出来ず悲惨極まりなかった。
 実際は、それぞれのジャックカードを入手するまでにそれなりのエピソードを積み重ねており、また他ライダーとの交流という嬉しい描写があったにも関わらず、この結果だ。

 私見だが、このジャックフォームの扱われ方とその人気度合いから、スポンサーが「中間強化形態」の存在を疑問視し始めたような兆候が見受けられたようにも思える。
 無論、この後の作品にも一度だけ中間強化形態が出てくるので、あくまで想像に過ぎないのだが…

●奇妙な「響鬼紅」の存在

 次の「仮面ライダー響鬼」だが、これについては判断が難しい。

 先の通り、中間パワーアップ形態の「響鬼紅(クレナイ)」はアギト以来の無アイテム変身で、変身者ヒビキが夏に出現する特殊な魔化魍と戦うために「鍛え直して」(再度)身に付けた能力という設定だった。
 響鬼紅は、2006年現在唯一の「色以外形状無変化の強化形態」で、言うまでもなく特殊な新アイテムなども使用していない。
 劇中での活躍や描写の違いを除けば“単なる響鬼のリペイント”に過ぎず、商品的・デザイン的にはあまり魅力のあるものではなかった。
 かといって、次の強化形態「装甲響鬼」の前段階形態として機能しているわけでもなく(正確には、装甲響鬼になる直前に一時的に響鬼紅の姿になっているが)、大変変わった存在となっていた。

 これに対して、最終強化形態の「装甲響鬼(アームドヒビキ)」は「装甲声刃(アームドセイバー)」という変身アイテム兼最強武器を用いていた。
 装甲声刃に自分の声を吹き込んで変身するというプロセスに加え、さらに音声を「音撃化」させて武器にするというコンセプトで、グリップ付近にはマイクとスピーカーが付いていた。
 また、簡素ではあるが別装備「ディスクアニマル」シリーズとのコラボレーションギミックも設けられていた。
 尤も、劇中ではほとんど用いられなかったが。

 お気づきの通り、ここでいきなり「パワーアップ要素」が先祖返りを起こしている。
 強化変身アイテムと新(最終)武器の統合は「仮面ライダー555」以前に、中間パワーアップのシステムはなんと「仮面ライダーアギト」以前に戻ってしまった。
 否、戻る事そのものは決して問題ではない。
 ただ、本編中ではこの「先祖返りを起こした結果」が決して有効に活かされていなかったため、多くのファンに疑問を投げかけた点が奇妙なのだ。

 実は、「仮面ライダー響鬼」の販促展開には様々な説がある。

 当初は響鬼紅の設定は存在せず、これは「夏の太鼓祭り」に絡めるために途中からでっち上げた存在なのではないか(そのため、強化変身アイテムやプロセス等がオミットされている)とか、本当は響鬼からいきなり装甲響鬼という進化プロセスだったのに、何かしらの事情があって響鬼紅を挟まなければならなくなったのではないか(装甲響鬼化までの経過を引き伸ばす必要性が生じた?)とか、様々だ。
 無論、そのどれも決定打に欠ける意見だが、本編内容を見る限り響鬼紅は

  1. 太鼓使いの鬼は夏の魔化魍対策のために鍛え直しに入るのに、紅化(強化)に至ったと触れられているのは響鬼のみ(弾鬼等の他の太鼓使いについては不自然に触れられていない
  2. 夏対策用に、他の武器を使う鬼には新装備(専用の太鼓)が与えられるのに、元々太鼓使いの鬼には一切の追加バックアップがない
    (他の鬼にも太鼓を使わせるのは、売れ行きが悪い「音撃鼓」の販売促進目的なのに、それに関連付けて売り出そうとする新商品の気配が皆無という意味)
  3. 響鬼紅と他の鬼の音撃鼓使用が密接に関わっている反面、その登場期間及び(本編内容的に)必要とされている期間が異常に短い
  4. 装甲響鬼についてはその登場までにいくつもの伏線が提示されていたが(初めてその要素が出た時点では、まだスタッフは入れ替わっていなかった)、響鬼紅についてはそれがまったくなく、また響鬼紅登場に併せて猛士内部や魔化魍の周辺設定等が一部変更されている(或いは、変更されたかのような印象を強く与える)
  5. 響鬼紅の登場が、実質的に「音撃鼓の新しい使い方」程度にしか機能していない
  6. かなり早い時期から企画が進行していた筈の劇場版には、装甲響鬼は出るのに響鬼紅は出てこない
 という奇妙な特徴が多く見られる。
 劇場版云々というのは、「仮面ライダー響鬼と七人の戦鬼」の企画がスタートした2005年3月の時点では、既に装甲響鬼の存在が組み込まれる前提になっていたにも関わらず、TV本編ではそれより前に登場している筈の響鬼紅の存在がまったく無視されているのはおかしいという見方だ。
 ちなみに劇場版では、響鬼は冒頭でオロチと対決しており、ノーマル響鬼のままで戦って敗北している。
 ここでもし響鬼が紅になっていれば(結果的に負けたとしても)それなりに説得力があった筈なのに、それがまったく行われないまま負けてしまったという事は、響鬼紅の存在が考慮されていなかった結果と判断されても仕方ないかもしれない(無論、断定はできないが)。
 言うまでもなく、劇場版の公開時期は紅が出てきてもおかしくない頃でもある。
 必ず紅を出す必要性はないかもしれないが、出てこない理由もないのだ。
 これでは、疑われたとしても不思議ではない。

 響鬼紅というキャラクター自体は決して没個性ではないのだが、「何となく変な」印象を抱かせもする。
 つまり、ファイズ・アクセルフォームやブレイド&ギャレン・ジャックフォーム等と違い、素直なパワーアップor完全新規の戦法を用いるものでもない。
 せっかくの新形態なのに、独自のスタイルが皆無なのだ。

 恐らく、こういった中途半端さも「響鬼紅は後付けなのでは」という印象を抱かせた要因なのかもしれない。
 しかし、実際響鬼紅の関連商品はコンスタントに発売されており、装着変身・仮面ライダー響鬼紅は8月下旬発売で、一応響鬼紅メインの活動期間内ギリギリに発売された。
 またソフビ関連商品もほぼ同時期の発売で、何かの事情で遅延したようには感じられなかった。

 尤も響鬼紅が後付であろうとなかろうと、これがメインの新規商品販促要素になるとは考えられていなかったのではないかと思われる部分も多々ある。
 というのも、これが装甲響鬼になるといきなり「装甲声刃」「アームドディスクアニマル」と二種類も関連新アイテムが登場し、商品化された。
 これまで「仮面ライダー555」「仮面ライダー剣」では中間形態登場時に何かしらのアイテムが登場・発売されていた事を踏まえると、装甲響鬼と響鬼紅の関連アイテムの数差と扱いは大きなものに感じられてくる。
 見方・考え方によってこれほど色々な考察が出来てしまう響鬼紅は、ある意味非常に面白い存在といえるだろう。

 やや脱線するが、響鬼旧スタッフのメインプロデューサーだった高寺氏は、玩具販促に対してかなり強気の反抗精神を持っている事でも有名だ。
 先で挙げた「仮面ライダークウガ」当時のライジングビートゴウラムやアルティメットフォーム登場・露出だけでなく、同じくプロデューサーを務めた「星獣戦隊ギンガマン」ではシリーズ伝統の巨大ロボを出さない方向で内容検討し始め、バンダイからクレームを受けている。
 この時の影響で、ギンガマンでは1号ロボと2号ロボを絡ませるプレイバリューを組み込んだデザインが出来なくなってしまい、1号ロボ・ギンガイオーとの合体機構等をまったく持たない独立したロボットをどんどん追加せざるを得なくなった。
 しかし、その追加ロボット(ギガライノス・ギガフェニックス)が五体分離するというデザインを施されたにも関わらず、ギンガマンはとうとう最後までそれら分離メカに搭乗する事はなく、本編内では無意味にバラバラになっていたメカが勝手に合体するという不可思議なプロセスを見せていた。
 またそれらを収納している大型基地的存在・ギガバイタスは終始野ざらし状態で、とうとう一度もギンガマン達が中に入り込んだり何かを操作したりする事はなかった。
 さらに、クリスマス商戦直前に2号ロボ・ブルタウラスを封印して劇中に登場させなくしたり(正確には12/20放送の42話にて活躍はしているので、ぎりぎり面目は保っているが)、新バイク・ガレオパルサーを特定期間内の必殺技扱い程度にして露出を下げ、さらに新個人武器・新獣撃棒を48話一回きりの登場にしたりと、大変に奇妙な扱いをしまくった。

 これは後に、「高寺氏が目指した作品観に相応しくないと判断した要素の露出を徹底排除しようと試みた結果なのではないか」とファンによって分析されている。
 実際の事情はもちろん明確ではないが、高寺氏が自身の作品に強い思い入れを抱き、またこだわりを込める事は各所で語られているため、恐らくそんなに大きく外れた推測でもないのではないだろうかと感じられる。
(確かに、ギンガマンの世界観でロボットを山ほど出されるという展開には、筆者も大きな違和感を覚えたので、多少高寺氏の気持ちもわからなくはない)

 と、このような性質を持ったプロデューサーの作品であったため、「仮面ライダー響鬼」作中のパワーアップ表現については、他作品とは異なる思惑が働いていたのではないかという予想が浮かんでくる。
 いずれにせよ、ここは「装甲声刃」のみが、そこまでのシリーズ系譜の流れを見る際に必要なアイテムだと解釈するべきではないだろうか。
 そういえば、当初の予定ではアームドディスクアニマルが響鬼にくっつく事で装甲響鬼のアーマー部になる筈だったそうだ。
 劇中でも、そのように感じさせる台詞が登場している。
 しかし、実際は普通のディスクアニマルが無数にやって来て取り付くという奇妙なものになった。
 これは、新スタッフがアームドディスクアニマルの露出と活躍描写を、様々な事情から省いた結果なのではないかという分析もあったりする。
 結局のところ、旧スタッフばかりが悩んだ(笑)訳ではないようだ。

●仮面ライダーカブト

 さて、最後に「仮面ライダーカブト」だ。

 カブトは中間形態がない代わりに「ハイパーゼクター」という強化変身アイテムと、「パーフェクトゼクター」という強化フォーム専用武器を持っている。
 しかも、パーフェクトゼクターは強化変身そのものにはまったく関係してないし、逆にハイパーゼクターは変身だけでなく必殺技の決め手としても用いられるという二面性を持っている。
 過去のシリーズの例で例えるなら、剣のラウズアブゾーバーと555のファイズブラスターを併せ持ち、さらにキングラウザーを与えられているようなものだ。
 ハイパーゼクターは、位置付け的には555のファイズアクセルに似ているように思えるが、ファイズ・アクセルフォームとして特殊付加されるのは「超高速移動能力」だけであり、必殺技そのものはファイズアクセルによる恩恵のものではない。
 実は、装身具型新装備がそれ単体で必殺技または必殺技強化を行使するパターンはこれが初で(ナイトサバイブのダークバイザーツヴァイがこれに近いが、あちらはそれ自体が武器)、過去に例がない。
 大変地味だが、実は新カテゴリーだったりするのだ。

 またハイパーゼクターの玩具は、やや変則的ではあるものの「“クロックアップの音声がない”というDXカブトゼクターの性能問題」を補っているという重要な意味もあり、結果的に同商品との連携プレイバリューも生み出している。
 これは実際に連動させているわけではないのだが、劇中動作を真似ると一通りのプロセスが再現できるようになっている。

 作品的には、もうこれだけあれば充分なのではという気がするのだが、ハイパーカブトにはさらに「パーフェクトゼクター」がある。

 ただこちらは、性能・設定・玩具のプレイバリューを見る限り、商品展開の方を重視した「本当の意味での蛇足」とも受け取れるきらいがある。
 言い換えれば、性能的にはともかく存在意義は「仮面ライダーアギト」のシャイニングカリバーと同格という程度だろう。
 パーフェクトゼクター一つだけでいきなり必殺技の数が10種も増加してしまうわけで、37話の初登場から最終話までの約13回(これを書いている時点で、既に残り4話)中にすべて出し切るというのはあまりにも厳しい条件で、本編製作事情との検討を入念に行った結果導入されたものとはとても思えない。
 (無論、すべての必殺技を登場させるつもりがあるのかどうかという前提があるし、また劇中でもなんとか少しずつ技を登場させる努力をしているようなので、あまり製作側を悪く言うべきではない気もするが…)

 パーフェクトゼクターは、カブトのハイパー化とタイミングをずらして登場してしまったため、これまでのシリーズに見られた「強化変身した結果連動的に入手できる新武器」という枠から外れている。
 また入手経緯も「何の脈絡もなく突然湧いて出た」という不可解なものだった上※、他のライダーの変身能力を強奪して使用するという奇妙な描かれ方をしているため、なんとなくカブト自身との結びつきが薄い武器のような感もある。
 
 こういった点からも、良し悪しはともかくとしてパーフェクトゼクターも新機軸的な位置付けの新装備だったという事になるのではないだろうか。

 なお、パーフェクトゼクターについては「その存在を理解していた天道が自ら未来の世界で開発し、最初に必要となる(本人にとっては既知の)時代に送り込んだ」という考え方も出来る。
 また過去(劇中では現在)の天道は、なんとなくそれを期待してパーフェクトゼクターを手に取った、という解釈もある。
 これを裏付けるために、ハイパーゼクターを入手した際に「そういう事か…」という何かを実感した台詞がある。
 …もっとも、これらが単なる脳内補完的言い訳に過ぎない事は言うまでもない。
 もし、本当にこういうつもりで展開している物語だとしたら、単なる描写不足どころでは済まない粗雑さという事になるだろう。

 ぶっちゃけたところ、パーフェクトゼクターは(企画的にそういった位置付けのアイテムを出す予定があったとしても)かなり強引な押し付けで登場させられたのではないか、と思わず勘ぐりそうになる「無茶感」がある。
 恐らく、こんなもの別になくったって良かっただろうと考える人も多いのではないだろうか。
 事実、先でも述べた通り劇中でもかなり扱いに困っているような雰囲気が漂っていて、いつもの「押し付けられた(と思われる)アイテムについては扱いが妙にぞんざい」というパターンが露見しているように感じられる。
 まあ、もし本当に強引な押し付けによる導入だったらスタッフに同情したくはなるが、だからと言って云々という考えもあるわけで、一概に「仕方ない」の一言では済まされないような気もする。

 でもまあ、少なくともゼクトマイザーの扱いよりはマシだから、まだいいのかな?

●まとめ…というか雑感

 平成ライダーの強化変身に関する各要素は、漠然と見てみるといずれも似通ったもののように思えるが、実際はそれなりに工夫や考慮が施され、或いは先進的な試みが多く加えられている事がわかる。
 単に「強化変身アイテム」と「強化武器」というカテゴリだけで見た場合は大きな変化はないようだが、やはりそれなりに失敗を踏まえた反省やあらたな挑戦が加えられているのではないだろうか。

 ただ、結局の所それを考えたスポンサー・バンダイと、そのアイテムの扱い方を考慮して形にする製作スタッフの間で、多少なりとも温度差が生じているのは、紛れもない事実だ。
 無論、この断定はすべての作品の全アイテムに対して述べられるものではないかもしれないが、少なくとも「仮面ライダー剣」の段階では、バンダイ側の用意した設定を製作現場スタッフが理解しきれず、結果的にラウズカードの能力の表現が手探りになってしまったという証言が存在している。
 これはこのシリーズに限らず、これまでの他作品でも多々あった事だとは思うが、平成ライダー…特にカブト等の一部作品では、その点が妙に目立つ形になって出てきてしまったのが不幸なのかもしれない。
 筆者は、そんな風に感じた。

 ちなみに、強化変身に関連したアイテムの玩具商品の当時の評判は…

 仮面ライダーカブトの「ハイパーゼクター」は、気がついたらあまり店頭では見かけなくなってしまったようだ。
 出荷数調整の賜物だろうか?
 「パーフェクトゼクター」については現状特に話は聞かないが(まだ発売されてからそんなに時間も経ってないし)、代わりに、ザビー・ドレイク・サソードの各ゼクターがさらなる叩き売り対象になるという影響が出てしまったようだ。

 否、正しくはパーフェクトゼクター発売のせいだとは限らないんだけど…なんとも微妙な。

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