セルDVD繁盛事情
本部長
更新日:2006年7月15日
 “好きなものは、集めたい”
 こういった収集意欲は、誰しも普通に持っているものだと思います。
 「コレクター」と呼ばれる方々は、この願望を満たすために、金銭面での箍を外すわけです。
 そのために、時には(常に、か?)生活費を削ってまでお金を工面することになるわけで、この辺りが一般人には超えられない壁なのでしょう。
 逆の見方をすれば、何らかの理由で金銭的な問題が軽減されれば、一般人もコレクターになりうるわけです。
 近年、価格の大幅な低下によって、コレクターを増やしつつある商品があります。
 それが、映画のセルDVDです。

1990年代中頃から発売され、瞬く間にビデオソフトに代わって市場を席巻したDVD。
 ビデオと比べて場所を取らない、劣化しない、と保管、保存面での優位に加え、パソコンやPS2でも再生可能だったのも短期間での普及に一役買ったようです。
 それに伴い、発売当初はおよそ5〜7,000円ほどの価格だった映画ソフトも徐々に価格を下げていき、2000年には一部のメーカーを除き、1枚3〜4,000円程度が相場になりました。

 その相場が、2001年には早くも崩れさります。 
 7月にFOXが『スーパー・プライスシリーズ』と称した、過去発売した作品30タイトルを2,500円で再販するキャンペーンを開始。
 「インディペンデンス・デイ」や「大脱走」といった新旧織り交ぜた大作や「スペースバンパイア」のようなB級作品まで、それなりのネームバリューを持った作品を廉価発売し始めました。
 更に翌2002年には、ワーナーホームビデオが『スーパー・ハリウッド・プライスシリーズ』と銘打ったリリースキャンペーンを4月に行うことを発表。
 これは、過去に同社から発売されたタイトルから30作を厳選し、なんと期間限定で1,500円(税別)で発売するという驚きの企画でした。
こちらも「カサブランカ」「タワーリング・インフェルノ」「グレムリン」「ロミオ・マスト・ダイ」と新旧取り混ぜた作品をチョイス。
 さらに「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「フルメタル・ジャケット」といった一連のスタンリー・キューブリック作品集まで加えて、ライトなファンからマニアまで、幅広い層にアピールできるラインナップを組んできました。
 販促用ポスターやチラシの500円玉3枚を大写しにしたデザインも非常に効果的で、全体的な売れ行きはかなり良かったようです。
 また、FOXのキャンペーン時以上にマスコミにも大きく取り上げられたこともあり、『スーパー・ハリウッド・プライスシリーズ』こそ廉価DVDの先駆者、と認識してる方も多いようです。

 そんな状況を、他のメーカーもただ黙って見逃すはずがありません。
 我も我もと「二匹目の泥鰌」を狙うのは当然、さまざまなメーカーが「廉価版キャンペーン」を発表していきます。
 同年にCICビクター(現パナマウント)が『ハッピープライス・キャンペーン』、SPEが『BIG BUYキャンペーン』ユニバーサルが『ザ・ベストキャンペーン』と、いずれも30タイトルを各2,500円(税別)での再販キャンペーンに乗り出しました。
 更に、当初から『シリーズ』と謳っていたワーナーも、同年7月には早くも第2弾を発売。
 この頃にはワーナーに割を食わされた感のあるFOXのシリーズも第5弾まで発売しており、ショップの店頭はたちまち廉価版コーナーで賑わい始めました。

 翌2003年には、FOXが『1枚買ったら1枚タダ!』キャンペーンという新企画を実施。
 これは、対象商品から1枚(3,980円)ソフトを買うとその場でもう1枚プレゼントされるという、実質“1枚1,990円”での販売となるシステムで、お徳感を煽ると同時に、廉価版市場に更なる刺激を与えました。
 実際、この企画はその後他メーカーにも模倣されています。
 2004年にはSEPも『半額半蔵』キャンペーンなるこれまた独自の企画を実行。
 こちらは、対象商品1枚だけなら2,625円、2枚目からはその半額の1,310円、3枚目は更に半額の656円になるというシステムでした。
 3枚まとめて買うと4,594円になるわけですが(4枚目からは2,625円から再勘定)、いかんせん計算がしにくくメリットが充分伝わりきれなかったのか、『1枚買ったら〜』ほどユーザーの関心は惹けなかったようです。 
 もっとも、店によってはこれらの“抱き合わせ対象品”を、ハナッから単品で廉価販売するところもあり、メーカーだけでなくショップ側も試行錯誤していたようです。

 廉価戦争はその後もますますエスカレート。
 ワーナーは元々再販のはずの廉価DVDを更に980円で再販する『トライアル・プライス』キャンペーンを実施。
 ついに販売価格が1,000円を切ってしまったわけですが、現在はこのまた更に再販を680円で発売するまでに至りました。
 他メーカーも、それまでのキャンペーンの価格をさらにダウンさせ、かつて2,500円で販売していたものを1,500〜980円で再販、一つのタイトルの価格が2,000円を切るのは当たり前となりました。
 何せ「類猿人ターザン」や「エアポート'80」なんて作品までが1,000円切る値段で手に入るのですから、いやはや、実にいい時代になったものです。
 今や廉価DVDは「在庫負担が軽く、売りさばきやすい商品」という事でCDショップのみならず、書店はもちろんスーパーのレジの横にまで平気で並べられてます
 なるほど、ここまでくればコアな映画ファンでなくとも、つい財布の紐が緩んでしまうのも納得ですね。

 この廉価版DVDブームですが、大きな特徴は売れ残りのソフトを叩き売りするのではなく、新旧織り交ぜたメジャータイトルを破格値で発売する点でしょう。
 ソフトメーカーは洋画の販売権利を一定期間所有しているので、その期間内に出来るだけ利益を上げたいわけですが、どんな売れ筋商品でも同じ値段で再販していては在庫がダブつくばかりです。
 そこで、ビデオテープと違い大量生産がしやすいディスク(DVD)の利点を生かし、ソフトのプレス枚数を増量してして価格を下げる「薄利多売」商法に踏み切ったわけです。
 逆に言うと“多売”出来ないと利益が出ないわけですから、マイナーな作品よりも知名度の高いメジャータイトルの方がラインナップされやすくなります。
 ですから、残念なことにファンが限られる特撮、アニメ、そしてドラマ系はなかなか廉価対象になってくれません。 
 また、中堅メーカーの商品は製造枚数も市場での流通数も大手メーカーに比べると少ないため、廉価キャンペーンを打っても価格はやや高めになってしまいます。
高め、といっても価格は2,500〜2,980円程度に設定されてはいますが、今時はその値段でも割高に感じられるようになりなりましたからね。

 とはいえ、廉価版DVDの現状は決して良いことばかりではなく、いくつかの問題も生み出しています。

 先に書いた通り、廉価キャンペーンは大体30〜40タイトルくらいを対象に行われますが、これが定期的に行われるようになった現在、毎回毎回違う作品をラインナップし続けるわけにはいきません。
 そうなると当然、「以前ラインナップされた作品をリピート再販」するわけですが、前述のワーナーのように「廉価版を更に廉価化」するものもあるので、慣れたユーザーさんになると目当ての作品を見つけても「これ、もうちょっと待てばもう少し安くなるんじゃないかな?」なんて考えてしまうわけです。
 ところが、「以前1,500円で売っていたものが『1枚買ったら1枚タダ!』キャンペーンにラインナップされ、実質割高になってしまった」なんて逆のケースもあったりします。
 こうなるとなまじ元の価格が安いだけに、わずか400〜500円の違いがかなり大きなものに感じられ、買い時を見極めるのがちょっと難しくなってしまいます。
 また、最近は新作の発売から廉価キャンペーンへの移行までのスパンが非常に短くなってきています。
 そうすると、せっかくの話題作も「どうせこれ、すぐ安くなるんだろ?」と考えるのは当然。
 一番売り上げをあげられる初回発売時期に、こんなことを考えられて買い控えされてしまうケースも出てきたわけです。
 なんせ、2005年の話題作「Ray/レイ」なんて、4,179円でDVD発売したわずか5ヶ月後に980円で再販しちゃいましたし。
 実際には、廉価版には通常版にあった特典ディスクが付属しないとはいえ、1,000円以下で本編が観れるのならそっちの方がお徳に感じる人も多いでしょうし。
 「Ray/レイ」に限らず、最近は特典ディスクの付属の有無を、通常版と廉価版の違いにして差別化を図るメーカーも多いようですが、“メジャータイトルほど廉価化しやすい”というセオリーがある以上、既に「新作を即購入するなんてバカバカしいよね」と考えている人も少なくないでしょう。
 いや、本部長がそうなんですが。

 あ、廉価といえば最近はパブリック・ドメインのDVDもかなり増えてますので、こちらについてもちょいと触れておきましょう。
 こちらは、映画の著作権の保護期間(50年)を経て、版権フリーとなったフィルムを元に製作した超激安ソフトで、価格は何と1枚500円程度。
 タイトル数も現在はかなり多くなってますが、タダ安いだけでなく、「ローマの休日」「誰が為に鐘は鳴る」「駅馬車」「雨に唄えば」といった往年の名作が数多く含まれているのが強みです。 
 これらパブリック・ドメインの作品は、長い年月を経ただけあってマスターは粗悪なものばかりなので、当然出来た製品の画質も満足のいくものではありません。
 本部長も値段に釣られて2、3枚ほど買ってますが、あまりに画質が酷くて、もう二度と見直す気になれません。
 また、この「パブリック・ドメイン」は食玩にも進出。
 2004年にカバヤが『水野晴郎シネマ館』と銘打った、なんと映画を丸々一本、プラス水野氏の解説を収録した全10種類のDVD付ガムを、315円で発売しました。
 タイトルこそやや知名度の劣るものが多いものの「バリ島珍道中」「片目のジャック」そしてロジャー・コーマンの「古城の亡霊」といった、コアな映画ファンでも微妙に方向性が違う層へのアピールまで狙ったであろう作品まで、ちゃっかりと抑えてあるのはお見事。
 でもこれ、315円という値段もすごいですが、これって水野氏の解説がなければ更に安くできたんじゃないかと思うとなんともやりきれない気持ちにさせられます。
 まあ、映画より解説の方がお目当ての人も大勢いたでしょうからあまり文句も付けられないんですけど。

 で、このパブリック・ドメインですが、最近になって「ローマの休日」の著作権元のパラマウント・ピクチャーズが「作品の権利は当社にある」と、同タイトルの激安DVDの販売差止めを東京地裁に申請しました。
 「ローマの休日」は1953年に制作された作品で、本来なら2003年に著作権の保護期間は切れているのですが、2004年の改正著作権法で保護期間が70年に延長されたことにより、パラマウントがいまだ権利の保護期間であることを主張しだしたわけです。
 果たしてどういう判決が出るのか大変気になる所ではありますが、そりゃパナマウントに限らずどこの会社でも、自分の所が手がけてる製品の粗悪品が出回っているような状況は、決して気持ちのいいものではなかったでしょうね。
 水野氏の食玩DVDの方も同様で、こちらも一部の業界関係者から「作品を尊重すべき映画評論家が、版権フリーを利用した質の低いソフトのリリースに加担してよいものか」とかなり顰蹙を買ったとか。
 本部長も、『水野晴郎シネマ館』は氏の知名度あってこその企画だと認めてますし、そのおかげで未だDVDが出ていない(つか、出そうにない)カルト&マイナー作品群が商品化されたのは喜ばしい事だとは思います。
 でも、ここらの“正規ソフトが出ているメジャータイトルのパブリック・ドメインDVD”まで推奨する立場をとるのは、ちょっと節操ないんじゃないかな〜と感じるわけです。
 まあ、かの話題作(ホンットに話題だけ)「シベリア超特急」を発表して以来、何か違う方向に弾けてしまった感のあるお人ではありますし。

 なお、東京地裁は6月11日に“「ローマの休日」の著作権保護期間は2003年に終了しており、2004年の改正著作権法は適用されない”と、パラマウントの訴えを退ける判決を下しました。

 ともあれ、メーカーサイドが色々と問題を抱えながらも、廉価ソフトを続々出してくれるのは、ユーザーにとってはありがたいことには違いありません。
 まあ、中には“買ったはいいけど、全然観てない映画もある”なんて人もいるでしょうが、少なくとも所有意欲と消費意欲は満たされるわけですから、決して高い買い物にはなっていないと思います。
 もちろん、本部長のように廉価ソフトを更に中古で購入する人間にとってもありがたいことなのでこれからもDVD市場をどんどん賑わして欲しいと思います。

 ついでに、出来れば廉価版だけでも流行のトールケースでなく、ジュエルケースで出してくれると尚、ありがたいですね。
 …100枚越したDVDソフト、もう棚に入りきらないし。

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