「SHUFFLE!」 REVIEW
あおきゆいな
更新日:2006年3月26日
 次元を隔てた異世界との文化交流が始まった世界観…この一点だけが引っかかり、紆余曲折の末に手に入れてしまったタイトル。
 Navelの2大原画師、西又葵氏と鈴平ひろ氏のコラボレーションによる原画は逸品だが、シナリオ等は押し並べて平均点。
 …とはいえ、予想以上に質の高い作品だった。
 とりあえず購入した方は、「無駄に美しいオヤジキャラに悶絶せよ!」だ(笑)。
  1. メーカー名:Navel
  2. ジャンル:婿取り騒動学園ラブコメ
  3. ストーリー完成度:C
  4. H度:C
  5. オススメ度:C
  6. 攻略難易度:D
(ストーリー)
 10年前の『開門』を期に、次元を隔てた神界・魔界との交流が始まった人間界。
 半永久的に固定された『門』を介して移住も始まり、外交的に深刻なトラブルも聞かれず、3世界は穏やかに調和していった。

 そんなある日、バーベナ学園に通う土見稟(つちみ りん)を尋ねて、神界の王女リシアンサスと魔界の王女ネリネがやってきた。
 幼い頃、この人間界で偶然出逢った心優しい少年。…それから8年の歳月を経ても忘れる事がなかった、愛しい稟を射止めるために。

 娘に同行して、人間界へと渡ってきた破天荒な神王と魔王による、圧力という名の政治的交渉により超法規的措置が取られ、王女達は恙なく学園へと編入してきたのだ。
 稟が居候する芙蓉家の両隣にむりやり邸宅を構え、一家(?)ぐるみで長期戦の準備を整えて。

 地位や権力とは縁のない平凡なヒト族(人間)に過ぎず、突然降って湧いた逆玉の輿状態に戸惑いを隠せない稟と、美少女独占状態な彼に嫉妬し、怒り狂う学園中の男子生徒達。
 悲喜交々〜様々な感情が入り乱れる中、天涯孤独な身の上の稟と同居生活をしている幼なじみの芙蓉楓(ふよう かえで)は、心中穏やかではいられなかった。

 ネリネの後を追って魔界を出て来たプリムラに、稟・楓の中学時代からの先輩である時雨亜沙(しぐれ あさ)まで加わり、事態は混迷を極めるばかり…
 こうして、異世界のプリンセスにより火蓋が切られた“婿取り合戦”が勃発したのだった。

 のっけから話題をさらったヒロイン達にばかり、プレイヤーの注目が集まりそうな本作ではあるが、稟や楓のクラスメイトでヒト族と魔族のハーフである麻弓=タイムや、亜沙のクラスメイトで神族のカレハ、はたまた担任の紅薔薇撫子など、ヒロインにも引けをとらない容姿と存在感を持ったサブキャラクターが目白押しであり、その中にはさも当然の様に、容姿と存在感を持った男性キャラも混じっている。
 稟のクラスメイトにして悪友の緑葉樹に、自主的引率役(笑)の神王ユーストマと魔王フォーベシィだ。

 同居する幼なじみの楓や、神界・魔界(以降2世界と省略)から求婚しにやってきたプリンセス達など、シナリオスタート時点から主人公にベタ惚れという、一見鼻につく設定で繰り広げられるた本作において、樹はいわば稟のスケープゴート的な役割を担っている。
 頭脳明晰にして人並み以上の容姿の持ち主、しかもそれを活かして女性を口説く事に情熱のすべてを注ぎ込んでいる無類の女好きだが、この気合いの入ったスケベ根性のおかげで、華に囲まれた稟の状況が浮いてしまわずに済んでいる。

 最高権力者のくせに統治国をほったらかして人間界に来ている神王・魔王も、端整な顔立ちに年齢相応の渋さまで兼ね備えた大人の魅力をまき散らし、泡沫の恋愛を楽しんでいる。
 加えて言うなら、この王達は親友同士であり、一方に何かあっても必ずもう一方が関わってくるため、事が大げさになってしまう。
 また、立場的に派手な立ち回りになることが多く、そうでなくても酒宴などで大騒ぎする事を好む傾向があり、主のシナリオである稟を巡る騒動が些細に見えてしまうほどの勢いに、ヘンな意味でバランスが取れているのだ。

 本作の主題は先述した通り、主人公である“稟をめぐる”恋の行方を描いた物語。
 全人類一の幸福者といっても過言でない稟は、これといって特筆できるような能力や特技のひとつも持ち合わせない、至極平凡な高校生だ。
 唯一、不幸な生い立ちから、人の痛みや悲しみ、寂しさを理解できる優しい心を持っており、これがすべてのヒロインとの繋がりになっていた。

 押しかけ女房…もとい2世界の王女達が、地位や権力を背景に関係を迫る事を望まず、自らをアピールして稟に選んで貰いたいと、堂々とした交際宣言をしたことから今回の騒動が始まっている。
 王達も長期滞在になる事を承知で娘達の思うままにさせたのは、2世界のどちらであっても後々婿に迎えた稟を玉座に据えるつもりなのだから、将来統治すべき世界には好感を持って貰いたいと考えてのことだろう。

 2世界の王女は交際宣言のおり、稟の現状の生活環境に干渉しないと言っていたが、これは稟の行動の自由と、選択権は彼にある事を約束する意味も含まれている。
 これにより、稟に想いを寄せている他の娘達も同等にアピールする機会を得たわけで、同居しているとはいえ一般人の娘に過ぎない楓はもとより、稟との関係において圧倒的に不利な立場にあった亜沙やプリムラにも、王族の姫君と対等に張り合うだけの余地が出来たのだ。
 もっとも、干渉しない代わりに両隣に住んで猛烈にアピールしてくるのだから、稟にしてみれば「監視」されているような気分だろうが(笑)。

 また本作は、人間界で始まった婿取り合戦という本筋とは別に、神族の叡智を持ってしても未だに解き明かせていない生命の研究という、もうひとつのテーマを併せ持っている。
 本来魔力を持たないヒト族では、全く関与できない内容の研究だったが、リシアンサスとネリネ…そしてプリムラまでが押しかけてきた事で、稟は否応なしにその研究に巻き込まれていく事になる。
 この内容については、プリムラの個別評にてまとめて考察したいと思う。

 改めて、本作の舞台背景に目を向けてみよう。
 次元を繋ぐ『門』を介して、人的・文化的な交流が始まった神界と魔界には、種こそ違えど人間界に住まう我々と大差ない容姿を持つ人々が統治しており、彼らが日常的に魔法を使っている事を前提として描かれている。

 そして、人類は魔法を使う彼らとの関わりの中で、錬金術を見いだし実用化に至った。
 めまぐるしく変化する世界情勢の中で、急遽整えられていった法整備の下、魔法や錬金術についての正しい知識や制御の方法を身につけさせる観点から設立されたのが、本作の主な舞台となる三種族共学の国立バーベナ学園なのだ。

 8年前に交通事故で両親を喪い、家族ぐるみの付き合いがあった芙蓉家で居候生活をしている稟が、どういった経緯でこの学園へと進学したのかは語られず終いだったが、彼が特に魔法や錬金術に興味を持っているわけでもなさそうだった。
 楓がバーベナ学園へと進学した理由は、間違いなく稟と共にいるためだが、その理由については楓の個別評の方で詳しく後述する。

 人間界の騒動をどう感じているのか、いまひとつ判然としない神界・魔界の住人達。
 所謂ファンタジーに登場するエルフ族の様に、長く尖った耳を持つ外見的特徴以外に、肉体的に顕著な差はみられず、むしろヒト族を含む3種族間で混血が可能である事から、とても近い存在といえるかも知れない。(ただし、彼らがあらゆる種族との間で交配が可能などという、とんでもない裏設定が無ければの話)

 また、ハッキリと示されていないため断言は出来ないが、8年前の出逢いの後、それぞれの世界で過ごしてきた稟・リシアンサス・ネリネの三者が介して、外見的な年齢差がみられない。
 その事から、次元を隔てた3つの世界は時間の流れ方に差がないようで、寿命の差こそあるかも知れないが、成長速度の差も殆ど無いと思われる。
 ただ、異様に若作りな亜沙の母親・亜麻(魔界出身)を目の当たりにして、2世界のプリンセスが「不老長寿の魔法はない」はずだと困惑していた所を見ると、2世界においても年齢相応に老いてゆくようで、ライフサイクルも大差ないだろうと推察できる。

 3世界を巻き込み、神界や魔界の王座までかかった物語として特大サイズの風呂敷を広げた本作だが、語られるのは思いっきり「人間界の、日本国の、一地方の、ただひとつの町」に過ぎない。
 一度だけ近隣の海へと出かけるが、これはあくまで消化イベントのひとつに過ぎず、芙蓉家とバーベナ学園および光陽町商店街の三地点を行き来する話の流れに変わりはなく、なんとグローバルな視点で繰り広げられるローカルな話だろうかと笑えてしまった。

 しかし、だからといっておざなりに描かれているわけではなく、必要最小限ではあったが、商店街や町並みといった生活の拠点となる場所もしっかりと描写されている。
 学園生活中心であるためか、平日と比べてみると休日のイベントがやや大味ではあったが、苦言を述べるほどではない。

 難点としては、それぞれの場所の位置関係が把握しにくい事で、これは学園内についても言える問題点だ。
 些細な事と思われるかも知れないが、これは学園や町の規模を推し量る材料にもなるし、また移動に要する時間などを連想させる事も可能であり、上手く活用すればシナリオにより深みを与えられるものだからだ。

 さてさて、前置きが長くなってしまったが、個別評にはいる前に、システム関連も記述しておこう。
 メインボリュームから独立したBGM・SE・音声の各ボリュームや、個別にON・OFF設定可能なキャラクターヴォイス設定。
 メッセージ速度やフォントの設定に、CPUの占有率などを使用環境に細かく合わせる事が出来る、配慮が成されたシステム。
 プログラムの安定性は抜群で、全くストレスを感じなかった。
 ゲーム画面自体は極力シンプルに構成されていて、メインウインドウ以外にはセーブ・ロード・テキストスキップなどのアイコンのみであり、それさえも不必要な時は隠しておける設計。
 セーブファイルは32箇所+クイックセーブが3箇所、さらには任意で拡張セーブエリアを作成できるという豪華仕様だ。
 おまけ機能も充実していて、イベントCGやHシーンの鑑賞にBGM再生、立ち絵付き登場キャラクターの衣装・表情鑑賞モードまでついていた。(男性キャラも含む)
 これらの各機能を選択するたびに、女性キャラクター達がしゃべるしゃべるしゃべる。
 ロードの時、「人生のやりなおし〜♪」なんて言われて、おもわず吹き出してしまったもの。

■ 芙蓉楓 ■
 稟のクラスメイトであり、幼なじみであり、そして2世界のプリンセスが来るまでは、無条件で“稟の恋人の座”を独占していた。

 容姿申し分なく、家庭的な技術全般万能なうえ成績優秀、おまけに頭の回転も速い。
 控えめながらも慈愛に満ちた性格であるため、バーベナ学園の男子生徒に絶大な人気があり、異世界の王女と並び称され『3大プリンセス』とまで呼ばれている。
 互いの親が親友同士のため、物心付く前からの付き合いであり、両親亡きあと芙蓉家に居候の身となった稟にとって、生活のすべてが楓に依存している形になっているのだが、それは楓自身が望んだものでもあった。

 健気と言うには度の過ぎた、「なぜそうまでして稟に尽くす必要があるのか」と思えるほどの徹底ぶりは、却って楓に対するプレイヤーの感情移入を阻害する要因にならないだろうかと思えたほどだった。
 甲斐甲斐しく身の回りの世話をする姿から、心底惚れ込んでいるのだろうとは感じられるのだが、彼の心を自分だけに向けたいとか、拗ねて見せたりといった描写が無いため、それほどには稟に執着していない風にも見えてしまう。
 学園内で噂される稟との関係に否定的な返事をする一方で、友人達に「稟の彼女的なニュアンス」で話をふられると、真っ赤になりながらもこくこくと頷いてみせる楓。
 この様にシナリオ前半では、楓自身がどういう立ち位置を望んでいるのかよく見えてこず、控えめな性格のために心情も強くは伝わってこないので、なかなか肩入れする気持ちになれなかった。

 この一方的過ぎる楓の行動に、プレイヤー側の興味が萎えてしまわないよう用意されたかけひきの材料が、どこかヌケていて自分の事はドジばかりだったり、無意識に嫉妬しては我に返ってあたふたしてみたりする姿なのだろう。
 この両極端な姿で相殺しているようで、だからだろう、エピローグにて杞憂も気兼ねも遠慮もなしに、心から稟を慕う姿は本当に愛おしく感じられたものだ。

 本作の根幹となるものだが、8年前に揃って出かけていた稟の両親と楓の母は、帰宅途中に交通事故に遭い、帰らぬ人となった。
 事の真相は、熱を出した楓を案じて、急ぎ帰路を辿ったために起きた不慮の事故だった。
 最愛の母を喪ったショックで食も喉を通らず、今にも自殺しかねないほど酷い精神状態だった楓に、どんな理由であっても生きていて欲しいと思う稟は、楓にとって辛い真実を伏せ、自分が呼び戻したせいで事故に遭ったのだと浅はかな嘘をついた。

 それ以来、稟に対する復讐心だけでどうにか生きてきた楓は、時が経つにつれ稟のついた嘘に思い至り、真実を知って自らの過ちに気づく。
 稟の思い遣りも知らず散々傷つけてしまった事を悔い、償いの気持ちから始まった“稟への奉仕”。
 しかし心のどこかで、奉仕する事で許されたいと願っていたそんな自分が許せずに、楓は稟を心から愛しながらも、決して愛されてはならないと決めたのだった。

 この話は、楓ルートおよび亜沙ルートでしか聞くことの出来ない、稟が胸の内に仕舞った苦い想い出なのだ。
 これがメインシナリオの中で何度も聞くことになる「8年前のこと」なのだが、稟にとって精神的に最も辛い時期でもあったから、見知らぬ世界で迷子になり途方に暮れていたリシアンサスやネリネを放っておけなかったのだろう。
 そして、2世界のプリンセスとの出逢いがその頃の事だから、楓は「口出しする権利がない」と言ったのだ。
 楓か亜沙のルートを進めなければ知り得ない、『他人には解らない身内の事情』という状態を、見事に演出していると評したいのだが、このあたりの流れはプレイヤーそっちのけで話が突き進んでいる感があり、もう一捻りほしい点ではあった。

 「ずっと一緒にいる」という約束を果たすため、たとえ憎まれても楓に生きていて欲しいと願った稟。
 楓ルート以外では、稟が他の娘を選んだことで、結果的にこの約束を反故にしてしまう。
 もっとも、楓は稟がその約束を憶えていないと思っていたようで、その後も約束を盾にする事はなく、あくまで自分は稟を慕い続けると決意を新たにするのだ。

 対して楓ルートでは、稟がその約束を口にし、今も想いは変わらないのだと楓に伝えたわけで、その後に迎えたエンディングはとても感慨深いものがあった。
 誰を選ぶかは稟次第、自分は稟に尽くせればいいと始終口にしていた楓の心の奥底が、このシナリオの結びを見てようやく解った。

 2世界の王ほど積極的推奨ではないが、芙蓉家も父親公認であり、何より娘を大切にしてくれる稟とうまくいく事を願っているようだ。
 そんな父上は、神王・魔王のご令嬢達が学園に転入する前に、突然海外出張となった。
 外交的な圧力に屈した政府が超法規席措置で、暫く帰ってこられないように仕向けたのではないだろうかと邪推したくなるようなタイミングで、楓とふたりきりの状況…もとい、楓以外の女の子に稟の意識が向いても、下手に干渉される心配がない環境が整ったわけだ(笑)。

 こうやって物語は始まったわけだが、楓ルートとして大きな変化が訪れたのはもう少しだけ先の話。
 同居10年の間、奇跡的に一度も起きたことがないというお約束なハプニングから、心のどこかに抱いていた「稟に対する願望」を自覚してしまった楓が、大胆な行動にでてしまう。
 だが考えてみれば、“たまたまその日父親が居なかっただけ”で、もし海外出張でなかったとしても、時間帯を変えるなり、夜中に稟の部屋へ押しかけるなりして、楓は結果的に同じような行動をとっていたのではないかと思われる。
 つまり先に述べたように、父親が居る事で娘の楓が不利になる要素は希薄であり、むしろ余所の娘に気取られた場合は稟の立場的な関係上、行動の枷にしかならないと感じられたわけだ。

 楓ルートでは、決着が付かず終いのものがあった。
 共通シナリオで2世界の王は、稟に3世界からそれぞれ妻を娶らせ「3世界統一王」にする構想を謳っていたが、このルートでは楓との仲が進展しただけで、リシアンサスとネリネとの事は何も解決しておらず、彼女たちが身を引いたという記述もない。
 稟がプリムラの行く末に感じた不安が払拭されたわけでなく、また彼女がその後どうなったのかについても、他のルートに丸投げされている。
 細かくはもっとあるのだが、この2点だけは、どうにもフォローがきかないものだった。

 楓の名前の由来についてだが、苗字の【芙蓉】はハイビスカス等と同じアオイ科の植物で、名の【楓】は紅葉する葉を「モミジ」という異称で親しまれている植物だ。
 度々顔を真っ赤に染めていた様子から、「紅葉を散らす」という言葉の意味を宛うことができると思えたが、それ以上にしっくりとはまるもので、楓や紅葉には「遠慮」や「自制」という花言葉が、芙蓉には「しとやかな恋人」という花言葉があるそうだ。
 なるほど、これなら楓というキャラクターのイメージによくあったものだと納得できた。

■ 時雨亜沙 ■
 稟と楓の中学時代からの先輩であり、楓にとっては料理の先生でもある亜沙。
 はじける様な快活さに、家庭的なスキルを備えた天真爛漫な性格で、稟の反応が可愛くてつい悪戯してしまう困った趣味をもつおねーさまだが、そのため稟には少々苦手意識を持たれている。

 シナリオ開始時点では、学園のパパラッチ娘・麻弓=タイムと同様に、シナリオの牽引役かと思われた。
 話が進むに連れ、彼女もまたヒロインのひとりである事は解ったが、他の土見ラバーズ(麻弓命名)とは違い、最初から恋愛対象にはなりえないと公言していたためか、中盤に差し掛かる頃まで、彼女の立場が今ひとつハッキリしなかった。

 悪戯っぽい口調と少しうわずった言葉使い(これは声優さんの特徴かな?)に、「ボク」という一人称。
 親友である神族のカレハとコンビを組んで神出鬼没に活躍しており、「癒しのカレハと驚愕の時雨」という何とも不名誉な二つ名まで頂戴している。
 というのもスポーツ万能な行動派であるため、ボーイッシュでアウトドア派の印象を持たれているが、意外とお茶目で女の子らしい一面もあり、また家庭的なスキルも完備していて、所属する料理部ではその手腕を存分に発揮している。
 周囲が亜沙に対して持っている印象と、実像とのギャップの差が“驚愕”の由来だ。

 一見非の打ち所がなさそうな少女ではあるが、それは主に性格面にあり、人の反応をみて楽しむという困った趣味をお持ちだった。
 その為には自らをもネタにしてしまうのだが、どうやらこれは稟限定の行動の様に思える。
 というのも、彼女の言動を見るほどに、「可愛さ余って、ついからかってしまう姉心」の様なものではないかと感じられ、だからこそ恋愛の対象には見られないと言ったのだろう。
 しかしながら、元々気になる相手であったことは間違いなく、おそらく稟と出逢った時にはすでに「稟を慕う楓」という構図が出来上がっていた為、ふたりをセットとして見ることで、自分の気持ちをはぐらかしていたのではないだろうか。

 共通ルート上で確認できる亜沙に関する事で、彼女は極度の魔法嫌いであるという話を、相棒のカレハから聞くことが出来る。
 その理由については、亜沙ルートのみで知ることができ、他のルートシナリオの場合では「何か嫌な思い出でもあるのか」という程度で、あっさりと過ぎてしまう。
 実はこの「魔法嫌い」という部分こそが、このルートでもっとも重要なものだった。

 亜沙ルートは、彼女の出生以前にまで遡る話が関わっており、母親の亜麻が魔族…しかも“ある実験の第一号被験体”だったことなど、秘密にされてきた数々の事が明かされてゆく。
 リシアンサスとネリネの件で、2世界の王と気兼ねなく話が出来る立場になった稟が、行きがかり上芙蓉家で預かることになったプリムラの為、必然的に知る事となった実験体の話。
 どんな目的で行われた実験なのかについてはプリムラルートで後述するが、その実験にまつわる悲劇が形を変えて亜沙に関わっていたシナリオの展開は、やや設定的に無理が生じているものの、綺麗にまとめ上げられている。

 ただ、このルートシナリオは亜沙を主としているため、実験体に関しては深く追求される事はなく、ネリネルートやプリムラルートで情報を補完する事が前提となっている。
 これは、亜沙の立場を2世界の王に対し公にしないまま、神界・魔界の合同事業に深入りできないためだ。
 まして、実験体については本来トップシークレットであり、王達に婿呼ばわりされている稟といえども、それとなく訊ける様な内容ではない。
 それを踏まえた上で考えると、他ルートでの情報補完は、妥当な選択だといえるだろう。

 それでもまだ、いくつか棚上げされたまま終わってしまっているものがある。
 楓とは当事者同士で一応話が付いているが、リシアンサスとネリネに関しては、何も決着がついていない。
 プリムラのその後の処遇や、稟が彼女の身の上に感じていた不安などが、そのまま亜沙や母親の亜麻にすり替えられてしまった感がある。
 次元の狭間に流され死亡したものと見なされていた亜麻についてだが、実験を指揮していた王達がこの世界〜しかも同じ町に仮住まいしている現状で、こののち亜麻はどうなったのだろうか?
 …など、未解決のままではどうにも落ち着かない問題ばかりだった。

 逆に、亜沙ルート以外にまで問題を残した点もある。
 亜沙ルートでは、身に余る魔力のため引き起こされる肉体的な負荷から、亜沙は度々苦しみ、倒れる事もあった。
 比較として、同じ魔族のハーフである麻弓=タイムの例を見ても解るように、ほどほどに魔力を消費していれば、脆弱なヒト族の肉体を持って生まれても、さほど問題にならないようだ。
 確かに普通の魔族とのハーフと、実験体であった亜麻を母に持つ亜沙を安易に同一視は出来ないが、今回のケースでは単に量的な問題に過ぎなかった。
 しかし、自分の苦しみが母のせいだと逆恨みしていた幼少の頃を酷く後悔した亜沙は、母に実験体だった忌まわしい過去を思い出させなくて済むように、「生涯魔法を使わず、人間(ヒト族)として生きていこう」と強く心に誓っていた。
 これが「魔法嫌い」だと言っていた話の真実であり、自身の苦しみも覚悟の上の事だったわけだ。

 では他のルートはといえば、“稟と亜沙が恋人関係にならない”という状況の違いがあるだけで、亜沙はまったく変調をきたした様子が見られない。

 亜沙ルートで昏倒した時の状況を見ると、日頃から肉体的に魔力の許容量がオーバーフロー気味な亜沙が、稟を仲介してプリムラの余剰魔力の影響を受けしまった事が原因らしい。
 しかし、魔力を持たず制御も出来ない生粋のヒト族である稟が、蓄電池の様にプリムラの余剰魔力を貯めて運べるとは考えにくい。
 ならば、稟と恋人関係になり精神的に深く繋がったことで、偶然にも稟がアンテナのような役割を果たし、彼を慕うプリムラの強大な魔力の余波を受けてしまったのだろうか?
 この辺りは、もう少し明確にして欲しかったと思えた所だ。

 さて名前の由来だが、亜沙はクワ科の一年草である【麻】、【亜麻】もそのまま現存の植物からである。
 面白いのは、麻は“強く長い繊維が取れる植物の総称”でもあり、イラクサ科の苧(からむし)やツナノキ科の綱麻(つなそ:別名コウマ)等と共に、アマ科の亜麻も含まれている点だ。

 亜麻は現在も病院のシーツ等で使用されている、リネンの原料となる植物だ。
 比較的寒い地方での生産が多く、史実によると国内では、北海道開拓使長官が札幌の屯田兵に栽培させたのが始まりのようだ。
 そんな長い歴史をもつ亜麻だが、原価高騰などの理由から昭和42年の作付をもって製麻会社との契約栽培が打ち切られたらしく、現在は北海道の数ヶ所にあった“製麻工場の跡地”に、麻生という地名が残っているだけだと聞く。
 この辺りの話は、なんとなく亜麻というキャラクターに通ずるものがあり、やがては忘れ去られ、記録に名を残すのみ…そんな物悲しさが感じられた。

 なお、名字の方だが、他の和名キャラ(稟除き、麻弓含む)が姓・名共に植物である事を鑑みると、松尾“芭蕉”の忌日である「時雨忌」あたりにひっかけて名付けられたものかも知れない。

■ リシアンサス ■
 高貴な生まれでありながらも、その性格は宛ら仔犬の様に人懐っこく愛くるしいリシアンサスは、料理の腕前は卓越しているがその頭脳は人並みという、なんとも親近感あふれる庶民派な王女様だ。

 8年前、神王と共に人間界へと来たおり、以前から興味を持っていた電車に単身乗り込んでしまい、知り合いもない見知らぬ土地で、読めない文字に行き先も探せず途方に暮れていた。
 偶然通りかかり彼女の不安な心を感じ取った稟は、誰かが迎えに来るまでと、リシアンサスが寂しくないように傍に居続けた。
 そんな心優しい少年の姿を心に刻みつけた姫君は、神界に帰ってからもこの出逢いを忘れず、想いを募らせてきた。

 出会って(再会して)いきなり恋人候補に名乗りを上げたのには、こんな前置きがあっての事だったが、これはシナリオ序盤に徐々に明かされていく情報であり、この物語にはじめて触れるプレイヤーには知る由もない話だ。
 そのため、あまりにも唐突な交際宣言には、当時の事を半ば忘れかけていた稟と同じく、プレイヤーとしても理由が解らずかなり戸惑ってしまったものだ。

 もしもこの“戸惑い”を意図的に狙ったものなら、演出としては成功しているだろう。
 だが、プレイヤーが物語に引き込まれるべきシナリオの導入部でいきなり惑わされると、冒頭部で得られた他の情報までが混乱して、印象が薄くなってしまう場合さえある。
 本作の場合もその傾向があり、戸惑いを覚えた部分だけは強く印象に残ったが、代わりにその直前で語られていたバーベナ学園の設立目的や、ヒト族が錬金術を使えるようになった話が記憶から薄れ、2巡目のプレイでテキストを読み返すまで思い出さなかったぐらいだ。

 また、良い布石になれたものが、放置されたままというものがいくつもあった。
 一例だが、ネリネルート以外での進行中、リシアンサスは8年前のその日、稟にファーストキスを捧げた事が明らかになる。
 当時の事をあまり憶えていないはずの稟も、この事だけはしっかり記憶にあったようで、後の展開が波乱含みになるかと思いきや、この場限りの話題として終わってしまった。
 後の展開にも、色々と尾ヒレをつけて利用できる良いエピソードであったのに、それを活かさずに終わったのはもったいない限りだ。
 メインキャラ達の感情的なやりとりや、ぶつかり合いがあまり描かれていない本作においては、こういった物こそキチンと利用して欲しいと思えてならなかった。

 さて神界を統べる王の一人娘であるリシアンサスは、彼女自身が跡目として王座に就く気はなく、父・ユーストマの考えにもあるように、婿入りした稟に王位を継いてもらうつもりのようだ。
 このリシアンサスルートのみで明かされた情報であるが、神王が妻の一人に魔王・フォーベシィの妹を迎えており、この前例からも王族も異種族との婚姻については無問題なようである。
 しかし、それが直接王権に関わるとなると話は全く異なって当然であり、争いの火種になる事は目に見えている。
 さらに言うなら、魔族の血を色濃く受け継いだが為に、産まれながら存在を否定されてしまった妹〜シナリオ終盤で稟にキキョウという名を与えられた“もうひとりのリシアンサス”の例もある。

 異世界に住まう魔王と膝をつき合わせて酒を酌み交わすほど仲の良い神王ですら、神族としての掟や風習を打ち破れずにいたのだろうかと考えてみたところ、だからこその稟なのかと思えてきたのだ。
 種族の違いや価値観の差など、全くと言っていいほど意に介さず受け止める事の出来る稟は、三種族が入り交じって存在してゆくこれからの時代を担うに当たっては、まさにうってつけの人材ともいえ、ユーストマが成しえなかった事を、稟に期待しての事かもしれない。

 先述した、稟に『裏シア』だと名乗ったリシアンサスの妹・キキョウ(以後、キキョウと統一)については、かなり特殊な立場であり、また解り難い存在でもあった。
 彼女の出現およびその出生に関わる情報は、リシアンサスルートのみに限定されており、他ルートでは全く聞かれないプライベートな内容だ。

 リシアンサス達を産んだ母親はフォーベシィの妹、つまり彼女達は魔族とのハーフである。
 神王ユーストマは3人の妻を迎えているが、授かった子はリシアンサスのみだった。
 結婚までは承諾した王室の関係者も、さすがに魔族の血を色濃く受け継いだ子が次代の王となる事には難色を示したのだろう。
 神族の特徴を濃く受け継いだリシアンサスが生まれてきた事で一応は胸をなで下ろしたのだろうが、彼らにとって都合の悪い存在といえる“魔族の特徴を受け継いだ存在”はリシアンサスの中に眠っており、その処遇について論争が起きた事は想像に難くない。

 難色を示した…おそらくは重鎮達だろう、彼らは生まれてきたのがリシアンサスただひとりだった事を幸いとして、肉体を持たないもう一人を「居なかった事」とし、事実を隠蔽してしまった。
 これが、やたらと明るいほのぼのファミリー神王家の哀しい裏事情なのだ。

 本来はふたつの肉体にわかれ生まれるはずが、何かの原因でもうひとつの肉体を共有するようになったのか、それとも最初から体はひとつで、相容れなかった神族と魔族の強大な王家の血がふたつの意識となって現れたのか、これについては言及されていない。

 名も与えられず生まれながらに存在を否定された妹に、同情したリシアンサスが時々体の支配権を与え自由な行動を取らせていたが、このとき器たる肉体は表面に出てきた人格と共に入れ替わるらしい。
 これは同ルートでの進行違いでキキョウの差分シナリオが選択可能であり、そのHイベント内で二度目のはずが“初めて”だと稟が気づき、体は共有していない事をキキョウが告白したために解った事だが、これ以外にプレイヤーが確認できる情報はない。
 仮にキキョウの言葉どおりに入れ替わっているとしても、それが何を意味し、いつどうやって入れ替わるのか、はっきりとした回答は得られていない。

 ちょっと意地悪な見方をして、そもそもが稟の「勘違い」だったとしてみよう。
 リシアンサスとキキョウは「夢」という形で互いの記憶を共有しており、肉体での実体験を除けば“情報としての経験値”は同等に積んでいる理屈になる。
 キキョウと稟の初Hの時は、既にリシアンサスが経験済みであった事から記憶上では2度目にあたるが、肉体での体験は初めてだった…ってオチで、稟の勘違いにキキョウが悪のりしたという可能性も考えられる。

 そこまで懐疑的にならなくてもと思われるだろうが、真に異なる肉体であるならば、先述した「魔族の“血”を強く受け継いだ為に存在を否定された」という件に真実みが出てくる。
 ただ、普段もうひとつの肉体は何処にあるのか、その疑問が解消されないかぎり、リシアンサスとキキョウが異なる肉体を持つ事を、にわかには信じられないのだ。

 ひとつの体で姉妹妻という、他のルートエンドと趣の異なる演出をもって幕を下ろしたリシアンサスルート。
 これも肉体置換疑惑のひとつで、以前のように交代で表に出てくることもあれば、「ふたりとも起きて」表に現れることもあるというが、では台詞毎に体が入れ替わっているとでもいうのだろうか?
 体の支配権が、そのまま肉体置換の証明にはならないわけだし、やはりある程度明確に示して欲しかった情報だ。

 シナリオとしてのバランスも完成度も高いのだが、先の理由からリシアンサスとキキョウが遺伝子的に同一の存在である可能性もあり、それゆえキキョウだけが差別されてしまった理由はあまりにも説得力が足りず、これならまだ「魂」の質が魔族により近いからだと言われた方が納得できただろうと思えた。

 【リシアンサス】は、和名でトルコキキョウと呼ばれている「北米原産」の植物で、【桔梗】よりも華やかである。
 名を持たない妹(裏シア)にキキョウという名を贈った稟のセンスはともかく、リシアンサスはトルコとは縁もゆかりもないうえにリンドウ科の植物で、キキョウ科の桔梗とはまったく別の植物。
 このあたりからも、同じ容姿を持ちながら異なる存在として描かれたリシアンサスとキキョウの微妙な関係を感じてしまった。
 余談だが、パパ王の【ユーストマ】の方は属名であり、「リンドウ科ユーストマ属リシアンサス」(学名:Eustoma russellianum もしくは Eustoma grandiflorum)というのが正式である。

 おおお、なんか血縁を感じさせるネーミングかも(大笑)。

■ ネリネ ■
 品行方正・眉目秀麗・頭脳明晰にして、出しゃばらず相手をたてる完璧なまでの淑女であるネリネだが、稟を悪く言う者に対しては冷徹で容赦ない、怒らせると心底恐い姫君だ。

 8年前の「出逢い」そのものが、謎を解く鍵となった本ルート。
 そして、プリムラと亜沙のルートに共通する、人工生命体の悲話に大きく関わったルートだった。

 ネリネのシナリオに不可欠な存在であるプリムラは、こちらのルートで得られる情報を基礎にしてシナリオが構成されているため、先にネリネルートをクリアしなければ、プリムラのルートへ分岐できないようだ。

 人工生命体および実験体と、その存在を必要とした実験については、プリムラルートでまとめて後述するが、ネリネルートおよびプリムラルートでのみ存在が明かされる、リコリスについては先に触れておきたい。

 リコリスは実験のための「不可欠な道具」として、ネリネの細胞から造られた存在であるが、実験以外の場ではひとりの人格として扱われ、可能な限りの自由を与えられていた。
 また彼女は、魔界屈指の魔力を秘めて産まれながら、脆弱な肉体のため病床にふせっていた幼少期のネリネに代わり、時々公式の場にも姿を表していた。
 8年前に魔王に随行して人間界へとやってきたおり、迷子になって稟に助けられたのも、実はリコリスのほうだった。

 元々強大な魔力を有しているから、肉体を強化すればいいと言う安易な発想で造られたリコリスは、度重なる実験の中で急激に寿命を縮めてしまった。
 余命幾ばくもないと判断された時、最後の生命力をネリネに遺したいというリコリスの希望により融合がなされ、再び“ひとつになった”ネリネは、日常生活に支障ない健康な体になれたのだ。
 この際、リコリスの特技や記憶などと共に抱いていた恋心もすべて、ネリネは受け継いでしまった。
 文字通り自らを差しだしてネリネに健康な体をくれた「親友」の想いを成就するために、公的にはネリネとして、本心は「リコリスとして」稟と再会する事となり、物語ははじまった。

 ネリネと同化した際、リコリスの人格は消滅してしまい、ひとつの体にふたつの意思が共存したリシアンサスとは異なる身の上になったが、「もう一人の自分」を思い遣る心は通じるものがあったと思う。
 ただ、妹を不憫に思い自分が消える(深い眠りにつく)事で、残りの人生をキキョウに譲ろうと決断したリシアンサスと、理由はともかくリコリスから健康な体を奪った罪悪感に苛まれ、自らの想いを捨ててリコリスに成り代わることで償おうと人間界に来たネリネの在り方は、明らかに違う方向性を持っていた。
 「大切な人のために、自分自身でなくなる事を選ぶ」という、類似したシチュエーションを持ちながらも、ふたつのルートに大きな差別化をもたらしているのだ。

 先に「ネリネのシナリオに不可欠な存在」と記したプリムラだが、意志薄弱でほとんど物事に執着しない彼女が、唯一懐いていた相手がリコリスだった。
 おそらくプリムラが死という概念を理解できなかった為と思われるが、融合され出歩けるようになったネリネに、リコリスの雰囲気を感じ取ったのか、あるいはリコリスの面影に縋ったのか、“自分の前から居なくなったリコリス”を求め、ついにはネリネの後追いで人間界にまでやってきたのだ。
 プリムラを可愛がっていたリコリスの記憶を受け継いでいるネリネが、こんな状態のプリムラを不憫に思わない筈もないのだが、どう説明していいのか解らなかったのではないだろうか。
 ネリネはその解決策を見いだせぬまま、シナリオは佳境を迎え、結局は他のルートと同様に、何の結論も出さずに終わったのは、プリムラルートとの対比にもなれたと思えるだけに残念であった。

 このルートにて、稟がネリネとリコリスの違いを認知した目の色は、画面上で確認する限り神族は緑だったり褐色だったりと様々であったが、魔族は総じて赤い色をしている様で、ヒト族と魔族とのハーフである麻弓は片眼が赤のオッドアイだった。
 ここで同じハーフだが、神族よりも魔族の血を強く受け継いだとされるキキョウはといえば、リシアンサスと同じ淡い褐色であり、これも肉体置換疑惑のひとつになっている。

 実験体であるリコリスは紫の瞳を持っており、見比べれば確かにネリネとはずいぶん違う印象を受けるものであったが、無頓着を装いながらも8年前の記憶からその違和感に気づいた稟には、少し感心させられてしまった。

 この件については、同じ実験体のプリムラや亜麻も紫の瞳を持っており、亜麻の娘・亜沙も同じ瞳の色を受け継いでいた。
 他のルートで、稟がこの点に気付かなかったのはかなり口惜しい事ではあるが、せめて亜沙のルートでは活かして欲しいものだと思えた。

 さて、他のルートでは稟が「彼女をつくった」事にかこつけて、祝い酒だと馬鹿騒ぎを始めた王達だが、こちらのルートではネリネを対象としているためか、彼女と関係を結んだのちに、王達が祝杯をあげに押しかけて来なかった。
 考えてみれば、選ばれなかったリシアンサスにとって素直に喜べる事ではなく、そんな娘の複雑な心中を察する神王もまた、祝う気持ちにはなれなかったのだろう。
 これはリシアンサスルートでも同様であり、やはり2世界の王が押しかけてきていなかった。
 無粋な話だが、どちらのルートにしても、もう一人の姫君&おやぢがこの後に何を考え、どう行動に出たのかがとても気になるところだ。

 これ以外では、共通ルートで聞かれるネリネの歌嫌い発言の真相が明かになった事と、料理下手なネリネが卵焼きを作れるようになったという朗報ぐらいしか特筆すべき情報はない。

 そういえばひとつだけ、他のルートでは決着がオミットされていた樹とのテストの点数争いで、稟が一点勝ったことが明らかになっていたか。
 樹の話題関連は、重要性がないものが大半であるため取捨選択でこうなったのかとも思えたが、このルートでは稟が思いがけず、ネリネの豊満な胸(88Eらしい)に顔を埋めるというアクシデントに繋がっている。
 もっとも、状況成立だけ考えるなら、樹がらみの話である必要性は皆無なのだが…

 シナリオには直接関係ないが、ネリネのルートエンド時だけ、エンディング曲がYURIA氏の「SCRAMBLE」から、橋本みゆき氏の「In the Sky」に換わっている点にも注目したい。
 これは“天使の鐘”とまで讃えられる、リコリスが遺した美しい歌声にちなんだものだろうか、心はいつまでもリコリスと共にあるのだというネリネの想いを、しっとりと歌いあげた様な柔らかな曲だった。

 最後に名前の由来だが、【ネリネ】・【リコリス】共にヒガンバナ科の属名であり、園芸で植えられるネリネは艶やかな印象がある。
 日本で一般的に言われる彼岸花はリコリスの方であり、近似種であるがネリネとは違うもので、「人間界の日本に来たのがリコリスだった」というあたりからも、ネーミングの妙に唸らされたものだ。
 また、ネリネには「箱入り娘」というキャラクターのイメージそのままの花言葉があり、リコリス…つまり彼岸花は「悲しい思い出」とあった。
 過去の回想に見るリコリスの在り方にはイメージが結びつかないのだが、彼女を巡る思い出という意味でなら、この花言葉は的を射ていると思えた。

 ちなみに、パパ王の【フォーベシィ】は洋蘭の一種、ブラジル原産のカトレアで、慎ましく品のある花である。
 どうも派手好きの女好きで、家事を好んでする娘命な魔王から受ける印象とは全く結びつかず、神王家のネーミングの様に、娘と血縁者である事を連想させる様な繋がりすら皆無だった。

■ プリムラ ■
子猫を連想させる気品と愛らしさを持ち合わせながらも、意志薄弱で感情表現も希薄なプリムラは、規格外れな幼い体格にツインテールを標準装備した少女で、稟より『ひとつ年下』でしかなかったという衝撃の事実は、お茶の間を震撼させた。

 先述の通り、プリムラルートへの分岐は、ネリネルートのクリアが必須条件のようである。
 プリムラに深く関わりがある実験体2号、リコリスに関する詳しい情報はネリネルートで補填済みという前提で進行しており、本来それに割くべき部分をすべてプリムラへと振り分けているため、シナリオとしてはかなり充実している。

 まず、神界と魔界の両世界が取り組んできた実験について触れておこう。
 ヒト族の前に現れた神族達は、いわゆる創造主ではない。
 つまり神々の末席にあれども、思いひとつで命を創り出すことも出来なければ、失われた命を取り戻す術も持たないのだ。

 魔界と神界の王は、手の施しようのない重傷者をも救える高位魔法を開発しようと、共同事業を発足させたのだが、その為には桁外れに強大な魔力を有した人材が必要だった。

 しかし、望みうる人材がそう簡単に見つかる筈もなく、ひとまずは志願者を募り、人為的な魔力の強化を施すことになった。
 技術者達は制御の事など考慮せずでたらめに強化したその結果、安定を欠き暴発して施設ごと消滅してしまったのだ。
 これが、先述した亜沙の母・亜麻の身に起こった悲劇であった。

 この、生まれながらの素質を無視したために招いてしまった悲劇を教訓にして、魔界屈指の魔力を持って生まれた王女ネリネのクローンを造り、2体目の実験体とした。
 しかし、確立していない技術で造られた為、すぐに潰えてしまうだろうと予想されていたのだ。
 悲しい話だが、それを見越して同時に進められていたのが、「目的に適った存在を、最初から造り出す」というものだった。

 “命の謎を解くために命を造り出す”という究極の矛盾そのものであるプリムラは、度重なる試行錯誤の中で偶然生まれた奇跡の産物なのだ。
 当然代替えなどない唯一無二の存在であり、その価値・希少性を考えれば、人間界で無駄な時間を過ごす暇など無いはずだが、当初プリムラは有り余る魔力をただ垂れ流すだけで、その制御が全く出来なかった。
 そのまま無理に魔法を使わせれば、最初の実験での悲劇を繰り返すことは誰の目にも明らかであったため、ごく簡単な検査と実験以外は行わずに、プリムラの成長を見守る事になったのだろう。

 そのプリムラが、稟とのふれあいの中で精神的に著しい成長を遂げ、ついには魔法制御にも成功してしまった。
 そのため、本来の目的である実験は再開される事になり、稟とプリムラは引き離される結果になった。

 それを運命だと諦めるプリムラと、その運命にすら抗い、消された記憶〜プリムラとの想い出を取り戻して見せた、稟の強固な意思を対照的に描いたエンディングは、かなり心に響くものがあった。

 この直後、稟に選ばれなかった土見ラバーズが、神界に行ってみんなで一緒に結婚すれば問題ないと、話のオチをすり替えなければ完璧だったのに(笑)。
 また、2世界の王が失念しただけなのか、リシアンサス・ネリネルートを除いた9月2日に、彼ら自身が稟に勧めていた世迷い言〜一夫多妻制の神界での結婚話を娘達に言われ「その手があったか」と驚き笑いをとっていたが、本来なら「すっかり忘れてた」となるべき所。
 そう、この土見ラバーズの話以降こそ他のルートに振り分けるべきと思えたもので、余韻もなにもぶち壊しになっているのはいただけない。

 このルートは亜沙シナリオを攻略済みか否かで、受ける印象が違うと思う。
 亜沙は、実験体1号だった母・亜麻から中途半端に強い魔力を受け継いだ、ヒト族と魔族(実験体)とのハーフだ。
 魔力を貯めておける許容量が少ない肉体に生まれ、制御しきれない魔力の負荷から長年苦痛を強いられてきた亜沙の話を知った後では、将来稟とプリムラとの間に子供を授かった場合、その子が同じような苦労を強いられる可能性は否めず、素直にハッピーエンドと喜べない複雑な心境になってしまうことだろう。

 創られた存在、故に親はなく、だから感情を表す方法を知らない、必要も感じなかったプリムラ。
 リコリスは、そんなプリムラにとって唯一心を許せる存在だった。
 稟を訪ねて人間界へと来たこともまた、リコリスとの繋がりを求めた結果だった。

 稟に惹かれ、豊かな感情を手に入れて、生き生きと輝きだしたプリムラは、とても魅力的だった。
 これは、シナリオ終盤になってどんどん重くなっていった他のルートと、いい意味で好対照だといえる。

 そして、人も羨む稟の立場のスケープゴート的な存在でしか無いと思われた樹が、本当に頭がいい…というか、掛け値なしにずる賢いことを理解できるシナリオでもあり、彼が真に稟の友人だった事を確認できるシナリオでもあった(笑)。

 【プリムラ】は、桜草科桜草属の可憐な花から。
 この名はセイヨウサクラソウの総称でもあり、日本に自生する桜草は含まれないらしい。
「primos(最初)」が語源で、 早春に花が他に先駆けて咲くことからきているという。

 彼女が初の人工生命であることに準えたネーミングであり、ひいては良くキャラクター性を表した名であったと思える。
 また、プリムラには「可憐」の他に、「素朴」と「永続する愛情」という花言葉があり、これもまた愛らしい彼女のイメージによく合ったものだと感じた。

(総評)
 冒頭でも述べたが、本作はファンタジー仕立ての物語である。
 謎かけはそれなりに多かったが、敵対する組織などの影ひとつなく、躍動感あふれる冒険もなく…活劇とおぼしきエピソードがひとつもない、ほのぼの学園ラブコメである。
 これはこれで大変ご機嫌にプレイできたのだが、かなり食い足りない部分があったり、未消化があったりと、問題点も様々にあった。

 総合的に10点評価するなら、大盤振る舞いで6点は付けても良いかと思える。
 では足りない4点は、どんなものだったのだろう。

 まず先に挙げておきたいのは、ヒト族が見出したという錬金術についてだ。
 何がいけないって、本作では学園創設の礎のひとつであり、当然必修科目でもある錬金術が、作中でまったく活かされてない。
 主人公やヒロインが興味を示していない為か、言葉だけが一人歩きして、肝心のシナリオには絡んでこないのだ。
 ならなぜ、わざわざそんなものを持ち出したのだろう?

 少なくともシナリオの中で2世界の王達は、人間界の技術力を高く評価しており、特に日常生活をより快適にしてくれる『家電品』にはいたく感心していた。
 つまり人間界は、異世界の魔法文化圏よりも遙かに科学技術が発達した世界であるという点で、2世界との差別化が出来ており、錬金術という「お約束な名称」など蛇足以外の何物でもなかったのだ。
 実際、錬金術関連のエピソードが無くても、シナリオに何の支障も来さなかったぐらいだし。

 もしこの錬金術が、続編の布石にするつもりだったのなら、せめて授業風景ぐらいは出しておいた方が、作品としても、バーベナ学園としても体裁がよかっただろうと思えてしまった(笑)。

 先述のとおり、本作は各拠点の位置関係がかなり把握しにくい点も、大きなマイナスポイントだ。
 加えて言うなら、進行中のシナリオが何時頃のことなのか、すぐに見当つかない場面もかなりあった。

 キャラクターに関して、2世界の王達がこちらの文化に寛容で贔屓目なのは結構な事だが、彼らの生活習慣や文化的な差異を窺う事が出来ず、外見と魔法を使う事以外で「神族らしさ・魔族らしさ」がまったくみられないのは、残念でならない。

 せっかくの機会だからと、気に入った国の特色を真似て楽しんでいるのだとしても、それは表面的に過ぎない事で、本質的な部分が見落とされているのではないだろうか。
 「郷に入っては〜」だとしても、王族の彼らが自らの誇りを曲げて、こちらの文化に媚び諂う謂われはないはず。
 海水浴でのイベントで、2世界のプリンセスから神界の海はこちらほど塩辛くないとか、魔界の海に波がないという話が聞かれ、僅かでも見知らぬ異世界の様子を窺い知ることができたぐらいだ。
 たまたま神界や魔界が、人間界とよく似た文化や価値観を持っていたとするならば、そういったフォローも作中でなされて然りだと思えたのだ。

 また、2世界の種族は、陽気な性格とかしっとりと落ち着いているといった独特の雰囲気で、ヒト族にもある程度判別がつくものらしいが、それでもネアカ爆裂娘の麻弓や亜沙のような破格の例外や、雰囲気だけなら神族にも見えてしまう亜麻が居ては、見た目で判断など不可能だ。

 神族はカレハが、魔族ではネリネが種族の特色を強く反映したキャラクターとして描かれているため、作中での種族的な表現はある程度成功しているわけだし、角や翼などと安直な事は言わないが、耳の長さや目の色などのビミョ〜な差だけでなく、もう少しビジュアル的に見分けがつきやすい方が良かったのではないかと思えた。

 亜沙・楓ルートに共通する問題点のひとつに挙げたが、異世界から稟の心を射止めるためだけにやってきたリシアンサスとネリネが、最終的にどう決着を付けたのかが語られていないという点がある。

 普通に考えると、稟と同居していて、美人で器量良しの幼なじみの楓が有利なのは当然だ。
 ではなぜそんな状況にも関わらず、2世界の王は悠然と構えていたのだろうか。
 それは稟が誰とつき合おうが、最終的に自分の娘を娶ればそれで良しとしているからに他ならない。

 自分の娘以外が彼女に選ばれた時も、ストイックな稟がちゃんと“女性に興味を持っていた事”に安堵して、「0」が6個も付く高価な酒で祝っていたぐらいだ。
 この件では、リシアンサスとネリネ以外のヒロインルートで、2世界の王が稟に対し一夫多妻の構想を愉しげに語り明かすのだが、プリムラルート以外ではこの話は立ち消えになってしまい、後日談などでフォローされる事もなかった。
 一夫多妻を稟(と彼に選ばれたヒロイン)が承諾したとか、逆に稟に拒まれて神界・魔界に帰還したという話も一切でてこないのだ。

 憶測だが、2世界の王達は自分の娘達の事となるとあまり他人の話を聞かないフシがあり、この場合も稟の主張など意に介さず、結果的にごり押しされたのではないかとも思われるが、これを裏付けるような話があったわけでもない。

 好意的に解釈するならば、プリムラルートのエンディングが総合的な答えに当たり、その他のルートエンドもこれに準じたものであるとしたのだろう。
 だが、各ルートエンドの全てが、そうした結論に達するように誘導されているわけではなかった。

 仮に全ルートが最終的に、2世界の王の与太話どおり『稟が一夫多妻制である神界で複数の妻を娶る』結果になったとしても、各ルートでそれぞれのヒロインが選ばれた結果として、向かうべき未来の形は異なるわけだし、最初に選ばれたヒロインが第一王妃(でいいのか?)となる可能性が高いだろう。
 そう考えただけでもリシアンサスやネリネ、プリムラの各ルートで情報補完することなど意味がない。

 また、神界での結婚に際しては体裁上、自国の王女であるリシアンサスを第一王妃に、ネリネを第二王妃に迎え、第三王妃以降に楓や亜沙やプリムラを迎える事が望ましいというのなら、独身時代最後の思い出に自由な恋愛を楽しむ時間が与えられただけで、はなから稟には選択の余地などなかった事になる。

 ならばなぜ、リシアンサスとネリネは不慣れな人間界に来て、稟に選んで貰えるよう努力したのだろう?
 それこそ、稟を神界なり魔界なりに連れて行き、ゆっくりと籠絡すれば余計な手間も省けるだろうに…

 まあ極論はさておき、『門』により互いの世界を行き来できる設定でありながら、婿に迎るべきヒト族の稟が、最後まで他の世界への見識を持たないまま終わってしまった事は大変に残念である。
 まさか、稟を“3世界の王”に据えた挙げ句、この人間界から見知らぬ2世界を統治させる気だったわけでもあるまいし。

 これは次回作の課題…だと思っていたら、本作の続編として登場した「Tick! Tack!」は、ものの見事に魔界での物語だった。
 やはり制作サイドでも、魔界や神界の話を描きたかったんだねと、ほろりときてしまった(笑)。

 もうひとつ、リコリスの寿命について、ネリネルートとその他のヒロインルートでは、得られる情報に違いがある。
 過度に実験を繰り返したために寿命を縮めたとするネリネルートに対し、他ルートでは確立されてない技術で複製したため、元々寿命が短かったのだろうとされている点だ。
 実験体1号の事故を伏せた経緯と同じく、一般には公開したくない内容であったため、技術的な問題だったという当たり障りのないものにすり替えて話しただけなのだろうか。

 もしそうだとしても、リコリスが深く関わっているプリムラルートで得られる情報も、複製技術の問題となっていたのだ。
 実験で寿命を縮めたと話したのはネリネであり、複製技術の問題だと話したのが2世界の王。
 リコリスは実験の犠牲になったとネリネが感じていて、その意味を込めて稟に話した根拠の無いものなのか、それともこれが真実だったのか、些細だが結論が見えずとても気になったものだった。

 色々と問題点ばかり書き並べてきたが、本作はとても魅力的な作品であることに違いはない。
 情景はやや描写不足であるものの、キャラクターに関してその描かれ方は秀逸で、本作と次回作二本きりで終わらせるにはとても惜しい人物ばかりだ。

 シナリオにおける位置づけなども絶妙で、脇役が主役を食うほどの勢いを持つ個性的すぎる面はご愛敬だが、メインキャラ達も負けずによくキャラが立っており、「これは誰の話?」などといった間の抜けた状況にならなかったのは見事だった。

 そんな作中で、もっとも地味に描かれていたのは、案外主人公かもしれない。
 けっして没個性ではないのだが、強烈にして華やかすぎる周囲に埋もれ、稟ならではの持ち味や特徴などがさほど浮かび上がらず、「物語の中心にいる主人公」として常にヒロイン達との掛け合いがあったからこそ、存在が希薄にならずに済んだともいえる。

 学業の成績は人並みで、我慢強さ以外に取り柄もなく、居候なのに家事は全くダメで手伝いひとつ満足に出来ない。
 稟の世話を生き甲斐としている楓に手出しすることを完全に拒否されているため、身に付く機会さえない状況であり、これは亜沙シナリオにおいての最後の口説き文句としても利用されていた程。
 「誰かに世話して貰わないと生きていけない。一人になったら二週間で遺体になる自信がある」
 こんな、台詞だけ聞けばヘタレの烙印を捺されそうな主人公だけど、見ていて全く嫌みが感じられないのは、なかなか貴重な事なのだ。
 もっとも、好感が持てるかとは別問題なのだが、土見稟は2世界のプリンセスが想い続け、また楓が生涯の愛を貫こうと決心するに充分足るほどの人間味をもった人物であったと感じられただけに、もう少しだけ存在感が欲しかった所だ。

 さて、各個別評の末にも書いたとおり、キャラクターの名は植物に由来している。
 稟の悪友・緑葉樹や担任の紅薔薇撫子などは、まったく説明不要だろう。

 一部の趣味・趣向の人々の人気独占(自称)な麻弓は、名をニシキギ科の落葉高樹である【檀(真弓)】に、姓の【タイム】はタチジャコウソウとも呼ばれるハーブの一種に由来し、この植物は薬から食用まで幅広く利用される人気者だ。
 また人物ではないが学園名の【バーベナ】も、クマツヅラ科バーベナ属の植物に由来しており、美女桜という雅な和名を頂いている。

 余談だが、次回作にようやくその御名御姿が登場する神王と魔王のお后方、時間を遡った過去を題材にしている様なので敢えて候補と呼ぶが、ヒロインとして登場するセージ・アイ・サイネリアも当然植物由来である。
 由来については次回作のレビューに譲るが、ここまで徹底してネーミングされているのに、本作の主人公・土見稟は…といえば、困った事に姓にある「土」ぐらいしか植物との関連しそうな物がなかったのだ。

 【稟】は一応、“りん”として調べると「穀物を入れる倉」という意味があり、搾取したものを詰め込むだけなら、こちらの意味は不要だろう。
 “ひん”というよみでは「上からの命令」〜シナリオそのまま(笑)な意味の他に、「天性の性質」という意味がくみ取れる。
 なるほど、都合解釈ではあるが、2世界の王が娘の事を抜きにしても、稟を気に入った理由がここにあるのかと思えた。

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