携帯電話
後藤夕貴
更新日:2005年8月7日
 わざわざ言うまでもない事だが、携帯電話はすでに世界中に広がり、すっかり生活と結びついた。
 今では、携帯電話を持っている事が前提というサービスも多くなり、また様々なコンテンツの閲覧やアプリケーションの利用も出来、機種によってはテレビやMP3プレイヤーとしても利用できるようになった。
 デジカメ機能など、もはやあって当然のもので、性能差はあれど、いずれの機種もそれなりに活用できるようだ。
 「通話が出来る」という本来の用途が、まるでオマケ機能の一つになってしまったかのような、性能の充実ぶり。
 そのあまりの進化に、筆者はもう「携帯電話」とは呼称せず、「ケータイ」または「携帯端末」と呼ぶようにしている。
 端末、だと別な機器も含んでしまう事になるが、まあ口頭のやりとりであれば、たいがい意味は通じるだろう。
 という訳で、今回は携帯電話の話なのだが、以下はあえて「携帯」という単語で統一させていただきたい。


 そんな便利な携帯だが、なぜかいまだに持とうとしない人達が大勢居る。

 買っても使いこなせない、機能をもてあます、まだ納得のいく性能の機種がないなど、人によって色々な理由があると思うが、たまに「携帯を持つのは自分のポリシーに反する」という、少し変わった考えをお持ちの方がいたりする。
 以前、筆者は「まあそういうのもアリかな」とも思っていたのだが、どうも最近はそれでは済まなくなってきたように感じる。
 てっとり早く言いまとめてしまえば、「ポリシーに関係なく、携帯(またはPHSなどの擬似性能端末)は、全員が所有するべき」という考えが出てきたという事。
 というより、いずれはそれ以外選択肢がなくなるのではないかとも、真剣に思っている。


 近年、国内での犯罪発生率が上昇し、特に一般人に対する無差別犯行が多発するようになった。
 また、昔に比べて治安が悪化してきたという地域も多いようで、数十年前とはまったく違った心構えで生活をしていかなくてはならなくなった。
 つまり、警察や自治体に頼らず、自分自身で犯罪への対策を持たなくてはならなくなったと言っていい。
 その対策のためのツールとして、携帯はとてもありがたい存在なのだ。
 子供が犠牲になる誘拐殺人事件も、最近やたらと多い。
 また、犯罪として立件されていなくても、おかしな輩にいたずらされたとか、ケガを負わされたなどという細かな(しかし恐ろしい)出来事もよく耳にする。
 こういう事を避けるため、自分の子供に携帯を持たせる親が増えている。
 何かあれば親や警察にすぐ連絡できるようにしておけば、対策を立てやすい。
 これは、ごく普通の考え方だし、実際にそれでいくらか安全を確保できるだろう。
 だが、ここで先のような「携帯を持たないポリシー」というものが出てくると、話がややこしくなり始める。

 携帯を持とうとしない人が抱いている理由の中で、もっとも耳にするのは「携帯なんかなくても生活に困らない」というもの。
 また「携帯を持つ事で、他人に干渉されやすくなるから嫌」「携帯の料金が高いから払いたくない」「無駄に機能が多すぎる」などというものもある。
 料金が高いから云々というのはまだ可愛いものだが、「生活に困らない」というのはどうか。
 確かに、特定サービスやどこでもネット接続できるメリットなどは、万人に求められている利点ではない。
 しかしそれは、先のように「犯罪に巻き込まれた時」に最大限に効果を発揮するという特性を、完全に見失っているのではないだろうか。
 こういう考えに囚われている人は、自分の関係者にも、似たような思考を強要する傾向がある。
 例えば、子供に携帯を持たせるなんてもったいない! などという、驚天動地な思考パターンの人が居たりする。
 そういう親御さんは、子供の安全よりも料金の方が大事なのだろうか?
 或いは、携帯を持たせて好き勝手に乱用されるのを恐れているのか?
 子供の携帯の設定を親が行い、機能を制限して使わせたり、厳しく言い聞かせて無駄な使い方をさせないようにするという手段だってあるのに。
 犯罪に巻き込まれ、「やっぱり携帯を持たせておけばよかった」などと後悔しても遅すぎる。
 だが、こういう考えの人は、実際に多く存在している。


「携帯を使っていると、ペースメーカーを使っている人に迷惑をかけてしまう」という、もはや都市伝説にも等しい噂話を掲げて否定する人も居る。
 意外に知られていないことだが、携帯がペースメーカーの機能を狂わせるという事は、ほぼありえない。
 というより、携帯普及初期に囁かれた問題点が、いつまでも改善されないまま今日に至る筈がない。
 こんなものは、とっくに見直され、改善されている。
 携帯の電波でペースメーカーに影響を与えるには、約12センチ(PHSの場合は約3センチ)以内の距離に近づけなければなければならないそうで、ペースメーカー使用者が自分の衣服のポケットに入れてでもいない限り、まず影響は起こらない。
 まったく影響がないとは言い切れないだろうが、こんな条件は、ごく普通の常識的な生活の範疇では絶対に起こりえないシチュエーションだ。
 明らかに、ペースメーカーを使用している相手に対する殺意でもない限り、行われる事はないだろうし、今後より改善されていくだろう事は火を見るより明らかだ。
 しかも、これは2002年の時点で行われたシミュレーションの結果であり、現在はこれがさらに改善されている。
 ペースメーカー自体も電磁波対策を施されたものが開発・製造されているそうで、中には携帯が密着しても大丈夫というツワモノもあるらしい。

 ペースメーカーとは、「心臓の鼓動の有無を監視し、鼓動がないと判断した時に電気信号を送り、鼓動を補完する」といった機能を持つ機器だ。
 ところが強い電磁波の影響を受けると、実際は心臓の鼓動が届いていないにも関わらずペースメーカーは「鼓動を感知した」と誤認識してしまい、電気信号を送り込まなくなってしまう。
 その結果、使用者にとんでもない影響が出るという。

 ただ、こうして理屈を知ってみると、携帯以外にもペースメーカーに影響を与えそうな物が沢山存在する事にも気付かされる。
 近年需要が爆発的に増えてきた「無線LAN」なども、なんだか問題がありそうに思えるが、実際は、多くの病院で無線LANによるネットワーク構築は行われている。
 つまり、こちらについても入念な実験や調査・改善が行われているわけだ。

 もっとも、だからと言って携帯使用マナーを破ってもいいのか、というのは別な問題で、やはり使うべき場は見極めるべきだろう。
 ここで強調しておきたいのは、あくまで「携帯が医療機器に影響を与える」という噂話を鵜呑みにして、それをアンチ携帯の材料とするのは間違いだ、という事だ。

 また、子供に携帯を持たせる事はあっても、自分は使わないなどという、本末転倒な人もいるそうだ。
 子供が親にダイレクトに連絡できなくて、何の携帯だろうか?
 家族単位で携帯を利用すれば、料金が格安になるサービスが豊富に揃っているという事を、アンチ携帯派の人はほとんど知らない。
 場合によっては、個人あたりの支払いが半額くらいまで減るものだってあるのに(…まだ、あった、よなあ…確か)。
 親が子供に携帯を持たせない、という事に対するメリット・デメリットというものを、一度じっくり考えてみれば、おのずと結論は出るはず。
 先に「携帯を全員が所有するべき」というのは、こういう背景もあるからだ。
 筆者は、アンチ携帯派の人から、これまで一度たりとも「携帯を持たない事に対する、納得できる理由」を聞いた試しがない。
 なお、失語症の方や会話能力が不自由な方を引き合いに出して、携帯の不必要さを唱えるのは論外である。
 筆者の知人でも、一時期失語症を患っていた人が居るが、その人は携帯を不便がるどころか、メールで頻繁に連絡を取る事が出来たため、むしろ大変重宝したそうだ。

 2004年6月から、車などの運転中に携帯で通話する事が法律で禁止され、明確な罰則が設けられた。
 これにより、運転中はリアルタイムで連絡のやりとりが出来なくなってしまったわけだが、これを持ち出して「それじゃ使う意味がない」と唱える人もいる。
 だが、それもまた大きな誤解だ。
 イヤホンマイクを使用したハンズフリー機能もあるし、また外付けのマイクとスピーカーセットを用いる事で、携帯に手を触れる事も、イヤホンをする事もなく使用できるようになったのだから。
 また、先の例のようにメールを使うという手段だってある。
 どこかで短時間車を停め、後で掛け直す旨の連絡をメールで行う。
 それだけで、連絡はスムーズに行える筈だ。
 それに、一日のほとんどを車の運転に費やし続ける人は少ない。
 運転時間が多い人も、実際にはそれぞれで工夫して携帯を使いこなしている。
 つまりはこれも、デメリットのうちには入らないのだ。


 犯罪対策以外にも、携帯を持たない事によるデメリットの話はある。

 これは先日、筆者の職場で本当にあった話だ。
 別な部署(営業)で、あるトラブルが発生していた。
 それは、大事な用件の詳細を抱えている社員の一人と、連絡が取れないというものだった。
 その社員は外回り中だったのだが、どうも担当顧客からの問合せがあったらしい。
 にも関わらず、その社員は「携帯を持たないポリシー」があったため、行き先が判明していない限りは会社側から連絡する事は出来ず、向こうからの定時連絡待ちしかなかったのだ。
 具体的な内容までは筆者は知らないが、随分重要な内容の問合せだったらしく、他の営業担当は必死でその社員を探し、また顧客にひたすら詫びを入れていた。
 どうも、会社から支給される「業務用携帯」すらも使用していなかったという徹底振りらしい。
 当然、営業内では、その社員が携帯を持っていない事に対する不満と文句が炸裂しまくっていた。
 その社員が戻ってきてから、実際にどのようなやりとりがあったかまでは知らない。
 しかし、「担当者は携帯くらい持っているだろう」という前提で連絡してくる顧客に対してこの姿勢では、業務失格の烙印を押されても文句は言えまい。
 かといって、顧客相手に「私は携帯を持ちませんので〜」などと言ってしまったら、それこそ常識を疑われる。
 これは、すべての業種に当てはまるものではないと思われるが、このように、各人が携帯を持っている前提として動いている世界は、間違いなく存在する。
 そんな中に、ふとアンチ携帯派の人が入り込む事になってしまったら…これはもうポリシーを変えるしか手はないのだ。


 実は、筆者の周りにも、かつて強烈なアンチ携帯派の人達が大勢いた。
 だがそれらの者は、ほぼ例外なく「料金が高い」という理由が根底にあり、それを別な言い訳で覆い隠していたに過ぎなかった。
 だから、紆余曲折あって実際に使い始めてみたら、なんのかんので対応しきってしまった。
 料金に対する問題もなくなったらしく、今ではごく普通に携帯を利用している。
 また、誰一人として携帯を解約し、その後まったく使用していないという者は居ない。
 よく言うところの「使ってみればわかる」というものなのだ。


 …が。
 では携帯を使おうと考えたとしても、実際にどの機種を選ぶべきかという問題がある。

 携帯初心者なら、多分どんなものを買ってもある程度満足できるだろうが、例えば「ネットを自由に見たい」とか「ゲームもやりたい」といった明確な目的を持っている人の場合、機種選択は必要不可欠になる。
 ここまで沢山の機能を搭載してしまうと、たいがいにおいて「ほぼ満足なんだけど、どうしても納得できない部分がある」という事態に陥りやすい。
 だから、妥協するにしてもせめて「納得できない部分」の比率を下げられるようなものを選ばなくてはならない。
 また、通話とメールだけに機能限定している人でも、住所録の表示や文字の入力のレスポンスなどを把握しておかないと、咄嗟の時に満足に使用できないケースに陥りやすい。
 今や携帯に限った話ではないが、とにかく、充分な下調べは必要になる。


 ここでオススメなのが、「2ちゃんねる」だ。


 2ちゃんと言うと、ネット界の無法地帯というイメージをお持ちの方も多いようで、また個人サイト内では関連表記を避けるべき、という風潮もある。
 それは半分正解で半分間違いなのだが…
 しかし携帯などの下調べをするにあたり、ここ以上に有力な情報を得られる場は、まずほとんどありえない。

 2ちゃんねる内の家電製品カテゴリ内「携帯・PHS板」では、あらゆる機種の情報が述べられており、実際に使用した人の意見が率直に記されている。
 もちろん、すべての書き込みが100%有力ではないが、じっくりと読んでいくと、その機種の全貌がだんだんとわかってくる。
 店頭などでカタログを貰ったり、実際にモックを手にしてみて気に入った機種が見つかったら、まずはそれについて調べるべきだ。
 発売前のものでも、意外に分析情報が集まっている事がある。
 これらを見て判断する事で、気に入った機種が「実は見た目だけ」だったと気付かされる事もある。
 この「携帯・PHS板」の情報密度は大変濃厚なので、是非活用するべきだ。
 もちろん、機種ごとにアンチが居たりするので、閲覧者自身による正しい情報の選別は必要になるし、どの機種にも問題は必ずあるのだから、妥協点は見出さなくてはならない。
 さすがに2ちゃんでも、完全無欠の機種を見出すのは不可能なのだから。


 ちなみに筆者は、2005年8月現在auのW21SAという機種を使っている。
 これは五台目にあたり、購入した2004年8月の時点では、最強の性能を持つ機種だった。
 さすがにそれなりの値段はしたが、パケット(ネット利用)料金が定額制だし、着うたも登録できるし、Brewを利用したゲームも可能という事で、大変に重宝している。
 だが、購入直後に「着うたフル」という新機能搭載型が登場し、また意外にバッテリーが長持ちしない事にも気付かされた。
 さらに、側面部の端子カバー(ゴム製)がやたら汚れやすく、すぐに黒ずんでしまって洗浄漂白不能という苦い問題にも気が付いた。
 現在では、最悪の場合一日二回充電する事もあるほどだ。
 しかし、それでも個人的には充分役に立っているし、今ではすっかり慣れてしまって問題とも感じられなくなってしまった。

 …が、先日、某所でこれが1円販売されているのを見て、激しく落ち込んでしまったりした(笑)。
 嗚呼、二万円近くも払ったのになあァァァ〜〜。
 

 1円で購入可能な携帯も、今となってはかなりの性能を持っているものが多い。
 アンチ携帯派の人にも、これからの事を考え、是非携帯を所有する事をオススメしたい。
 使ってみれば、想像より何倍も便利なものである事が、絶対にわかる筈だから。

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