「GetRide!アムドライバー」という、2004年度放映のテレビアニメがあった。
これはかのコナミがスポンサーで、テレビ東京系だったために放送されていない地域も結構あったようだが、とにかく関連商品の販売ペースが凄まじく、玩具者にとってはこの上なくおいしい作品だった。
――らしい。
いきなりなんだけど、筆者は見てないのよ、コレ。
なんでも、刑事とF1レーサーと覆面プロレスラーが、秘密組織○ドの襲撃に巻き込まれて死んでしまい、警察庁科学班が彼らを改造、サイボーグ刑事として蘇らせ、それぞれのメカとサイボーグが合体して、奴らの企みを鋭く見抜けマイフレンズジャックオンする物語との事だ。
いや、一部誤解や間違いがあるかもしれないが、いずれ本格的に調べるので、ここはどうかご容赦いただきたい。
それはともかく、このアムドライバー、一年スパンの作品だった割には、とんでもない数の玩具が発売された。
まず、アムドライバーの基本的な構成から説明しておこう。
主人公達は「アムジャケット」と呼ばれる特殊スーツをまとい、様々な武器や道具を装備して戦うが、各人に「バイザー」と呼ばれる移動メカが与えられており、これに搭乗する事で大きな機動力と戦力を得る。
さらに、このバイザー各種は変型してアムジャケットに装着され、あたかも巨大なパワードスーツを着込んだような外観になる。
この状態を「ブリガンティモード」と呼称する。
玩具は、基本体となる「アムジャケット」と、その武器をまとめた「強化武器セット」、さらに「バイザー」と三つのカテゴリに分別して、それぞれのラインナップを充実させていった。
もちろん、バイザーや武器は互換性がある上、バイザーに強化武器を搭載させる事も可能。
中には、武器セットとアムジャケットがセットになったのもあるが、これは商品名に「DX」の表記が付き、より豪華なボックスで発売されていた。
…なぜか、価格は「アムジャケット」+「強化武器セット」>「アムジャケットDX」になっていたが…
このように、アムジャケットに様々なバイザーをジャックオンさせたり、沢山の武器を持たせるというのが最大のポイントになっていたのだが、カテゴリそれぞれに相当な数の商品があるため、フルコンプするのは並大抵のことではなかった。
例えば、アムジャケット。
メインの主人公達5人(ジェナス・ラグナ・ダーク・シーン・セラ)に、敵役(後に味方になる)ニルギースが身に着ける「アムジャケット」、そして、後に登場するネオアムジャケットで、計12体。
これが、全体の中核に相当するもので、装着変身でいえば「素体」にあたる。
ここに加え、旧ジャケットでは玩具化しなかったタフト、物語途中から敵に寝返るアムドライバーとしてロシェット・K.K、さらに敵キャラ・ディグラースの三体のネオアムジャケットが加わり、計15体。
さらにさらに、限定版のアムジャケット(各人の素顔頭部パーツ付)四体や、トイザらス限定「ネオクロスバイザー・スペシャルセット」に付いて来るブラックバージョンのネオジェナスとネオラグナ、トドメに最終形態・ジェナスZEAMが加わると、なんとそれだけで計23体にも達してしまう。
バイザーは、各キャラごとに代表的な機体が複数あるので、総数はとんでもない数に達する。
ボードバイザー、モトバイザー、エアバイザー、エッジバイザー、ランスバイザー、クロスバイザー、ジャイロバイザー、ストームバイザー、ランドバイザー、モノクルバイザー、ネオクロスバイザー、ネオボードバイザー・ソードダンサー、同・ガンシンガーと13体も存在し、さらに加えてバグフレイムという、敵側のメカも商品化しているから、計14体。
これらは、それぞれ定価が2000円台〜3000円台くらいなので、総額がどれくらいになるか、考えただけでも恐ろしい。
また、後に詳しく述べるがネオクロスバイザーはトイザらス限定のセットが存在し、こちらは(他の商品もまとめられているとはいえ)定価10,000円もする。
強化武器セットは、それぞれ数百円という単価だが、それだけで18種類も出ている。
ざっと数えただけで、主力商品群は50種類を超える!
限定版を度外視したとしても、恐るべき数だという事がおわかりだろう。
バンダイの「魔法戦隊マジレンジャー」の主力玩具(なりきり系&ロボット系)をざらっと数えても、この半分にも満たないだろう。
単価の問題を考えなかったとしても、これがたった一年の放映期間中に発売されたというのだから、どれほど恐ろしい販売ペースだったか、容易に想像できるだろう。
さて、番組が終了すると、関連商品の安売り(叩き売り)が行われやすくなる。
これまでも、あらゆる商品が思わず笑っちゃうくらい格安な値段で投売りされてきたわけだが、このアムドライバーも、その対象になってしまった。
主にトイザらスで行われた叩き売りは凄くて、バイザーが300円から、アムジャケットも300円から500円くらいになってしまった。
やはりというか、主役ジェナスの関連商品や、番組終盤に発売された最終バイザーなどは見かけられなかったが、ギミックが単純だったり、ちょっとクセのある構造のバイザーはかなりの間残り続けた。
エアバイザー、ランスバイザー、ランドバイザー、モノクルバイザー、クロスバイザーのような、あまりかっこいいとは思えない(マニア的にはかっこいい物も含まれるが)商品がよく見かけられた。
ネオクロスバイザーも残っていたが、これは結構いけそうなアイテムだと思うんだけどなあ…アムジャケットが実質二体必要なのが祟ったのかな。
▲ ランドバイザー・ブリガンティモードとアムドライバー・セラ
そんなこんなで、この叩き売りは「元々欲しかったんだけどなんとなく割高感があって」と退いていた玩具マニアを歓喜させた。
その中で、最大の注目を浴びたのが、これ…「トイザらス限定・ネオクロスバイザースペシャルセット」だろう。
▲ ネオクロスバイザー 手前は余剰パーツ利用の「フェンリル」キャノンモード
これは、ブラックバージョンのネオアムジャケット・ジェナスとラグナ、それぞれの強化武器セット(限定カラー版)、ネオクロスバイザーがセットになったもので、60×42×11センチにも及ぶ超巨大な箱に入れられていた。
ネオクロスバイザー単体の商品にはアムジャケットが付属しないので、これを買えば必要なものはすべて揃うわけだ。
大変豪華なのだが、実質1,000円ちょっとくらいしかお得感がないという、なんとも評価の難しい商品だった…のだが、夏辺りから、これが1,000円まで値段を下げられた。
10,000円が、1/10になったのである。
争奪戦が展開しない筈がない(笑)。
また、ネオクロスバイザーのブリガンティモードは、他のバイザーと別格のプレイバリューを持っていた事もあり、皮肉にも番組終了後に再評価される羽目になった。
そしてこのセットが、これまでアムドライバー商品を警戒していた人達を一気に惹き付け、それ以外のアイテム群にも目を向けさせる要因となったのである。
ええ、筆者もその「惹き付けられた一人」ですけどね、ええ(笑)。
で、番組終了後にアムドライバー玩具の良さを味わうファンが増えたようなのだが、ここで、本放送当時から関連玩具を集めていた真のファンとの、貴重な意見交換の場が必要になってきた。
▲ 左・ランドバイザー・ビークル形態 右・ネオクロスバイザーの片割「ファーブニル」
というのも、叩き売りされているアムドライバー商品の一部に、深刻な“製品上の問題”が含まれていたからだ。
実はアムドライバー玩具の初期のものは、その出来の悪さから相当に叩かれていた。
これは、造形やプレイバリューの大小の問題ではない。
商品の耐久性や、関節強度が全然ダメだったのだ。
アムドライバー玩具は、共通コンセプトとしてクリアパーツが多用されている。
これは、本編内設定「アムマテリアル」というものの再現の意味もあるのだが、細かいことはともかく、外観上の大きな特徴だった。
だが、そのクリアパーツの表面に無数の傷が走っていたり、やたら汚れていたりするものがあった。
また、肝心のアムジャケットは関節強度が全然足りておらず、まともに立たせる事すら困難なほどにゆるいものだった。
そのため購入者は、それぞれで関節強度を稼ぐ改造を加えない限り、遊ぶどころか飾る事も出来なかった。
変型したバイザーはパワードスーツのような姿になるが、基本的な関節部分はすべてアムジャケットのものに依存するため、装着後は余計に負担がかかる。
それなのにはなっからプラプラでは、話にならない。
かと思うと、関節に瞬間接着剤を垂らしたり、両面テープをはさんで強化を図ると、その関節を受ける部分がひび割れ始めるケースも出てきた。
筆者の持っているラグナは、当初指で軽くちょんと突いてもプラプラするほど足首関節が軽く、両面強化を施した直後、肘関節周囲に大きな亀裂が走った。
これら諸問題は、アムジャケット・ニルギース発売の頃に改善され始め、その後に出たネオアムジャケットシリーズでは全般的に解消されたのだが、とにかくひどいものだった。
叩き売りされていたすべての商品に当てはまる問題ではなかったが、これらは、「叩き売られても仕方がない」と思わせるほどのものがあったわけだ。
ただし、玩具を発売順に観察していくと、なかなか面白い一面が覗けたりもする。
先の関節強度改善もそうなのだが、少しずつ商品レベルを高めていこうとする兆しが読み取れるのだ。
例えば、クロスバイザー→ネオクロスバイザー。
▲ クロスバイザーを構成する二体 手前のは敵アムドライバー・ロシェット
▲ クロスバイザー・ブリガンティモード。なぜか使用者はラグナ(旧ジャケット)
クロスバイザーは、従来なら単体でブリガンティモードに変型するコンセプトを変更し、二体のバイザー(ボード型とバイク型)が合体して一体のブリガンティになる、という画期的なアイデアを盛り込まれた。
だが、上半身を構成するライトバイザー・エキドナの大部分が余ってしまい、ブリガンティモード後はもう一体のアムジャケットをのっけておくだけの「容器」になってしまった。
また、ブリガンティの両腕(注:アムジャケット自体の腕ではない)が単なる凹凸ジョイントの差込だけで固定されているのに、妙に関節可動幅が大きいため、ポーズを取らせた途端にポロポロ外れ落ちてしまうという難点を持っていた。
これらの根源的な問題箇所は、後継機ネオクロスバイザーになったら大幅に改良され、それどころか大変な個性と魅力を生んでしまったのだ。
まず、ネオクロスバイザーは上半身を構成するライトバイザー・ファーブニル単独でもブリガンティになれるようになった。
▲ 左・ネオクロスバイサー「フェンリル」 右・同「ファーブニル」ブリガンティモード
さらに、もう一体のバイク型バイザーのパーツを利用する事により、もう一つの大型ブリガンティモードに変型合体できるようになった。
しかも、ただ単に下半身を装着したというだけではなく、それまで腕として使用していた部分と、ブースターパーツの配置をひっくり返し、ブースターを新しい腕に、前の腕をウイング状のパーツに変化させるという奇抜な策を講じてきた。
つまり、左右にそれぞれ二本ずつ腕が生えているような構造になるわけだ。
これにより、スタイリングはまったくの別物になるのだが、クロスバイザーではただの余りパーツになっていたバイク本体は、それ自体で巨大なライフルに変型し、さらに、ネオクロスバイザー・ブリガンティの背面に(アムジャケットを搭乗させたまま!)合体し、巨大な主砲になるというギミックを加えてしまった。
その結果、ネオクロスバイザーは三つのブリガンティモードを持つことになり、また最終合体時には、これまでのものとは一線を画するほどの大迫力に至った。
▲ ネオクロスバイザー最終形態「ザイフリート」砲撃モード
もはや、その姿は、人間が纏ったものという印象はなくなってしまう。
巨大ロボ…これはもう、全長数十メートルクラスのロボ的なイメージだ(笑)。
筆者はさすがにすべてのバイザーをいじった事はないのだが、このネオクロスバイザーは、恐らくシリーズ全部の中で一、二を争う優秀玩具なのではないかと考える。
この上、脚部の関節可動が“アムジャケット自体の関節に依存していない”という、驚くべき特徴も持っている。
玩具に興味のある人には、是非一度味わっていただきたい迫力なのだが、それ以前に、前のバージョンをここまでグレードアップさせる事に成功したという功績を、大いに評価したいと思う。
叩き売りを散々連呼しては来たが、アムドライバー玩具のすべてが叩き売られているわけではなく、中にはちょっとだけプレミアが付いているものもある。
それが、ジェナス最終形態「ジェナスZEAM」や、最終バイザー「ネオボードバイザー・ソードダンサー」と「同・ガンシンガー」だ。
これらは、ラストの商品という事もあり大変入手困難で、番組終了後参加のコレクターには高いハードルとなっている。
筆者も、いつかは手に入れたいと思っているが…はたして、いつになることやら。
ソードダンサーの、むやみやたらとデカい剣が、大変おいしそうなのよね(笑)。
え、さすがにもう厳しいって?
なお。
アムドライバー玩具全般にまたがる最大の問題点として、「箱のデカさ」というものがある。
トイザらスセットは別格としても、どの商品も妙にデカい箱にしまわれている。
恐らく、五つもバイザーを買ったら、かなりの収納スペースを求められるだろう。
2005年11月現在、まだアムドライバー関連商品を購入する事は可能だが、もしこれから手を出すのであれば、くれぐれも収納場所を充分に確保した上で、挑んでいただきたい。
→ NEXT
COLUM