鷹羽的ポーズ講座 その3 肉体の魔力
鷹羽飛鳥
更新日:2005年11月13日
 前回書いたとおり、アニメ作品にも名乗りポーズや変身ポーズがありますが、それを芸にしている人は少ない気がします。
 それはなぜでしょうか?
 
 テレビ版『聖闘士星矢』初期には、ほとんど全ての聖闘士達の必殺技に、モーションとして怪しい踊りが入っていました。
 これは、原作漫画で星矢が初めて流星拳を撃ったとき、“手がペガサス座の13の星を描くように動いていた”ことに端を発しています。
 つまり、『ドラゴンボール』なら「ハ〜〜〜〜〜ッ!」と周囲のものを砕き散らしながら気合いを溜めるところを、『星矢』では小宇宙を立ち上らせながら技のモーションをしているわけです。
 特に、キグナス氷河のダイヤモンドダストでは、両足を肩幅より大きく開いて腰を下げ、両手を鳥の羽のように羽ばたかせた後、バレリーナよろしく右足で立って上半身を後方に倒しつつ右手を上に伸ばすというモーションが入りました。
 画面では、スレンダーな氷河が、舞い上がる氷の粒と立ち上る青白い小宇宙をバックに踊っているから一応さまになっていますが、これを人間が実際にやってみると、異様にマヌケです。
 1つには、羽ばたきのような手の動きが、人間の関節可動幅を超えて動いているせいもあります。
 この当時、笑いを取る芸としてこれをやっていた人間を何人か知っていますが、格好いいと思ってやっていたという人は知りません。
 このように、アニメの場合、現実には不可能な動きをしていることも多いため、大抵の人は最初から“どうせ人間には無理な動きをしているだろう”と高をくくっているのかもしれません。
 
 これに対して実写系では、普通の人には再現不可能な無茶な行動でも、撮影の際にはスタントマンなどが本当にやっているわけですから、見ていて説得力があります。
 ビルの窓から落下するシーンなど、あからさまな合成や人形を落としている場合はともかく、スタントマンが落ちていく場合は、実際は下にエアマットが敷いてあると分かっていても「凄い」と感じます。
 これがアニメだと、どんなに高いところから真っ逆様に落ちようと、顔面で石を砕きながら転げようと、「アニメだから」と平気で受け止めてしまうのです。
 人間がやってみせるということは、“そこに肉体を持った人が本当にいる”だけで、問答無用の迫力を生むことがあります。
 鷹羽は、これを肉体の魔力と呼んでいます。
 後楽園野外劇場のヒーローショーでは、地上12mのステージ最上段からのダイビングというのが毎回必ずありました。
 見るからに高いステージから本当に飛び降りてくる…この迫力は、正に生で見た人にしか分からないでしょう。
 
 
 では、アニメ作品のショーでは、どのようなことになるのでしょうか。
 当然のことながら、『ふたりはプリキュアMAX HEART』などのアニメ作品でもショーはあります。
 残念ながら、鷹羽は『プリキュア』ショーは見たことがないので、どのような構成になっているか分かりませんが、この手の作品のショーは、
  頭部も含めて完全な着ぐるみ衣装
  実際の声優が演じた録音テープに合わせての進行

が一般的です。
 ちなみに、『プリキュア』はどうか知りませんが、『セーラームーン』ショーの着ぐるみは、肌色の全身肉襦袢の上から衣装を着る構造になっているため、ヌード写真が撮れます。
 着替え中のセーラービーナスの着ぐるみを使っての「ビーナスの誕生」は、ネタとしてかなり笑えました。
 
 ともかく、こういった衣装で、特にアクションのないドラマ仕立てになっていたり、簡単なアクションのあるショーになっていたりします。
 多分、『明日のナージャ』のように、本編中で戦わない(たまに戦ってたような気もしますが…)作品の場合には、ある日常を描いたドラマ仕立て、『プリキュア』のように本編中で戦う作品の場合は、簡単な筋立てで戦闘に持っていくシナリオ構成になっていると思います。
 「簡単なアクション」というのは、何しろ全身着ぐるみの頭でっかちですから、駆け寄ってパンチとか、軽い跳び蹴り程度しかできないせいです。
 鷹羽が最後に見たこの手のショーは『セーラームーン』シリーズでしたが、セーラー戦士3人とタキシード仮面が協力して敵と戦うという内容でした。
 『セーラームーン』ショーでは、一応セーラー戦士の名乗りがあり、セーラームーンキックセーラービーナスパンチで戦うのですが、最後のトドメは、やはりテレビ同様にポーズを取って必殺技を使います。
 テープ進行でどのチームのショーも筋書きが同じとは言え、必殺技の処理は、実際に着ぐるみを着ているスタッフの腕次第で、かなりレベルが変わってきます。
 気合いの入ったバーニングマンダラでは、本当に背後にマンダラが見えるような気がするほどです。
 
 実は、アニメ版『セーラームーン』では、本当にポーズの取れるものが多かったりします。
 しかも、それなりに絵になるのです。
 セーラームーンに限って言えば、画面上では、回り込みがあったり映す角度が変わったりして把握しにくいものの、変身シーンから名乗りにかけて、ちゃんと動きが繋がっており、足の動きも含めて結構綺麗なのです。
 セーラームーンの変身シーンは、主に直立しているところに服が装着されていくというものですが、装着が終わると、両足を揃え、左手を上、右手を下に伸ばします。
 ここから、左手を下に、右手を上に向けて体の外側を回転(前回書いた回転です)させ、左手が下に行ったところで右足を軽く上げて肩幅より広いくらいに開き、右手を腰に当て、左手を顔の前に上げてVサインを横にしたようなポーズを取ります。
 ここでポーズを解いて、敵を糾弾する口上(毎回違うもので、要するに「〜だから許せない!」系の台詞)が入った後、「愛と正義のセーラー服美少女戦士セーラームーン! 月に代わってお仕置きよ!」という名乗りに入るわけです。
 ここでは、「愛と」で左手を開いて上に上げ、「正義の」でその手を下ろして左拳を握って肩の高さに構え、右手を握ったまま横に伸ばし、「セーラー服美少女戦士」で、右手を胸の前に持ってきて、左手と交差します。
 このとき、左手の先が右上を向き、右手の先が左側を向く感じです。
 そして、「セーラームーン」で、両手を軽く開いた状態で、左手を胸の下に、右手を顔の左斜め前に伸ばします。
 このポーズは、ちょうどクウガの変身の最初のポーズとか、旧1号ライダーの「ライダーファイト!」のポーズに似ています。
 その後、両手を広げ、胸を反らせるようにして背中が見えるほど上半身を左に捻り、「月に代わって」と言いながら正面を向きます。
 この後、両手とも親指、人指し指、小指を立てて、「お仕置きよ!」で左肘を曲げて指先を右に向け、右手を左手に載せるようにして正面を指差す形にします。
 
 画面で見ると結構バタバタと動いている印象がありますが、実際に動いてみると、意外に綺麗な流れであることに気付かされます。
 これも動きの緩急を少しアレンジするだけで、かなり見栄えがよくなりますので、ショーでやっている人達のレベルによってえらく印象が変わるのです。
 
 
 さて。
 せっかくなので、ちょっとアレンジの仕方というのを考えてみましょう。
 ポーズでも必殺技でも、その動きに何らかの意味を見出して、その意味を再現するというのを前提にすると、結構綺麗にまとまります。
 例えば、アニメ『美少女戦士セーラームーンS』に登場するセーラーウラヌスの必殺技ワールドシェイキングを見てみましょう。
 この技は、右手に集めたエネルギーを地面すれすれに走らせて敵にぶつけるという技です。
 このとき、“すれすれなんだけど、地面は余波で砕ける”という演出があり、エネルギーの大きさを表現していました。
 モーションとしては、手を開いて掌を上に向けると、掌の上に光の玉(エネルギー)が集まり、その手を握って地面に叩きつけると、大きくなった玉が敵に向かって地面を砕きつつ進むというものです。
 これを芸としてやる場合には、まず、掌を上に向けた際に、掌の中に玉があるようなつもりでやります。
 『ドラゴンボール』でかめはめ波などを撃つ場合の気の塊のようなものを連想してください。
 次に、その玉を握りつぶすような感じで、拳を握ります。
 このとき同時に、甲が右外側を向くように手首を捻ります。
 そして、拳を一旦肩の高さまで下ろしつつ、そのままの勢いで振りかぶって地面に向かって突き下ろします。
 もちろん、本当に地面を叩く必要はありません。
 イメージとしては、拳の先から、握っていたエネルギーの塊を真下に発射する感じです。
 そして、その姿勢をとりつつ、目は敵の方を睨む、と。
 大体こんな感じでやると、かなり力強くて綺麗な動きになります。
 
 もちろん、こういったイメージングは、トクサツにおいても同じことです。
 今度はトクサツ側の例を挙げましょう。

 『仮面ライダーBlack RX』の必殺技リボルクラッシュです。

 これは、RXが光の剣:リボルケインで敵を貫いてトドメを刺すときのモーションです。
 リボルクラッシュを決めると、RXがリボルケインを引き抜きつつ振り返り、ポーズを決めたところで敵が爆発するという演出でした。
 これを芸として行う場合、まず、敵のいる場所を決め、ジャンプしてそこにリボルケインを突き刺します。
 このとき手に持っているのは、リボルケインがない、或いは長い棒を振り回せないような場所なら、丸めたカタログでもポスターでも構いません。
 手に棒を持っているように見えれば十分です。
 突き刺すまでは右手だけでリボルケインを持ち、左手は浮いています。
 この時の左手の位置は、番組中でも統一されていないので、まぁ、体の左側にバランサーとして伸ばしておくくらいのつもりでいいでしょう。
 そして、リボルケインを突き刺したら、左手も添えて両手で力一杯突き刺し(ているように力を込め)た後、右足を左後ろに回しつつ振り向きます。
 右足は、回れ右をするときよりも大きく動かし、左足よりも左後方まで一気に持っていきます。
 同時に、抜いたリボルケインを、逆袈裟に切るように振り抜きます。
 抜いた勢いで、向かって左下から右上を切るように振るわけです。
 このとき、勢いで左足が浮いて右足だけで立っているくらいになります。
 そして、腕が伸びきったところで、剣先の勢いを殺さずに、リボルケインを伸ばした右腕ごと身体の右脇を下に向かって回します。
 これも、前回書いた腕の回転ですが、リボルケインがある分、剣先が地面をこすらないように腕をやや前に伸ばす必要があります。
 また、剣先の勢いを殺さないようにする必要がありますが、ここは第1のキメでもあるので、回転の角度が変わる瞬間に、止まったかな、という程度に止めた方が格好いいです。
 そしてまた、ここまでは、剣を振り抜く関係上、刃先を意識しながら振っていますが、ここからは、空間を切るわけではないので刃先が回転方向を向く必要がなく、手首の角度を固定して回します。
 そして、腕の回転は、真下に到達する前に、剣先が前方を通るようにして上に持ち上げつつ、体を上にいっぱいに伸ばします。
 同時に、回転の勢いでやや浮いた左足を、腕の回転と連動させながら、肩幅より少し広めに開いた位置に下ろします。
 剣先が、正面から見て5〜10度くらい左斜め上を向くように持ち上げ、同時に左手を右手首に添えます。
 そして一瞬止めた後、リボルケインを右斜め下に下ろしつつ左手をサンライザー(ベルト)の上くらいの位置に、掌が下を向くように持ってきて止めます。
 この状態がキメのポーズで、テレビではここで背後に爆発が入ります
 自分で書いていてもややこしいところですが、実際に動いてみると、かなり合理的な重心移動が行われていることが分かると思います。
 
 ここで「おや?」と思った人がいるかもしれません。
 『キングオブファイターズ』シリーズという格闘ゲームがあり、そこに登場するレオナというキャラの必殺技リボルスパークは、リボルクラッシュそっくりなのです。
 実のところ、リボルスパークはリボルクラッシュを真似たものですので、そっくりで当たり前なのですが。
 ご丁寧に、突き刺した後、敵の背中から花火のような火花がシューシュー出ているところまでそのまんまです。
 なお、リボルスパークでは、技発動時の位置関係によって、下ろす手が右手だったり左手だったりしますが、リボルクラッシュでは下ろすのは右手で統一されています。
 
 このリボルクラッシュは、動きが派手なため見栄えが良く、分かる人には非常にウケる芸です。
 ただし、なにしろ普通はリボルケインを振り回しながら披露するということができないため、知らない人が見たときに“剣を振っているのだ”ということを認識させる必要があります。
 そのため、飛びかかって刺すところから芸が始まるのです。
 ここで力一杯ぐりぐりしておくと、観客に「ああ、トドメなんだな」という印象を与えることができます。
 あとは、剣先=腕を弧を描くように動かし、要所要所で一瞬止めるなどしてメリハリを利かせれば綺麗に決まります。
 この一連の動きの意味は、本来はトドメを刺した後、リボルケインを抜いて振り向くだけのものです。
 それを、敵に背を向けることによって、確実に倒したという余裕を持たせ、更に大きな動きで視覚的にも派手さを持たせるポーズなわけです。
 それだけでは単なるカッコつけでしかありませんが、ここに武道の「残心」という概念を持ち込むと、途端に深くなります。
 「残心」とは、戦いの後に呼吸を整える、気持ちを落ち着けるといった行為であり、空手家が試合の後に両拳を腰の脇に持ってきて息を吐くとか、剣術家がゆっくりと刀を鞘に戻すといった、“戦いと平常の切替”の意味を持つ行為です。
 観客が武道をやっているとは限りませんし、やっていない人にはこの感覚は分かりにくいでしょうが、それでもなんとなく雰囲気は伝わるものです。
 
 そして、この芸をやる上で気を付けなければならないのは、手に持っているのは、長さが1m近い剣であるという自覚です。
 練習するには、広いところで傘を振り回してみるといいでしょう。
 腕を回転させる際、下に回しすぎると地面をこすることがありますが、そうなったら失敗です。
 たとえ本番の芸では短い棒を持つとしても、気分は常に“剣”を持っているつもりでいましょう。
 その気構えが芸に迫力を生むのです。
 
 
 さて、長らく続けましたが、この偉そうな連載は、これで終了とさせていただきます。
 ポーズは、あくまで趣味の領域であり、本来それを芸として磨く必要などありません。
 自分が楽しむ上で、観客を意識する必要など本当はないのです。
 ただ、せっかく他人に見せるなら誉められたい、認められたいというのは人間の心理ですから、他人の目を意識するのはいいことだと思います。
 また、気持ちから入り込むことによって、自分の中での盛り上がり方も変わってくるはずです。
 単にポーズを真似るだけでなく、なりきること…それは、自分の楽しみとしてやる上でも無意味ではないでしょう。
 鷹羽の言うとおりにアレンジする必要などありません。
 アレンジの仕方だって人それぞれでしょうし、一家言持っている人もいくらでもいるでしょう。
 鷹羽自身、未だに修行中の身ですし。
 ただ、“そういう考え方もあるのか”くらいの参考にでもなれば幸いです。


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