ネーミングの話その3 パターンが読めない場合
鷹羽飛鳥
更新日:2004年9月26日
 前回、同一シリーズ中のタイトルの変遷がシリーズの構造そのものを表す場合があるという話をしました。
 今回は、ジャンルそのもののタイトル分布なんかについて見てみたいと思います。


 かつて、ロボット物のタイトルは、『無敵超人ザンボット3』のように4文字程度の頭書きの後に主役ロボの名前が入るのが一般的でした。
 もちろん、例外は多々あり、『超時空要塞マクロス』のように、主役が乗るメカではなく主人公達が暮らす宇宙船そのものがタイトルになっているものや、『機動警察パトレイバー』や『マシンロボ』『トランスフォーマー』のように、主役メカが属するロボットのカテゴリーについての呼称をタイトルにしたものもあります。
 「パトレイバー」は、作中ではパトカーのロボット版という扱いですし、「トランスフォーマー」も各作品中では“変形するロボット生命体”の総称です。
 『魔神英雄伝ワタル』のように、主役キャラの名前が入るパターンもあります。
 最近では、主役ロボに関係のないタイトルも多いようです。


 その昔、『戦闘メカ ザブングル』で、番組途中で主役メカがザブングルからウォーカー・ギャリアに交代するというとんでもないことが起きました。
 それまでの常識では、主役メカが変われば、主人公が変わらなくても『ゲッターロボ』が『ゲッターロボG』になったように、当然番組が変わりました。
 この“番組中盤での主役メカ交代”という制度は、続く『聖戦士ダンバイン』(ダンバイン→ビルバイン)にも受け継がれ、今では割とポピュラーなものになりました。

 ただ、当時としてはかなり異色のことであり、作品の後半は“サブキャラが乗るロボットがタイトル”という変な状態になってしまったため、とまどうファンも多かったようです。
 特に『ザブングル』では、主役メカであるザブングルが最初から2機登場していたのですが、主人公ジロンが乗っていた方は途中で大破してしまい、以後登場しなくなります。
 残ったのはもう1機の方ですから、「じゃあ、タイトルは最初から、主人公が乗っていなかった方なの!?」ということになってしまいました。

 そんな作品が3作続き、主役メカ交代が恒例になると、『機動戦士Ζガンダム』のように、番組開始当初は影も形もないロボットがタイトルに掲げられるようになりました。
 その後、『機動戦士Vガンダム』のように、Vガンダム→V2ガンダムという具合に、メカそのものは変わったけど、名前があまり変わらなかったということもありました。
 また、『機動戦士ガンダムSEED』のように、特定のメカの名前を冠しないパターンも出てきています。
 確かに、これなら主役メカは“ガンダム”ですから、主役メカの名前がタイトルになっているとも言えますね。
 ちなみに、『機動武闘伝Gガンダム』では、主役メカがシャイニングガンダム→ゴッドガンダムと変わりましたが、放送当時、タイトルの「G」はゴッドという意味ではないというコメントが出ていたと記憶しています。
 いえ、新潟では放送してませんでしたけど。


 この点、“主人公の名前”や“宇宙船の名前”がタイトルの作品では、主人公が乗るロボットが変わっても影響がありません。
 実際、『マクロス』では、主人公:一条輝の乗るロボット(バルキリー)は、途中でVF-1JからVF-1Sに変わっていますし、『魔神英雄伝ワタル2』でも、主人公が乗るロボット(魔神)が途中で龍神丸から龍星丸にパワーアップしましたが、タイトルには全く影響ありません。
 まあ、龍神丸と龍星丸は、見た目や能力、名前は違いますが、中身は同じ“金竜”という竜ですから、実質同じではありますが。


 中でも特に変わったタイトルとして、『装甲騎兵ボトムズ』があります。

 「ボトムズ」は、「Vertical One-man Tank for Offense and Maneuver(攻撃と機動のための直立1人乗り戦車)」の略で、そこからその直立戦車に乗っている兵士は“最低の人間”というような意味合いで、「ボトムズ乗り」という蔑称で呼ばれていることが1話で説明されています。

 ところがその歩行戦車、つまり作中に登場するロボットには、AT:アーマード・トルーパーという別の呼び名があり、基本的に本編中で「ボトムズ」などと呼ばれることはありません。
 逆にいうと、「Vertical One-man Tank for Offense and Maneuver」という言葉自体、「底」「最下部」を意味する「ボトム」に引っ掛けて無理矢理付けられたものなのでしょう。
 だから、本編中ではATの方しか使わなかったのだと思います。
 折しも『ダンバイン』と同時期の放送だったこともあって、「いつになったらボトムズってロボットが出てくるのかな〜♪」などと言われていたものです。
 「ボトムズ乗り」の説明は1話でしかされていないはずなので、由来を知らずに本気で言っている人2割、分かっていて意地悪で言っている人8割といったところでしょうか。


 さて、この『ボトムズ』、確かにロボット物のタイトルの付け方から言えばイレギュラーですが、この作品は、脱走兵として追われながら自分の生きる意味を探して足掻く主人公キリコの物語であり、登場するロボットは全て使い捨ての道具と割り切って演出されていましたから、やっぱりロボットの名前がタイトルでは駄目だったんでしょうね。

 では、どうしてキリコの名前では駄目だったんでしょう?
 おおまかに言うと、『ボトムズ』はこんな物語です。
 1話で、キリコは謎の作戦に突然参加させられ、自軍の基地を襲ってあるケースを奪取しますが、その際、ケースの中に女が浮いているのを見ます。
 そしてキリコは、作戦の仲間から攻撃されたため行動不能になり、自軍に囚われてしまい、裏切り者として背後関係について尋問されますが、運良く脱走でき、以後、自分を巻き込んだ謎の組織を、そして謎の女を追って放浪します。
 その後、謎の女が軍の最高機密である特殊な肉体改造を施されたパーフェクトソルジャー:プロト1であることを知り、彼女と奇妙な心の交流を持ち、彼女と共にあるために行動するようになっていきます。
 このキリコというキャラは、感情の起伏や口数が少なく、非常に取っつきにくいタイプです。
 また、ロボット物の主人公にしては、よく負けるわ重傷を負うわで、さほど強い印象は受けません。
 プロト1とも何度か砲火を交えますが、第1部の最中、AT戦で勝ったことはありません。
 まったく、どうしてこんな変な奴が主人公なんでしょう?

 実は、作品の終盤、キリコは、宇宙を支配する巨大なバイオコンピュータ「ワイズマン」に“異能者”として見出された人間で、後継者とするべく試練を与えられ育成されていたという事実が明らかになります。
 キリコを脱走兵として追っていた軍人ロッチナも、キリコが追っていた謎の組織のトップの一部も、ワイズマンの配下でした。
 ワイズマンは、自身が人間だったころの記憶などをコピーしたコンピュータで、軍の上層部などあちこちに自分の配下を置いていて、時代の趨勢を思うままに操っている存在だったのです。
 そして、運命の人であるプロト1:フィアナすらも、ワイズマンがキリコに“生きる目的”として与えたエサに過ぎなかったのでした。
 しかし、キリコは、フィアナと共にあるために後継者となることを拒み、ワイズマンを破壊しました。
 全ての登場人物、配下のロッチナ達ですら、真実を知らされることなくワイズマンに踊らされ、その後継者となることを拒否したキリコがワイズマンを滅ぼすという物語だったわけです。
 
 キリコが何だか知らないけどちょっと特殊な人間であることは、本編の途中から徐々に明らかになっていきます。
 キリコは、パーフェクトソルジャーであるプロト2:イプシロンを倒した後、自分が何者なのかを探す旅に出ます。
 そして、自分が“生まれながらのパーフェクトソルジャー”であり、“異能者”であることを知っていくわけですが、物語序盤の流れからは、こんな展開は想像もつかないものでした。
 鷹羽的には、この意外性を保つために、キリコを敢えて“なんでこんなのが主人公かなぁ?”というキャラに抑えていたのではないかと思うのです。
 だからこそ、タイトルにはキャラクター名をつけられなかったのでしょう。


 絶対そうだとは言いませんが、やはりタイトルには制作者の想いが込められていることが多いですから、“なんでこんなタイトル?”と思ったときには、掘り下げて考えてみるのも結構いいものです。
 まぁ、中には『時空戦士スピルバン』などという“スピルバーグの名前を引っ張ってきちゃいました♪”というだけのふざけたタイトルもあるんですけどね。
 ガンダム系の番組タイトルが「機動戦士」でなくなった最初の作品が、世界観の違う『Gガンダム』ったことも、なにがしかの理由があるんでしょう。


 きっとほかにもこういうネタは沢山転がっていると思うので、このネーミング関連のネタ、いずれまたやりたいと思います。


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