元締式ワープ航法
後藤夕貴
更新日:2004年9月16日
 筆者・元締こと後藤夕貴は、過去に一度だけ「ワープ」を経験した事があります
 ワープ……そう、あのSFでよく聞くアレです。
 何千何万光年もの距離を瞬間的に飛び越える、次元航行ですな。
 さすがにそこまでとんでもない距離を超越したわけではないのですが、高校時代に経験した不可思議な「ワープ体験」をお話ししたいと思います。

 なお、以下は正真正銘の実話です。


 我が赤城山AMUSEMENT黎明期にあたる約17年前、筆者はまだ高校生で、地元・新潟県に在住しておりました。
 当時、筆者は自転車で遠方に住む友人宅までしょっちゅう行き来していました。
 その友人がうちのサークルの最初期メンバーの一人だったという事情もあるのですが、とにかく週末や夏休みなどの長期間休暇に入ると、何日か置きに自転車に乗っていたわけです。


 ここで、ちょっとだけ地理的な事情をご説明します。


 筆者が在住していた新潟県新発田市という所から、友人が住む新潟市までの標識上の距離は約30キロ
 実質的にはほとんど一本道です。
 ただし、友人が住んでいるのは新潟市の外れの方で、白新線(ローカルぅ〜)で言うなら大潟から東新潟の中間あたりに位置してまして、恐らく実質的な距離は多く見積もっても25キロを割っているのではないかと思われます。
 そこに自転車で行く場合は、山形方面から新潟市までを繋ぐ国道7号線をまっすぐ突き進み、途中「東港」と呼ばれる港のある方向へ曲がり、ものすごく細い上に大型輸送トラックがガンガン走りまくる道路を必死で走り抜けなければなりません。
 しかもその道は、2車線しかない上に路肩にあたる部分がほとんどなく、歩行者の通行は完全に不可能という実質的な「自動車専用道路」。
 ここをさらに10キロくらい走らなくては、友人宅に辿りつけないのです。

 梨瀬成が「自転車四方山話」で書いているような、チャリダー御用達の高級・高速タイプの自転車なんか当然持ってませんから、高校生がごく普通に乗っているような自転車でそこを走るわけです。
 多分、最高時速30キロも出てないでしょうね。
 そんな状態で家から友人宅まで走ると、だいたい早くても1時間半、ゆっくり行けば2時間近くかかります。
 自動車だって40分から50分はかかる距離なんですから、当然といえば当然ですね。


 ところが、筆者はある日、ここをたったの45分弱で走り抜けてしまった事がありました。


 ある日曜の朝、その日は早くから友人宅に行く必要があったので、午前9時頃には自宅を出発しました。
 ただ、いつも遠乗りに使用している自転車(ドロップハンドルのなんとかいう奴)がその時は使用できなかったため、せいぜい町内を行き来する程度の機動性しかない「ママチャリ」に毛が生えた程度の小型自転車を使用しました。
 つまり、いつものスピードが出せません。
 なので、もう早く到着する事は完全に諦め、途中で自販機で飲み物を買ったりしてゆっくりまったり進行したのです。

 友人宅に着いた時間は、午前10時前でした。

 家を出る前に、電話にて「これからイクゾ」コールをしておきましたから、友人もまだ到着までしばらくかかるだろうと見越していたのですが、予想外の到着に驚いていました。
 出掛けの時間を1時間ほど勘違いしていたのか…とも思いましたが、はっきり時間を確認していましたし、そもそもその時間に友人は電話に出ているのです。
 だから、筆者が午前9時頃に家を出た事は、筆者の家族も含めて複数の人が認知していた事になります。
 移動中に時計を確認していればよかったのかもしれませんが、まさかそんなとんでもない時間に着くとは思いませんし、のんびり行くつもりでしたから、時間などほとんど意識してませんでした。
 自動車を使えばこれくらいの時間で到着する事はもちろん可能ですが、残念ながら当時は免許を持っていませんからそんな事はできません(年齢的にも無理だし)。
 当然、自転車にエンジンが搭載されていたなどというオチはなく、ごく平凡なママチャリモドキなのです。

 ちなみに、その後原チャリだと1時間ちょっとくらいかかるという事が判明しています。
 いつもの遠乗り用の自転車で、全速力で駆け抜けた上で「奇跡が起こった」というのならまだ納得もできるかもしれませんが(無茶)、その日も例外なく大型トラックが数十センチ横をビュビュン行き交う道を、おっかなびっくり走ってきたのです。
 とても、自分の限界に挑戦できるような状況ではありません。
 ようやく午前10時に達した頃、筆者と友人は「何があったのか」という議論に華を咲かせておりました。


 さて、ここまでお読みの方のだいたいが「そんなの只の気のせいだろ?」とお思いの事と思いますが、この件についてもっとも疑惑の念を抱いていたのは、当の本人だったのです。
 無論、その日のうちに「検証」を開始しました。

 同じルートを同じように同じ自転車で走行し、その時間に近いタイムで移動が出来るのか?
 または、自転車が変わったとしてもその時間程度での移動か可能な方法があるのか?
 筆者の家から友人宅までの移動ルートには、ショートカットと呼べるような近道はまったくありませんから、やはり今までのルートを辿るしかありません。
 その日の帰宅時、今度は全力で同行程を走行。

 もちろん、時間はたっぷりかかりましたよ。
 さすがに2時間は割りましたが…


 その後、友人宅に移動する度にタイムトライアルに挑戦し、時には同じ日に2往復した事もありましたが、1時間を割る事はおろか、一時間半を割る事すらできません。
 もちろん、筆者や筆者の検証に付き合ってくれた友人達のチャリ速度が根本的に遅いという問題もあるのかもしれませんが、いずれにせよ、それより遅いスピードしか出ない自転車で1時間を割ってしまったというのは事実なんです。
 結局、この謎の体験を裏付けるような要素に辿りつけぬまま今日に到っています。

 こりゃもう、途中でその気もないのにワープしたとしか考えられませんな、あはは。


 で、こんな「ありえない距離と時間の超越」という現象報告は、世界各地でよくあるそうです。
 「ミッシング・タイム」と呼ばれる現象ですね。
 また、公式記録ではないものの、個人的に経験したという人も大勢いらっしゃるとか。
 以前どこかで読んだ物の中で怖かったのが、「会社帰りに自宅最寄の駅付近で買い物をして帰宅したら、そこから自宅までの数分の距離を三日間かけて移動してしまい、家族に捜索願を出されかけていた」というお話。
 もちろんその人は、三日間も経過している自覚はまったくなかったそうです。
 ただ、駅の近くで買った生肉は腐ってしまっていたそうです。

 別なパターンでは、最初に時計を確認し、その後しばらくしてから何気なくまた時計を見たら「時間が数分戻っていた」というもの。
 これはまあ、その人の気のせいだったという事もありえるかもわかりませんが、中には「時計」ではなく「テレビ番組」でこれを経験してしまった人がいるそうで(つまりオープニングを二回観た?!)、なんだかよくわかりません。

 ただ、筆者が味わったような「本来かかるべき時間をすっとばした」という経験談は、あまり見掛けた記憶がありません。
 なんとなくボンヤリとしながら、あまり変化のない状況でずっと同じ事をしていると、何かが起こるのかもしれませんね(笑)。
 こういう事象を意図的に操る事ができれば、この上ない素晴らしさなのですが…って、それじゃ「キングクリムゾン」みたいだ(笑)。

 もし、このような「よくわからない時間の流れに巻き込まれる」事が、本当はよくあるものだとしたら面白いですよね。
 ごくたまに発生しているんだけど、巻きこまれた当の本人は全然意識していないだけだったりして。
 で、それをたまたま認知出来た人が「あれっ?」と思ってしまうとか……って、そんな事で三日間もの時間を犠牲にしてしまったら、たまったもんじゃないですが(笑)。

 このような、「時間感覚の勘違い」とはまったく異なるような現象、体験された方はおられませんか…?

 
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