ネーミングの話その2  意外な名前達 鷹羽飛鳥
更新日:2004年8月15日
 先日、ソニーの携帯型ステレオカセット:ウォークマンが発売25周年を迎えたそうです。

 鷹羽が初めてウォークマンを見たのは、友人が買ったウォークマン2だったので、初代発売当時の衝撃というものは分かりませんが、かなり凄かったらしいですね。
 以降、携帯型の録音再生装置は、メディアを問わずメーカーを問わず、世間的には「ウォークマン」と呼ばれることが多いようですが、当然、これは登録商標ですから、よそのメーカーの機械には使えない呼び方です。

 オリジナルビデオアニメ黎明期の作品『幻夢戦記レダ』では、主人公の朝霧陽子がヘッドホンステレオを持っていますが、シナリオ段階では「ウォークマン」と呼ばれていたのが、「商標だからまずい」という理由で、実際の作品では「ヘッドホンステレオ」に変更されています。
 おそらく、脚本家は登録商標であることは全く意識しないままシナリオを書いたのでしょう。
 
 こういった登録商標を一般名詞だと思っている例は結構ありまして、あるカテゴリーであまりにメジャーな品物は、それがそのカテゴリーそのものの名称であるかのような印象を持たれてしまうようです。
 ホチキス(一般名称はステープラー)、ポラロイドカメラ(インスタントカメラ)、宅急便(宅配便)、エレクトーン(電子オルガン)など、「えっ!? そうなの?」という例は多く、ポリバケツ(合成樹脂製の蓋付きバケツ)も登録商標だそうです。
 
 ただし、よく似た例として、クリープ(クリーミーパウダー)、サランラップ(食品用ラップフィルム)、写ルンです(レンズ付きフィルム)などがありますが、これらの場合、登録商標だと分かった上で、無意識にとおりのいい一番メジャーな商品名を挙げているわけで、意味合いがまるで違います。
 同様に、スーパーのラップ売場には「サランラップ」以外にも「クレラップ」「リケンラップ」とかも並んでいるわけで、そういうのを見たことがあれば、当然ラップは「サランラップ」だけじゃないことを知っているはずなんですね。
 つまり、大抵の人は、「サランラップ」が商品名に過ぎないことを知っているはずなのに、無意識に「サランラップ」を一般名詞として使っていると言えます。
 この点、ポラロイド以外のインスタントカメラをほとんど見掛けないのとは違うわけです。


 オモチャの世界でも、当たり前のように使っている言葉なのに、ネタ元があまり知られていないんじゃないかってものがあります。
 ポピー(バンダイ)の登録商標である「超合金」なんかがそうです。
 当時、「超合金」に追随した他社の合金製玩具は、「ビッカー合金」「ジンクロン合金」などという商品名をつけていましたが、世間的には「ああ、超合金ね」という反応で受け止められていました。
 また、バンダイ製のスーパー戦隊巨大ロボの合体オモチャは、平成4年の『恐竜戦隊ジュウレンジャー』からしばらくの間、「超合金」ブランドではなくなったのに、引き続き「超合金」と呼ばれることが多かったようです。

 ところが、そもそも「超合金」という名称自体『マジンガーZ』で初登場する言葉であり、ポピーがこれの商品である「ダイカスト・マジンガーZ」を名称変更して商標登録する際、作中での呼称「超合金Z」に引っかけただけなんですね。
 元々「超合金Z」という名称は、“「合金Z」を超える金属”という意味であり、超・合金Zだったわけですが、この経緯がきちんと説明されるのは、永井豪氏によるマンガ版だけです。
 マンガ版では、甲児が、操縦の仕方も知らないままマジンガーZを起動させて暴走させてしまったため、制止するべくアフロダイAが出動します。
 そして、合金Z製のアフロダイを苦もなくはじき飛ばしたマジンガーを見た弓教授が「合金Z以上の完成度、いわば超合金Zだ」というような台詞を発します。
 これ以後、マジンガーZの材質は、作中で超合金Zと呼称されるわけです。
 ただ、これだけの説明でしかなく、なによりアニメでは最初から「超合金Z」と呼ばれたこともあって、「ステンレス」などと同じように、「超合金Z」という単語として認識されるようになってしまいました。
 たしかアニメの設定でも、アフロダイAは合金Z製なんですけどね。

 そもそも「合金」という言葉は、“数種類の金属を熔かして混合したもの”という意味ですから、一般名詞です。
 「特急」が「超特急」になっても一般名詞であり続けるように、「合金」が「超合金」になっても、本来なら一般名詞のままなんですね。
 ですから、「超合金」ブランドは一般名詞を登録商標に出世させたのです。
 その後、商品名には使えないにしろ、言葉として1人歩きを始めた「超合金」は、「特殊合金」くらいの意味合いであちこちの作品で使われるようになり、マンガ『コブラ』に登場するアーマロイド・レディや、仮面ライダーストロンガーのボディも超合金製だったりします。


 ところで、普通の大人は、スーパー戦隊の話をすると「ああ、ゴレンジャーね」という反応を示します。
 これらは、話がスーパー戦隊シリーズについてだと分かった上で、同種の一番メジャーな作品である『秘密戦隊ゴレンジャー』を挙げているわけですから、先程のクリープと同じようなパターンです。
 ただし、これは“カラフルな5人組”という程度の判断基準でしかないので、個体識別はできず、デカレッドを見せてもマンモスレンジャーを見せても「ああ、ゴレンジャーね。ふ〜ん、今はこんな格好なんだ?」で終わります。
 スーパー戦隊ではない『超星神グランセイザー』を見て、「今のゴレンジャーって何人いるの?」という反応を示す人もいるくらいです。
 サランラップとクレラップを中身で見分けられない人が多いのと同じようなものですね。
 同様に、「ウルトラマン」「仮面ライダー」のようなシリーズ化されたヒーローも、自分が見ていた時代の作品以降は個体識別ができなくなるようで、“ウルトラマンの誰か”という認識の仕方をします。
 要するに、“銀色の頭部で、卵形か六角形のつり目で、胸にカラータイマーがついていて体がウェットスーツ風のヒーロー”を見ると「ああ、ウルトラマンだな」と思うわけです。
 こういう人は、アイアンキングもウルトラマンの仲間だと思う可能性が高いです。
 
 
 こういった流れとは別に、一般論をあてはめて誤解している例というのもあります。
 意外なところを挙げるなら、『科学忍者隊ガッチャマン』でしょう。

 「ガッチャマン」をチーム名だと信じている人は多いと思いますが、実は大鷲の健個人のコードネームであり、チーム名は「科学忍者隊」です。

 信じられない方も多いと思いますが、レンタルなどでもよく見かけますから、『ガッチャマン』の1話を見てみれば分かります。
 科学忍者隊のメンバー紹介のシーンで、「大鷲の健。科学忍者隊G−1号。またの名をガッチャマン」とナレーションが入ります。
 ほかのメンバーでは、「白鳥のジュン。科学忍者隊G−3号」などとしか言いません。
 また、EDテロップでは、健のキャラクター名が「ガッチャマン」となっています。
 つまり、科学忍者隊の構成は、ガッチャマンがG−1号となって、G−2〜5号を従えているという型式なのです。
 ですから、鉄獣を破壊されて脱出するベルク・カッツェの「おのれ、ガッチャマン!」という台詞は、「おのれ、大鷲の健!」と言っているのであって、ほかの4人は関係ないのです。
 5人が乗っているゴッドフェニックスに負けたとしても、カッツェの頭の中では、健1人にやられたのと同義です。
 5人全員に対して悔しがるときは、「くそー、科学忍者隊め〜!」と言い、5人に呼び掛けるときは「科学忍者隊の諸君」と言います。
 だからこそ、2クール以降のOPで「白い翼のガッチャマン」と言っているわけです。
 5人中、白い翼は2人だけで、むしろ少数派なのにと思っていた人、いませんか?

 これは、スーパー戦隊を見慣れた人には、かなり奇異に映ることでしょう。
 スーパー戦隊のタイトルは「○○戦隊△△」というのが一般的ですが、どちらもチーム名であり、個人のコードネームはタイトルに出ません。
 『ガッチャマン』の例を『鳥人戦隊ジェットマン』にあてはめると、タイトルは『鳥人戦隊レッドホーク』になってしまいます。
 かなり違和感がありますね。
 しかし、この『ガッチャマン』のネーミングの仕方は、よく考えてみるとそう変でもないのです。

 『ガッチャマン』同様、複数のキャラクターが活躍する『サイボーグ009』も、9人全員を表す「ゼロゼロナンバーサイボーグ」という総称があるのですが、タイトルは009ただ1人です。
 なぜこうなるのかと考えてみると、どうもこの当時はまだ集団で1つのヒーローという概念が希薄だったからではないかと思われます。
 つまり、チームが主体でも厳然として主人公がいる、というわけです。
 『ゲッターロボ』が3人で3種類の形態のロボットを使う、つまり1人に1種類ずつロボットが与えられているというのも、個の集まりであるということです。
 鷹羽的には、集団が1つのキャラクターを形成するようになるのは、『超電磁ロボ コン・バトラーV』の“数人で1つのロボットを使う”とか、『ゴレンジャー』の“数人で必殺技を使う”などを経て、作り手も視聴者もチーム主体の作劇に慣れた後の話ではないかと思います。
 『ゲッターロボ』の3人ではヘルメットが全員違い、ユニフォームも統一されていないのに対し、『コン・バトラーV』では、統一されたヘルメットと色違いのユニフォームがあるというのも、そういう部分を如実に表しています。
 事実、後に作られた『ガッチャマンII』や『ガッチャマンF』では、「科学忍者隊」=「ガッチャマン」という扱いに変化しているように見受けられます。
 先に挙げたOPの歌詞にしても、『ガッチャマンII』では「ガッチャマンは一体だ」と、5人一組のような扱いです。
 
 これは、視聴者がチーム型の作劇に慣れてきている状況下で、“ガッチャマンと4人の仲間”は受け入れてもらえないという判断からなのかもしれません。
 或いは、作っている側も、既に集団としてしか認識できなくなっていたのかも…。


 もっとも『美少女戦士セーラームーン』シリーズのように、チームが厳然としてあっても主役1人がタイトルに鎮座ましましている場合もありますから、必ずしも集団としてしか見られないというわけでもないようです。

 アニメ版は、最初からセーラー戦士を5人揃えようという方向で企画されたものという話が有力ですし、トクサツ版は2話からメンバーが増え始めたりもしていますから、どちらの制作者も集団劇にするつもりがあったということです。
 ちょっと筋は違いますが、『惑星ロボ ダンガードA』や『超獣機神ダンクーガ』では、実際に巨大ロボとしてのダンガードやダンクーガが本編に登場するのは2クールに入ってからですが、きっちりタイトルには名前が入っています。
 これに対し、『セーラームーン』などで、敢えて主人公だけをタイトルにしているというのは、作品の方向性として、チームとして売りたいか、個人集団として売りたいかという部分が出ているのでしょう。
 前者の場合、チーム名をかなりこだわってつけますが、後者ではまともなチーム名がないようです。
 『セーラームーン』では「セーラーチーム」とか「セーラー戦士」とか言われていたようですし、『聖闘士星矢』では「青銅聖闘士ども」とか言われています。
 戦う集団ではありませんが、『おジャ魔女どれみ』でも、集団としての名前はせいぜい「MAHO堂」(OPを歌っているユニット名)くらいです。
 この辺は、やはり作り手側の意識からくるんでしょうね。



 ほかにも、シリーズ物の途中で作劇の型式が変わったことがタイトルに反映する場合もあります。

 タイムボカンシリーズは、1作目『タイムボカン』ではタイトルが主役メカの名前だったのが、2作目である『ヤッターマン』以降は『□□マン』という具合に主人公のヒーロー名になっています。
 これは『ヤッターマン』から主人公が何らかの形でヒーローに変身するようになったことと無関係ではないでしょう。
 ただし、『ヤッターマン』では、『タイムボカン』の主人公2人と3悪が、声優も含めてキャラ配置がほぼそのままシフトしていました。
 『ヤッターマン』がタイムボカンシリーズ2作目とカウントされて違和感がないのは、この点によります。
 ただし、主人公側が肉弾戦でも有利になったという変化はありました。
 『タイムボカン』時代は、肉弾戦では押されっ放しでしたから。
 一応書いておくと、「タイムボカン」というのは主人公側が乗るタイムマシンの総称で、各メカの名前は正式には「タイムボカン1号・タイムメカブトン」「同2号・タイムドタバッタン」「同3号・タイムクワガッタン」となっています。

 また、作劇フォーマットも、『タイムボカン』では3悪がタイムボカンを追い詰め、トドメを刺そうとしてドジって負けるものだったのが、『ヤッターマン』以降は基本的に正義側の方が強いものにシフトしていきます。
 このシリーズが“実質的にヤッターマンシリーズだ”と言われることがあるのは、このフォーマットの変化のせいです。
 3作目『ゼンダマン』になると主人公2人の声優も変わってしまうため、『タイムボカン』との共通点は、“3悪のキャラ配置と声優”“ナレーターが富山敬”“音楽が山本正之”という以外にありません。
 この後、6作目『逆転!! イッパツマン』で、富山氏が主人公の声の担当になってしまっているため、一応のシリーズ最終作である7作目『イタダキマン』まで続くのは3悪と山本音楽だけです。
 このシリーズの真の主役が3悪だと言われる所以ですね。
 
 
 ちなみに、今ではスーパー戦隊の第1作とされている『ゴレンジャー』ですが、本編での名乗りでは単に「5人揃って! ゴレンジャー!」としか言いません。
 また、『ゴレンジャー』の次の『ジャッカー電撃隊』はサイボーグの4人組であり、「○○戦隊」もつきません。
 同様に、『バトルフィーバーJ』は「○○戦隊」がつきませんし、また、体色で判別させようというデザインでもありません。
 「○○戦隊」から名乗るのも、体色で個別化しているのも、『電子戦隊デンジマン』以降です。
 この辺のフォーマットの違いは、スーパー戦隊の歴史を語る上では重要です。

 東映がマーベルのキャラ使用権を買って『(東映版)スパイダーマン』を作ったことは有名ですが、その次回作として、マーベルキャラであるキャプテンアメリカ×5+巨大ロボをやろうとして企画されたのが『バトルフィーバー』でした。
 結果的にマーベルのキャラを使わないことになったものの、『バトルフィーバー』が好評だったため、マーベルのキャラに頼ることはやめて、独自の5人組ヒーローと巨大ロボをセットに企画することになりました。
 それで、次作『電子戦隊デンジマン』では、同じ5人組ヒーローである『ゴレンジャー』の5色のスーツという部分を取り入れたのです。
 『ゴレンジャー』は石森章太郎原作名義、『バトルフィーバー』以降は八手三郎原作名義という違いも、この辺の企画の流れから来ています。
 現在『ゴレンジャー』が第1作となっているのは、知名度の高い『ゴレンジャー』の後継作とすることで、シリーズそのものをメジャー化し、歴史の長さ自体を売り物にできるという皮算用があってのことです。
 上記のとおり、細かいことを知らない普通の大人は、どのみち『ゴレンジャー』とスーパー戦隊の区別は付かないわけですから、鷹羽的には面白くありませんが、これはとても合理的なやり方と言えます。



 前回も触れましたが、ネーミングには作り手の想いが込められています。
 なんでそういうタイトルになったのか、シリーズの中でのタイトルの変化は何を意味するのか、考えてみると、まだまだ面白い発見があるかもしれませんね。
 次回は、ロボットアニメのタイトルなんかを考えてみたいと思います。


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