河口: |
「はい、真夜中の探偵なら間に合ってる。ちなみに押しかけデリヘルもいらねェよ」 |
男性: |
「……何スか、それは?」 |
河口: |
「あれ? 谷川か? 何の用だ、こんな夜中に」 |
谷川: |
「先輩、またしても相談があるっす」 |
河口: |
「雨の中、太ったヤツを立たせとくのも絵にならないから、とりあえず入れ」 |
谷川: |
「先輩、開口一番、それッスか……」 |
がちゃ ←扉の開く音。
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谷川: |
「お邪魔しまーす」 |
河口: |
「うわー、びしょ濡れ。
ホレ、バスタオル。あ〜、シャワーの方がいいか?」 |
谷川: |
「そ、そんな先輩っ!
そんな事言うと、腐女子の方々が萌えちゃいますよ?」 |
河口: |
「おまえの体重が100キロ越えてなければそーいう豪快な女性も居るかもしれんがな。
今のおまえとオレじゃ、絶対無い!!
安心してとっととシャワー行け!」 |
谷川: |
「うわっ! 素で蹴らないで下さいよ!」 |
20分後、谷川君がシャワールームから出てきました。
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谷川: |
「先輩〜、コーラ無いッスかぁ〜?」 |
河口: |
「コントレックスと48時間ダイエットジュースと青汁なら冷蔵庫に入ってるから勝手に飲め」 |
谷川: |
「何スか、その壮絶なラインナップは……」 |
河口: |
「つーかオマエ、いい加減コーラ卒業しろ。そんなんじゃ、いつまでたっても体重減らねーぞ」 |
谷川: |
「俺とコーラは切っても切れない仲なんです!
第一、俺からコーラを取ったら何が残るってゆーんスか!」 |
河口: |
「脂肪」 |
谷川: |
「うううううう、ひどい」 |
河口: |
「ええい、自分でネタを振っておいて、勝手に落ち込みおって!
さっさと用件を言えい!!」 |
谷川: |
「い、いや実は、明日例の彼女と会うんスけど、金が無いッス!」 |
河口: |
「おまえ、この間、イベントでエロ同人誌完売させてたろ?
2時にはもうキレイサッパリ3000部はハケてたじゃねーか」 |
谷川: |
「税金できれいさっぱり無くなったっす」 |
河口: |
「あ〜、もうそんな時期かぁ〜」 |
ほぼ同人誌で食べている谷川君は、個人事業税を払わないといけないのです。
払っているだけエライかもしれませんが。
もちろん、河口さんの入れ知恵です。
税金を払っているだけで、親が文句を言いにくくなり、ただの同人屋からマンガ家と言い張る事も可能になります(ある意味事実)。
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河口: |
「で? 金貸して欲しいの?
でもオレも給料日前でちょっとキツイな〜」 |
谷川: |
「うっ。そ、そこを何とか、乗り切る知恵を貸して下さいませ、美貌のセンパイ!!」 |
河口: |
「……オレはサービス叔父様(by.『南国少年パプワくん』)じゃないぞ」 |
しかし河口さんはいい気になったので、おじちゃんの知恵を貸してあげる事にしました。
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河口: |
「誰がオジちゃんだっ!」 |
谷川: |
「誰につっこんでるんスか?」 |
河口: |
「そうだな。
まず、前回言った『給料日前でちょっときついんだ』作戦を展開するんだ。
今日は……22日か。じゃあ、おまえの給料日は25日だ。メモしとけ」 |
谷川: |
「ええ? 何故メモ?」 |
バチッ! |
谷川: |
「い、痛い!
コンセントではたくなんて、デブ虐待ですよ!!」 |
河口: |
「馬鹿者!
おまえみたいな、たまにバイトしてるだけの奴は給料日が一定じゃねーだろ?
しかも本来は同人誌で食ってて、固定の給料日なんざねーんだから、嘘設定を忘れたらヤバイだろーがっ!!」 |
谷川: |
「は、はい。
自分の給料日は25日、今ケータイにメモりました!」 |
河口: |
「それで良し。
……とはいえ、こんなおつき合い最初期も最初期に割り勘デートは辛いな〜。
おい、ファーストフードくらいなら、金出せるか?」 |
谷川: |
「そりゃ、まあ」 |
河口: |
「だったら、ランチデートにしろ。
夕方から仕事とか何とか言って、昼の間だけ会う分には、ファーストフードでも問題あるまい」 |
谷川: |
「わ、分かりました。
明日会ったらすぐ仕事で時間が無いと伝えます!」 |
バチバチバチッ!!
|
谷川: |
「いて、いて、いててっ!
コンセントの先ではたくのやめて下さいってば!」 |
河口: |
「おまえのアホはまだ治らんのかっ!
予定が分かった時点、すなわち今! メールで送っておけ」 |
谷川: |
「で、でもこんな夜中ですよ?」 |
河口: |
「当日言われるより、誠実さが伝わるんだよ、早く言った方が」 |
嘘に誠実が含まれているのかどうか、疑問だ……と谷川君は思いましたが、素直にメールを打つ事にしました。 |
谷川: |
「えーと。
『明日、仕事でミスしちゃって、夕方から会社に行かないといけなくなりました。ゴメン』」 |
ガッ!!
河口さんは携帯をひったくりました。 |
河口: |
「違うっ! そこはこうだっ!!
『会社で後輩がミスしちゃって、明日は仕事に行かないといけなくなりました。
ホントは朝から出なきゃいけないんだけど、君に会いたいから、夕方からにしてもらいました。ゴメンね』だ!
ミスしたのは自分じゃない。
いいか、ここでおまえがミスしたとなると、大切な初期デートの前に何やってんだ、ってなるだろ。別の奴のせいにしろ!」 |
谷川: |
「せ、先輩! ケータイメール打つの早っ!! すげっ!!」 |
河口: |
「フ、オレの102芸のうちの1つだ」 |
河口さんは得意そうだが、そんな事は別段芸では無い。 |
谷川: |
「ところでつい勢いに飲まれて聞けなかったんすけど、何で夕方で帰るんスか?」 |
バチバチバチバチっ!!!!
|
谷川: |
「あんぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
で、電気漏電してるっスゥ〜〜〜!!!!」 |
河口: |
「分かってるのかと思えばっ!
おまえはファーストフード如きで夜までデートを引っ張るつもりくわぁーーーーー!!!!」 |
谷川: |
「はっ! な、何か、そう言われると、分かる気がします!
目が覚めました、お師匠はん!!」 |
河口: |
「良し。で、肝心の店選びだが」 |
谷川: |
「やっぱりモ○バーガーみたいな、ちょっと高くて健康イメージの方がいいンすか?」 |
河口: |
「フ、惜しいな。その作戦は初回ではダメだ」 |
谷川: |
「え、えと。
じゃ、1000円くらいするハワイタイプバーガーとかのコジャレ系の店とかッスか?
店、全然分からないっす」 |
河口: |
「それでも無い。もちろん、ファースト○ッチンやロッテ○アも違う」 |
谷川: |
「……と言いますと?」 |
河口: |
「ここはマ○ドナルドだ」 |
谷川: |
「えええっ? そ、そんな庶民テイストでいいんスか?」 |
河口: |
「ああ。マク○ナルドはそうイメージが悪くない。そして何より重要ポイントだが……」 |
ごく。
↑谷川くんは息を呑んで次の言葉を待ちました。
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河口: |
「あそこのハンバーガーは……ペラい!」 |
谷川: |
「……は?」 |
河口: |
「フ、つまり、ソースや具を見苦しくこぼさなくて済むという事だ!」 |
谷川: |
「な、なるほど!!」 |
河口: |
「お互い慣れてくれば気にならない事も、初回ではチェックされてしまう危険性があるからな」 |
谷川: |
「アレ? でも最初のウチって、そーゆーの甘く見てもらえるものなんじゃ……?」 |
河口: |
「そりゃ、相手がベッタベタにこっちに惚れ込んでくれてりゃな」 |
谷川: |
「う、それはさすがに自信ない……」 |
河口: |
「だったら隙を見せるな。
女性は些細な事を減点対象にする生き物なのだ」 |
谷川: |
「ハ、ハイ」 |
河口: |
「うむ。素直なオマエの為に、もう1つ伝授してやろう。
注文するメニューだが」 |
谷川: |
「俺はビック○ックとポテトとコーラLが定番っス」 |
じろり(平均点80点のテストで10点しか取れなかった息子を見つめる母親の目)。 |
谷川: |
「せせせせせせ先輩っ!
その『何じゃ、この不出来な男は』って目はやめて下さい〜(泣)」 |
河口: |
「デブ的な男? ああ、まさにその通りっ!
それじゃせっかくマクド○ルド選んだ意味ねーだろ!
確かにビック○ックには“ひっくり返して食べればこぼれにくい”という裏技があるが、ここはより安全策を取れ!
フツーのバーガーを2個頼むんだ!」 |
谷川: |
「そ、そうか!」 |
河口: |
「そしてコーラ禁止。ポテトもサラダへチェンジな」 |
谷川: |
「えぇえぇえええええぇええええ!」 |
ギロリ(部屋でエロパロロリ同人誌を読んでいる兄を見つめる妹の目)。 |
谷川: |
「ひぃいいいい! そ、そんな目で俺を見ないで(滝涙)」 |
河口: |
「いいか、デブは、いかにもデブ然としたモンを食べていてはイカン」 |
谷川: |
「でもぉー、俺はコーラが無いと生きていけないっす」 |
河口: |
「ポーズでいいんだよ、ポーズで!!
彼女と一緒の時くらい我慢せんか!!」 |
谷川: |
「は、はいいいぃ」 |
河口: |
「ああ、あと、これだけは絶対に守れ。
あらゆる例外なく、口を開けたまま食べ物を噛むな。
大概の人間はこれだけで1億年の恋も冷めるからな」 |
谷川: |
「それは大丈夫っす。自信あります」 |
河口: |
「ほお? そーなのか?」 |
谷川: |
「だって、昔っから先輩が散々そう言って、躾てくれたの忘れたんスか?」 |
河口: |
「あ、そーか。
デブがくちゃくちゃ噛んでるとみっともなさロトくじ倍率だから、ちょっとでもやろうとしてたら鉄拳制裁してたっけ」 |
谷川: |
「そっす。だから完璧っス」 |
河口: |
「良し良し。鉄拳制裁の甲斐があったな!」 |
バリバリに文系(ヲタク)のくせに、体育会系な事を言い合う二人だった。 |
河口: |
「最後にもう1度、作戦を言ってみろ」 |
谷川: |
「はい。
金が無い初期のデートはマクドナ○ドで。
注文はキレイに食べられるペラいバーガーとサラダ系。
食べる時に口を開けるのは厳禁。
ファーストフードで済ます時は、夕方までに帰る」 |
河口: |
「うむ。完璧だ」 |
谷川: |
「そーだ、先輩。
ついでに夕方、上手く帰る方法を教えて下さいよ。
いくら仕事って言っても、やっぱ彼女を置いて帰るの辛いッスよ〜」 |
河口: |
「そーだな。何かキッカケが欲しい所だな。
よし、オレが時間になったら電話してやるよ」 |
谷川: |
「助かるっス〜」 |