ソノシート Mr.Boo
更新日:2004年5月13日
 最近、本を見ると、付録によくCDがついている。
 いや、CDどころか主流はDVDになってきているし、複数枚付属している本も当たり前に見かけるようになった。
 それらは長時間の音楽や映像が納められているだけでなく、パソコンのためのアプリケーションソフトが山ほど詰め込まれているものもある。
 デモ画面や体験版などが多いゲーム関連の雑誌を見ていたせいか、こういった付録はカタログとしての役割がほとんどだろうと思いきや、そんなこともないらしい。

 例えばアニメ雑誌では1話分を丸ごと収録したものがあったし、パソコンの雑誌なら優秀なミニゲームや雑誌オリジナルのゲームなどが収められているケースもあることに感心してしまう。
 そこだけ見れればいい、これが遊べればいいというものが収録されていた場合、人によっては市販のゲーム、ビデオやDVDソフトを丸々買うのがバカらしくなってくるのではないだろうか。

 そんなことを思いつつ仕事をしていると、また一冊レジに持っていかれた。
 CD付きのゲーム雑誌だ。

 「ゲームか…」と、ここでふと友人が歌ったとある歌を思い出す。

 何の事はない、「新オバケのQ太郎」のオープニングなのだが…


♪あのねQ太郎はね〜
 頭に毛が三本しかないんだよ
 きゅっきゅきゅっきゅきゅっきゅQ太郎はね〜
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだけれど
 ズッコケなんだ
 あわてんぼなのさ
 い〜つも失敗ばっかりしてるんだよ
 だけど犬にはとっても弱いんだってさ!



 というのが本来の一番の歌詞。

 しかし、頭に浮かんできたのは


♪あのねQ太郎はね〜
 頭に毛が三本しかないんだよ
 きゅっきゅきゅっきゅきゅっきゅQ太郎はね〜
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだ
 Q太郎はね〜
 きゅっきゅきゅっきゅ
 お〜ばけなんだ
 お〜ばけなんだけれど
 ズッコケなんだ
 ズッズッコケなんだ
    ・
    ・
    ・


 …おお? 何かが違う!

 これは友人が歌ってくれたものだ。
 実は掃除中に彼が見つけたある物を、折れ曲がってしわくちゃになった状態で再生したらこんな感じで行ったり来りを繰り返したのだという。
 本来なら5分もない歌が倍ほどの10分近くかけて流れきったそうである。

 再生したモノとは「ソノシート
 塩化ビニールでできた、ぺらんぺらんに薄い、レコードの簡易版のような(実際は異なるものだが)アレのことである。
 BOOの知らない時代には一世を風靡していたものらしく、用途の幅も広かったらしいのだが、個人的には小さい頃「みつばちハッチ」や「ムーミン」のソノシート付き紙芝居などを買ってもらっていた(いまだに持ってる)程度の記憶しかないので、ソノシートといえば幼児用の付録という印象が強い。
 何しろレコードと違って柔らかい上にそうそう割れることも無く、適当に何かやってもしわくちゃになるだけだから、なるほど小さい子供の遊び道具としてはうってつけかもしれない。
 彼の家で発掘されたソノシートも、おそらくはそうした過酷な環境を耐え忍んできたものだったのだろう。

 それにしても、割れていないからといってプレーヤーにかけ、最後まで辛抱強く聴きつづけた知人も大した者だが、「紙をくしゃくしゃにしたよう」な状態になっても流れ続けたソノシートも大した物だと思う。
 BOOだったらもう少しましにしまってある…かもしれないような気もするが、小さいころの話なのだからそれは難しいか。

 とりあえず我が家の方へ目を向ける。
 今家に眠っているソノシートは紙芝居、童謡、そしてゲームミュージック。
 このゲームミュージックは、BOOが中学生当時、それまで幼児向けだと思っていたソノシートが実はそれだけではなかったということを知ったという意味で、かなりショッキングだった。
 何種類かの雑誌にたまに付録としてついているのを見かけたが、特にある雑誌についていたソノシートによる衝撃は大きかった。

 「Beep」

 昔、そんな雑誌があった。

 アミューズメントパークなどというしゃれた言葉など無かった20年近くも前の話。
 当時、暗い雰囲気の漂うゲームセンターや、デパートなどの一角に設けられていたゲームコーナーに置かれている各タイトルをプレイすることが、ファミコンをすることとはまったく別モノだった時代の雑誌。
 別にアーケードゲームの専門誌というわけではなく、むしろゲームというものを全体的に捉えていたと思う。
 休刊になるまでが5年あまりという比較的短命な方だったが、未だに根強いファンは多いとも聞く。
 ちなみに、現在刊行されている「ドリマガ」の前身であることは知る人ぞ知る秘密かもしれない(笑)。

 その本に、たまに付録としてゲームのBGMを収録したソノシートが付いてくることがあった。
 これのおかげで、ゲームセンターの中で他の筐体の音と交じり合ってしまったり、うるさくて聴こえなかった曲や、BOOのプレイがあまりに下手すぎて進めなかった後半のステージ音楽やエンディング曲といった、まるで聴くことのできなかったBGMを知る事ができ、当時は感動すら覚えたものである。
 またアーケードゲームだけでなく、家庭用ゲーム機やパソコンのゲームまで収録されるなど選曲の範囲は幅広く、そこにアレンジバージョンまで加わったりしてよくぞここまで入れたものだと感心もした。
 しかも、収録されている曲には未だCD化されていない(アレンジは特に)ものもあり、人によってはかなり価値のあるものとなっている。
 BOOも家にあるソノシートの「グラディウスII」のアレンジバージョンや「デジタルデビルストーリー・女神転生」のBGMなどは今も宝物の一つだ。

 こうしたゲームミュージックのソノシートは、アーケードゲームのBGMだけでなく、ファミコンやPCエンジンなどのプレリリース用のBGMなどに利用され、一時期には色々な雑誌で付録として見かけることもあったが、CDが普及していくとともにいつのまにか消えてしまい、今やかろうじて見かける程度になってしまった。

 それら当時のソノシートは今も雑誌と一緒に自分の手元に数枚あるのだが、今改めて聴くとなかなかに味がある。
 普通にレコード盤を聞く時もそうだが、あのアナログならではの微妙にくぐもった音とそのゆらぎは、シャープなデジタル音源には無い何かを感じられる気がする。
 しかも、ソノシートの盤面はレコードに比べ格段に柔らかいため、音のゆらぎ方は更に大きくなる。
 聞くところによると、レコードでも正確な音が聴けるのは最初の数回くらいらしく、その後は段々と溝が削られ不正確になっていってしまうらしい。
 ソノシートはそれよりヤワで、最初の一回だけしか正確に聴けないそうだから、レコードよりゆらぎが大きくなるのは当たり前だ。
 しかし、だからこそ同じ曲に些細な変化を与えている(はず)のもまた事実。
 いつか聴けなくなる日が来るまで、楽しもうと思っている。
 そう考えると今も手放せないのは、ただ物持ちがいいからというだけではなく、そのなんとも言えないアナログ感覚が捨てるのを拒絶しているのかもしれない(笑)。

 それに、聴くと妙な面白さもある。
 例えば、曲間の無音部分からB面の音が聞こえてしまうこと。
 はじめて気がついた時は、盤面がレコード盤より柔らかいから単に音を消すことができないものなのかと思っていたけれどもそうではなく、ソノシートの薄さのために裏側の溝から音を拾ってしまうらしい。
 今にして思えば、かなり聴いていたことに因る盤面の磨り減りが原因なのかもしれない。
 ともかく、そのため当時はその音を入れないようカセットテープに録音するのに、タイミングを合わせてテープを止めるか、あきらめてそのまま録ってしまうかで頭を悩ませたものだ。

 また、軟質なソノシートだからこそ、ちょっとやそっと曲がっただけでは聴けなくなるなんてこともない。
 最初に書いた友人の例はその最たるものだろう。
 現物が見れなかったのが残念(笑)だが、よく矯正不可能なほど曲がっていた「オバケのQ太郎」のソノシートを捨てずに持っていたものだ。
 だめもとで、プレーヤーにかけようと考え付いた友人にサムズアップ!
 彼が歌って聞かせてくれただけでも十分笑わせてもらったのだから、実際に聴いたら相当面白いに違いない。
 CDは傷によるリピートはないし、レコードはゆがませることは決して不可能ではないが、聴けても素材が硬すぎて音がパターン化してしまう。
 適当にゆがんでも割れることなく聴けてしまう状態が、おそらくは二度同じように流れないであろう独特な音楽の面白さを生む。
 軟質で薄いソノシートならではの力技的な遊びといえよう。

 ソノシートはもはや過去の遺物となりつつある。
 質も量もCDにはおよばず、レコードプレーヤーを置く家も今は少なくなっていることだろう。
 柔軟性だけでは使いどころはたかが知れている。
 そんな、そこはかとなく漂う哀愁も、今は魅力の一つなのかもしれない。

 さて、今日は何を聴こうか?
 と、思っていたらなんと「Beep復刻版」なるものが3月末に発売されていた。
 1985年の創刊から89年の休刊になるまでに発行された本をまるごと全部縮小印刷して、足跡のほぼ全てを収めた姿勢には頭が下がる思いだ。
 そして付録はソノシート! …の盤面に見せかけた外見のCDだった。
 ご丁寧にもデジタルではなくアナログ録音したそうで、レコードプレーヤーにかけた時同様のビミョーな音がどこか懐かしい。
 デジタルで収録されていないことには賛否両論あるだろうが、素のままを提供しているところが「Beep」という雑誌の本質を表していると思おう。
 全て収録されていることを期待したのだが、残念ながらそれは叶わず、一部の曲とナムコ関連の曲が全てはじかれていた。
 「ナムコ・クリスマスチャリティコンサート」やファミコンの「ファミリーゲーム」シリーズや「アサルト」「メルヘンメイズ」のアレンジバージョンなど、意外なほど多くの曲がソノシートに取り残されたままになってしまうのだが…

 版権に関する事情などの、複雑な問題があるかもしれないのは推測できるけど…ナムコ、気前よくOK出してくれないのは大人気無くないかい?


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