『れーっつ! モテモテ王国ッ!!』 〜オタクな貴方のためのデート講座〜 柏木悠里
更新日:2004年5月6日
 ある晴れた日曜日。

 河口隼人さん(28歳・某家電メーカー企画開発)が自宅で『仮面ライダー剣』を見ながらまったり過ごしていると、インターフォンが鳴った。

 ピンポーン♪

河口: 「はい、N○Kなら間に合ってる。ちなみに浄水器もいらねェよ」
男性: 谷川っす」
河口: 「ああ、エロゲーメーカーでCGの色塗りやってる事になってるけど、ホントは同人で食ってる後輩の谷川か」
谷川: 「誰に説明してるんスか?
 そんな事より先輩、相談があるっす」
河口: 「まあインターフォンごしに相談も何だから、とりあえず入れ」

 がちゃ ←扉の開く音。

谷川: 「お邪魔しまーす」
河口: 「げっ! おまえ、また太ったな。
 0.1トン越えたらウチの敷居はまたがせないって言ったのに!!」
谷川: 「そ、そう言わないで下さいよ〜。
 イケメンの先輩だけが頼りなんスから〜」
河口: 「何だそりゃ? いい加減、何でもかんでもオレに頼るのやめろや。小学生の時からそーじゃねーか。
 小3の時は隣の席のマイちゃんに渡すラブレターの書き方だろ? あん時は、下駄箱に入れるラブレターの角度まで聞かれたっけ。
 中学の時は中学の時で初めて作った『セーラームーン』の18禁同人誌印刷する印刷所紹介したのもオレだし、高校の時は確か、後輩からキモがられてるのを何とかしてくれって泣きつかれたし……」
谷川: 「うううううう。心臓に悪い思い出を語らないで下さいよ〜。
 第一、同人誌18禁にしたのは先輩じゃないスか! 俺は18禁描いたつもりないっすよ!!」
河口: 「あれは18禁だったよ、内容が。童貞君のドリーム満載の超濃いエロだったよ!!」
谷川: 「だ、だって俺、あの頃14歳だったし!
 先輩だって17歳だったじゃないスか!」
河口: 時効だ、そんなモンわっ!! さっさと用件を言えい!!」
谷川: 「……こ、今回はホントに先輩じゃないとダメな相談なんス。
 俺、実は彼女ができまして……

 くらぁ。
 河口さんは目眩がした。

谷川: 「せ、先輩、大丈夫っすか?」
河口: 「あ、ああ。世の中にはボランティア精神に満ち溢れた女性がまだまだ居るんだな。
 まるで駅前でやってる、アフガニスタンにも赤十字にも届けていないエセ募金に千円以上提供してしまう以上の女性だ。神よ……」
谷川: 「な、な、何、失礼な事言ってんすかっ」
河口: 何を言うかっ!
 いいか、オレはまだ、その女性を実在しているものとして相手してやってるんだぞ?
 決して、おまえの脳内彼女じゃないか、なんて言ってねえ! 感謝しろ!!」
谷川: 「の、脳内じゃないから色々困ってるんス!!」
河口: 「……そうだな、現ブッシュ大統領の英語力並には信用してやる」
谷川: 「助かるっス」
河口: 「ところで、0.1トン越え、メガネ以外、秋葉系標準装備のオマエに彼女ができたプロセスを聞きたいな」
谷川: 「そ、それがっスね、バイト先に保険の勧誘で来たんスけどね、話が合っちゃって合っちゃって!」
河口: (保険、幾つ加入させられた事やら……)

 河口さんは取りあえず話を聞いてやる事にした。
 つけっぱなしのTV画面には、ブレイドがアンデットと闘っている場面が映っている。

谷川: 「俺、女性とつきあうの初めて(プチはぁと)なんで、気をつけた方がいい事とか、先に教えてもらおうと思うんスよ」
河口: 「気をつけた方がいい事、ねぇ……」
谷川: 「た、例えば、デートとかどーすればいいのか、サッパリで」
河口: 「そうだな。まず食事は7割おごれ
谷川: 「7? ぜ、全部じゃなくていいんすか?」
河口: 「全部おごるのは駄目だ。
 『男が出さなきゃダメ』思想=男尊女卑野郎と見られる危険性がある」
谷川: 「ええっと、じゃ、3割は彼女におごってもらっていーってコトで……?」

 スパコーン♪

谷川: 「い、痛いっす! いきなりスリッパきかさないで下さい!!」
河口: 「3割は割り勘に決まっとるだろーが。
 どこのアホが女の子におごらせろと言った! それが許されるのはホストだけじゃっ!!」
谷川: 「す、すいません。
 で、でも、今までおごってたのに、突然割り勘お願いするのって、カッコ悪くないすか?」
河口: 「大丈夫だ。そういう時は、なるべく給料日前を狙え。
 セリフはこうだ。
 『ごめん、今日、給料日前日でちょっとキツイんだ。今日は割り勘いいかな?
 あ、もちろんこの埋め合わせは次するから』」
谷川: 「分かりました! 支払い前に必ず言うようにします」

 スパ、スパコーン♪

谷川: 「ううう……スリッパ2連発はきついっす……」
河口: 「支払う前じゃない!! 店に入る前に言わんかっ!!
 もし、彼女も金が無かったら皿洗いしなきゃならんだろーが」
谷川: 「は、はい。それにしても、何で5割じゃなくて7割なんスか?」
河口: 「いいか? 半分おごりで、半分割り勘にしたとする。
 すると女性が覚えているのは、割り勘にさせられたコトだけだ。
 7割はギリギリのラインだ。できれば8割が良い」
谷川: 「あのー、それって、既に男尊女卑野郎の気がするんスけど……」
河口: 「そう見えないように、たまに金を出してもらうのがポイントだ」
谷川: 「……」

 納得のいかない谷川君を置き去りにして、話は進む。
 丁度、『ふたりはプリキュア』が始まったが、河口さんはおもむろにTVを消した。

河口: 「他に質問は?」
谷川: 「そうっすね。会話とかで気をつけた方がいいコトってありますか?」
河口: 「そうだな。
 じゃ、例えば、彼女が髪型を変えたとする。何て声をかける?」
谷川: 「ええっと……。
 その髪型カワイイねー。似合うよ、すごく、とか」

 スパ、スパ、スパ、スパ、スパコーン♪

谷川: 何で、5連発なんスか!!
 ここはフツー、3連発でしょーがッ」
河口: 「そういう問題じゃない。
 いいか、その言い方じゃ、前の髪型は可愛く無かったかのよーじゃねーか」
谷川: 「えっ?」
河口: 「そこはこうだっ!!
 『前の髪型も良かったけど、今度のはもっと似合うよ』だ!!
 いいか、おまえの彼女は良くなったんじゃない!! より良くなったんだ。
 忘れるな。“より良くなった”んだぞ、これだけ心得ておけば、確実に他の男共とは一線を画せる」
谷川: 「な、なるほど……。確かにその方が褒められた感が強いっすね」

 今度の話には素直に感心した谷川君は、突然重要な事を思い出した。

谷川: 「そうだ、彼女もうすぐ誕生日なんスけど。な、何をあげたらいいスかね?」
河口: 「……彼女の好みは?」
谷川: 「え、えーと。そ、そういや何も知らないっす」
河口: 「じゃあ、まず黒髪かそれ以外か教えろ?」
谷川: 「髪は濃い目の茶色っす」
河口: 「じゃあ、ブランド。ブランドいっとけ」
谷川: 「え、な、何故? それに、それってセンス無いとか言われるんじゃ……」
河口: 「今時、黒髪を通していたら、カンチガイオシャレ系か、オタク系のどっちかの可能性もあるが、茶髪なら多分、フツー人だろ。
 それにたとえ隠れオタクだとしてもだ。OLなら会社に持ってくのはフツーのブランドだ。決してボーイズラブの紙袋じゃねえ」
谷川: 「いや、さすがにそれは俺でも分かるッスけど……」
河口: 「つまり、最悪センス・好みが合わなくても、通勤時に使ってもらえるかもしれんワケよ。ブランドなら」
谷川: 「そ、そうか! なるほど。で、どういった物がいいスかね?」
河口: 「そうだな。予算が許すならできる限り、エルメスだ」
谷川: 「へ? シャネルとかグッチじゃないんスか?」
河口: 「……その辺のブランドは、気に入らなくて売っぱらう時に価値が下がるんだよ。
 もちろん、ティファニーなんざ、高校生以上にあげるのは厳禁な」
谷川: 「何であげる前から、売られるのを想定しなきゃいけないんスか〜(泣)?」
河口: 「男なら常に先を見越せ!!
 オマエと彼女が別れた時、彼女の悲しみを少しでも和らげるためには、プレゼントの現金化は必要不可欠ッ!! もはやこれは男の義務ッ!!!!」

 谷川君は迫力負けした。

谷川: 「い、今、ケータイサイトで中古ブランド品のカタログ検索したんスけど……」

 ドガアァッ!!

谷川: 「痛ーーーーーーーーーーーッ!!
 突然本の角で殴らないで下さいよ(涙目)」
河口: 「おまえは馬鹿か? アアン?
 女へのプレゼントをセコハンで済まそーなんざ、イケメンだって無理なんだぜ?」
谷川: 「ど、どっちにしても、中古ですら手ェ出ません〜」
河口: 「しょうがねーな。格はいきなり落ちまくるが、彼女、キャラクターで何か好きなのねーか?
 サンリオとか版権鼠とかで」
谷川: 「う、う〜ん? 今の所記憶に無いなぁ」
河口: 「とにかく、どーしょーも無かったら、キャラ物に頼れ!
 鉄則だ。誕生日までに聞き出しておけよ」
谷川: 「は、はいっ。
 あ、こ、コレ。コレどーっすか? バラの花50本!

 さっき見ていた中古ブランド品カタログの片隅に、バラの花50本1万円♪の文字がある。

河口: 「彼女、家族と同居か?」
谷川: 「ええっと、多分一人暮らしだと……」
河口: 「馬鹿ここに極まれり、って感じだな?
 どこに一人暮らしで50本ものバラを飾れる花瓶を用意してる女が居るかッ!!
谷川: 「えええっ? 花瓶くらい、フツー女の子は持ってるでしょ?
 毎日花買っちゃったりして」
河口: 「夢見すぎ。つーか、ぶっちゃけ、居ねぇ、そんな女」
谷川: 「そ、そんなぁ〜。エロゲーやギャルゲーには居ますよ〜?」
河口: 「落ち着け。いいか、今は安くて1本からでも売ってくれる花屋が確かに存在している。
 だが、1本100円として、30日。3000円だぞ?
 一人暮らしの人間に取っちゃ、貴重な3000円だ。
 食費で言えば、自炊してりゃ1週間はもつ。もしくは、OL仲間とのランチ代3回分だぞ?
 誰が食えもしない花にそんなに金をかけるかっつーの」
谷川: 「で、でもそれならもらえば嬉しいんじゃ……」

 ドガ、ドガアァッ!!

谷川: ぎゃーーーーーーーーーーッ!!
 本の角2連続ヒットーーーーーーーッ!!
河口: 「だーかーらー、もらっても飾るトコなんかねえから困るだけだと最初に言っただろーがっ!!
 この鳥頭!!」
谷川: 「は、は、はい〜。何とか好きなキャラクター聞き出して、グッズで行く事にしまふ〜」
河口: 「最重要点を言い忘れていた!
 キャラグッズにするなら、1万円以下の物は選ぶなよ!
 そんな物は自分でも買えるんだからな!!」
谷川: 「分かりました!
 で、せ、せ、先輩、一番聞きたい事がまだ残ってるんスけど」
河口: ……ホテル代を割り勘にしたいって言うのは、質問すら禁止な
谷川: 「うっ……」
河口: 「あと、最初の1回は気合い入れていいホテル選べ。
 できればシティーホテルだが、無理なら『東京○週間』でも読んで、綺麗なトコ厳選しろ」
谷川: 「え? 最初だけ?」
河口: 「そうだ。最初と記念日は押さえとけ。後はランクが落ちてもかまわん。
 どーせ、それ以外のHなんざ、女に取っちゃ数に入らん」

 谷川君は純粋に衝撃を受けた!

谷川: 「ううっ。肝に銘じておきまふ。
 ……ただ、ずいぶんと恋愛って、お金がかかるんすねー」
河口: 「ああ。ラブイズキャッシュ(はぁと)は人生最大の哲学だからな。
 さあ、最後にもう一度心得を言って見ろ」
谷川: 「はい!
 おごりは7対3で。褒める時は『より良くなった』。
 プレゼントはブランドかキャラクター物、花は厳禁。
 最初と記念日のホテルはいい所を選べ」
河口: 「よし、完璧だ。頑張れよ。
 蟻が巣を作るのを眺めてる時と同じくらい応援してるぞ」

 谷川君は明るい顔で帰っていきました。
 河口さんは谷川君を笑顔で見送った後、「多分、その女、誕生日目前になると彼氏が増える人間だろうな」と呟きながら、扉を閉めましたとさ。



※絶対に本気にしないで下さい。99%はギャグですから。

(柏木悠里)



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