新潟の真実
後藤夕貴
更新日:2004年12月23日
 ついこの前、中越大震災で多くの被害を出してしまった新潟県。
 ここは筆者の出身地であり、同時に、この「九拾八式工房」の大元・赤城山AMUSEMENTの発祥地でもある。
 本来なら、先の地震に関連した事で色々書くべきなのかもしれないが、今回はそういうウェットな内容にはしない。
 この県…新潟について、色々書いてみたいと思う。

 もちろん、ただの田舎自慢に走るほど、筆者は甘い人間ではない。


 突然だが、新潟は、色々と誤解を受けやすい県だ。
 他県の人に聞いてみると、新潟と聞くと「米と酒、大雪」というイメージしか湧いてこないという。
 ちょっと詳しい人になると、酒は「天狗舞」などの具体的な銘柄になったり、さらに上記に「味噌」や「へぎそば」が加わったりする。
 まあ、確かに、新潟というとそんな感じの所だ。

 もちろん、他にも色々名物や話題があるのだが、他県の人にもっとも浸透しやすい話題となると、先のイメージに関連したものを振るのが一番なのだ。
 オカルト方面に限定するなら、弥彦山の霊山っぷりや越後胎内観音や「人面石」、あるいは廃墟・ホワイトハウス自殺電波塔など、また色々と話題の幅が出てくる訳だが。
 さらにそれ以外だと…田中角栄氏とか、新幹線とか、佐渡島とか、そっちの方面もあるか。

 え、「みかづきのイタリアン」を忘れるなって?
 ふふふ、甘い!
 食べ物は、またいずれ別な機会にやるわっ!!


 他県の人と話をしていていつも思うのが、積雪量についての誤解

 どうも世間では、新潟というと「毎年冬には、家が埋まってしまうほどの大雪が降るらしい」というイメージが強くあるようだ。
 完全に否定はしないけど、これって実は場所が限られている話なのだ。

 新潟県は、全部で3つの「地方(地域)」に分かれている。
 上寄り三分の一が「下越地方」と呼ばれ、真ん中三分の一が「中越地方」、下三分の一が「上越地方」となる。
 ここで「えっ、上にある方が“下越”なの?」と思われる方も多いと思われるが、そう、地図を基準に見ると上下逆転している事になる。
 どうもこれ、京都寄りの方を上として考えられているという説があるが、実際のところはよくわからない。
 下越は山形県に近く、上越は富山県寄り。
 こうなると、下越から上越に移動するのもなかなか大変で、隣の県に行く方が近かったりする。
 基本的にJR東日本に属しているのだが、上越地方・糸魚川という所からはJR西日本に変わってしまう。
 とにかく、それだけ距離に開きがあるのだ。
  
 閑話休題。
 先の大雪の話だが、これは下越地方ではあまり当てはまらないものだったりする。
 もちろん、年によって差があり、昔はなかなかに積もった事もあったのだが、一時的な大雪で道路が混乱するような事があっても、意外に早く溶けてしまって、交通マヒも長く続く事にはならない。
 いや、それ以前に、マヒらしいマヒなんか起こらないけど。
 都内では列車運行停止になるような積雪でも、新潟ではさも当然といわんがばかりに、普通のローテーションで走り抜けてしまう。

 実際の大雪エリアは、中越地方(県全体の、真ん中1/3くらいのエリア)や上越地方(同・下1/3くらい)が中心となる。
 ちなみに、よく写真で見られる「家が埋まるくらいの高さになった雪の壁」などは、実際は除雪の過程で作られた人造雪山の上に、さらに雪が降り積もって出来たものだったりする。
 もちろん、すべてにおいてその限りではない、という条件が付くが。
 こうなると、雪もなかなか溶けなくなるので長い期間残留し、事情を知らない人がそれを見ると、「物凄い積雪量だ」という印象を持つ事になる。
 筆者の実家のガレージ裏には、かつては毎年冬になると2メートルほどの雪山が作られ、滑り台や鎌倉を作って遊んでいたものだが、これも、ガレージの屋根から雪下ろしで積み上げた結果に出来たものであって、決して一度に積もったものではない。
 だから、雪山をつくるためにわざわざ何回も雪下ろしをする必要があった訳だ。
 ごくまれに、一度で雪山が出来てしまう事もあったが。

 新潟は、縦にドえらく長い県で、長さだけなら全県一を誇る。
 下越と上越では他県並の距離感があるし、ましてや佐渡は、もはや海外のレベルだ(佐渡在住の方、失礼!)。
 つまり、一口に新潟と言っても、色々な顔がある。
 繰り返すが、すべてにおいて「ドカ雪に埋もれる県」というわけではないのだ。
 降った端から雪が溶け始めて、残念がる子供達だって多いのだから。

 冬に本当に怖いのは、むしろ「寒さ」だ。

 これにより、前に降った雪が溶け残り、その上からどんどん雪が溜まっていく。
 だから、暖冬の年などは驚くほど雪が降らないし、積もらない。
 東北地方の本格的な雪国とは、とてもじゃないが並び立てないレベルなのだ。
 しかし、新潟が意外に雪が降らない所だと言っても、大雪たる基準がどこかにあるわけではないから、やっぱり他県からは「雪国の中の雪国」と思われてしまうのだろう。
 ちなみに筆者の生まれは新潟ではなく岩手県なのだが、ここの冬はすごい。
 新潟とは比べ物にならない積雪量の上、さらに寒さまで上を行く。
 水道が凍りつくという事態がごく普通に発生するという時点で、もはや脅威である。
 これより北の地方で、真冬を経験した事がない筆者には、北海道は「死の世界」に思えてならない(北海道在住の方、ごめんなさい)。


 雪国出身者にはいくつか特殊なスキルがあるが、これも、雪国出身者を証明する証拠になる。
 真冬になり、東京各地の路面に氷が張り、車はスタッドレスタイヤ絶対装着というほどの冷え込みを見せたとする。
 よくニュースでも、「転倒者続出」などと言われ、実際に、よく人がすべって転ぶ光景を目にする。
 ところが雪国人は、夏に履いているのと変わらないような平靴のままで、凍結した路面の上を走り抜けられるのだ!
 というか、老若男女関係なく、これが出来ない者に雪国人を名乗る資格はない。
 それくらいの必携スキルなのである。
 もちろん、100%滑らないというわけではないが、この特殊な走り方が出来る人達は、常に重心を落とした状態を維持して移動するため、ちょっと足元が滑る程度で転ぶ事はなく、すぐに体勢が整うのだ。
 中には、これをまったく無意識にやってしまう人や、ハイヒールでも平気だという人もいる。
 このスキルは、冬以外でも、大雨で濡れた駅のホーム内移動などに応用が利く。
 筆者も当然このスキルを持っており、底が完全にツルツルの靴でも走破可能だ(でも靴の中に水が入るからやらない)。
 同じ出身地の鷹羽飛鳥氏などは、生来搭載されているターボユニットを利用して、なんと時速200キロもの高速で移動する事が出来るという。

 新潟をはじめとするいくつかの県では、路面に溜まった雪を溶かすため、道路の中央部分に「温水噴射装置(消雪パイプ)」が設置されている。
 温水と言っても実際は地下水で、これによって車によって踏み固められた雪を溶かし、路面の安全性を図るわけだ。
 たまに、この装置が故障して、道路の真ん中で大噴水が発生する事もあるのだが、これは古くからの伝統的な光景で、地元では冬の風物詩となっている。

 ところが、これによって溶かされた雪のため、道路の端に、水が溜まる。
 中途半端に溶けた雪が水と共に滞留してしまうため、これが元で、またまた特殊な積雪事情が生まれたりもする。
 ぶっちゃけていうと、道路の端にどす黒く染まった雪塊が大量に生まれるのだ。
 だがそれ以前に、溶けた雪が横断歩道付近にも溜まってしまうというのは、困り物。
 そのため、新潟在住者は、この水溜りを器用に避けて歩くスキルも身に付けている。
 つま先でチョンチョンと、水深の浅い部分を狙って踏み出し、なるべく濡れないように移動するわけだ。
 これにはかなりの熟練が必要で、中にはうまくいかない人もいる。
 鷹羽飛鳥氏ほどになると、脚部から高圧縮空気を噴出して身体を浮かせ、そのままホバー移動するという能力を発揮するため、大して問題にならない。
 周りの人は、さぞ迷惑な事だろう。

 また、雪の中を自転車で走り回るというのも、必携スキルの一つだ。
 これは、年配のおばちゃんでも平気で敢行する。
 当然、自転車用のスタッドレスタイヤなんかない。
 完全なアイスバーン上だとさすがに危険だが、慣れた人は、車の車輪の跡(積雪が浅くなっていて比較的路面が安定する部分)を選んで走ったりするが、子供達は、むしろまったく踏みならされていない雪の中を突っ切る。
 実は、そっちの方がグリップが確保されて安定走行できるのだが、それ以前に、やっぱり面白いというのもあるのだろう。
 誰にも荒らされていない雪の平原を、自分の力でめちゃめちゃにするのは、雪国育ちでないとわからない快感なのだ。
 鷹羽飛鳥氏愛用の自転車・愛称「ホバリアン」は、強力なスパイクを内蔵した特殊ゴム製のチューブレスタイヤを搭載し、さらに1tにも及ぶ超重量で安定性を確保する上、前面部から放出する熱線で積雪を除去してしまうため、かなり安全に走り抜ける事が可能だ。


 さて、色々と新潟の冬事情を書いたが、最後に、筆者が体験した「雪事情」をお話しよう。
 これは、ここまでの「新潟は雪がそんなに降らない」という話と相反するような内容だが、舞台が中越地方なので、特例として御容赦いただきたい。
 まあつまり、場所によってはこんな事も起こるという事だ。

 今から14年ほど前の年末の話。
 当時、筆者は車を運転し、長岡方面在住の友人宅を訪ねた。
 泊りがけで遊びに行き、ここで年末年始を過ごそうと目論んでいた訳だ。
 
 長岡方面と言っても、実際はちょっと外れた所。
 見附市という所だ。
 大晦日、友人らと共に色々と動き回り、午後11時頃、近くのコンビニの駐車場に車を停める。
 当時、筆者が運転していたのは、赤色のスターレットで、タイヤをスタッドレスに換えただけの、まったくのどノーマル。
 とはいえ、結構濃い赤色だったため、よく目立った。

 二年参りも済ませ、友人宅に戻って色々くっちゃべっていた時、ふと大事な用事を残してきた事を思い出した。
 結構急を要する用事だったため、予定を切り上げてすぐに帰宅する事に。
 時間は、午前2時をちょっと回った頃。
 今から実家のある新発田まで移動すると、普通なら約ニ時間。
 ただし、雪の降りが強くなってきている上、場所によってはかなり積もっているため、当然いつものスピードは出せないから、プラス一時間は見るべきだろう。
 とりあえず、事情を説明して友人宅を出て、車を停めたコンビニに向かう。
 雪は、もはや完全なボタ雪となっており、感覚的には、一粒がセンチ単位の大きさに至っているようだ。
 みるみるうちに、傘が重くなっていく。


 はて。

 コンビニがない。


 あるべき所に、コンビニがないのだ!
 当然、その駐車場に置かれた自分の車すらない!
 あれだけ目立つ真っ赤なスターレットが、どこにも見当たらないのだ。
 あるのは、ただ巨大な雪山のみ。…って、雪山だあ?!

 よく見ると、コンビニは全体が完全に雪に埋没しており、すでにコンビニとしての外観を完全に失っていた。
 知らない人間が見ると、ちょっと地面が盛り上がっている場所に、雪が降り積もっただけのように見える。
 さらに、完全に暗闇と融合していたため、建物だと認知する事すら出来なかったのだ!
 駐車場も、すでに雪のせいで全体の高さが盛り上がっていて、道路との境界線がない。
 また街灯も届かない所なので、どこからが道でどこからが交差点なのかすらわからず、気が付いたら、大きな道路の真ん中を歩こうとしている始末。
 車が見当たらず、途方に暮れている筆者の前にある、こんもりとふくらんだ雪の塊に目が行く。
 まさか…

 雪をのけると、僅かに覗く真っ赤なボディ!
 ウソだろーっ!! 俺の車、完全に埋もれているよ!!!

 どうやら、駐車場に停止してからたったの二時間弱で、このボタ雪は筆者の車ごとコンビニを完全に埋没させ、さらに、道路の表面まで埋め尽くし、風景を100%変えてしまっていたのだ!
 なんとか車の上の雪を振り落とし、ドアを開ける。
 表面がすでに凍りつき始めており、ウインドウ表面に付着した氷片が取れない。
 運転席側・助手席側のウインドウを一度完全に下げ、雪を振り落とすが、視界は確保できない。
 当然、フロントウインドウではワイパーフル稼働だが、積もった雪の比重がありすぎて、ワイパーの可動範囲の半分も視界が開かない!
 当然、リアウインドウなんか何も見えない。
 ましてや、ちょっと雪をはらった程度では、すぐに復元されてしまうのだ。

 仕方ない。
 このまま運転しよう。

 結局、筆者は手前と右手側のウインドウの外がちょっと見える程度の過酷な視野条件で、100キロ近い道のりを走る事になった。

 だが、問題はそれだけでは済まなかった。
 ボタ雪が、ただでさえ狭い視界を塞ぐのだ!

 おそらくこの恐怖は、実際に体験した者でなければわかるまい。
 あまりにも巨大かつ大量に降るボタ雪は、車のライトを乱反射させ、かえって視界を封じてしまうのだ。
 おかげで、前方1メートル先すらろくに見えない。
 もちろん、こんな状態でハイビームになんかしたら、自殺行為以外の何物でもない。
 道路のセンターラインはおろか、果たして自分が走っている道が、本当に道路なのかどうかすら怪しい。
 ましてや、信号すら見えないのだ!
 思い切り接近してみて、やっと赤信号が点滅している事を理解したら、なんとそれは本来止まるべき停止線の反対側の信号だったり…
 さらに、踏み固められていないはずなのに、路面が滑る、滑る!!
 とっさに逆ハンで体勢を整えないと、本当にクルクル回ってしまうほどだ。
 こんな経験、初めてだ!
 田舎道で、尚且つ元旦深夜だったからこそ、無事故で抜けられたのだろう。
 同じような状況で、別な日、別な時間だったら、絶対に大事故に至っていたと思われる。
 こんなところを、ろくに周りも見れない状態で駆け抜けたのだ。
 寿命が何日縮まった事だろうか。
 鷹羽飛鳥氏の愛車「ライドロン」のような、飛行能力・地中・異次元移動能力があれば、こんな恐怖を味わわなくて済んだのにと、本気で思った。

 なんとか見附市を抜けてバイパスに入り、新新バイパスにアクセスする頃には、すっかり車体に乗っていた雪は落ち、前後左右のウインドウの雪や氷片も溶け落ちてきた。
 雪は三条を越える辺りで降り止んでおり、気温も少し高かった上、車体と車内の温度が上がってきたためだろう。
 実家に到着した頃には、まるであの豪雪が嘘だったかのように、積雪の痕跡はなくなっていた。
 もちろん、新発田には雪なんか一ッかけらも降っていない!
 100キロとはいえ、ほんの3時間弱程度の距離なのに、雪の降り方がこれだけ違うのだ。
 長年新潟に住んでいたが、これほどまでに違うのかと、あらためてその脅威を教えられた。


 え。
 ここまで読んでいて、結局「新潟は雪が降るのか降らないのか」わからなくなったって?

 …つまり、ムラがありすぎるという事だ。
 筆者も、ここまで書いていて、あんまり自信が持てなくなってきた。


 この辺の実情については、次回、鷹羽飛鳥氏執筆の「冬の新潟事情・恐るべき越冬生活の実態」を参照していただきたい。


 


                                 逃走

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