鷹羽的キャラクター考 第1回 「マッドギャラン」
鷹羽飛鳥
更新日:2003年12月31日
 以前から、メタルヒーローも習慣鷹羽で取り上げてほしいというリクエストがあったのですが、なにしろほかの原稿で忙しくて、資料集めやビデオチェックもままならないため、応えることができませんでした。

 で、元締の真似をして、こちらでライトな内容でやってみたいと思います。
 シリーズ化するかどうかは分かりませんが、しばしお付き合いを。


 とりあえず、今回は『巨獣特捜ジャスピオン』に登場するマッドギャランについて述べたいと思います。

 この作品は、『宇宙刑事シャイダー』の後番組で、当時途絶えていた怪獣物をメタルヒーロー物でやろうとした意欲作です。
 怪獣を「巨獣」と呼び、等身大ではコンバットスーツ(本作ではメタルテックスーツと呼称)でメタルヒーロー系のアクションを、巨大化戦では、戦闘巨人ダイレオンと巨獣の戦闘を描くという方式で、東映版『スパイダーマン(東映版)』以来になる単体ヒーローによる等身大・巨大化戦両方をやろうとしたわけです。
 また、新機軸として、ジャスピオンは名乗らない、武器の名前を叫ばないヒーローとして設定されました。
 「ふんっ」と言って剣を取り出し、黙ってビームガンを撃つという地味なアクションが祟ってか、はたまた男言葉を使うアンドロイドがPTAの怒りを買ったためか、途中で路線変更されて、「プラズマブレーザーソード!」と言って剣を出すようになったり「巨獣特捜! ジャスピオン!」と名乗りを上げるようになりました。

 マッドギャランは、敵の首領であるサタンゴースの息子であり、当初言葉を発しなかったサタンゴースに代わって等身大戦闘員であるマッドギャラン軍団を率いてジャスピオンと戦う、いわば大幹部的な存在で、この番組でのアンチヒーローでした。


 世のヒーロー物には、アンチヒーローのいる番組が時々あります。
 アンチヒーローとは、所謂ライバルキャラのように単なる好敵手や宿敵というのではなく、敵組織の一員でありながら、組織の意志としてではなく自分の意志としてヒーローと戦うべき理由を持っている存在と言っていいでしょう。
 それは、キカイダーに対してのハカイダーだったり、ライオン丸に対してのタイガージョー、ブルービートに対してのブラックビートだったりします。

 ハカイダーは、キカイダーと同じく光明寺博士に作られたロボットで、特にそうプログラムされたわけでもないのにキカイダーを倒すことに異常なまでの執着を見せ、キカイダーが他の者(アカジライガマ)に敗れたことから半狂乱となって敵組織ダークを裏切る形になり、ダークの刺客に倒されました。

 タイガージョーは、「忍法獅子変化」するライオン丸と同様に虎錠之介が変化する存在で、自らが最強たらんとして、敵組織ゴースン一味の傭兵としてライオン丸に挑みました。
 彼の場合、ライオン丸を打ち負かした後、そのまま敵首領ゴースンに挑んで敗死しました。

 ブラックビートは、ビーファイターを倒すために敵組織ジャマールに作られたブルービート:甲斐拓也をのクローンであり、インセクトアーマーを重甲する戦士です。
 しかし、彼は唯一絶対の自分を確立するため、オリジナルである拓也を殺すことに全てを懸け、そのためなら、ジャマールの作戦すらも妨害する異分子でした。

 彼らは、いずれも一応敵組織に属し、ヒーローに勝利すれば組織に利益をもたらす者でありながら、独自の行動原理を持ち、独断専行しながらヒーローと戦っていきます。
 この点、バイオマンに対してのシルバは、敵組織とも利害を異にし敵対する存在であり、アンチヒーローではなく第三勢力と考えるべきでしょう。

 そんな中で、一際異彩を放っているのがマッドギャランです。
 マッドギャランが特殊なのは、第一に自分が組織のトップであり、自分の意志が組織の意志となるということです。

 2つ目は、その正体です。
 彼は人間の姿に変身できますが、あくまで本性は一見メタルヒーロー系に見える姿の方でした。
 アンチヒーローの常として、ヒーローと同種でありながら裏側の存在であることが挙げられると思います。
 上で挙げた3つの例が、いずれも同種の変身システムだったり、同じ科学者が作ったロボットだったりと共通項を持っているのに対し、マッドギャランはあくまで外見が同じメタル系であるというだけで、暗黒生命体なる特殊な存在、つまり生物としての根幹が違っているのです。


 さて、このマッドギャラン、鷹羽的には3つのお勧めネタがあります。
 1つ目は、何と言っても戦闘です。
 何しろ剣を持ったメタル系同士の等身大戦闘ですから、絵になること尋常じゃありません。
 特に最後の戦いとなった45話『俺はサタンゴースの息子だ』は圧巻です。

 倒れ込んでいるジャスピオンに対してマッドギャランが振り下ろした剣を、体を起こしたジャスピオンが剣で受け止め、マッドギャランがそのまま後ろに押し進んでいく
 足下がコンクリートの崖状態になった場所で、互いの剣を切り結んだまま足下の崖っぷちに押し当て、そのまま押していく
 ジャスピオン・マッドギャラン双方が目を光らせ決意をみなぎらせながら剣で切り結ぶと、とにかく早いカット割で燃えるシーンが連続します。

 撮影方法としては、1つ目のシーンは、ジャスピオンをクレーンで吊り下げた状態で撮影し、マッドギャランが進むのに合わせてジャスピオンを後退させていきます。
 これで、地面に押しつけた相手を力ずくで押し込んでいく迫力が生まれます。

 2つ目のシーンは、コンクリの縁に火薬が仕込んであり、剣を滑らせると同時に点火して、“剣がコンクリの縁を削ったことで火花が飛んだ”ように見せるわけです。

 最近のトクサツでは長剣同士の戦いが少ないので分かりにくいかもしれませんが、剣を持った者同士が素早い殺陣で動き回る姿は非常に絵になります。
 『スターウォーズ エピソード1』でのダース・モール達によるライトセーバーの戦闘を思い出してみてください。
 あれはたしかに素晴らしいアクションですし鷹羽も好きですが、動き方を見ると、刃物ではなく棒を振り回している感覚に近いです。
 対して、日本の剣殺陣の場合、剣に重みが感じられる振り方をするので、迫力があるのです。
 ライトセーバーと同じ光る棒リボルケインを持つRXを見ると分かりますが、RXとダース・モールらでは剣の振り方がまるで違います。
 これは、日本では刃で斬る日本刀のイメージで殺陣をつけているせいですね。

 また、日本刀の場合、鍔迫り合いという“刀同士を合わせた状態で押し合う”使い方があります。
 『龍騎』OPラストでの龍騎とナイトがやってるアレです。
 切り落とし、切り上げなど、刀で刀をはじいたり巻き取ったりする技法も、日本刀ならではのものらしく、自分の刀で相手の刀を地面に押しつけて奪うなどの戦い方もあります。
 先程の2つ目のシーンは、そういったものなわけです。

 3つ目は、分かりにくいかもしれませんが、要するに電飾・メッキスーツを使用しての格闘シーンです。
 『ジャスピオン』の前番組である宇宙刑事シリーズでは、主人公が怒ったときや敵にトドメを刺すときなどにゴーグルの奥で目が光るというのが伝統でした。
 『ジャスピオン』でもこれを受け継ぎ、時折目を光らせていましたが、光らせたままでのアクションというのは、スーツアクターの視界が制限されることもあって難しいのです。
 『555』でもファイズとカイザが電飾スーツ同士で戦うというのをやりましたが、ああいう感じのだと思ってください。
 その上、メタル系ではメッキされてキラキラ光るスーツがキメの時に使われていたのですが、それをアクションシーンで使ったわけです。

 そりゃあ燃えるってもんです。

 45話では、ただでさえ滅多に見られない大がかりなアクションに加え、メッキスーツでの戦闘などという珍しいものが、僅か10分足らずの間に凝縮されていたわけです。
 これら一連のシーンでは、ジャンプするたびに場所が変わったり、○○空間でもないのに黒バックの空間にいたりと、なんでやねんな部分もありますが、全く気になりません。


 さて、見所の2つ目は、話数は忘れましたが、夏くらいのころ、マッドギャランが人質を取ってジャスピオンに武器を捨てるよう迫った時です。

 「武器を捨てろ」(ジャスピオン、剣を捨てる)
 「銃もだ」(ホルスターから銃を抜いて捨てる)
 「強化服も取れ」(メタルテックスーツを解除する)


と、1つずつ捨てさせておいて、本当に丸腰にしてから部下に襲いかからせるという悪辣さに痺れました。
 当時まだジャスピオンは、武器を使うとき名前を叫んでいなかったのですが、それ故に格好良かったのでしょう。
 これが「プラズマブレーザーソードを捨てろ」とか言われても流れが悪くなっちゃいますから。


 3つ目は“黄金の鳥”が本編に絡み始めたころのことです。

 マッドギャランは、自分やサタンゴースの弱点である“黄金の鳥”の写真を撮影した南原健一郎(演じるは佐々木功)に対し、人間に化けて訪ねて行き、数百万円の現金を見せながら、どこで撮影したのか情報を買おうとしたのです。
 マッドギャランの正体を知っている視聴者からすればいかにも怪しげな人物でしたが、先入観なしに見れば、“金色に輝く鳥”を捕まえて一儲けしようとする密輸業者の類にも見えるという、実に小市民的な悪人像でした。
 鷹羽は、それを見て非常に感心した記憶があります。


 こういう、策略や卑怯な手を使うタイプは、アンチヒーローとしては邪道かもしれませんが、単なる悪の幹部に止まらないキャラクター性や、ヒーローであるジャスピオンよりも格好いいデザインなど、見所の多いキャラでした。
 これは、マッドギャランの声や人間体(スーツアクターも!)を演じた春田純一氏の演技による部分も大きかったと思います。

 個人的には、途中で1回ジャスピオンに負けて死んじゃったことと、復活後の人間体が変な服装になってしまったことが残念です。


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