猟奇の檻 第3章 The Final Mystery Adventure Game
高視聴率番組を量産するTV局“みらいテレビ株式会社”。
そこに、何百倍もの競争率をくぐり抜けて採用された主人公。
だがそのTV局の正体は、欲望と憎悪の渦巻く三番目の『檻』であった!!
1.メーカー名:ペンギンワークス(猟奇の檻保存協会)
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:A
7.その他:なんかこのゲーム、やたらと超マイクロミニスカートやらノーパンにこだわっているんですが、何かあったんでしょうか?
(ストーリー)
主人公・須藤武は、大手TV局“みらいテレビ株式会社”に採用が決定した。
かねてより、自分の手で大人気ドラマを製作する事が夢だったのだ。
しかし、初出社でいきなり社長室へと向かわされる。
当局の女社長・樋田玲子は、とある理由で特別に、独断で武を引き抜いたのだった。
現在局内で発生している事件があり、武は、専属でその件の究明と解決を命ぜられる事になる。
事件とは、超人気知性派レポーター・小谷紗江子が、生放送本番中しかもニュースソース朗読中に、突然顔を紅潮させ、淫靡な表情を浮かべながら身悶えを始めたというもの。
厳格で聡明なイメージをウリにしている彼女が、こんな痴態を公にさらす筈がない。
果たしてこの時、紗江子の身に何が起きていたのか…?
武は架空の新部署・企画部マーケティング室々長の権限を与えられ、興信所から派遣された探偵見習い・松本絵理とコンビを組んで、調査を開始する。
やがて浮上する“脅迫”の疑い。
何者かの陰謀が、小谷紗江子を蝕み始めているのか?
事件の究明を進める武達の前に、新たな事件が発生する。
人気アイドルグループ“キャッツ”の一人・響子までもが、本番撮影中に身悶えし始めたのだ!
新たな事件に震えるみらいテレビ。
…しかし、これは後に展開する、さらなる惨劇の序章に過ぎなかった…。
はい、まず先に言っておきます。
以降の本文では思いっきりネタバラシをしてますから、オチを知りたくない人または現在プレイ中&プレイ予定の人には、閲覧を奨めません。
このゲーム、やっぱりオチを知らないでやらないと面白さ半減どころの騒ぎじゃないですからね。いや本当。
スッパリと、読む読まないを決めてかかった方が懸命です。
さて、一応警告したから、ここから批評に入るとしましょう。
当初、様々な不安要素が囁かれていた本作。
「キャラデザが横田守氏じゃない」「以前のスタッフがほぼ全滅」などはその最たるもので、正直、過去2作品にそれなりにのめった私も期待同様不安も抱いていたものね。
結論から先に言うなら、かなりの頑張りが見て取れる秀作と言えるでしょ。
外見こそ大きく異なるものの、基本的骨格はやはり『猟奇の檻』の名をはせるだけの事はある。
元々は一般人に過ぎない主人公に、突然降りかかる事件調査の任。
限定された場所を、限られた時間内に巡って人々と出会い、その回数や順番によって発生するイベントなどは、過去のシリーズを経験した人ならば「ニヤリ」とするもの。
そして当然、良くも悪くも不透明なストーリー展開もしっかり健在で、必ずしも「プレイヤーが推察する犯人像」を追求する訳ではないというスタイルも継承されている。
考えてみれば、本作って“プレイヤーが主人公を直接操作して謎を解く”という物ではないんだよね。
主人公の活動を見つめながら、プレイヤーはプレイヤーで犯人像を頭の中で模索するタイプの奴。
どちらかと言えば『EVEbursterror』に近いスタイルなんだよね。
そのため、プレイヤーが犯人を直接指定するという『〜第1章』みたいな事はない(似たような部分はごく一部あるが)。
悪く言えば展開に流されっ放しって事なんだろうけど、純粋に物語りを眺めるという目的ならば、さほど気にならないレベルに留まっている。
ただしこういうシステムだからこそ、ドタン場の大逆転“犯人と思っていた奴が被害者、被害者と思っていたのが犯人!!”という、恒例だけどヤラれると驚くパターンが活きてくる。
主人公に勘違いさせる事で、間違った認識をプレイヤーに植え付ける…という手法は、今回は実に上手く使われている。
特に、トゥルーエンドの決着シーンは秀逸でしょう。
いやそれどころか、過去のシリーズと比較しても最大級の演出じゃあないかな?
ただしここで「あんな単純なオチに気付かない奴なんておかしいんじゃないか?」なんて言うしったかぶり君は黙っててね。“逝って良し”とは言わんけど。
用意された演出を単純に楽しむためには、あえて難しく考えないという見方もあるんだからさ。
先に解ればいいってもんじゃないんだってば。
本作は、なんと四重にも張り巡らされた悪意が存在しており、それぞれに理由付けがされている。
結局は脅迫犯人と、後に発生する殺人事件、TV局内の覇権を巡った骨肉の派閥争いが複雑に入り交じっているのだけど、これだけの要素をひとつにまとめあげた上に、それぞれに関連を持たせているという練り込み様には、正直驚かされる。
それぞれが独立している筈の犯罪なのに、奥底に繋がっている不可思議な因縁と情念…この辺りのドロドロした描写が見えてくると、ようやく「あ、やっぱりこれは“猟奇の檻”なんだ!」と感じられてくる。
こういうのって、考えるまでは簡単なんだけど、実際にひとつのシナリオにしようとすると、途端に難しくなるんだよね。
一見無関係の様に見える会話や小イベントの端々に、さりげなく設定されている伏線は、地味ながら絶大な効果を上げていて嬉しい。
特に、R2ルートでの第四編集室の“ビデオデッキ故障”から発生するやりとりは、衝撃でありながらも一筋の切なさを含んでいて、オチに向かって集束していく物語にさらなる拍車をかけている。
あの最後のVTRの一場面がなかったら、トゥルーエンドの犯人の動機の説得力が半減してしまうからね。
あの時の主人公の想いが、個人的にとても気に入ってたりするんだ。
また、四つもの犯罪が渦巻いているわけだから当然「俺はコッチではやったがアッチは知らない」というキャラも存在する訳で、そういった連中の思惑や行動にまとまりがあるのがポイント高い。
兵藤なんか、愛のVTRを巡った主人公とのやりとりで見せる感情の変化がとても解りやすくて、実に見ていて楽しかったものだ。
こういう部分に統率が取れていないゲームって結構多いから、本作はこの点、緻密にチェックを繰り返したんだろうね。
主人公の周囲の人々も、実に愛すべき人物像で好感が持てる。
本作は、いわゆる“誰が悪人で誰がそうでないか不明瞭”という事が少なくて、ほとんどのキャラが見たまんまだ。当然真犯人についてはこの際例外となるが、前作の牧子タイプの犯人のため、やはり根元は悪人ではない(のだろうね…)。
明らかに悪側の連中は、明確な敵意を主人公に向けてくる。
諸悪の根元とも言える鶴岡専務や権田原・兵藤等は、邪悪な個性を初登場時から振りまき続けていて実に解りやすい。
誰がどう見ても“奴等は何かヤッている”って顔つきなので、プレイヤーは警戒する。
同時に、過去のシリーズでパターン学習済みの人は、“本件の裏で何悪さスてるんだぁ?(山形弁?)”という姿勢を作って挑める。
これのパターン崩しはたまむら一人だけというのも、エッセンス的には充分だろう。
悪人と思っていてそうでなかった…っていうのが、あの状況(&面構え)で複数いたなら、この辺の良さは台無しになっていただろうしね。
ただ、やはりというか欠点は山ほど存在しているのも事実だ。
最も目立つ欠点とは、先述の通り“第一印象が最悪”という事だろう。
これは本編でも言える事で、とにかく事件の導入ってのは「股間に異物(しかも電動&リモコン)挿入を強要され、そのまま本番撮影」させられている被害者達を救い、脅迫犯人を見つけだす…という、ちょっと変化球なものだ。
確かに、『猟奇の檻』というシリーズはいきなり殺人事件からスタートするものではなかった。初の殺人事件は、すべて本編に入ってしばらくしてから発生している。
とはいえ、こんな猥褻な脅迫事件から人が死ぬ事件に突然シフトされても、正直面食らってしまうのだ。
唐突に代わる雰囲気は、違和感バリバリってところだ。
さらに、ここに画面の暗さが拍車を掛ける。
本作の背景にはかなりクセがあり、はっきり言ってしまえば「汚い」!
いや、ヘタクソで汚いのではなく、TV局自体が薄汚れた建物という設定になっているため、独特のグラデーションを施した天井や壁面なのだが、室内装飾が異常におざなりだったり、ファミレス店内がどう見てもキャバレーにしか見えない配色センスだったりと、あまり誉められた物ではない。
第一、社長室や応接室なんか、もう少し配色や内装に凝っててもいいだろうに…。
これまでの様な洗練された結果の暗さではない、寂れた裏町の商店街みたいな背景(画面構成)は、そればっかりだとあまり手放しでは誉められない。
それで、外の景色だけは明らかに写真をスキャニングして加工した物だから、これまた違和感がある。
ファンタージェンならぬ“ワンダー園”には、笑わせてもらったけどね。
シナリオ上の不備も、やはりところどころで顔を見せる。
このゲームは、全体的に5つのストーリーラインがあり、主に1日目の最後辺りから分岐の兆しが発生する。
結果、R1→美枝・R2→未紅(&絵理)・R3→琴美・R4→玲子・R5→特殊となり、それぞれが各ヒロインとの結末に結びついている。
ところがこのゲーム、実は事件そのものの展開に2つのバージョンが存在しており、その結果真犯人が入れ替わってしまうという奇抜なスタイルを持っている。
結論から言うと、メインルートとそのバリエーションとも言えるR1・3の真犯人は琴美であるのに対し、完全解決トゥルーエンドR2では、なんと“キャッツ”のリーダー・未紅が真犯人となる。
こうなると当然、その結末までの展開にも差を作らなくてはならないのだが、それがあまり完全ではない。
最も大きな違いが、小谷紗江子の生首事件の有無だけというのは、ちょっとね…。
基本的に、解決が近付く6〜7日目辺りまでの展開が共通のため、その中での細かな演出部分だけが追加・交換されているだけなのだ。
例えば、R2ルートでは味方側のキャラの誰とも摩擦を起こしていない筈の主人公が、美枝に変態ストーカー扱いされていて、捜査に支障を来すと嘆いてしまったりする。
こんなのもある。
終盤唐突に三日近く琴美の姿が見えなくなってしまい、一部のキャラ達がその行方を追う展開がある。もはやこの時点で、彼女が真犯人だろうという憶測がプレイヤーにも見えて来ている。
そうなると、演出上の都合で“真犯人との接触をわざと避けさせている”と誰もが考えるだろうが、なんとこれは彼女が被害者となるR2ルートでも発生してしまうのだ。
んで、その行方不明だった間にやっていた事の一部がR3ルートで解るのだけど……要するに、すでにこの段階で彼女は精神的に“壊れ”始めており、どんな行動を取っていてもおかしくはないだろう、という事にしたかったみたいだ。
確かに、出会ううちに少しずつ異常が見え始める琴美の仕草や会話は、演出的には秀逸なのだ。しかし、これではちょっと不満が残ってしまう。
ついでに言うと、R2ルートでの彼女は、紗江子への憎悪は残っているものの、別に精神異常を起こしている訳ではなさそうなんだよね。
まさか、あのたまむらと結婚するとは思わなんだが。
肝心の脅迫事件の犯人・福田を巡るやりとりにしても、なんだかいつの間にか決着が着いていたという印象しか残らない。
主人公が彼を直接取り押さえる展開は、番外的展開と言えなくもないR4ルートのみだというのも原因で、メインルートR2では、彼を逮捕劇へと追いつめる展開そのものが存在しないため、「武が最も必要とされていた筈の事件が、こんな終わり方でいいんかい?」という印象が常に付きまとってしまうのだ。
福田が犯人であると決定付ける場面では、他の事件の容疑者も定まっていない状態のためか、もしかしたら福田についても単なる冤罪なのでは? なんて感じてしまったりもする(実際そんな展開はないが)。
要するに、もう少し引き締まった説得力が欲しかったという所か。
一見事件が終わった様に見えて、主人公達だけが煮え切らず、そして本当にまだ解決していなかった! という流れは、個人的にツボですが。
どーでもいいけど、あの福田って何の仕事をするために局に来てるんだろ?
ただひたすら盗撮してるだけやん。
OPのシルエットが彼である事を知った時、もっと重要な鍵を(さりげに)握っているのでは…なんて勘ぐったんだけど、気のせいだったね。
だが最大の疑問点は、R2ルートのバッドエンドの一つ。
直接1スタに向かった時に発生する“琴美の落下死”エンドだ。
先述の通り、R2ルートの真犯人は琴美ではなくて未紅である。
それなのに、琴美落下後にフライズへ行くと、真犯人の筈の未紅は両手を拘束された上にクロロホルムをかがされて昏倒している…という、驚きの展開になっている。
R2ルートでは、途中で犯人が琴美に変更されるという展開がない以上、どう考えてもこれは未紅の自作自演だろう。
実際、(R2ルートでは)25時間テレビの司会最中の痴態すらも、脅迫事件がまだ続いているかの様に見せるための演技であったわけだからね。
もし、この演技がプレイヤーを混乱させるために用いたものであるというならば、ちょっと滑稽だ。
クロロホルムは百歩譲るとしても、琴美を突き落としてから、誰かがフライズに上がってくるまでの短時間内で、自分の両手を梱包用テープで拘束するなんて事が果たして出来るのだろうか?
と、いうよりもどう考えても不可能なのだ。全体の中でも一・二を争う無茶な展開であると言えよう。
その他、ややツッコミ的な欠点指摘を始めたらキリがない。
響子の自殺(実は他殺…)によって精神崩壊を起こし、奇行が目立ち始めた“キャッツ”の愛なんかはいいのだが、活動に支障を来して休業している彼女が、どうして毎日TV局に来ているのか…とか。
終盤、高梨の過去を調べに山形へ旅発った筈の絵理が、恐らく車中の人になっているか目的地についているだろう時刻に何故か守衛室で刺されて倒れてたりとか(戻ってくる理由も、このルートではない)、まして彼女を刺した犯人は、どうして守衛室の中に物を置いて扉を開きにくくさせる必要があったのかとか、結局響子は鶴岡の隠し子で間違いなかったのかとか(まして彼女の生い立ちそのものは、高梨・琴美らとは無関係の筈だし)、絵理はファミレスで毎日何時間のバイトをしていたのかとかも……やめよう、あまりに意地悪だ。
ただし、これだけはいくらなんでも…という問題点は、守衛・高梨の過去のエピソードが、R1ルートだけでしか細かに説明されない事。
R2ルートでは、主人公の目前で鶴岡を刺殺するという大立ち回りを演じているのに、その動機説明は別ルートの方が細かいというのは、マズイでしょ?
テキストの流用でもいいから、こちらでも同様の解説を付けていただきたいものだ。
あ、そうそう…あとね。
清水裕香のあのカッコ、マズイでしょ(笑)?
ノーパンノーブラのマイクロミニナース服の次に着せられたのは、なんと『T〇 Heart』の制服…? し、しかも芹〇風の黒のハイソですかい!
なんだか変なところにこだわっている人いるみたいね。
…余計なお世話だけど、ちょっと心配したナリよ。
問題点のトドメ。それは音楽!
明らかに、シリーズ中最低の完成度といえるだろう。
キャラクター別にテーマがあったり、主題歌のアレンジインストゥメンタルを多用したりと、頑張っているのは解るんだけど、どうしても曲の完成度自体が追い付いていない。
ここが一番、過去のシリーズと比較されて厳しい部分ではなかろうか。
無闇に大迫力のイントロから始まる絵理のテーマは、完全な大失敗の一例ですな。
もう少し、微妙なメロディーラインが欲しかった所。
ただし、エンディングロールに流れる主題歌「BreakUP!」だけは例外。
曲のアレンジもさる事ながら、とにかく歌詞がいい。
“私…夢を叶えたいの。私だけの大切な夢を…”
“嘘だらけの笑顔、見つからない答え…そんなものは「壊す」から!”
“…私が生きる為、私の愛を汚した過去を…”
“だから、迷うことはやめて、俯かずに歩けるよ…”
これを歌うのは、真犯人の浅加未紅。
凶行に走った彼女の心情を語るのに、これほどベストの歌詞はあるまい。
また、この歌詞はもう一人の真犯人・琴美の心情ともシンクロする。
最後の最後に喰らった、良い意味での痛撃だった。
(総評)
当初のイメージに振り回されず、やりこめばそれだけ面白みが見えてくる、それが本作『猟奇の檻・第3章』だと思う。
基本的には『第2章』の構造を応用し、それをさらに複雑に、かつ面白くまとめ上げた事は絶賛に値する。
先の通り、完全な出来とは決して言えないが、逆にある程度の隙がある方が『猟奇の檻』っぽくていい感じだと思うのだけど…どうでしょ?
なんだかんだ言って、かなり楽しめた作品だった。私としてはね。
本作の主人公・須藤武も非常に面白い人物で好感が持てる。
最初はありがちな“いかにもエロゲー的主人公”のステロタイプなのに、捜査が進むにつれて大胆な行動力やドタン場度胸が備わってきて、周囲の評価も高まっていくという過程が嬉しい。
展開上での勘違いも、さほど大きく逸脱している訳ではないし、それなりに状況を冷静に判断してたりするから、玲子の言葉じゃないけどさりげに優秀なんでしょうな。
だけど、女性に節操がない&妄想癖というのは、もうこういうののお定まりのパターンなんだろうね、きっと。
ただ残念なのは、どうやらグランドヒロインらしい絵理。
名探偵の孫で、自らも優秀な探偵の素質を持つという設定が、いまいち生きてなかった事がね。
やっぱ、数少ないロングスカート&太ブチ眼鏡&マーキュリーな髪型は地味過ぎたか? もう少し目立つデザインでもかまわなかったと思うのだが…。
最後に、今回の真犯人の心情について触れてみたい。
森田琴美は、シャレにならない陰惨な過去と性癖、凶運を持っていたために堕ち続けていった不幸な女性だ。
そんな彼女が心を崩壊させながらも、最後まで望んでいたのは「結婚して幸福になる」という、元芸能人とは思えない程に素朴なものだった。
彼女の人生は鶴岡によって狂わされ、そして新たに抱いた夢すらも、同じ鶴岡の手によって汚されたのだ。
恐らく、“キャッツ”入りの放しが空中分解した段階で、すでに彼女の心の崩壊は始まっていたのではないだろうか?
そのため、その要因を表に引きずり出した小谷紗江子を憎むという、言ってしまえば逆恨みとも取れる思考を抱いてしまった。
琴美がどれほど紗江子を恨み、同時に“キャッツ”の三人を恨んでいたかを考えれば、あれほど強烈な猟奇殺人に至ったのも理解出来るのだ。
多分この殺人を彼女が行わなかったとしても、琴音を巡る凶運の刃が止まる事はなかったのだろう…そんな風にも感じられる。
浅加未紅は、さらにドロドロとした怨念を抱いている。
仲間である筈の愛と響子に売り渡され、醜悪な肉欲の宴に放り込まれた彼女…自分が憎む相手とトリオを組み続け、離反も許されない状況が、どれほど過酷なものであったかは、想像に難くない。
空蝉の笑顔の奥に渦巻く憎悪は、恐らくとてつもない加速で凝縮されていったのだろう。他の二人と仲良くする仕草を繰り返す度に。
だが愛と響子の経緯を考えると、二人に売り渡されなかったとしても、未紅自身もいずれ鶴岡・兵藤達の餌食になっていた事は間違いない。
つまり、彼女の殺意自体は“陵辱された”事からの発生ではないと言えるだろう。
その後の地獄の様な毎日こそが、彼女を邪悪な鬼と変貌させてしまった根元なのだ。
R2トゥルーエンドを見た後の再プレイで、未紅を意識して見ていると、そのせつなさがより伝わってくる気がする。
主人公が、“キャッツ”脱退を考える未紅を引き留めた事は、実は逆効果だったのだ…。
それにしても、どっちに殺されたとしても問題ない様に演出された響子と愛の死にっぷりは、実に見事としか言いようがないですな(笑)。身体張ってるし!
秀作といえるか、良く出来た佳作なのかは、多分プレイヤーによって変わる印象だろう。
ただ、やはりそれなりの拘りを以て作られた本作、恋愛・陵辱系が相変わらず幅を効かせているこの業界に対しての、ささやかな清涼剤となるかもしれない。
そんな風に、私は感じている。“猟奇の檻保存協会”には、もっともっと頑張って新らしい「猟奇の檻」を作っていただきたいものです。
あ、でも“H大好き馬鹿娘”は、今回までで結構ざます。
(後藤夕貴)