特命課長 慰中陰銀三郎
同社ソフト『不確定世界の探偵紳士』と共通の世界観を持ちながら、あまりに異なる性質を持っている本作。
貴方は、この凄まじいギャップに耐える事ができるか?
1.メーカー名:DIGI-ANIME
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:E
4.H度:よーわからんが、Bくらいでねーの? それがメインだし。
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:E
7.その他:タイトルの当て字で不吉な予感を覚えた方、それは当たってます。避けた方が懸命かと…
(ストーリー)
富士山の大噴火によって、その大半を壊滅・もしくは海に沈没させてしまった2010年の東京都。
壊滅した首都を復興させるためにと、日本は「JCP(日本カジノ振興会)」という組織を確立させた。
主人公・慰中陰銀三郎(いじゅういんぎんざぶろう)は、その組織の本社・情報部の課長に位置する存在だが、この課の人間はすべて素性を隠して他の部署に仮配属されているため、彼自身普段はダメ社員の姿を装わなくてはならない。
慰中陰は「陰堕楽天」というチャクラの力を操る秘技を持っており、これにより、女性を意のままに操る事が出来る。彼の任務は、会社にとって何かしらの害を及ぼしかねない人物の親族や関係者…女性…に接近し、これを肉奴隷と化して操り、ターゲットを攻略するというものだ。
今日もまた社長から直々に、彼に新たな特命が課せられる…
2000年前半、比較的アタリを引きまくったツケが、ここに来て回ってきた。
現在、諸事情で攻略停止中の『Natural2〜duo〜』と本作をプレイして、これを心底実感した。
本作はシナリオライターこそ異なるものの、同社『不確定世界の探偵紳士』と共通の世界観と設定の一部を継承している。
“アイドラー”の探偵ランクの存在、それにより能力を分けられた者の思い等、Aランクである悪行双摩の活躍では語られなかった部分にも抵触しようとした部分がある。
しかし、おろかにも私はこれをドリキャス版『ミステリート〜不可逆世界の探偵紳士〜』(2002年になってもまだ出てない!)の移植前作品であると勝手に勘違いしており、「いったいどうやったら、こんな(Hな意味で)ハードな作品を移植できるのだろうか?」と一人でドキドキしていたのだ。<阿呆や
とはいえ、内容は前作と比較するに至るものではない。
否、関連があるという事実すら拭い捨てたいくらいにくだらない内容となってしまっている。
なんというか、ありがちなんだけどうまく加工すればそこそこ持っていけそうなストーリー展開を、思いきり水で薄めたといった印象か。
うまみがまったくなく、アラだけしか目立たない。
どんなに良い部分を汲もうとしても、その前に問題点が山と迫ってくるのだから、やっていて苦痛以外の何物でもない。
もしもこれでプレイ時間が長かったなら、明らかに私は途中で放棄していただろうね。
高速表示で30分未満で終わってしまうというのも、攻略は楽とはいえ問題かもしれんが…
そもそも、設定に無理があるすぎる。
主人公(慰中陰といちいち書くのも嫌なので、以降はこれで統一)は、いわゆる“超絶的性技”を駆使して任務を遂行するのだが、言い換えればそれは、任務のターゲットに女性の関係者がいるか、ターゲット自身が女性でなくてはなにも出来ないという事にもなる。
事実、第3章ではターゲットである若杉専務をみすみす殺されてしまい、事実上任務失敗となっている。
応用が利かない能力だけしか持っていないため、同じ様な行動をえんえん繰り返していくしかない。これにより、物語展開が広がっていかないというのが本作最大の弱点だ。
どうもこの「陰堕楽天」という秘技は、自分のチャクラのパワーなるものを相手のそれと連動させて、洗脳と調教・服従を強いるというものらしい。
主人公自身は格闘技能力も高いらしく、生半可な奴では歯が立たないくらいらしい。
怪しい必殺技(画面に必殺技の名前がドカン! と赤字で表示されるだけ)を使えば、大概のことは解決する。
この「陰堕楽天」を極めるためには、7つの流派の格闘術をマスターしなくてはならない…などという設定があるにはあるが、それが最終章、しかもほぼ終わり際でだけ登場する設定なものだから「取って付けた感」が拭えない。
主人公の調査行動も、イマイチ疑問が残るものばかりだ。
元々得意(というか、趣味だろ?)な調査手段が“盗聴”のみであるため、本当に「性技」を振りかざす事しか出来ない。
情報収集や下準備などは、すべて使いっ走りの畠山に押し付ける。
ましてや第3章では、テレホンセックスに狂う美枝の痴態を撮るために、彼女の自宅に盗撮カメラを仕掛ける展開があるが、電話機があるという理由だけでリビングに設定しようとする大マヌケを演じている。
おいおい、携帯電話を使用している可能性は? 子機を使って別室でやっている可能性を考えなかったのか?
まぁ結果オーライだったからいいものの、終始こんなマヌケを演じ続けているのだ。
最後の対決にしても、自分を使っている社長の陰謀のカケラにも気づかず、鳳凰陰の説明で呆然とする始末だし。
よくまぁ、こんな役立たずが諜報活動で使われているなと、心底感心した。
んで、最終的にやる事っていったら「書類を奪ってくる」「娘から親を説得させる」程度だもんね…。
ダメ社員から、有能なエージェントに変身して活動するというカタルシスなんか、全然ありはしない。
口調が「〜ですねぇ」から「〜っす」に変わるだけ。あとは、バカな独り言をひたすら呟くだけ。
これじゃあねぇ。
しかし、何を考えていまさら「古畑任三郎」のパロディなんかやるかな…。『うぃずゆートイボックス』じゃあるまいし。
そんなに、あの腐れ刑事ドラマ面白かったのか?!
<それは関係ない
主人公の、あのネットリとした口調が、最後まで好きになれなかったよ。
どうもこいつは、「準Aクラス昇進」まで薦められていたほど優秀なクラスC探偵であったらしい。
でもそれって、どう考えても相棒の“鳳凰陰”と一緒だったらの話では? としか思えない。
ストーリーに鳳凰陰が絡んでくると多少ストーリーは濃密さを増しはするが、元々薄すぎる物語なものだから、かえって鳳凰陰の方が目立ちすぎてしまう。
まして、鳳凰陰と奈津乃の関わりや、美琴との過去などのエピソードが登場すると、プレイヤーが感じる「主人公としてのカタルシス」は、完全に鳳凰陰に移ってしまう。
どうして、こっちの方を主人公にしなかったのか、不思議に感じるくらい。もっとも、そうすればそうしたで物語は破綻を来してしまうのだが。
とにかく、エロイベントを発生させる主人公としては特に問題はないのだろう。
ただし、最終章での連続格闘戦などの展開を引っ張れる程の説得力は皆無。この特命仕事にしても、病気である美琴を治療する金を捻出するためなんて、どーでもいい言い訳まで登場する。
おまえ、絶対それ嘘だろ。そうやって体面保っているつもりで、好き勝手やってるだけじやんか! 結局美琴も毒牙に掛けるんだし。
そう突っ込まれても、絶対文句は言わせない。…そんな印象を抱かせてしまう。
物語全体の締まりのなさも、どうしようもない。
本来複線として取っておかなければならない展開を、最初のうちに文章だけで並べ立ててしまうものだから、設定を把握仕切れなかったプレイヤーは完全置いてけ堀だろう。
また女性キャラ調教にしても、不可解なものが多い。
いくら「陰堕楽天」によってメロメロ骨抜き状態にしてしまうとはいえ、ほぼ全員が“元々淫乱かマゾであった事を自覚させられる”というパターンは、正直言って途中で飽きる。たしか処女も二人ほど混じっていた気がするけど。
それに、仮にも任務遂行中の行為なのにも関わらず、わざわざナース服やスクール水着を着せる必然性はどこに?
それは百歩譲ったとしても、それを描いたCGが極端に少ないため(それぞれ1枚程度しかない)、ふぇちの方々も不満に違い有るまい。
そういえば、本当にCG枚数の少ないゲームだった。
背景も、別パターン含めて十数枚程度しかないし、肝心要のHシーンにしても各2枚くらいしかないものだから、前戯の場面は真っ暗のままで強引に進む。
いやぁ、全5パターンのエンディングのうち、3パターンが“エンディング画像が全然ない”というのには、心底驚かされた。
コレ、仮にも各ヒロインとの個別エンディングなんだけど。
さらには、常軌を完全に逸した物語展開も見逃せない。
第2部で奴隷化される同僚の華鈴。
主人公に「陰堕楽天」の奥義書を届けるため鳳凰陰の手刀を胸に受け、喉下推定5センチ以下に男の腕が貫通するという致命的ダメージを受けてしまうといった展開がある。
…どうやらここで、シナリオライターは「泣き」を誘うつもりだったらしいが、そんな状態になった華鈴が「喋るわ」「動くわ」「死なないわ」なもんだから、かえって「どこまで生き続けるんだ、このねぇチャン?!」とハラハラドキドキしてしまい、全然感動なんかできない。ま、結局死ぬけども(しかもほぼ犬死に)。
こういう「ちょっと待てよ、オイ!!」が、あまりに多すぎるんだよね。
あ、そうそう。
どんなに気温が高い季節でも、死んだ猫の身体に一日にして蛆がたかるなんて事はありえないからね。
アレの大きさで、死後経過日数がわかるくらいなんだからさ、もうちょっと引き締めてよ。
結局、掛け値なしで面白いと思えた所が、ダメ社員時の独り言と、うわべの上司“北京原人似”のゴリさん部長との掛け合い程度だというのは、困ったものだ。
「鬱だ死のう…」だけは、笑わせてもらったけどね。
(総評)
この時期に発売されたのが、ちょっと信じられないくらいにお粗末なソフト。
割り切ってプレイしないと、決して良い点が見出せないくらいに“つまらない”と感じさせる要素だけがてんこ盛りとなったゲーム。
この作品に、私が出した結論はこれだ。
唯一、『不確定世界の探偵紳士』の設定などにおんぶしていなかった事は見るべきところがあるかもしれないが、ならば何故、設定を継承する必要性があるのか、という疑問にたどり着く。
私が今まで担当してきたゲームには、評価Eを通り越してZとか色々あったけど、今回はそうやって茶化す気すら起こらないくらいにダメなタイトルだ。
ときに。
途中から気になった事なのだが、ひょっとしたらこのゲームって「作りかけ」だったのではないだろうか?
Hへのシチュエーションがメインであるにも関わらず、あまりに少ないCG、重要な場面はすべて「画面真っ暗・テキストのみ」でごまかす手法、テキストの割合に対して、明らかに釣り合っていない画面数、恐らく多くても2人くらいしかいないであろう声優、登場していながら絵が存在しないキャラクターの多さ…。
これじゃ、まるで劇場アニメ『ガンドレス』じゃあないか。
もちろん言い訳にはならない事なんだけど、そう考えると、このあまりにお粗末な構成にも納得はいく。
最近よく多方面で使用されるシチュエーションを多く取り込み、それを大した加工もせんと適当な順番でつなぎ合わせ、「設定」というふれこみで“言い訳”をあてがった。
残念ながら、私は本作に対して、こういう印象しか抱けなかった。
なんとか良い点を見いだそうとしたのだけど…
しかし、こんな事言うとウチの趣旨に反するのだけど、このゲームって「完クリ」する必要ってあったのかな?
だって、展開全部一緒だし、トゥルーエンドのルート以外はほとんど共通だし。
トゥルーにしても、美琴絡みの展開がちっと入るのと、ほんの少しテキスト説明が追加されるだけだし。
いやぁ、どんなに平均技術力が上がったといっても、まだまだこういう「箸にも棒にもかからない駄作」が存在するというのは、すごい事だ。
「いっそ開き直って、本格的なバカゲーに仕立てた方が、まだ良かったんじゃない?」
ナイスツッコミです、柏木先生!!(^^A
(後藤夕貴)