SNOW 〜スノー〜
 降りしきる雪、それは全てを包み覆い隠すための龍神の涙なのか…

1.メーカー名:スタジオメビウス
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:個々に見ればB、全体的に見ればC。この点については後述。
4.H度:D
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:D
7.その他:ようやっと出たね…


(ストーリー)
 とある山間にある龍神村は、一年中雪に閉ざされる「万年雪」の村。
 伝説によれば、昔人間の男と龍の姫が恋に落ちたものの結局それは叶わず、その悲恋の物語以降この村は白の世界に覆われているのだという…

 主人公・出雲彼方(いずもかなた)は、そんな伝説の残る龍神村にある旅館「龍神天守閣」に長期アルバイトをするためにバス停を降り立った。
 それというのも、龍神天守閣の若女将にして親戚である佐伯つぐみの要請を受けたからというのと、10年前に一度ここを訪れたことがあるという、懐思感と安心感からだった。
 しかし、仕事先である旅館に向かう途中、彼方は突如起きた土砂崩れに巻き込まれてしまう!
 途切れる意識の中で、彼方は自分を救おうとする小さな女の子と猫を目撃するのだが…


 俺っちの記憶に間違いがなければ、E-loginの新作発表カレンダー・2001年1月号に初掲載されていたはずなので、最初の発売のアナウンスが2年前という事になる。
 一部では開発費のかけすぎで発売元のビジュアルアーツから切られてしまったとか、あまりに某作品に似ているため、そこのスタッフから横槍を入れられたとか、イロイロな噂も囁かれつつ、度重なる発売延期を繰り返し「もー出ないんじゃないの?」という声がまことしやかにささやかれた本作だったが、やっとの思いで2003年の1月に発売され、今度は逆に「ホントに出たんだ!?」と驚かれてしまう始末だった。
 それだけ良くも悪くも話題作であり、注目を集めた作品だったわけだが、俺っち的には「まあ、あれだけの時間をかけて作ったモノがどの程度の出来になるんかな?」と、もう半分珍獣かなんかでも見る心境で購入したのだが…

 まず、とにかく驚かされたのがCGの美しさだ。
 背景の描き方は言うに及ばず、マシンスペックこそ必要なモノの、雪が降るアニメーションがふんだんに使われ、万年雪の里・龍神村を見事に表現している。
 また、立ち絵の種類も豊富で、豊かな表情で演出される通常シーンもなかなか楽しい。
 しかし、何より俺っちが驚いたのがキャラ原画だ。
 今回のメイン原画は飛鳥ぴょん氏。
 DOS時代からやっているゲーマーでないと分からないかもしれないが、この方はスタジオメビウスの名を一躍有名にした「悪夢 〜青い果実の散華〜」の原画を担当した方で、初期のZERO作品のパッケージイラストを多数手がけた事でも有名な原画家さんだ。

 だが、この絵柄の変わり様は…

 もちろん、「悪夢」時代から非常にかわいらしい絵を描く方で、俺っち的には非常に好きだったのだが、まあ、とにもかくにもどこかの東京開発室みたいな絵柄に大変貌を遂げてしまった。
 なーんか、こうなってくると「秘密の小部屋・323号室」の噂も冗談に聞こえなくなってしまう…
 Hシーンは多くはないが、その分表情の付け方など妙にエロっぽく仕上げており、こういうトコロは「悪夢」のノウハウが活きているのかしらん、とか微妙に苦笑してしまったよ。

 また、BGMも全体的にレベルが高く、非常に好感触。
 特にOPとEDテーマを歌っているのが「機動戦艦ナデシコ」のOPを担当した松澤由美さんなので、歌唱力には全く問題がなかった。
 個人的にはED曲「ふたりの足跡」がお気に入り。
 この曲はオルゴールで上品にまとめられた「約束」という曲のアレンジなのだが、特に旭や桜花EDの後でかかると涙モノの出来の良さだ。
 他のボーカル曲も全て作中に使われるBGMのアレンジバージョンであり、曲のまとめ方は非常に上手である。
 また、ボーカル曲ではないがタイトル画面に流れる「飛龍」は静かなフレーズから、徐々に盛り上げていき、サビの部分でオーケストラ風にもっていく壮大な曲で、最近流行りの下手なボーカル曲より、はるかに出来がよい。

 さて、それでは各シナリオについて切り込んでみよう。

☆今回の原稿は完全にネタバレです!☆
☆ここからはネタバレ回避をしたい方は避けて下さい☆




【雪月澄乃(ゆきつきすみの)シナリオ】

 一番最初に選択出来るキャラクターは澄乃・旭の二人なのだが、入りやすいのはコチラかと思われるのと、このシナリオをクリアする事によって追加シナリオLegendが発生することから、まずは澄乃シナリオの方からいこうかと思う。
 あんまんが大好物で、10年前に会った彼方を一途に想い続けていた澄乃だが、再び龍神村に帰ってきた彼方にべったりと甘えてくる描写はなかなか上手だと言える。
 …若干、しゃべり方が幼稚すぎるが。
 また、龍神の社でお百度参りをすると願いが叶うという言い伝えを信じ、澄乃が彼方の事故後に彼の無事を祈願するために実践していたりするし、後に重要なアイテムとなる「結婚の約束をした時のおもちゃの指輪」など、伏線張りも申し分ない。
 こういう重要な伏線を徐々に提示しつつ、突然のつぐみの旅館経営放棄→雪月一家と彼方との龍神天守閣共同経営→澄乃へのプロポーズという流れは非常にスムーズだ。

 だが、ここから彼方達に悲劇が降りかかる。
 突然の澄乃の記憶障害により、次第に崩壊していく幸福。
 まるで健忘症の如く、次々と記憶を失っていく澄乃の描写は、今まで甘々で幸せ絶頂のシナリオ展開があった分だけ、より痛々しさを誘うという点ではスゴいの一言に尽きる。
 俺っちの友人のW君は、この作品を俺っちより先にプレイしていたのだが、しょっちゅう「こんな鬱入るシナリオは久しぶりだ」とこぼしていた。
 やってみれば、なるほど、この破壊力は並ではない。
 そして、徐々に記憶障害の症状がひどくなり、彼方が自暴自棄の寸前に追いつめられた末に思いついた龍神の社でのお百度参り。
 雪が降りしきる中「澄乃だって耐えたんだ」と言って、冷え切った体を押してまでお百度参りを行う彼方はなかなかカッコイイ。
 さて、このシナリオの解釈が難しいのはこの先ではないだろうか。
 彼方はお百度参りの94回目あたりに意識が途絶えている
 通常、お百度参りというのは「深夜一人で行う」「鳥居からお社の間を素足で100往復」「途中に他人に見られたらいけない」という様々な制約がつきまとう。
 意識が途絶えた後、いつの間にか自分の部屋で彼方は眠っていた訳だが、これによってお百度参りが成功しているのか失敗しているのかは、非常に曖昧なのである。
 確かに、誰かに介抱されたとか、そういう表現は一切ないが、 個人的には失敗している様にしか思えないのだが。
 この後、澄乃の記憶障害は治る訳だが、今度は高熱を発して倒れてしまった彼女はどうも死の運命からは逃れられなかったようだ。
 ここで、“ようだ”と表現したのはこのシナリオのエンディングが、きっちりと描かれていないためであり、最後に桜花と澄乃が親子のようにじゃれ合い、彼方を父と呼ぶシーンは夢オチ等の非現実的なシーンともとれるからだ。
 また、後のLegendシナリオをやれば分かる事だが、澄乃の前世であり、龍神の娘である菊花(きっか)は人間の男との間に子供を設けてしまった天罰として、記憶障害にさせられるのだが、ある時を境に記憶が甦り、その二日後に命を落としてしまう。
 澄乃がこの現象をリフレインしているのならば、龍神の社でのお百度参りは、事実上失敗しているとも考えられるのだ。

 ここらへんは、ゲームを全て解き終わっても解答は得られないため、どうにも曖昧すぎる様な気がするが、結局のトコロはプレイヤーの解釈それぞれに委ねられた、と見るしかないのだろう。
 俺っちは、この物語全体の流れをかろうじて自分なりの結論として繋げることは出来たが、それは後述しようかと思う。


【日和川旭(ひよりがわあさひ)シナリオ】
 突如、彼方の目の前に現れた少女。
 彼方に近づく女の子に片っ端から「悪撲滅運動」と称しては(ちんけな)攻撃を繰り返す訳だが、そんな経緯から彼方は皆から「旭と昔婚約していたらしい」という誤解を受けてしまう事となる。
 そして旭はひょんな事から彼方の通い妻の様な生活をスタートさせるのだったが…

 このシナリオは他のシナリオと違って、この作品のテーマ「輪廻転生」の影響をあまり受けておらず、どちらかというと半独立的な仕上がりとなっている。
 個人的には評価が高いシナリオなのだが、どうもスタッフの間では彼女はどうでも良い存在だったらしい匂いがそこかしこに見受けられ、若干首を傾げざるを得ない部分が多かったのも事実だ。
 その最たる例が、このシナリオではなく後述のしぐれシナリオでの旭の扱われ方なのだが、旭シナリオの中に限って言うなら、最大の疑問点は何故、10年前の彼方が彼女の名前を「あさひ」だと知っていたか、だろう。
 旭は、遠い過去のシナリオであるLegendシナリオから登場しているキャラクターだが、その正体は掛け軸の絵に描かれたうさぎの絵が妖力を持って生まれた存在であり、絵から飛び出した状態ではうさぎの姿のままに、更に力を使うことで人間の少女へと変身できる。
 そしてこの掛け軸の作者の名前が「日和川旭」という女流作家だったため、Legendシナリオの主人公・若生白桜(わこうはくおう)によって彼女は「あさひ」と名付けられた訳だが、10年前の少年時代の彼方は、うさぎ状態の彼女の事をはっきりと「あさひ」だと認知しているのだ。
 もちろん、10年前に人間の姿の旭に彼方は出会ってはいない訳だから、本来、うさぎの名前が「あさひ」だった事など知る由もないはずなのである。

 もっとも、ぶっちゃけた話をしてしまえば彼方は白桜の転生だ。
 無意識層で、かつて苦楽を共にしたうさぎの事を認知していたのかもしれないが、それにしてもこの部分はシナリオの甘さだとしか言いようがない。
 だが、そういう点を差し引いても、旭の妖力が次第に弱まり、掛け軸の絵の中のうさぎが姿を取り戻そうとすると同時に、旭の体がどんどん欠けていく様は、みていて本当に涙が出そうになってくる。
 最初に視力を失い、それから聴力を失い、最後には口が利けなくなっても、彼方と一緒に過ごせる時間に幸せを見いだし、甘えてくる旭の姿には、何とも言えないやるせなさがこみ上げる。
 旭の回想シーンで(これはLegendシナリオでも出てくるシーンだが)白桜に人間のために尽くせ、と諭されそれを実践しようとするものの、人間達からは誤解で迫害され、白桜の側にいることを決意するシーンなどとも相まって本当に見事としか言いようがない。

 結局、エンディングで旭は消滅してしまうものの、あまり力を使わなくて済むうさぎの姿で彼方のそばにいる道を選んだ訳だが、そこまでの過程がみっちりと描かれているため、この作品中もっともキレイにまとまった結末だったかと思う。


【Legendシナリオ】
 その昔、龍神の社を中心として栄えた龍神を祀る村があった。
 名を若生村(わこうむら)
 古来より龍神を年に一度地に降臨させ、豊作などを祈願したというが、ここ数年その儀式も途絶えて久しい。
 それというのも、最後の龍神降臨の祭りの際、多数の盗賊達が龍神を狙って村を襲い、多大な被害をもたらしたのだ。
 幸い、龍神は難を逃れ天界に帰っていったようだが、龍神の社の神主夫婦をはじめ、多数の村人が犠牲になった…
 そして今、二人の若者が荒れ果てた龍神の社を訪れる。
 名を若生白桜(わこうはくおう)と、その妹鳳仙(ほうせん)
 村を襲われた時にかろうじて龍神の手によって脱出した、龍神の社神主の子供達である。
 二人の若者の願いはただ一つ、再び龍神をこの地に降臨させ、村を復興させる事と、両親の跡を継ぎその霊を弔う事だった。

 という感じでスタートするLegendシナリオは、澄乃シナリオ終了後にタイトルに追加される新規シナリオで、選択肢のない完全な一本道デジコミとなっている。
 本編で幾度となく語られる「龍神村に残る悲恋の伝説」を描いた過去編であり、この作品の根幹部分を司る重要シナリオだ。

 さて、Legendシナリオの面白いところは、過去編であるにも関わらず、現代編である本編の殆どの登場人物が既に出てきていることだろう。
 残念ながら、このシナリオの正確な時代背景については、実際の年号などが語られないため今イチ分からないのだが、山賊まがいの盗賊団が登場していたりする事から、俺っち的には治安が著しく低下したと言われる戦国時代あたりをイメージしているが。
 どちらにしても、とてつもなく古い時代の話であるにも関わらず、転生という形で現代編に登場するのは主人公・彼方(若生白桜)と澄乃(龍神・菊花)だけであり、残りのヒロインである旭(あさひ)・しぐれ(菊花の姉)・桜花、サブヒロインの芽依子(若生鳳仙)は、全てLegendからの継続キャラクターなのである。
 もっとも、桜花だけはニュアンスが違うが。

 話としては、流石に物語の発端を描くシナリオだけに良くまとまっている。
 このシナリオをやれば、澄乃の記憶障害や旭の消滅などの謎も殆ど解明されるし、後のしぐれシナリオや桜花シナリオへの伏線としての役割も担っているのが分かる。
 ただ、難を言うと、菊花が何故天界から降臨したその時から白桜にベタボレしているのかが、全然分からない。
 菊花と白桜はもちろん初対面ではない。
 以前、盗賊に社を襲われた時に白桜は菊花やその姉の手引きで脱出しており、この時に顔をつきあわせてはいるものの、この頃の白桜は小さな子供に過ぎない。
 龍神である菊花が白桜を救った時から容姿が変わっていないところをみると、龍神は不死かそれに近しい寿命を持つと考えられ、当時の年齢差も併せて考えれば、菊花にとって子供の頃の白桜は恋愛対象足り得ないはずなのだが…
 一応、菊花は白桜の成長を天界からいつも見守っていた、などというフォローも作中では入っているが、これであの菊花の白桜に対する甘え様の説明にはなっていないように思える。

 問題は、この物語は全て白桜と菊花との悲恋が事の始まりになったものであるにも関わらず、二人の関係をこの程度の簡単な理由でスタートさせてしまった事にあるのだ。
 途中の白桜の心の葛藤なんかは良く描写されてはいるのだが。
 ただ、この点に目をつぶれば総合的な出来は良く、前半の龍神姉妹と若生兄妹・あさひとのほのぼのした同居生活と、後半の盗賊達に追いつめられていきながら、天罰と戦うシリアスなシナリオはよく考えられていると思う。


 ところで、一つ梨瀬的に興味深い点がある。
 それは、このシナリオの重要ファクターの「天罰」の捉え方だ。
 白桜と菊花は確かに交わり、一子をもうけた。
 菊花の姉の龍神はそれを破ってはならない禁断の領域だと言い、二人とそれに関わった者達に天罰が下るという未来を示唆した。
 事実、菊花は記憶障害になり始めるわ、盗賊達には追い回されるわ、と白桜達一行はロクな目に遭わない訳だが、直接的に天罰を受けたのは記憶障害と落雷のダメージを受けた菊花だけだ。
 盗賊達に追い回されたのは運が悪かっただけだし、菊花の姉が天界に帰れなかったのは天界への道が閉ざされてしまった故の結果論だろうし、鳳仙が永久の時を生きる事を選択したのも、本人の自由意志だったと思う。
 もちろん、菊花の姉や鳳仙はそれを「天罰」として自らに課したのだろうが。
 白桜に至っては、菊花を失ってしまい失望してしまった故の自殺だ。
 あさひも盗賊から足蹴にされた事で深いダメージを負い、本来の掛け軸の中に姿を戻して、体を休めざるを得なくなった。
 これは結構凄い事だ。
 直接的な天罰は菊花にしか下ってないというのに、残りの人間も各々がカルマを背負う事になってしまった。
 こういう描写は、下手に直接的なダメージが降りかかってくるタイプのものより、より「神の手による」感じが出ていて、俺っちは感心している。

 最後に悲恋の果てに滅びの道を歩んだ二人の魂を弔うため、この地のとどまる事を決意した菊花の姉=しぐれと鳳仙のシーンにはぐっとくるものがあった。
 しぐれが最後に折り重なるように倒れた二人を見て残した最後の慟哭と鳳仙の「馬鹿な兄上…」の台詞はとても劇的に描かれていて、俺っち的にはこの作品の中で一番気に入っているシーンだったりする。


【北里しぐれ(きたざとしぐれ)シナリオ】
 どーでもいいが最後まで北里とは名乗らなかったねえ(苦笑)。
 まあ、それはいいとして、彼女はLegendシナリオでの菊花の姉であり、その時代から村に居続けた龍神の生き残りだ。
 個人的にはLegendシナリオがネタバレ編ならば、しぐれシナリオは設定暴露編だと考えている。

 このSNOWという作品は全体的にシナリオで語られない部分が多く、それが故にプレイヤーの想像などで補完しなければならない部分が多々ある訳だが、そういう部分を解釈するためにある程度の答えを提示しているシナリオだと言えるだろう。
 そして、その答えの一つがこのシナリオ後半の、彼方が過去に飛ばされる過去編だ。
 この過去編は、前半部分である程度親しくなったしぐれが主人公の部屋を訪れた時に、彼女と共に寝る事を選ぶと発生する(「抱く」ではない。「抱く」とバッドエンド)。
 そして、夢の中で白桜と邂逅した彼方は、Legend編の場面画面で白桜と入れ替わり、過去を変えていってしまう。
 結果的に白桜は菊花をふり、盗賊の襲撃を撃退し、二人の龍神を無事に天に還す事に成功してしまうわけだが、彼方自身はこれを夢だと思いこんでいる様だし、途中しぐれが登場し「これは夢での物語だ」と示唆してくれる。
 だが、長い夢から覚め、ふと隣を見やると一緒に寝ていたはずのしぐれの姿はない…

 非常に抽象的な物語で、解釈が難しいように思われるが、俺っちはここに話の鍵が隠されていると思う。
 というのも、どうも白桜には時間を操るような能力があった様に思われるのだ。
 もちろん、そんな設定は作中通して一回も出ては来ない。
 だが、後に語ることになる澄乃シナリオと桜花シナリオの関連、そして、夢から覚めた後に、悲恋の物語が村に残っていなかったりするは、万年雪という事そのものがなくなっていたりする。
 挙げ句に、目が覚めたのが彼方が土砂崩れ事故に遭遇した半月後であり、その間彼方が意識不明だった事にされている、という比較的普通な状況になっている事から、どうも彼方が白桜の体を借りて行ったことは現実だった様なのだ。
 そしてエンディングで再び登場するしぐれは、以前のようなショートカットではなく、龍神時代のロングヘアーなのである。
 これはもはや決定打だろう。
 では何故、そんな事が起ったのか?
 Legend編で語られている事だが、龍神は村人の願いを天に届ける際、願いというエネルギーそのものを一回自身の体に取り込み、それを天に送るという事をやってのけている。
 簡単に言えば、龍神は人の念というものを取り込む事が出来る訳だ。
 だとすれば、白桜の念というものをしぐれがLegend編の最後に取り込んでいたとしても、全く不思議はないだろう。
 また白桜自身は特に特殊な力を自覚していた訳ではないが、妹である鳳仙が先見の能力を有していた事から、潜在的な力が宿っていたとしても不思議はあるまい。
 しぐれに宿った白桜の霊(あるいは思念か)が、自身の転生である彼方が近づいた事を察し、彼を過去の白桜という媒体を介して過去の世界に飛ばした。
 俺っちはこう考えている。

 結局、彼方の機転で悲劇は未然に回避された訳だが、それにはしぐれの彼方への想いだけが犠牲になった。
 しかし、「龍神が人間を愛したらどうすればよいか?」としぐれが問うた時、彼方の宿った白桜ははっきりと「それならば人間になる方法を探せばよい」と言ってのけた。
 しぐれがどの様な経緯で人間として地上に降ったのかは分からない。
 だが、彼方の言葉をよりどころとして、それを実践してしまった彼女は、あくまでも白桜ではなく彼方を信じた、という証明を残してくれた訳だ。
 もうしぐれには会えないだろう、と絶望に喘ぐ彼方に…
 この作品は次の桜花シナリオがトゥルーエンドの様な扱いを受けているが、このしぐれシナリオはそれとは別のもう一つのSNOWの結末として見れば、非常に奥深いシナリオだと思っている。


【若生桜花(わこうおうか)シナリオ】
 このSNOWのトゥルーシナリオとも言えるシナリオであり、澄乃ハッピールートという解釈も出来る桜花シナリオ。
 これまたLegendシナリオをやっていればバレバレな訳だが、桜花は白桜と菊花の間に生まれるはずだった娘だ。
 プレイヤーはあらかじめ「おいおい、なんでLegend編の娘が現代編になって出てきているんだよ」という疑問を持ちながらプレイする訳だが…
 だが、このシナリオがまず上手だな、と思えるのはそのプレイヤーの思い込みを計算に入れた上で、それを逆手に取っていることにあるだろう。
 結論から言ってしまえば、桜花は確かに霊体だった。
 それはそうだろう。Legend編では生まれてくる事すら出来なかったのだから。
 だが、ゲーム内でそれが実体を以て接してきている様に見せているのは面白いの一言に尽きる。
 実際、桜花を認知していたのは3人。
 桜花の両親の転生である彼方・澄乃と先見の能力を有している芽依子のみだ。
 あとは小夜里と出会った事があるだけなのだが、最後のどんでん返しでは彼女自身が桜花と常に一緒にいる猫であるシャモンの事を桜花と勘違いしている。
 龍神天守閣で彼方達と桜花が一緒に住むことになった前の経緯でつぐみはいなくなるし、妊娠した澄乃を病院に連れて行った際には、桜花は病院の外で遊んでおり、芽依子の養父でありちょこちょこ作中に登場する誠史郎とは面通しをしていない。
 悪ガキ達にせっかく作った雪だるまを壊された時に、桜花はそれを止めに入っているのだが、この時悪ガキに蹴りをもらったのはシャモンだった。
 こういう設定をきちんと踏襲しつつ、丁寧に桜花が霊体であるという事実をオブラートで包むやり方は見事という他はない。

 ストーリー的には桜花の両親の転生である彼方と澄乃との奇妙な親子生活を送るシナリオ展開が非常に上手に表現されており、なかなか感動的だ。
 桜花が龍神の社で冷たい雪にさらされながらも求めていたものはただ一つ。
 それは父の抱擁であり、母のぬくもりだ。
 桜花は生まれてくることがなかった故に、両親の温かさを欲して魂だけをさまよわせていた時の彷徨い子(まよいご)だったのだ。
 それは龍神の血が半分入っていたが故になせる業だったのか。
 そしておそらくは、この悲しい因果が幾度となくこの龍神ゆかりの地で繰り返されていたのだろう。
 桜花の想いという最後の鎖によって。
 彼方は白桜の転生ではあったが、彼自身はその事を知らなかった

 だが、彼方自身がその無二の優しさと無償の愛情を桜花に注いでやったことによって、時の鎖は解かれ、悲しい輪廻=菊花の転生である澄乃の呪縛は完全に解き放たれたのだと俺っちは解釈している。
 そして、戒めが解かれた魂は、再び彼方と澄乃の愛を求めて舞い降りる。
 二人の子供、さくらとなって…


【シナリオ全体としては】
 ここまで書いていて思った事は、とにかくシナリオ個々のレベルはかなり高く、特にLegendシナリオから旭シナリオのつなぎ方や、桜花シナリオの展開のさせ方など、演出なども申し分ないという事だ。

 だが、全体を通してみると納得が出来ない点が多いのも事実で、特に弱点とも言えるのが、もう一歩のところで足りない踏み込みの甘さだと言えるだろう。
 もっと端的に言ってしまえば、この作品は全体を通して「Why?」にあたる部分に対する解答があまりに少なすぎる。
 …もちろん、俺っちは全ての謎がその作中内で全部語られなければ気が済まない、などというわがままを言う気は一切ない。
 だが、この「SNOW」は言うなれば制作者側がプレイヤーに対して行う作為的な突き放しを、作品の根幹部分にまで浸透させているのが問題なのだ。
 それは例えば、先に挙げた澄乃シナリオの最後の展開などもそうだし、他にもしぐれシナリオの過去編の解釈の仕方や、落石事故からの奇跡の復帰の本当の理由もまるで作中では語られない。
 大体、なんで彼方が白桜の転生なのかも理由付けがまるでないし、なぜ、そんな存在が都合良くかつて逃亡中の白桜達一行を匿った龍神天守閣の親戚として登場したのかも最後まで分からず終いだ。

 一応、各シナリオからの少ない情報から俺っちが全体的な流れを推察するにこういう事だと思う。
澄乃シナリオではLegend編の菊花が受けた天罰の効果を打ち消すことが出来ず、菊花の転生である澄乃がそのダメージを過去のリフレインという形で再び被る。
しかし、この地に留まり続けている龍神・しぐれに宿っていた白桜の思念は、自身の転生体である彼方がこの龍神村に近づいていることを悟る。
輪廻の輪が断ち切れるかもしれないと感じた白桜の意志は、澄乃が死ぬ直前に、時間を逆行させて、彼方を落石事故寸前の所まで戻してしまう。
ここで旭としぐれシナリオは、彼方が彼女らに触れあうことによって発生した別の結末だと考える。
そして、桜花にぬくもりを伝え、彼女の魂が昇華したことによって、「天罰」という戒めから彼方らは解放される。

 はっきり言ってかなり苦しいが、これが俺っち自身がこの「SNOW」という作品からかろうじて読みとれた全体的な流れだ。
 こういう感じ方をするのは俺っちだけかもしれないし、その解釈というのは先にも書いた通り、プレイヤー各々に委ねられた訳だが、実際のトコロ、あのシナリオで完全な正解を叩き出すことは不可能に思える。
 それはそれ、俺っちの好きな「想像力の翼を広げる」事には一役買ってはいるが、それを中途半端な形でしか提示できなかった、シナリオ全体の流れの甘さがこの作品の弱点だと俺っちは思っている。


【橘芽依子(たちばなめいこ)について】
 最後にシナリオという形ではないが、サブキャラクターである芽依子について触れておこう。
 殆どのシナリオで関わってくる神出鬼没の娘で、とても常識では考えられない言動と行動度が過ぎる彼方への悪戯など、最初ははっきり言ってイメージ最悪のキャラだった。

 だが、Legendシナリオをやる事で一気にそのイメージは払拭された。
 彼女は過去の若生鳳仙が、生き残った龍神・しぐれの力を借りて信じがたい長寿を得た存在だ。
 最後に自決した白桜を見て、兄の転生が遙か未来にこの地を訪れることを先見の力で予見していた彼女は「せめて、その男に文句の一つでも言ってやらねば気が済まぬ」と嘯きながら、しぐれにその時まで生きながらえる術を施してもらうのだ。
 そういう経緯を知った上で、改めて芽依子の現代編での細やかな仕草を見ると、実にいい味を出している。
 最初に出会うシーンでは冗談を言うちょっと前に、少しはにかんだ表情を見せたり、彼方が「実はお前の事が好きなんだー」みたいな事を冗談半分で言うと、一瞬頬を赤らめたりする。
 殆どのシナリオでバレンタインのイベントがあるが、チョコを必ずくれるのも実は芽依子だけ
 ほんの些細な立ち絵の変化やイベントだが、こういうところはとても配慮が行き届いており、かなりの好感度だ。

 あと、個人的に評価しているのが、実は芽依子が攻略対象ではない事。
 この芽依子というキャラ、デザインがいい事やちょっととぼけた性格、またLegend編の絡みなども手伝って、攻略可能にして欲しいという声が世間ではかなり高い。
 実際、なんかの雑誌の一口レビューで「芽依子に萌えたー! 彼女を攻略したかったー」なんて恥ずかしげもなく書いているライターがいたぐらいだ。
 まあ、それぐらいこの「SNOW」という作品に於いて芽依子の存在は大きい訳だが、俺っちは彼女はむしろサブキャラだったこそ光ったキャラだと思う。
 彼女が不死になった理由は何だったか、考えてみて欲しい。
 兄の転生に文句を言うためだけであるはずもない。
 彼女は兄と菊花を救えなかった自身のカルマを、しぐれとともにこの地で背負うために自ら見届ける者として苦しい不老という道を以て課したのだ。
 だからこそ、芽依子はあくまでも彼方を、澄乃を、それらに関わる者達を見つめ続ける。
 見守り続ける。
 彼女は自ら傍観者の道を選んだのだから。
 そんな芽依子にシナリオなどあろうはずもない。
 制作者側はその事をよく踏まえた上で、芽依子というキャラを実に活き活きと描ききってくれた。
 これは称賛に値すると思う。

 トゥルーエンドにあたる桜花シナリオラストでも芽依子は普段と変わらない様子で登場する。
 白桜・菊花・桜花に課せられた天罰という名の戒めは解かれ、芽依子自身が望んだ兄たちの幸せは、時を越えて彼方・澄乃・さくらという親子に無事に引き継がれた。
 彼女の役目はこれで終わりなのかもしれないが、芽依子はどうやらそれでも彼方達を最後まで見守る道を選択した様だ。
 しぐれが施した不老の術は、桜花の魂が天に昇り、天罰の戒めが解かれた段階でもう破れているのかもしれない。
 あるいは彼方達が死を迎えて、芽依子のみ取り残されてしまうのかもしれない。
 だが、彼女に迷いはないのだろう。
 それが芽依子の強さなのだから…


(総評)
 実はここまであえて(というかわざと)書かなかったのだが、この作品にはどうしようもない欠点が一つある。
 それは「Kanon」「AIR」というKeyの2タイトルとあまりにも共通項が多い点だ。
 ざっと思いつくだけでも
舞台が雪の降る場所(Kanon)
澄乃のあんまん好き≒沢渡真琴の肉まん好き(Kanon)
画面上に表示される雪の結晶をモチーフにしたカレンダー(Kanon)
澄乃が話の途中から記憶障害にかかる≒観鈴の記憶障害(AIR)
最初は迷惑ばかりかけるちびっこヒロイン旭は実はうさぎ≒真琴の正体は狐(Kanon)
変な言葉使い/澄乃の「えううぅ」≒月宮あゆの「うぐうぅ」(Kanon)
一定シナリオが終わると過去編スタート(AIR)
しかも転生モノ(AIR)
過去編の内容が延々森の中を逃げ回る内容(AIR)
  と、枚挙にいとまがないぐらいだ。
 他にもキャラデザの全体的な雰囲気(しぐれの帽子とかねー)など、ビジュアル的には模倣したのであろう事は想像に難くない。

 だが、はっきり言うと、俺っちはこの作品からそういう模倣作品から感じ取れる嫌味な感じはあまり受けなかった
 もちろん、Key作品、特に「AIR」の影響はかなり大きいだろう。
 同時に「AIR」がなかったら、恐らくこの作品はだいぶ中身が変わっていただろう事も容易に想像出来る。
 しかしあえて言わせてもらえば、ここのスタッフはどうも「AIR」の結末に納得していなかったのではないか、と思えるのだ。
 「AIR」は様々な解釈が出来るシナリオではあったが、主人公・往人とヒロイン・観鈴にとってあまりにも酷な結末だったと思うし、やはり純粋なハッピーエンドとは言い難かった様に思える。
 この「SNOW」は輪廻転生という「AIR」と似た設定を持ちながら、自分たちなりのハッピーエンドを模索して形にした、いい意味での挑戦状のような作品だったと思えるのだ。

 課題はまだまだ山積だろうが、やはりどうしても「悪夢」「絶望」と陵辱作品のイメージが強かったスタジオメビウスが、それなりの底力を見せてくれた、という事で俺っちは評価している。
 次回作がどういう作品になるのかは分からないが、次こそはオリジナルのテーマをきちんと持った上で、なおかつシナリオを楽しめる作品を出ることを切に願うという事で、ここは締めにさせていただこうかと思う。


(梨瀬成)



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