323号室
ここは、とある会社のPCゲームソフト開発チーム。
先日、新作のプロジェクトについて綿密な計画が練られたばかりで、スタッフ一同は、あらたな戦いを前にそれぞれの覚悟を見出している所だった。
スタッフ1「今回はなんとしても、萌え系の絵柄を描ける原画担当が必要です。しかし、今この部署には…」
プロデューサー(以下P)「…よし、本社から絵が描ける女性社員を回してもらえ」
スタッフ2「サンプルを提出させますか?」
P「…必要ない」
そして、早速新人が配属されてきた。
彼女の名はA美
。
同人誌経験は長いが原画担当としてはまだ未熟で、絵柄もかなりアクが強かった。
A美「おはようございます! この度、こちらに配属になりました…」
P「挨拶などいい! 君には、これから早速研修に入ってもらうから」
A美「け、研修? …あ、あの、私は原画担当というお話しでここへ…」
P「わかっている。だからそのための研修だ。おいスタッフ1! 323号室の準備はいいか!?」
スタッフ1「万全です!」
社屋地下3階。
普段誰も来ない、もっとも奥まった暗い廊下のさらに奥に、その部屋はあった。
巨大な鍵穴と、無数の南京錠が備え付けられている。
スタッフ1は、ゆっくりとその鍵を外していく。
323号室。
扉には、そう記されたプレートがかかっている。
その手前には部屋はなく、
さらに322号室も、324号室もないというのに…
P「さ、入りたまえ」
A美「こ、ここは何なんですか? どうして…」
ドンッ!
A美「キャアッ!?」
ガシャンっ!!
ガシャガシャ…ガチン
←南京錠を占める音
ガシャリ!
←メインの鍵が下ろされる音
閉じ込められた?!
室内側の扉には、ロックはおろか鍵穴も、それどころかドアノブさえもない。
A美「出して! 出してください!! どうしてこんな事をするのですか?!」
P「明かりをつけてやれ」
スタッフ1「はい…」
突然、真っ暗だった室内に明かりが灯る。
その室内は…
「こ○っくパーティ」
「Pia○ャロットへようこそ!2」
「うたわれるも○」
「ロマンスは○の輝き」
…を始めとした無数のポスターが貼りつけられている。
室内のテレビには一台のDCが接続され、「こみっ○パーティ」のソフトが一組だけ。
棚には、特定の作家による同人誌と、ポスターと同じゲームタイトルのムックしか入っていない。
仕事机には、膨大な枚数の紙が乗っている。
それはすべて、とある特定の作家の絵を拡大コピーしたものだった。
P「君はこれから、そこで暮らすのだ!」
A美「
え、えええ〜〜〜っ?!?!?!
」
P「必要なものはすべてある! 食事は毎度運び込む!
では健闘を祈る!
」
A美「
ち、ちょっと待ってください〜!! た、助けてーーーっ!!
」
スタッフ1「いいんでしょうか、こんな事をして…。僕は、なんかとてもいけない事をしてしまったような気がします」
P「構わん。これも会社のためだ。…落ちついたら、室内にBGMを流してやりたまえ。少しは気が安らぐだろう」
“♪ぐるぐる今日も目が回る〜、いつもーの事気にしてないけどー♪”
“♪あ゛ずだい゛む゛ごーずぁい、今をたのじぼー♪”
“♪こーのーぎーもぢはー、もう二度どーがわーらない゛ー♪”
323号室に閉じ込められたA美は、それから何日もの間外界との接触を完全に断たれ、毎日同じ作業の繰り返しを命じられ、同じ音楽を強制的に流され続けた。
ちなみに食事はいつもカレーかキムチのみ。
一週間も過ぎた頃、泣き声も聞こえなくなった。
三週間が過ぎた頃、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
3ヶ月後。
P「久しぶりだな。元気か?」
「あひゃ♪」
P「元気そうだな。いい事だ」
「あひゃひゃひゃ♪」
スタッフ1「な、なんかヤバくないですか?!」
P「黙っていろ! さあ、研修の成果を試そう。…君の名前は?」
「あい、み○み美○で〜す!(`▽`)ノ」
P「好きなものは何だ?」
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「同人誌と邦楽と辛い物で〜す!(´▽`)ノ」
「あと、あと、仕事が終わってから行くスキーも大好きでーす!!(´▽`)ノ」
「ドリ○ャスのこ○パ発売してからすっごく沢山の反響あったんですけど、掲示板荒れちゃったんで閉じちゃいました〜!
(ノ`□´)ノ≡≡┻┻」
P「よし、カンペキだ! もはや彼女はA美ではない。みつ○だ! 早速彼女に仕事を与えろ!!」
スタッフ1「……」
こうして、また一人“み○み○里”が乗り移った作画家が誕生した。
彼女が描く絵からは個性もアクも消滅した。
そう、スタッフ達が求めていた“萌え”画がそこにあった…
……きっと、こういう部屋を持っているソフトハウスが一杯あるんだろうなあ(妄想)。
♪君のーままでー、変わら〜ないで、誰〜よりも大切なー
大きーな夢 輝ーかせた、だた一ー人の友達〜♪