猟奇の檻 第3章 The Final Mystery Adventure Game

 装いも新たに始まる猟奇の檻の最新作。
 果たして今回のデキは如何に?
 
1.メーカー名:ペンギンワークス(猟奇の檻保存協会)
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:C’
6.攻略難易度:B’
7.その他:「これ作った人達は、猟奇の檻シリーズが好きだったんだな〜」ということは伝わってきた
 
 
(ストーリー)
 念願のみらいテレビに就職が決まった須藤武。
 勇んで初出勤した彼を待っていたのは、樋田玲子社長による“入社テスト”だった。
 驚異的な視聴率を叩き出すニュース番組の秘密は、キャスターの小谷紗江子が見せるなまめかしい表情。
 ヤラセ疑惑も発生しているため、早急に真相を探れというものだった。
 断れば、即クビ。
 武は私立探偵の松本絵理をパートナーに、事件の謎に挑む!
 
 
 後藤:「飛鳥ちゃ〜ん、結婚祝い届いた?」
 鷹羽:「結婚祝いって、もしかしてこの怪しげなフリスビーのことかな?」
 後:「フリスビーまで言う? いいからやってごらんよ、結構面白かったよ」
 鷹:「結婚祝いで貰ったソフトって、どういうわけかハズレばっかしなんだよね。まあ、貰い物で文句言うのもあれだけどさ」
 後:「まぁまぁ。猟奇マスターの飛鳥ちゃんなら、きっと楽しめるって
 鷹:「誰がマスターかい…」
 
 そんなわけで、結婚で貯金を使い果たして新しいゲームを買えない鷹羽は、仕方なく『猟奇の檻第3章』に手を染めたのだった…。
 でもさぁ『猟奇の檻』って、良くも悪くも98DOSゲーム爛熟期の“お下品”ノリの強いゲームだったんだよねぇ。
 今時の恋シュミ系ノリの中では、浮くんじゃないのかなぁ。
 
 場所がテレビ局っていうのもねえ。
 いかにも「なんかありそう」って感じだし。
 タレントとくっついちゃったりしたら、それこそ嘘臭いしなあ。
 おまけにメーカー・スタッフ、全部違うんだよね。
 これって『不思議コメディシリーズ』スタッフが『戦隊シリーズ』作るようなもんじゃないの?
 
 う〜ん、ノれない。
 大体、思ってることを全部口に出すってのも古臭いんだよなあ…などと言いながらやっているうちに、それでも結構ノってきてしまった鷹羽。
 後藤氏も書いているとおり、食いつきの悪さは天下一品ながら、内容的には決して悪いものではない。
 “『猟奇の檻』の正当な後継作を作ろう”という意欲が見て取れ、むしろ小気味よくさえある。
 紗江子殺害犯である琴美、響子・愛殺害犯である未紅の動機も愛憎からのもので、『猟奇の檻』の名を冠するにふさわしいものだった。
 
 さて、各シナリオの内容については後藤氏が既に詳しく書いているとおりだし、鷹羽の意見もおおよそ同じなので、後藤氏が敢えて触れなかった部分を中心に書いてみよう。
 
 まず、ちょっと状況説明を武の独白やキャラのセリフに頼りすぎているように思う。
 もう少し、武が仕入れた情報から現状を匂わせて欲しい。
 状況などの描写をセリフだけで説明しすぎると、受ける印象が薄っぺらくなってしまう。
 例えば、未紅が憎んでいたのは自分を陵辱した鶴岡達より、むしろキャッツに入るために自分を鶴岡達に売った響子と愛だったはずだが、その辺が未紅のセリフ説明だけでほとんどまかなわれている。
 プレイヤーの大半は、悪人らしいことをせずに死んでしまった響子や愛よりも、あからさまに悪人ヅラの鶴岡・兵藤に対して悪印象を持っている。
 またビデオで見た陵辱シーンにしても、いくら「恨むならあの2人を恨め」なんて言われてみたところで、まずは直接的な加害者である鶴岡達に怒りが向いてしまう。
 そんな中で突然、未紅の口から響子達に対する恨み言が出てきても、どうもピンとこないのだ。
 キャッツの3人が見た目ほど仲が良くないことは、良子から聞いていただけで、それを裏付けるものが何もない。
 未紅が必死になって仲良しを演じてきた努力は判るし、それを前面に押し出しているのも判るが、やはり、武が疑問を持ったがウラが取れなかったくらいの描写は欲しかった。
 武が、入ってきた情報のウラを一向に取ろうとしないので、こういうことになっているのだ。
 
 また、パートナーでしかもプロのはずの絵理が、基本的に人の話を聞かずに馬鹿なことばかりしていることが、イライラに拍車をかけている。
 彼女のせいで、捜査が3割くらい遅れているような気がする。
 
 もう1つ問題なのが、シナリオ分岐を選択肢に任せすぎていることだ。
 基本的に、主要な情報はどのルートでも共通だ。
 しかも、ここが重要なのだが、前述のとおり、武が情報のウラを取らないので、せっかく手に入れた情報が役に立たない。
 琴美が、キャッツのメンバーを選ぶオーディションのヤラセ問題で失格になったことは、5日目の段階で分かっていることだ。
 そのオーディション番組はみらいテレビのものだったわけだから、資料なんぞいくらでも転がっているはずなのに、一向に探そうとしない。
 探して見つからなかったという描写でもあれば納得できるのに、それもない。
 この辺の減点は大きい。
 
 そういったわけで、自然に選択肢の比重が増してしまう。
 そのため、とんでもない不条理が起きてしまった。
 その最たるものが、トゥルーエンドであるR2の分岐なのだから困る。
 
 メインルートであるR1からR2への分岐は、2日目の朝という早い時期に決定されるが、その条件が妙なのだ。
 R2に入るには
1. 1日目に未紅と会っておく
2. 1日目の帰りに紗江子を尾行しない
3. 2日目の朝、琴美を助けない
という条件をすべて満たさなければならない。
 ところがこの3つの条件が揃うことには、客観的には何の意味もない。
 R1とR2の最大の違いは、紗江子殺害が起きるかどうかなのだが、その犯人である琴美が壊れていくという精神状態の変化には、3つが揃う必要性などないからだ。
 
 1章、2章のキーポイントだった“ある情報を持っているか、いないか”ということで展開が変化するという部分をもっと重要視していれば、これらの欠点はかなり改善されたはずだ。
 
 例えば、琴美の殺人現場を映していたビデオの存在を知った高梨が、福田を殺した後に鶴岡を殺しに行った経緯を考えると、琴美が鶴岡に陵辱されていたことを知ったから、と考えた方が自然だろう。
 違うなら違うでもいいが、いずれにしろ状況が不透明すぎて奥行きがない。
 
 響子が鶴岡の娘なのかどうか、未紅はどうやって誰にも見られずに愛の死体を屋上からぶら下げたのか、それ以前に、どうやって首の骨を折るほどの力で首を絞められたのか、一切語られない。
 これだけ謎が未消化のまま残されると、最後の告白シーンだけ未紅が別人のように見えるのも、演出上の失敗にしか見えないのだ。
 
(総評)
 なんだかんだ言っても、今のご時世にミステリー系ゲームを作ったことは評価に価する。
 錯綜する思惑、愛憎の果てに選ぶ殺人者への道、いかにも『猟奇の檻』の新作を作りたかったんですという姿勢は嬉しかった。
 
 ただ、鷹羽は『第2章』のシステム・シナリオを大変高く評価し、その継承を求めているため、少々点が辛くなってしまうのだ。
 地道にあちこちを回って情報を入手し、それを元に新たな情報を掴むというこのシリーズの“謎解き”としてのテイストをもっと生かしてくれたら、評価はAランクだったことだろう。
 とにかく、同じ場所には1日最大3回までしか行けないというのは、ストレスが溜まった。
 このために、分岐を選択肢に頼らざるを得なかったのだろうから…。
 
 最後に、エンディング曲『Break UP!』について一言。
 未紅や琴美の心情を見事に表していることは後藤氏の書いているとおりだが、キャッツバージョンの方を聞いてみると、響子、愛の心情にもマッチしているんじゃないかと怖くなってしまった。
 「全て賭けられるよ」というのを“たとえ仲間を売ってでも”「夢を叶えたいの」と読み替えると、あら不思議! 途端に響子達が悪人に…。
 
(鷹羽飛鳥)
 
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