鬼哭街 〜The Cyber Slayer〜
 一人の修羅が荒廃した街を駆ける。
 復讐という名の慟哭を糧に。

1.メーカー名:ニトロプラス
2.ジャンル:デジコミ
3.ストーリー完成度:A
4.H度:D
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:なし
7.その他:正真正銘デジコミです。故に攻略難易度はなし


(ストーリー)
 アジアでも有数の魔都・上海。
 今やサイバネティクス技術により、人間のほとんどがサイボーグ化し近未来化が進むこの都市は、青雲幇(チンウンパン)と呼ばれる組織によってサイバー市場が押さえられており、また牛耳られている。
 そんな最中、青雲幇の幹部の一人が何者かに殺されると言う事件が起きた。
 外部損傷もなく、死因は脳内にまで組み込まれたサイバネティクス回路が一瞬にして焼き切られているというものだった。
 副首領に当たる劉豪軍(リホウジュン)以下、他の3人の幹部達は驚愕するしかない。
 あの男が上海から帰ってきたのだ。
 かつて、自分たちが裏切りの罠にかけ死に追いやり、あまつさえその妹を陵辱して「壊した」奪った…サイバネティクス強化されたサイボーグに一瞬で致命傷を与える恐怖の内家拳「電磁発勁」の使い手…“紫電掌”孔濤羅(コンタオロー)が!


 …サイバーパンクだねえ…コテコテの。
 俺っち自身そういう世界観嫌いじゃないし、既作である「Phantom」「吸血殲鬼ヴェドゴニア」からシナリオには定評のあるニトロプラスの事、実に安心して作品を楽しませて貰った。
 活劇としてみるなら、ここしばらくなら間違いなくNo,1の作品だと言えるし、「二重影」以来、久々に男キャラがカッコイイシナリオを読んだように思う。

 まず、この作品に驚かされたのは「密度の濃さ」にある。
 とりあえず世間一般では、選択肢なしのデジコミの割にはプレイ時間が短くちょっと物足りないという風評のようだが、ここまでイロイロな「やりたい事」を詰め込んで一作品としてまとめているならば、6時間強のシナリオというのは十分な様に俺っちには思えるのだが。
 豊富な戦闘シーン、救いのないシナリオ、そして昨今の妹キャラブームへのニトロプラスなりのテーマの提示。
「楽しんで作ってるなあ…」
 と言うのが手に取るように分かるし、それが心地よい。
 成る程、俺っち自身はニトロプラスの作品をやるのはコレが初めてだが、ファンに受け入れられているのも何となく理解出来る。

 この作品の目玉である戦闘シーンは、流石に読み応えがあって感心の一言に尽きるだろう。
 アニメを用いるでもなく、止め絵と文章だけで良くもココまで迫力あるバトルを演出したものだ。
 また、さりげに中国拳法のかなりマニアックな部分まで取り入れているのには、俺っち自身びっくりした。
 実は俺っちは格闘技が好きで、中国拳法もある程度研究しているため、「ああ、このシーンはこうなのね…」みたいにニヤリとして見ていたけど、知らない人には結構「?」なシーンも多かったんじゃなかろうか、というのがちょっと心配ではある。
 まあ、そんなものを差し引いても迫力があるので、あまり大問題ではないが…
 1人目の敵との戦いだけでも闖少林(恐らく八極拳の闖歩)、丹鳳朝陽、挂拳、蓋拳、劈拳、抛拳、横拳…普段ならあまり聞き覚えのないであろう技名がずらずらと並ぶ。
 2人目の朱との戦いでは、朱自身は鷹爪拳を使っているようだが、文章を読む限りでは、戦い方はむしろ掌を振り回すように戦う独特の拳法・劈掛拳(掌)に近いような気がする。

 また主人公・孔濤羅が得意とし作品中でも良く繰り出す蹴り技は、その使用用途から蟷螂拳などで重要な位置を占める秋腿法であることが分かるし、誰との戦いの時かは忘れたが、防御時に使用する「拘・楼」が登場する。

 しかし、そんなマニアックさとは裏腹に、普段我々が耳にする単語…例えば発勁とか内家・外家拳という単語はあまり難しい注釈を入れず、悪い言い方をするのならば誤解された状態のままでさらりと流して、作品中に取り込んでいるのは上手だと言える。
 さりげないユーザーへの心配りを忘れていない良い証拠だ。

 正直言えば、シナリオは先が読める
 はっきり言うと、最後の展開も完全に俺っちにとっては予想範囲内のオチだった。
 だが、今回はデジコミ…言うなれば電脳小説であった事を考慮してテキストを密にし、シナリオはある程度分かりやすくしようとした意図が見て取れる。

 かつて陵辱され殺された妹・孔端麗(コンルイリー)の魂が五分割されて、その時の組織の主要メンバーに与えられたガイノイド(慰安用サイボーグ)にそれが納められているため、主人公は復讐を果たしつつ量子化された魂を回収しているわけだが、そういうはっきりした指標がシナリオ中に提示されているため、非常に分かりやすい。
 もちろんそれらを1つ1つ手に入れるためには、幹部達と戦って勝利を収めなければならないのだから、ユーザー側としても主人公必勝のシナリオというのは見えてきて当たり前だ。
 途中の青雲幇内での離反騒動、電磁発勁を使えば使うほど縮んでいく孔濤羅の寿命などもシナリオに絡んだスパイス。
 その課程で、孔濤羅がラスボスである劉豪軍に100%勝つことは出来ないのも、ユーザー側はあらかじめ思い知るわけだ。
 先が読めるのも無理からぬ事だろう。
 それでも、この作品は面白い。
 分かりやすいシナリオにレベルの高い文章が見事に融合しあった傑作だと言っていい。

 例示するならば、映画の「ロッキー」シリーズがある。
 この作品は映画評論家に言わせれば「三流」なんだそうだ。
 理由は、最後にロッキーが勝つことが分かり切っているから。
 そうなのだろう。それは否定できない。
 だがロッキーシリーズには、それを超えた熱さと展開がある。観客を熱狂させるだけのドラマがある。
 今回の鬼哭街は、そんな作品だと俺っちは思っている。
 先が読めようがなんだろうが、面白い作品は確実に存在する。
 デジコミという評価が厳しいジャンルで「鬼哭街」は、見事それを証明して見せたのだ。

 もう一つ面白い要素として、妹キャラの捉え方がある。
 昨今このHゲームの世界を席巻し、もはやジャンルの一つになりつつある「妹属性」だが、果たして世の妹萌えの人たちが、この作品の妹キャラ・孔端麗にどういう感想を持つのかは、非常に興味のあるところだ。
 ただ脳天気に妹キャラ=萌え〜♪の図式に彼女があてはまるというのならば、別にそれはそれで幸せだから良いとして…

 彼女を一言で表せば、それは狂気だ。

 劉豪軍が最後の場面で孔濤羅に向かって「彼女は自分(劉豪軍)に嫁いだ段階で壊れる運命にあった」と言うシーンがあるが、それは孔端麗が狂気にとりつかれていたことを示唆した言葉に他ならない。
 そう、兄である孔濤羅が好きであったという「狂気」だ。

 考えてみれば当たり前の事だろう。
 実の兄と妹が愛し合うなど、狂気以外の何者でもない。本来ならば禁忌(タブー)なのだ。
 そんな本来ならば当たり前のテーマを、ニトロプラスは孔端麗というキャラを以てユーザーにぶつけてきた、そんなイメージを俺っちは受けている。
 ひたすら純粋で無垢であったが故に狂ってしまった孔端麗、そしてそれに耐えきれなくなり自ら全ての破滅を望んだ劉豪軍、そしてそれに巻き込まれた孔濤羅…
 それらを全てひっくるめて、あのEDをもう一回反芻してみれば、これは救いのない話どころではない。
 そう、妹萌え〜などと言っている場合ではないのだ(笑)。
 ニトロプラスのこの業界の今の流れに対する問いかけ…孔端麗はそんなキャラだと思っている。

 さて、少し欠点にも触れておこうか。
 これは特に第一章で鼻についたことなのだが、文章がやたらとくどい
 もうちょっと突っ込むと、比喩表現がやたらと多いのがひっかるのだ。
 読ませる文章大いに結構、今回はただでさえそれが主体なのだから、そういう点で凝りたかったのは良く分かる。
 だが比喩とは元来、文章を分かりやすくするために用いるものだ。
 そんなものにこちらの知らない表現、漢字、文法を駆使されても困ってしまうのもまた事実。本末転倒と言っていい。

 ただ、上で書いたとおり文章自体は非常に高レベルでこの問題も第二章以降は気にならなかったので、目くじら立てる程のものではないのだが、一応指摘しておこうかと思った次第だ。

 あとは、これは個人的には気にならなかったのだが、やはりデジコミだという事で値段との釣り合いが取れていたか、という点が気にはなる。
 先にプレイ時間が6時間と書いたが、コレはテキスト読むのが死ぬほど遅い俺っちがかかった時間。
 速い人ならば、3時間強でクリアしてしまうだろう。
 これで定価4400円は…結局はプレイヤーの判断次第だろうが、客観的に見れば微妙と言えば微妙な価格だとも思う。
 後半、特に第四章あたりから、展開が駆け足になるのも短いと感じさせる要因かもしれないが…
 …まあ、俺っちは十分元取ったと思っているけどね。


(総評)
 下手に長時間やった挙げ句、下らない選択肢ミスでバッドエンドに突入したり、大した差もないEDでED数を増やすマルチエンドタイプの作品も多い中、ずいぶん潔い作品が出てきたモノだ。
 エロ主体でない、アクション活劇というジャンルにデジコミで挑戦したところにシナリオライターさんの自信の程が伺えるし、またそれに見合うだけのストーリーを十分に満喫させて貰った。

 実は当初予定だった「ONE2」がどうしてもスケジュール的に間に合わないと言うことで急遽選んだ作品なのだが、なかなかどうして当たりを引いてた様だ。

 さて次回作に期待したいところだが…

 ハ、“Hello,World.”かあ…どないしょ!?


(梨瀬成)


戻りマース