胸キュン! はぁと de 恋シ・テ・ル 〜お兄ちゃんもっと大好き〜
 待望の「やきいも2」が満を持して登場!

1.メーカー名:UNiSONSHIFT
2.ジャンル:義妹萌えラブコメADV
3.ストーリー完成度:C
4.H度:D
5.オススメ度:D
6.攻略難易度:E
7.その他:「やきいも製作委員会」とは、これ如何に。


(ストーリー)

 父親との折り合いが悪く、早くに家を出て都会で自活していた裕太(変更可)は、脈略も無く「結婚する。実家は任せた」とだけ書かれた父親の手紙に憤慨し、文句のひとつも云おうと田舎の実家に戻ってきた。

 しかし父・明仁は再婚相手である美和子を連れ婚前旅行に出かけた後で、実家である神社で裕太を待っていたのは、神社の管理人である祖父・法若と、美和子の連れ子であるはるか・いづみ・あずきの三姉妹だった。
 大学受験に失敗した事もあり、宮司代理を任されても断る理由がない裕太は、明仁達が1年かけて世界一周している間、義妹となる彼女達の協力を得ながら、慣れない仕事に精を出すのだった。



 本作は、2年前に“ヤキモチ+妹=やきいも”というジャンルで世に送り出された前作「胸キュン! はぁとふるcafe」の『第2弾』である。
 ヒロインは双子から三姉妹に、それに合わせ増量されたひと癖もふた癖もあるシナリオは、更にパワーアップしている。
 『端午の節句(+ひな祭り)・海(+夏祭り&花火)・クリスマス・お正月・バレンタインデー』と、共通ルートのメインイベントも年中行事をしっかりと抑えてあり、そこにヒロイン個別イベントを絡ませ賑やかなシナリオに仕上がっている。

 女性のみだがキャラクターボイスも前作を遥かに超える質の高さで、間延びした口調で感情が声に現れにくいはるか美和子の場合は判断が難しいところだが、テンションの高いいづみあずきは、その性格を余す事無く表現できていると思えた。
 このふたりは感情の起伏による声色の変化もすごく、聞いていてくすぐったくなったものだ。
 これで明仁や法若に声があててあれば、きっと死ぬほど笑い転げていたのではないかと思え残念でならないのだが、そう言えるぐらいシナリオと声優陣の演技が噛み合っていたのだ。


 インストール初期起動チェックで、全ハードディスクを総当りで検索しているのだろうか、やたらと時間がかかった。
 3パーテーションに分割した80GBのハードディスクを搭載している自機で、その検索作業だけで30分以上も待たされてしまい、おかげでマニュアルと、初回特典で付いてきた“マニュアルの2倍は厚い”「お兄ちゃんにだけみせちゃうBOOK」を余すとこなくタンノウできてしまった。

 システム面も改良されてはいたが、必要最低限の機能といった感じは変わらずで、使い勝手も良好とはいえない。
 全く使用していないマウスの右ボタンに、簡単な機能のひとつでも割り振ってくれていたら、気の利かないシステムだとは感じなかっただろう。

 ひとつだけ評価したい変更点があり、マウスカーソルをゲーム画面の下方端に寄せるとテキスト表示用フレームが消える仕様になっていた。
 些細な事ではあるがイベントカットを見る度に、テキストフレームを消す煩わしさが無いのは画期的だと思えた。
 ウインドウからカーソルが外れると消える仕様になっているものはよく見かけるのだが、こちらの仕様は「画面下」以外では消えない。
 テキストスキップしている最中でもこの機能は有効で、カーソルを下方に移動するとテキストフレームが消えるのと同時に、立ち絵やイベントカットの描き替えも止まり、カーソルを戻すと再びテキストスキップ状態に戻る。
 このようにテキストスキップ機能を解除せず、フレームの表示を切り替えられるため、イベントCGの差分カットを参照するのに大変重宝した。

 それから不具合についてだが、新旧の作品を連続プレイ・執筆している手前、前作の惨事も記憶に新しい事でもあり最も注意を払っていたのだが、これについては杞憂に過ぎなかったようだ。
 詳しくはエルトリア氏執筆「胸キュンはぁとふるcafe」を参照して戴きたいが、第1弾は未修正状態では『止まる・消える・壊れるとシャレにならないぐらい』エラーが出たのだ。
 本作に関しては致命的ではないものの、バックログ参照関連で不具合があるらしく、メーカーのオフィシャルサイトで修正バッチを入手して適用しておいたほうが無難だろう。


 さて、オフィシャルサイトでも登場人物や舞台設定の共通点を示されていなかった本作は、何を持って続編なのかという疑問が購入前から付きまとっていた。
 シナリオの考察に入る前に、前作と本作を比較してみると、

〇 前作との共通点:
主人公は成人しており、義妹とは年齢差がある(と思われる)。
主人公の家に、後妻の連れ子としてやってきたヒロイン。
親父が身勝手で、理不尽さに我慢できず家を出た経緯あり。
主人公はわりと面倒見が良く優しい。 <優柔不断でもある
主人公を慕うあまり、義妹たちがヤキモチを妬く。
両作品の舞台(居住地)が近く、同じ商店街を利用していた。
ヒロインのひとりが、謎のアイテムコレクター。

 年齢差に付いては裕太の飲酒シーンがあるとはいえ、明確に示されている訳ではないのだが、かつて裕太が家を出ていった時、あずきはまだ赤ん坊だったそうだ。
 この情報を基準にすると、シナリオスタート時点でのあずきの入学シーンが「高校」だった場合、彼女は15歳であるから、裕太は12年ぐらい離れて暮らしていたと考えられる。
 通学のため家を出たという記述もあり、若く見積もっても25歳ぐらい・・・ただし、中学生の頃から自活していたと仮定しての話である。
 家を出たのが高校からであったなら28歳以上となり、大学受験に失敗した裕太が予備校通いである事を考えると、一体どこの大学に受かりたくて何年も浪人生活をしてるのだろうか(笑)。

 三姉妹の父親はあずきが小さな頃に亡くなったらしく、あずきは「“入学式”に来てもらった事が無い」と云っていた事から、少なくとも小学校に上がる前には他界していたのだろう。
 【あずきルート】で裕太が、彼女達の父親が数年前に亡くなったと独白していたが、これからするとあずきは「中学」に入学したと思われ、裕太は9年ぐらいは離れていた事になり22〜25歳ぐらいである。
 こう解釈した方が矛盾がもっとも少ないし、シナリオの内容…特にあずきに関する記述では、彼女達が中学生であるかのように感じられたのだが…。

〇 前作との相違点:
前作は再婚後の話だが、本作は婚前旅行に出ている間の話である。
前作では三ヶ月の「猶予」しかなかったシナリオが、本作は1年越しのシナリオ。
双子の姉妹から年子の三姉妹に。
前作では再婚後に初顔合わせだったが、本作では幼馴染だった。
前作では家を出て自活していた所に押しかけられたが、本作では家業を手伝うことで義妹との同居が成立。

 本作は三姉妹の年齢差すら明らかにされていないのだが、彼女達が同じ制服を着ている事から年子と判断した。
 仮にどこかの総合学園の付属高校や中学だったとしても、よほどの事が無い限り中等部と高等部を同色同デザインの制服にはしないだろうし。

 前作で感じていた「殆ど面識の無かった主人公を慕う理由が明確にされていなかった点」だが、本作では幼馴染として過去の経緯にその理由を求めた事で、ヒロインの秘めた想いに共感しやすかった。
 裕太と過ごした時間を持たないあずきは、物心つく前に死別した父親への恋しさがそのまま年上の男性への憧れになっていたようで、裕太に対しては半分“ひとめ惚れ”だったとも思えるのだが、それを三姉妹全員の理由とするには無理があっただろう。
 ゆえに、はるかいづみが「ずっと想い続けていた」とする話作りは、離れていた時間の分だけ「思い出を美化した」とも解釈できるものだし、結果的にルートシナリオの差別化にもなっていた。



■ はるか ■

 容姿・性格とも見事に母親似のはるかは、トロくてニブいわりに行動派で、まわりの迷惑露知らず自分では何でも出来ると思っている。
 何事にも自分の欲求に正直であり責任感皆無、どう贔屓目に見ても長女らしからぬ存在だ。
 この姉をして妹のいづみが世話焼きな性格に育ったのも頷ける話で、それでも妹達に好かれているのは、その包容力の賜物かもしれない。
 ただしあずきにとっては、招き猫とセットで恐怖の対象でもある(笑)。

 裕太とは幼馴染の間柄であり、その頃の思い出が今のはるかを形作り、すべての原動力となっている。
 そのむかし、裕太に夏祭りの夜店で買ってもらった招き猫を今も大切に持っており、彼女の異常なまでの招き猫好きの発端は、どうやら彼にあったようだが、これが後のイベントに関わっていて、破損した思い出の招き猫を修復してもらった事で、長らく「忘れていた」裕太への想いを再認識した。

 はるかの設定上、切り離して考えられない招き猫だが、これは前作のヒロイン・ちよりの『ブタグッズ』に相当するものだ。
 相当すると云うからには、当然これに関わるとロクな事が無い
 部屋の中から次々に沸いて出る招き猫たちを、どうやって格納していたのか、その真実は推して知るべし…である。
 また、かつてこの神社で取り扱っていたという「恋結びのお守り」というアイテムは【はるかルート】のみのアイテムだ。
 これも裕太をずっと想い続けていた証拠だが、このエピソードを後半に折り込んで、話の流れをつつがなくまとめあげていた。

 しかし、シナリオが常に「過去の繋がり」に寄りかかっているため、“今のはるか”としての個性が浮き上がらず終いだったのは残念だ。
 武闘派のいづみや誘惑小悪魔のあずきと比べてもけっして劣るものではないのに、やはりインパクトで勝負出来なかったぶん印象が薄く、それを補えるシナリオだと言い難いのも要因のひとつだと評さざるをえないのだが。


 ひとつ気になったのは、後半…裕太と恋人関係になってからのはるかは、何かにつけ母性を強調した感じになっている。
 裕太と結ばれ精神的に安定した事によって芽生えたものというより、元々あったものの様に描かれていた。
 しかしはるかが持っていた包容力は寛容さであり、母性のそれとは異なる。
 そのため、人格が変わったかのような印象すら受けた。
 もっとも、その母性的なはるかの方が気に入っているというのは、ナイショだが(笑)。


■ いづみ ■

 メインヒロインのいづみはカラっとした性格であり、男勝りで勝気でプロレス大好き少女。
 彼女自身も瞬殺技の使い手で、男性である裕太はたまに手加減抜きでこれを食らってもんどりうっていたが、世話好きで料理好きな家庭的素質を最も持っているのも彼女だ。
 時には自分を女の子らしくないと涙する事もあったが、動物好きが転じてふわふわした可愛いものが好きだったり、また裕太の好みを気にしたりする所など、姉妹でもっとも女の子っぽいと思えたのだが。

 はるか同様に裕太とは幼馴染で、本心では彼にベタ惚れなのだが、極度の照れ屋で素直に言葉に出来ない。
 照れ隠しに殴る蹴るといった行動を取る事があり、照れる仕草を見たいが為に命を賭けるかどうかは、悩み所だろう…
 
 いづみにとって裕太は昔から憧れの存在であり、男勝りで女に生まれた事を常々不満に感じていたいづみが、「女の子で良かった」と思えたのが、彼との出逢いなのだそうだ。
 いや、本当にそう思うのなら、せめてコメカミに膝蹴りするのはよした方がいい。
 ヘタすりゃ、恋しい人が昇天しかねないから…


 どういうわけか他のルートでは全く発生しない学園祭だが、この準備の追い込みではるかあずきがお泊り作業になり、一晩限り「ふたりきり」の状況になる。
 学園祭そのもののイベントは発生しないため、なぜ学園祭の準備なのか解らないのだが、ここでいづみは長年温めつづけてきた想いを告げようとする。
 だが、少しの勇気が足りずその場を逃げ出したいづみを案じ部屋を訪れた裕太が、自室で彼を想いながら自分を慰めていたいづみの姿を目にした事で、その心の内を知る事となった。

 裕太が義妹のひとりHを覗くのは、【いづみルート】のみのイベントだ。
 ふとした仕草に女の子っぽさを感じていた裕太だが、男勝りないづみもひとりの女の子だとキョーレツに意識してしまったのは、これがきっかけだったのだ。
 着替えを覗いてしまったのも裕太の無神経さゆえの出来事であり、同居ならではのお約束なイベントだともいえるのだが、普段のカラッとした性格とのギャップが微笑ましく見ていて飽きない、そんなシナリオだった。

 それから、いづみは裕太と結ばれてから後、彼の前でだけ「裕太好みの女の子」を演じていたという面白いエピソードがある。
 しおらしく従順な女の子という、普段のいづみとは正反対(笑)の自分を演じ続けていたわけだが、これも女の子らしくない性格や趣味の自分では嫌われると思いこんでの行動だった。
 他のルートと同様にキャラクターの性格を上手くシナリオに活かしているが、それを逆手に取った演出がなされていた事は、文句なしに本作最高の出来だったと評したい。


■ あずき ■

 世界は自分を中心に回る〜を地でやっている甘えん坊で、自分を抑える事をしない分ヤキモチは姉妹一。
 恋愛に対して最も積極的なのだが、解ってなくて無意識にやっている事も多々あり、偏った知識と相俟って最強といえるかもしれない。
 そんな小悪魔的魅力満開な少女が、実は亡き父恋しさから年上の男性へ憧れを抱いている事に、裕太は早い時期から気付いており、それゆえ子供の我が儘につき合うような気持ちも少し混じっていた様だ。

 父恋しさだけなら新しい父となる明仁がいるから事足りているはずだが、やはり求めるものが違うのだろう、しかしむさ苦しいオヤジより若い男を選んだだけという風にも見えない。
 ただ、あずき自身、父親の想い出に縋る事はあっても、『父親の代わりを欲してはいない』のだ。
 だとすると、裕太が思い描いていた理想の男性像に近かったのだろうか?
 本編中にそういった記述は一切無かったのだが、しかしあまりにも理想からかけ離れた存在ならここまで慕われる事もないだろうと、ルートシナリオを追っている間ずっと感じていた。


 【あずきルート】でも、はるかいづみがお泊りイベントで外泊する事で、一晩ふたりきりの時間を演出したのだが、こちらは友達の家であり【いづみルート】と異なる。
 また折角の演出なのにこの時点で恋人関係にならなかったのも、【いづみルート】と差別化が図られた点だろう。
 後日のデートイベントで古い映画のキスシーンに感化されたあずきにキスを迫られた末に、彼女の想いが本物である事を理解した裕太が、猛烈なアプローチを続けて来たあずきにいつしか絆されていた事に気付いたという結びになっているのだ。

 眼鏡美人で豊満な肢体の持ち主はるか、ボーイッシュでスレンダーないづみにして、ロリキャラのあずきは幼児体型だ。
 エロよりフェチな傾向が強く、背徳感まで付きまとっていたルートシナリオのトドメとしては、申し分無いものだった(爆)。

 こんな日が来る事を夢見ていろいろと練習(ひとりH)していたとか、その手の勉強をしていたとか告白されたのだが、最もあずきを印象づけたのは裕太が喜んでくれる事が嬉しいと奉仕したがった所だろう。
 普段のあずきからはとても聞けない台詞であるうえ、何かして欲しいと訴える事はあっても、自分から尽くすとは思いもしなかった。

 自ら裕太との関係を両親に告白し、再婚を反対したのもあずきだけだったが、ここでも裕太のおかげで少し胸が大きくなったとダメ押しのひと言があったわけだ。

 凄すぎます、あずきさん。
 これでますますはるかの印象が薄くなってしまった事に、滝の涙を流そう…



(総評)

 突然「兄」という立場になってしまった主人公。
 シナリオは4月に始まり、三姉妹とつかず離れずの距離を取りながら、お互いに最良の付き合い方を模索する…『義兄妹になるための予行演習』であったはずが、身も心も捧げたいぐらい慕いすぎる義妹達との距離はいやおうなしに近すぎて、本能と理性との狭間で悶絶する男の悲しいサガに日々涙する主人公の物語でもある(笑)。

 義妹とはいえ「予定」であって所詮は余所の女の子、その扱いに戸惑い四苦八苦するのが関の山だ。
 裕太は常に「性的欲求」と「兄の立場」の間で葛藤し、どうすべきかと自問自答を繰り返す。
 相手は義妹なのだからと自分に言い聞かせ自制する事で、兄の面目をかろうじて保っていたようなものだ。

 そんな彼が義妹との間に愛を育み、共に歩みたいと願うまでの話の流れは月並みで平坦なものであったが、主人公の自爆的な独りツッコミやお笑い路線なノリで展開する消化イベントで盛り上げ、シナリオに起伏をつけている。
 しかしながら、三姉妹分のイベントを絡ませボリュームを増したシナリオは、過剰気味な消化イベントの数を考えると膨れすぎな感がある。
 また、1年分もの経過時間に任せるには、ルートシナリオ自体の起伏が乏しい事が禍いし、ダラダラと話が続いている様にさえ感じてしまう。

 消化イベントも、裕太が神社の宮司代理という立場上、おいそれと遊びに出かけることが出来ず、メインは母屋周辺であり、町へは殆ど義妹にせがまれて“連れ出される”形となるため、主人公としての自主性は皆無に等しい。
 よって面白くはあっても、振り回されるだけの流れに飽きてしまうと、残りの攻略がただの作業と化してしまう可能性が高い。
 共通イベントの数をもう少し整理し、その分ルートシナリオ割り振ってメリハリ付けられたら、ひとまわり高い評価を得られたのではないだろうか。


 前作のヒロイン達も、双子にして正反対の性格であり個性的に描かれていたが、本作のヒロイン達の個性付けはそれを上回るほどであり、高く評価できる点だと思う。(常軌を逸している部分はあるのだが…)
 個々の性格設定に合わせ、趣味的な部分や性分もシナリオに活かされており、生まれた年を変えた事ではっきりとした序列ができ、成長過程での考え方の違いや「価値観」の差も付けやすくなったのではないだろうか。
 そういった意味では、「前作を踏まえた」作品であると思えたのだ。

 それ以外にもシナリオとしてビミョ〜にリンクしている部分がある。
 前作での事だが、初詣に行った神社でお守りやキーホルダーなどを相手より沢山買ってもらおうと、双子が争うイベントがあった。
 その神社というのが本作の舞台・裕太の実家であり、年末年始の賑わいの中でその様を売店の中から窺い、他人事とは思えない…というオチがついた。

 そこで前作の舞台は近所かも知れないと思い探してみると、背景カットの一枚・商店街入り口付近にあった見覚えある喫茶店内から、前作のヒロイン・ちよりが外を見ているのだ。
 これらにより、前作と本作の舞台(居住地域)が同じである事が判ったが、しかし前作の登場人物達はシナリオに全く関わってこない。
 気付いた人だけがにやっとしてしまう程度の物で、初詣のシーンも然り、前作を購入したユーザーに対するサービスみたいなものなのだろう。


 前作では再婚後の話であり否応なしに義兄妹という立場だったが、恋人関係になった事を知った両親は子供の将来を考え、「籍を抜いて」彼らの門出を祝福した。
 本作ではまだ入籍しておらず、義兄妹となる事を前提として話は進行している。
 1年後に帰国した両親は、「旅をして出た結論として、恋人のままでいる方が燃える」から入籍しないと云った。
 ただしこれは、自分たちの関係を優先した結果として、裕太たちの最大の障害が無くなっただけの話なのである。

 両作品の主人公に共通する「父親の身勝手さが許せない」というものがあったのだが、前作の父親は強権で、自分の考えを多くは口にしないタイプゆえに誤解をまねいていただけに思えた。
 本作の父親・明仁は、豪快にしてあまり物事を深く考え込まず行動に移すが、何事も投げ出さず成し遂げてしまう不退転の人物のようだ。
 ただその行動原理は裕太の理解の範疇を超えており、また明仁もそれなりに気には留めているが、軟弱な息子に理解を示す気が無いとも見受けられる。

 その一例として、旅立って半年ほど経った頃に届いた手紙には、裕太と義妹達との関係を指して、「まだ他人だから」とか「女を待たせるような事はするな」とか、煽る内容が記されていた。
 確かに親同士が再婚しようが、前作の様に籍を抜けば血の繋がりが無い以上子供同士が結婚する事は可能だろう。
 だがこれだけでは納得しがたいので調べてみた所、『民法第4編 親族 第二章 婚姻 第1款 婚姻の要件』“第734条 直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。但し、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。”となっている。
 これを本作に当てはめてみると、養子(予定)ははるか・いづみ・あずきにあたり、養方の傍系血族とは明仁の息子・裕太を指す。
 つまり、前作や本作のケースでは、子供同士の結婚になんら問題はないという事だ。

 話を戻すが、本作の場合は結果的に両親の再婚話が無くなっただけの事で、予定通りだったなら裕太と三姉妹は義兄妹になっていたわけだ。
 そんな状況であったにも関わらず裕太を煽った明仁の言動は、彼の性格からしても民法を知っていての事とは到底思えない。
 まして帰国後に裕太の行動を知って、冗談でも「後先考えないヤツだ」と罵っていたりするのだ。
 裕太に同情する気など無かったのだが、これでは不審がられても仕方ないかと思えたのも確かだ。


 前作での問題点として、ふたつのルートシナリオは後半に入るまで顕著な差が見られなかった事と、消化イベントが日常的過ぎて盛り上がりに欠けるという点があった。
 シナリオの差に付いては3人きりの同居家族のうえに、行動が似通う「双子」ゆえ、無理からぬ事と解釈もできる。

 これを踏まえ、本作でのルートシナリオの差別化は、まずまずの出来ではないだろうか。
 性格だけでなく癖などにも気を配って作られており、キャラクターの行動に突拍子な部分はあれど、不快に感じる様な不自然さは見られない。
 ただ、三姉妹共通のイベントがシナリオ後半まであり、一応ひとりを指名(ひいき)する形になるものの、現実問題として「特定のヒロインを攻略している実感」が薄い

 また一年もの長丁場であるにも関わらず画面上で進行しているシナリオの“日付”を確認できないため、台詞などで月日や曜日を示されない限り知るすべが無く、折角四季のイベントを配されているのに、話に置き去りにされた感覚に陥る事がままある。
 同様の理由から、日付のスキップが起こっても、すぐに気付かない事すらあるのだ。

 日付だけに限らず、発生イベントが午前なのか午後なのか、それすら判断つかない場合がある。
 ゲームをしていて時差ぼけになった気分を味わうなんて、そうそう無い事だろう…

 更なる問題点として、明らかに間違いもあった。
 裕太の実家は神社であるのに「本堂」と呼んでいる。
 これは寺院と混同しているのだろうが、正しくは「本殿」だ。
 また祖父の住まいは裏山にある「ご本尊のあるお堂」とされているが、これも「ご本尊」ではなく「ご神体」が正しい。
 普通「ご神体」は、本殿に祭られているものなのだが、本来の崇拝対象が山そのものや岩などの自然物だった場合、参拝しやすい場所に拝殿を移したと考えられるので、これについては問題ないだろう。


 最後まで比較になってしまうが、“義妹の嫉妬”という観点で描かれた作品として、前作はその決着の付け方にやや難があったのだが、本作は最後までその姿勢を崩さず、裕太と本懐を遂げられず義妹にさえなりそこなったふたりと、今後どんな関係になっていくのか見てみたいと思えたほどだ。

 ただ、前作でのハチャメチャぶりが抑えられた分、ヤキモチパワーも減衰した感があり、三人分合わせても前作にはやや及ばないのではないだろうか。
 しかし、シナリオを主として評価するなら、このぐらいで調度良かったと思えた。

 ヤキモチも度が過ぎれば憎しみにさえなる。
 だから程々にして、最後まで可愛い義妹であって欲しいと望むのは、贅沢というものだろうか…



(あおきゆいな)



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