黒瞳皇 瞳裸U

 小国の皇帝は、両手に華を得る。

1.メーカー名:クロスネット
2.ジャンル:シミュレーション
3.ストーリー完成度:B
4.H度:A
5.攻略難易度:D
6.オススメ度:C
7.その他:ボイスもいい感じです。

(ストーリー)
 この私・イシルドゥア(名前変更不可・以下イシル)は、前皇であった父の急逝により、小国ボッサールの名ばかりに等しい皇帝となった。
 この国は、東西の重要な交易の拠点だ。
 この国を手に入れようとにらみ合う東西の大国は、私が独身であることを理由に、婚姻によって自国へ組み込まんとして、それぞれの国から后妃候補を送ってきた。
 選ぶのは一ヶ月の間様子を見てからなので、その間は好きなように教育をさせてもらうとしよう。
 そういえば、この地で亡くなった高名な錬金術師が残した“人を魅了する力を持つ「瞳裸」”というレンズがあったな。
 どれほどの効果があるのか解らないが、それを使ってみるのもいいだろう。
 一ヶ月後が楽しみだ。

 前作「瞳裸」から百年余り後の世界を舞台にした、女の子のパラメータ上げシミュレーションゲーム。
 特に前作を知らなくても問題無い。
 プレイヤーは、一ヶ月の間に后候補のベルシエル(ベル)とアリエル(アル)を教育して、どちらを正妃とするかを決めなければならない。
 教育とは別に夜の伽があり、様々なプレイが見られる。
 パラメータが上がる毎に、プレイバリエーションは増えていく。
 選択する行動は少なく、あがる数値もほぼ決まっているので、パラメータの調整が簡単に出来る。
 また、一ヶ月という短期間のためクリアにもさほど時間はかからない。
 複数回のプレイを目的とした遊びやすいゲームだ。

 グラフィックは、Hプレイの数とイベントの分だけ用意されている。
 一つのプレイにはCG一枚しかないが、期間に対するHプレイの割合の多さとその文章で、物足りなさを全く感じさせない。
 むしろHの対象となるベルとアルは、その性格(後述)からプレイの雰囲気と方向性が異なり、バリエーションが豊富な感じさえする。 これを目的とするプレイヤーは、パッケージを見て購入を即決しても、裏切られることは無い。

 このゲームを盛り上げるのは文章だ。
 シナリオ的には国を存続させるために一ヶ月の間がんばって、最後は全てを手に入れる…という本筋があるだけで、分岐はない。
 後は、パラメータによって発生するイベントがあるくらいだ。
 ちなみにアイテムの「瞳裸」は、前作のそれとは違い、シナリオの中に出てくる単語の一つに過ぎなくなっている。
 注目すべきはHシーンで、よりいやらしさを増すための工夫がなされている。
 各Hプレイには、ベルとアルの心情の変化に2〜3段階の文章が用意されている。
 そのほとんどは二人の視点から語られていて、あたかも官能小説の体験告白記を読んでいる様な雰囲気が味わえる。 
 この調教と開発によって淫れていく過程を、客観的な視点ではなく、自らの口で語らせる手法は「見せる」ことより想像力が掻き立てられるため、興奮度が違う。
 語る対象はプレイヤーに対してのものなので、一枚のCGの中に動きを感じさせる。
 多くのゲームは、文章の善し悪しに関わらず第三の視点で書かれている。
 それらと比べると、自ら語るという自虐的行為は、他のものと一線を画す。
 更に、主人公のセリフを入れる必要がなくなるという利点もある。
 人間は実際に見ているものよりも、語られるものへの思い入れの方が強くなることをうまく利用している。
 H以外は説明的な文が多いが、国のトップが行う会話は「銀河英雄伝説」のような小難しさが感じられて面白い。

 しかし、ゲーム全体のバランスはあまりよくない。
 クリアし易いのはいいことだが、ベストエンディングを見るために二人のパラメータを上げると、最終的に二人ともほぼ同じ数値になってしまい、キャラの個性とかけ離れてくる。
 両手に華がベストエンドなので、后としての能力が等しいのは納得できるが、その分多様なプレイを見られないので面白みに欠ける。
 全てのCGを見るには、決してベストとは言えないそれぞれのエンディングを見ることになり、そのための過程は作業となる。
 プレイ時間が短いからまだいいが、このゲームもまた育成型シミュレーションが恒久的に抱える問題に陥っている。
 何より意味が無いのは、主人公の国を挟んでにらみ合う大国のバランスを取っている天秤。
 自国の宝を贈ることで釣り合いをとるのだが、ゲームに影響を与えないばかりか、わざとバランスを崩してみるとゲームオーバーになるだけ、という意味の無さ。
 何のためにあるのかさっぱり解らない。
 ゲームの世界観を表すというなら、天秤が傾くと国家間でイベントが起きるとか、宝を与えた方の国から来た女の子の態度が変わるとか、何かしらの関連付けをさせるべきだった。

 ゲーム中のモデルやネタが、すぐに判るというのもどうかと思う。
 舞台は架空の世界であるにもかかわらず、モルゴス山脈・カローン山脈等、聞いたような名前の山々に東西を分断され、行き来はボッサール国を通るだけという。
 現実では、シルクロード中国寄りのオアシスでの話らしい。
 どんな世界かは想像しやすいが、オリジナリティは感じられない。
 大国に与える宝物に至っては名前こそ出てこないが、その説明から「16連射パネル」「ブラックオニキス」「ドラゴンスレイヤーの王冠」「ハイドライド3の光の剣」「イースのハーモニカ」「ウィザードリィのワードナの御守」「源平討魔伝の要石」等々、遊びを通り越しているとしか思えないものばかりがずらりと並ぶ。
 いくら意味の無い天秤のためのアイテムと言っても、同人ゲームではないのだから、こんなにも名のあるゲームのネタを持ちこむのはやめた方がいい。
 はっきり言って、一発ネタにしかならない。
 文章の想像力で楽しませる割に、文章以外の想像力の無さに潰されるかもしれない危険を伴った、危ういゲームだ。


(総評)
 このゲームは、シミュレーションというスタイルからか、シナリオに分岐や選択肢が存在しないので、遊びやすかった。
 隠し要素は特に無く、取り忘れが無いようアピールするCG観賞もついていて、好感を持てる。
 シナリオを追うというよりH小説を読むという傾向が強いため、ゲームとして楽しみたい人には物足りないだろう。
 批評には特に書かなかったが、音源のプログラムにはこだわりを持っている様で、見る人が見たらすごいらしい。
 私にはそのあたりの知識が無いので、クリア後のおまけを読んでもピンとこなかった。
 ただデモで流れる歌は出来云々よりも、あまりゲームに合った雰囲気ではないと思う。

 「実録・少女の性の開発告白記」とか「高慢少女調教・目覚めの喜び」みたいなタイトルがつけられそうなHシーンの文章に、結構ハマれる。
 約一年の間を置いただけあって、前作の「瞳裸」よりとっつき易さはいい。
 前作を知らなくても十分に楽しめることは先に書いたが、知っていれば前作の名残が見て取れるので、どこか物悲しさも感じさせてくれることだろう。

 このゲームはクロスネットから出されているが、制作は「すたじお実験室」というチーム。
 「瞳裸」「黒瞳皇」そして同じ世界観を持つらしい「漂泊者の子守唄」(申し訳無い、これはまだ手に入れてないのでやってないのだ)は、その流れ行く時間がメーカー間を動くチーム自身を表現している様だ、といったら深読みし過ぎだろうか。
 今後も作品にこの世界観を用いるのか、興味がある。

 見せるゲームとしては十分な出来で、前作からレベルアップしているのだから、次は更なるオリジナリティを期待したい。
 でも、今回のような遊び過ぎの部分は抑えた方がいいだろう。

 余談になるが、「黒瞳皇」のアニメをTSUTAYAで発見して、思わず借りてみた。
 ゲーム中のセリフがほぼそのまま使われていて、それをイシルの声で話すため、まるで彼の体験告白記のようであった(笑)
 誰も男の告白なんて聞きたくないぞ。
 Hシーンは体の一部しか動かないし、話はゲームで言えば二日目までが終わっただけ。
 第一話と出ていたけど、一体何巻出すつもりなんだろう?
 ゲームの評価を落とすことにならなきゃいいんだがなぁ。

 今のHアニメは、当時もピンキリだったけど絶対「くりいむレモン」の時代より質が落ちてると思うぞ(怒)!
             

(Mr.Boo)

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