『宇宙刑事』シリーズ
『宇宙刑事』シリーズは、地球地区担当刑事を命じられた主人公がパートナーと共に母艦で地球にやってきて、その母艦と地球での仮の仕事場とを活動拠点にして、犯罪組織の計画・活動を察知し、それを叩き潰すというのが基本形になっている。 主人公は、母艦内で着用しているインナースーツを普段着の下に常に着込んでいて、変身コードを叫ぶことで、母艦から極微粒子に分解され電送された装甲服(コンバットスーツ)が、インナースーツの上で瞬時に再結合して装着される。 そして、怪人などに対しては、コンバットスーツに内蔵された剣や装備された銃などを使用して戦うのだ。 また、敵の戦闘機や戦艦に対抗するため、特殊バイク、戦闘機、地底用車両を持つほか、戦闘形態に変形した母艦を操って戦う。 また、『宇宙刑事』シリーズには、
小次郎は、各作品ごとに、たまたま主人公の知り合いになるという役どころだが、『シャリバン』12話で、マドーのマイフレンド作戦に見事に引っかかって宇宙人の存在を信じるに至った後、翌年の『宇宙刑事シャイダー』でも、宇宙人を見たとき「おー! マイフレンド!」と言っているなど、時間軸が繋がっていることを体現しているキャラクターでもあった。 余談だが、『時空戦士スピルバン』には、同じスタンスで、小山大五郎(こやま・だいごろう)というキャラが登場したものの途中退場している。 第1作である『ギャバン』は、バード星人で宇宙刑事の父:ボイサーと地球人の母:一条寺民子との間に生まれた混血児:ギャバン(刑事としてのコードネームであり本名でもある)が、父を捕らえ、地球に本拠を移した宇宙犯罪組織マクーと戦うため、超次元高速機ドルギランで地球に赴任するところから始まる。 ギャバンは、一条寺烈(いちじょうじ・れつ:これも本名)を名乗り、乗馬クラブで働きながら、ひとたびマクーの計画を察知すれば捜査に乗り出し、「蒸着!」の掛け声で戦闘形態であるコンバットスーツ姿になって戦い、これを叩き潰す。 コンバットスーツは銀色のグラニウム合金製で、右手からレーザーZビームを発射するほか、特殊サイドカー:サイバリアン、飛行戦車ギャビオン、地底戦車スクーパー、ドルギランの下半分が変形する竜型メカ:電子星獣ドルの各種メカを使用する。 必殺技はギャバン・ダイナミック。 第2作である『シャリバン』は本文で触れているとおり、シャリバンのコードネームを与えられた伊賀電(いが・でん)が宇宙犯罪組織マドーと戦う物語だ。 コンバットスーツは赤いソーラーメタル製で、「赤射!」の掛け声で装着され、右腰にビーム銃:クライムバスターを装備している。 特殊バイク:モトシャリアン、飛行戦車シャリンガータンク、地底戦車モグリランといった装備を持ち、超次元戦闘母艦グランドバースはバトルバースフォーメーションで人型ロボに変形する。 必殺技はシャリバン・クラッシュ。 第3作である『シャイダー』は、不思議界フーマの全宇宙総攻撃によって宇宙刑事が不足したため、訓練途中で地球担当として任務に就くことになった沢村大(さわむら・だい)が、シャイダーのコードネームでフーマと戦う物語だ。 実はフーマの首領クビライは、遥か昔地球で生まれた怪物であり、古代の戦士シャイダーに敗れて宇宙に追放された存在だった。 コム長官は、フーマを倒してほしいとの願いを込めて大に「シャイダー」のコードネームを送ったのだ。 最終決戦において、大が戦士シャイダーの血を引いていることが分かる。 「焼結!」の掛け声でプラズマブルーエネルギーが照射され、グラニウムα合金製の青いコンバットスーツ姿になる。 右腰にビデオビームガンを持つほか、レーザーブレードが伸縮自在のムチ状にもなる。 特殊バイク:ブルホークを駆り、飛行戦車シャイアンは分離して戦闘機スカイシャイアンと地底戦車ドリルシャイアンになる。 超次元戦闘母艦バビロスはバトルフォーメーションで人型ロボに、シューティングフォーメーションで巨大な銃に変形する。 必殺技はシャイダー・ブルーフラッシュ。 さて、こうして3作にわたって独自の世界観を作り上げた『宇宙刑事』シリーズだが、もちろん最初からシリーズ化することを前提に企画されたわけではない。 第1作である『ギャバン』が好評だったためにシリーズ化されたのだ。 『ギャバン』には、5つのエポックなポイントがある。 1つは、メカニックが充実していることだ。 ギャバンのメカ装備は、サイバリアン、ギャビオン、スクーパー、ドルギラン(電子星獣ドル)と、実に多い。 これまでの東映の単体ヒーローが車かバイクと飛行要塞しか持っていなかったことと比べると、その差は歴然だ。 これは、そのまま商品展開に反映できるという点で、企画上非常に有利な条件だった。 2つ目は、ECGシステムの協力によるビデオ合成の多用だ。 元々東映は、フィルムによる合成が非常に苦手で、光線描写などがチープになるという弱点を持っており、こういった点が東映トクサツの安っぽい印象に繋がっていたと思われる。 『新・仮面ライダー(俗に言うスカイライダー)』では、空を飛ぶシーンの合成をアメリカの業者に発注しているが、これはいくつかのシーンをバンク用として使うために発注したのであって、いつでも録り足しできるようなものではなかった。 スカイライダーがパワーアップして色が変わった後、空を飛ばなくなったのはそのためだ。 ところが、ECGシステムは、国内の業者で、しかも比較的安価かつ短時間でビデオ合成処理してくれるため、それまで東映トクサツが苦手としていた光学合成処理が綺麗にできるようになったのだ。 ギャバンの技であるレーザーZビームも、必殺技ギャバン・ダイナミックの根幹であるレーザーブレードも、これがあって初めて実現できたと言える。 余談だが、フィルム合成がブルーバック合成なのに対し、ビデオ合成では、グリーンバックも使用されている。 ブルーバック合成というは、合成元の背景の色を青にして、合成の段階で青い部分を自動で切り取って別の背景を合成する方法だ。 簡単に言うと、宇宙ステーションの脇を飛ぶウルトラマンを撮ろうとする場合、まず、青一色の背景板を用意して、ウルトラマンに青い台の上で飛ぶポーズをしてもらう。 次に、背景用の宇宙空間と宇宙ステーションを撮影する。 そして、ウルトラマンの背景の青い部分を切り取って、宇宙空間の背景の上に合成するわけだ。 非常に便利だが、フィルム合成では背景に青以外の色を使うことができないため、合成する物の中に青い部分があると、そこまで抜けてしまい、“ヒーローの身体の一部に背景が合成される”という間抜けなことになる。 先程の例で言うと、カラータイマーが光っていなくて真っ青だと、カラータイマーの部分まで宇宙空間になってしまう。 ビデオ合成では、ブルーバックとグリーンバックを選択できるため、この弊害がなくなった。 これにより、『シャイダー』では、青いヒーローという合成トクサツ系にはいなかったものが実現されたわけだ。 『ウルトラセブン』の初期デザインの体色は赤ではなく青だったのが、合成で抜けるために赤に変更されたというのはその筋では有名な話で、ウルトラシリーズで青系統の色が入るのは1996年放送の『ウルトラマンティガ』が初となっている。 ちなみに、『ウルトラマングレート』などビデオ合成系のウルトラシリーズでは目のパーツがそれまでの透明をやめて乳白色に塗られている。 これは、ビデオ合成では透明な部分が抜けやすいせいだ。 フィルムでは、透明な目の中で黄色く光っていればそれを“黄色”と感知してくれるが、ビデオ合成では、全てを像として感知するため、黄色い光が目のパーツ内部に当たった際の反射・発色を拾えなかった部分は黄色でなく“透明”として感知してしまう。 だから、透明だと,斜め顔で目の向こう側が何もないとき、目の部分にまで背景が合成されてしまうのだ。 どちらも一長一短である。 3つ目のポイントは魔空空間という異世界をバトルフィールドにしたことだ。 魔空空間は、ギャバンが怪人と本格的に戦いを開始する際、敵組織マクーが発生させる異空間で、怪人が普段の数倍の力を発揮できるという特性を持つ。 魔空空間の描写は、前述のビデオ合成の賜の1つであり、埼玉県寄居にある採石場でフィルター撮影した映像や、屋内のセットで撮影した画像に異世界の絵を合成した映像、バックが黒いセットに怪しげなオブジェを置きスモークを焚いて撮影した映像などをカットごとに使い分けるというものだった。 この設定により、バトルフィールドをころころ変えて画面展開に変化をつけられるようになり、しかも撮影日程的にもある程度融通が利くようになった。 というのも、この当時、火薬類に対する規制が強化されており、以前のように町中でバンバン爆発させられなくなっていたのだ。 元々『仮面ライダー』シリーズでは、造成地などを舞台に、怪人が派手に爆発するというかなり迫力のある死に方をさせており、これによって、“蹴られただけで死んでしまう”というある意味チープな部分を“凄い破壊力のキック”とイメージさせることに成功していたわけだ。 爆発には、「ナパーム」と「セメント」と呼ばれるものがある。 「ナパーム」は、袋詰めにしたガソリンを電気点火させる爆発で、大きな火の玉のような爆発が起こり、近くにいると燃えているガソリンが飛んできて火傷することもあるそうだ。 「セメント」は,火薬でセメントの粉などを吹き飛ばすもので、『仮面ライダーV3』の初期OPで有名な、大きな土煙が立つタイプの爆発だ。 スーパー戦隊シリーズでよくある色つきの爆発は、この「セメント」に色の付いた粉を混ぜるもので、「色粉爆発」などとも呼ばれる。 話を戻そう。 スーパー戦隊シリーズの初期の頃は、ちょっとした爆発なら大泉の撮影所の裏手や国鉄(現JR)の操車場などでもやっていたそうだが、時代が進むにつれて町中には家が建ち並び、下手に火薬やガソリンを使うと火事を起こす危険性が出てきてしまった。 そこで法律が改正され、町中で使える火薬の量などが非常に少量に制限されてしまい、町中でできる爆発は『西部警察』などでやっていた“ボンネットに弾が当たったときの火花”など、正に花火クラスになってしまった。 あまり知られていないことだが、後楽園遊園地の野外劇場(現スカイシアター)のショーでも、1回のショーで使える火薬の量・爆発回数などに制限があり、ここぞというところでしか火薬は使えないそうだ。 ともかく、この改正以降、東映では、ある程度大規模な爆発が必要なときは、前述の採石場を使わせてもらうようになった。 ここを使う上での欠点としては、周囲に何もないため現実感が薄くなるということだろうか。 ちなみに、崖などが爆破されて崩れてくるシーンなどは、本当に採石現場での発破を撮影させてもらっている。 東映トクサツヒーローのバトルフィールドは基本的に町の中なのだが、“魔空空間で自由に動くには、コンバットスーツを装着しなければならない”という付加設定のため、周囲に建物や人がいないことがむしろ自然であり、ギャバンと怪人という着ぐるみキャラだけで撮影できるから役者のスケジュール調整なども不要で、しかも屋内のセットも使えるから天候に左右されないという利点がある。 元々は、銀色の着ぐるみが光って屋外での撮影はライティングが難しいので、光を調節できる屋内での撮影を中心とするために設定したそうだが、思わぬ付加価値が付いてきたというところだろうか。 4つ目は、JAC(現在はJAEに名称変更)所属の所謂スタントマン(最近はスーツアクターと呼ぶのが一般的)を主役に据えたことだ。 一条寺烈を演じた大葉健二氏は、『人造人間キカイダー』のころから本名の高橋健二でトランポリンアクションなどで活躍していた古株のスタントマンだ。 『仮面ライダー』の頃から、大野剣友会などスタントマンの人がちょい役で出演することは多々あった。 スーパー戦隊でも、レッドのスーツアクターを長く演じた新堀和男氏が、敵の幻攻撃のドラキュラ役で出演したりといった具合で、“その場で調達しやすいエキストラ”的なスタンスで出演することは多い。 これらは、一般的に役名すら与えられないが、JAC所属役者がきちんと役名を貰ってレギュラー出演している例がいくつかある。 詳しくは本文で触れているが、その先鞭を付けたのが大葉氏が演じた『バトルフィーバーJ』のバトルケニア:曙四郎だった。 大葉氏は、翌年の『電子戦隊デンジマン』でもデンジブルー:青梅大五郎を演じていた。 また、『ギャバン』と同時期に放送されていた『大戦隊ゴーグルV』にも、同じくJACの春田純一氏がゴーグルブラック:黒田官平役で出演している。 だが、いずれにしてもそれらは5人の中の1人でしかない。 そんな中、単体ヒーロー番組『ギャバン』で、大葉氏を主役に抜擢したのだ。 これは瞠目に値する。 5つ目にして最大の特徴が、コンバットスーツという設定だ。 これは、黒いボディを銀色の装甲が覆うというメタリック感溢れるデザインによって、装甲強化服を明確に視覚化することに成功した。 手の甲はおろか指の先まで装甲で覆われ、肩・肘・膝・足首などの関節部には蛇腹をイメージさせる装甲が付いており、正に“全身を覆う鎧”という印象を与える。 特に、メッキ処理を施されたアップ用のコンバットスーツは、これまでのヒーローとは一線を画すイメージを体現していた。 今でこそ、仮面ライダーでも指先まで何らかの装甲で覆われているが、当時、大鉄人ワンセブンのような巨大ロボットならともかく、等身大のヒーローでは指まで装甲で覆われるということは非常に珍しかった。 何しろ、キカイダーやロボット刑事Kのようなロボットヒーローでさえ、指先は手袋だったり、手袋にテーピングしただけだったりしたのだ。 鷹羽が思いつく限り、『ギャバン』以前で指に装甲がある等身大ヒーローは、ザボーガーくらいだ。 また、ゴーグルの奥で目が光るというのも新機軸で、これにより表情(外見)に変化が付くようになったこと効果は大きく、要所要所で怒りの表情や、特殊能力の発現などのアクセントを付けていた。 そして、変身コードを「蒸着」という一見して変身のための言葉とは思えないものにしていることも斬新だった。 この「蒸着」というのは本来はメッキのための用語で、正式には「真空蒸着メッキ」といって、真空中に置いた対象物に蒸気化させた金属を吹き付けて薄く定着させるという技法だが、このイメージを、微粒子に分解されたコンバットスーツが母艦から電送されてくるという変身システムに持たせ、そのまま変身コードにしたのだ。 しかし、何よりも斬新だったのは、変身完了後、変身システムについてのナレーションと共に変身ポーズを見せるという変身シーンそのものだった。 これは、蒸着に要する時間を0.05秒という超短時間にしたことで、生身での戦闘中に「蒸着!」と叫ぶと、次の瞬間にはカットが変わってコンバットスーツ姿での戦闘シーンに切り替わるというもので、これまでの変身中はなぜか攻撃されないという疑問を解消するアイデアだった。 これにより、敵が攻撃を仕掛けた直後に変身して避ける・受け止めるという新たな演出が可能になったのだ。 これは、後に弾着変身と呼ばれ、“民間人などに向けて発砲された直後に駆けつけ、変身した自分の身体を楯にしてその相手を守る”という演出に昇華されることとなる。 そして、このときオミットされている変身ポーズは、名乗りの後に解説と共に挿入されるのだ。 「宇宙刑事ギャバンの蒸着タイムは、わずか0.05秒に過ぎない。では、そのプロセスをもう1度見てみよう」というナレーションと共に繰り広げられる変身シーンは、黒い背景で烈がポーズを取る中、光の粒が降り注いでギャバンの姿に変わるというもので、分解されたコンバットスーツが光の粒子となって降り注ぎ、烈の身体の周りで再結合する過程を説得力豊かに見せる効果があった。 また、変身の際に光に包まれるというのを転用して、「蒸着!」の声と共に白い光球になって移動し、ギャバンの姿が見えると同時に攻撃に入るなどの応用もされた。 これは、変身前のカットと変身後のカットが違うシーンでも自由に繋げる上、光球として合成するので、その間の分は烈の姿もギャバンの姿も撮影する必要がないという効果もあった。 これらの独創的な設定群は、コンバットスーツヒーローという新たなジャンルを生み出し、『宇宙刑事』3作の後『巨獣特捜ジャスピオン』『時空戦士スピルバン』と続く。 |