『お母ちゃんに逢いたい!』
(ストーリー)

 ある日、あいこの母:あつ子が美空市にやってきた。
 登校するあいこに声を掛けそびれたあつ子は、遅刻して通りかかった杉山に手紙を言付けるが、遅刻の罰として校庭を走らされた杉山は、手紙のことをすっかり忘れてしまい、午後6時近くになってようやく思い出し、MAHO堂に届けた。
 
 手紙には、5時まで美空駅で待っていると書かれており、あいこが駅に駆けつけたときには、もう母の姿はなかった。
 あいこは、それまで母が送り続けた100通以上の手紙を全て父:幸治が隠していたことを知り、「知ったらお前が苦しむことになる」と言う父に反発して家を飛び出し、どれみの家に泊まることになった。
 
 あいこの両親は、あいこが幼いころ1人で遊んでいて怪我をした時、父が母に仕事を辞めるよう頼んだのを母が断ったため、ケンカが絶えなくなって離婚したのだという。
 「お母ちゃんに逢いたい」と言うあいこに、どれみは大阪まで逢いに行くことを提案し、翌朝、ホウキに乗って大阪に向かう。
 そして、どれみの家を訪ねた幸治は、ぽっぷの言葉からあいこが大阪に行ったと気付く。
 
 あいこは、あつ子の勤める施設に辿り着くが、気後れしてとりあえず両親との思い出の場所にどれみ達を連れ回し、施設に戻ったときには既にあつ子は帰った後だった。
 
 あつ子の住むアパートを覗き込んだあいこは、赤ん坊を抱いているあつ子を見て、再婚したものと思い込んで立ち去り、迎えに来た幸治の車で東京へと帰る。
 実は、あつ子が抱いていた赤ん坊は、寝込んでいる隣人の子だったのだが。  
 
 
(ここがポイント)

実は、たまたまこの話を見たことが、鷹羽が『どれみ』を高く評価することになった主な理由になっていたりする。
 それまでも鷹羽は『無印』を見てはいたが、毎週欠かさず見ていたわけではなく、その時間に暇なら見るというレベルだったのだが、これ以降できるだけ見るようにするとスタンスが変わった。
 
 このエピソードには、大きなポイントが3つある。
 
1  登場人物の行動に全て理由がある
2  決して優しくはない現実を突きつけている
3  視聴者には、母の再婚はあいこの勘違いであることを伝えている
という3点だ。
 
 1の“行動に理由がある”というのは、例えば杉山があいこに手紙を渡すのを忘れていたことなどだ。
 
 あいこの両親が離婚しているということは、杉山は知らないことだから、小学生の彼にとってその手紙の重要さが理解できるわけもなく、むしろその日のうちにわざわざMAHO堂まで届けに行っただけ大したものだ。
 それまでの手紙を隠していた幸治にしても、あいこが母からの手紙を読むことで両親の板挟みになることが予想できるだけにやむを得ない対応だとも言える。
 事実、大阪まで行ったあいこが、あつ子に逢うことを躊躇して夕方まで先延ばしにしているのは、幸治の言葉の意味を理解したからだという描写もある。
 また、あいこが家出するに当たって貯金箱を持ち出すことで、「大阪に行ったんじゃないの」というぽっぷの言葉を聞いた幸治がそれを信じる下地が存在していることも大きい。
 
 
 2つめの“現実を突きつけている”というのは、年齢の割に大人なあいこがメインだからこそのものだ。
 
 鷹羽は、この話は、あいこに父と母、どちらを選ぶかという現実を改めて突きつけたものだと思っている。
 あいこは、両親の離婚に際して「お父ちゃん可哀想や」という理由で幸治の元で育つことになった。
 この時点で、あいこは母より父を選んだわけではなく、父を放っておけないから離れたくない=母と離れざるを得ないという枠にはまってしまっただけだ。
 
 ところが、このエピソードにおいて、あいこは再び父と母、どちらを選ぶかという選択肢を突きつけられてしまった。
 離婚以来あいこがあつ子に逢っていなかったということは、あつ子に「一緒にいたい」という意志が希薄だったと見ることができる。
 実際にそうだったかはともかく、逢わないままでいられたということは間違いない。
 
 だが、あつ子があいこに逢いたがり、実際に逢うということは、あいことあつ子の双方に「一緒にいたい」という意志があることを確認しあうことに他ならない。
 つまり、再び父と母があいこを奪い合うことになり、あいこは今度こそ自分の意志でどちらと一緒に住むかを、言い換えればどちらとならば一緒にいなくても構わないかを選ばなければならなくなるのだ。
 
 答を先延ばしにしたあいこは、赤ん坊を抱いた母の姿を見ることで、“母には母の人生がある”という冷たい現実を思い知ることになる。
 結果的には勘違いだったわけが、たしかにあつ子が誰かと再婚する可能性はあるわけで、現実にあつ子が再婚していてもちっともおかしくはなかったのだ。
 
 このとき、あいこが偉かったのは、母に逢いに行ったことを父には内緒にしたことだ。
 母に逢おうとしたことも、母が再婚したことも、言えば父が苦しむ元になる。
 そういうことを全て分かった上で、心配性の父が、母親のところに行ったと焦ってすっ飛んできたという笑い話にしてしまったのは、すごいことだったと思う。
 元々あいこは3人の中で一番大人なキャラなのだが、どれみ達に先に大泣きされてしまって泣けなくなったり、母のことを父に内緒にしたりと、その本領が発揮されていると言えるだろう。
 
 そして、忘れてはならないのが3の“視聴者には、あいこの勘違いであると伝えている”ことだ。
 
 これで本当にあつ子が再婚していたら、再婚して子供まで産んだくせに、わざわざあいこの家をかき乱しに来た悪役になってしまうところだが、視聴者は、あつ子が本当に我が子に逢いたかっただけだと知っている。
 これがなければ、あいこサーガは生まれなかっただろう。