『仮面ライダーアギト』評論
第2回
先日、東映のアギト公式HPに『ある雑誌に“スペシャルと劇場版はパラレルワールド”との情報が載っているが、それは公式設定に基づくものではないので注意してほしい』旨の文章が載っていた。
「それじゃあパラレルじゃないの?」という当然の疑問には応えることなく、この文章は既にHP上から消えている。
この文章が言わんとしているのが
1 確かにパラレルワールドだけど、あの雑誌に書いてあるのを鵜呑みにしちゃ駄目
2 パラレルワールドじゃない
のどちらかなのかがはっきりしなくてイライラする。
まぁ、鷹羽的にはパラレルワールドということで結論は出ているのだけど。
で、なんでこんな問題が出るかと言うと、『アギト』の番組中では日付感覚が薄いからってことになる。
この辺を掘り返すと結構凄いことになっているので、今回はその辺について突っ込んでみたいと思う。
題して
『アギト』は、毎回のサブタイトルを付けない(一応新聞等の見出し用のタイトルはあるが)ことからも分かるように、物語の連続性を非常に大切にしている。
常に前回の引きのシーンから次が始まるわけで、話と話の間に隙間がない。
各話の中で数日が経つことはあるが、それとて1週間も経つことはまずない。
これは、『機甲界ガリアン』で使われていた手法に似ている。
『ガリアン』では、戦闘シーンの途中で終了することが多く、翌週は
その戦闘シーンの決着→次の話へのインターバル→次の話→戦闘
という形でまた次回に続く。
言ってみれば、“起承転結”ではなく“結起承転”という構成だ。
これは、視聴者の興味を惹くためには非常に有効な手段だが、反面リアルタイムの季節感を損なうという欠点を持つ。
『ガリアン』の場合、異世界である惑星アーストを舞台にしているために季節感を考える必要がないからできることでもある。
この点、日本を舞台にすると、やはり日本の年中行事を無視するわけにはいかないようだ。
どだい1週間=7日分の出来事を1回で表現するのは無理があるのだから、1話完結方式か、せいぜい2話完結方式くらいでないと現実時間との間に開きが生まれてしまうのは仕方がないのだ。
そして、ある程度ボリュームのあるエピソードを描こうとすれば、必然的に2週では足りず、連続モノにならざるを得ない。
週刊連載のマンガでは特にその傾向が顕著で、鷹羽は、格闘系で季節感のあるマンガを見た覚えがない。
『ドラゴンボール(作:鳥山明)』『聖闘士星矢(作:車田正美)』など、試合(戦い)とインターバルの連続で、季節感もなにもありゃしない。
『ドカベン(作:水島新二)』も似たようなもので、春の甲子園、夏の地区予選、夏の甲子園、秋の地区大会の連続にページのほとんど費やしている。
野球マンガだから、野球をしている部分以外はあまり必要ないのだ。
途中から野球マンガ化した『タッチ(作:あだち充)』では、終盤の山場である明青学園対須見工の地区予選決勝に数か月を費やし、試合終了の際には試合を中継していたテレビ局のアナウンサーが『熱闘○か月!』と言っている。
これは、現在のワイドコミック版では削られているようなので確認できないのだが、鷹羽の記憶ではこの試合の時にこのアナウンスが飛び出しているはずだ。
『タッチ』では、このほかにも、現実時間が冬になってしまったころ、街を歩いている2人連れが「暑いなぁ」「忘れるなよ。今は夏なんだぜ」と会話しているシーンが挿入されていたりする。
これも、試合が長くなりすぎて現実時間とずれていることへのエクスキューズと言える。
ともかく、試合や戦いなどに主眼を置くマンガでは、それ以外のシーンをオミットすることができるので、現実時間とのズレを気にする必要はあまりない。
だが、これが学園モノとなるとそうもいかず、作者はある程度連続したストーリー展開と季節感の板挟みになってしまう。
結局、イベントとイベントの間の日常生活描写をオミットして時間を経過させざるを得ないため、常に何らかの事件が起きていることになる。
学園コメディである『究極超人あ〜る(作:ゆうきまさみ)』では、夏休み・修学旅行・文化祭と矢継ぎ早に続く学校イベントの嵐に、キャラクターが「この前修学旅行に行ったばかりじゃなかったっけ?」と言い、それに対して作者がコマの隙間から「学校系の行事はできる限りフォローしとくの!」と突っ込みを入れたりしている。
では、アニメの場合はどうだろう。
『マジンガーZ』では、明確には語られていないが、序盤(飛行要塞グール登場以前)は、日本〜バードス島(地中海)間を海底要塞サルードで往復するのに約1週間かかっていたので、敵は1回撃退された後は1週間ほど攻めてこない。
つまり、1話完結形式で事件が起きるタイミングとしてはちょうど良かったわけだ。
これが『機動戦士ガンダム』になると、毎回がほぼ前回の続きから始まることとなり、現実時間に比べてゆっくりとした流れになる。
実際『ガンダム』は、一年戦争の開戦9か月後から終戦までの約3か月間の物語だが、放映期間は3クール以上、つまり9か月以上掛かっている。
『ガンダム』の場合も、世界各地を転々としていたり、宇宙で戦ったりしていたので季節感を気にせずに済んでいたのだ。
やはり、毎週放送(連載)となると、前述の『マジンガーZ』のように、週に1回くらいしか敵が攻めてこないという前提で、敵との戦いだけを描くのが一番やりやすいということになる。
つまり、一話完結方式だ。
トクサツでも、例えば『未来戦隊タイムレンジャー』では、各話(case file)の間に約1週間の隙間がある。
前後編になると、後編での日付は前編と同じかその翌日くらいになるが、その分次の話では2週間経っている。
『タイムレンジャー』の場合、Gゾードを倒した回でクリスマスイブ(12/24放送)、翌週(12/31放送)は大晦日の年越しネタと、実にうまい具合に現実時間とリンクさせていた。
番組内時間が表示されるかどうかは別として、大抵のヒーロー物はこういった方式を取っている。
この方式に敢えて異を唱えたのが前作『クウガ』や今回の『アギト』と言えるだろう。
『クウガ』は2話連続方式を採用し、それぞれのエピソードの間を短期間にすることで連続性を高めている。
EPISODE38『変転』で出てくる桜井刑事の手帳を見ると、未確認生命体はほぼ2〜4日おきくらいに出現してはクウガに倒されていることが分かる。
当然このままでは放送日と番組内時間との間に開きができてしまう。
実際、EPISODE6『青龍』(3/5放送)では番組内時間はまだ2/4だったりして、この時点で1か月の開きが出ている。
そこで『クウガ』の場合、未確認生命体が番号で呼ばれていることを利用して、時間を飛ばした。
つまり、EPISODE7『傷心』(3/12放送)で一気に番組内時間を2/24まで進め、その間に出現した7号から13号の描写を省略してしまったのだ。
そして、『未確認生命体対策本部が発足してから3週間』という一言で時間の経過を説明してしまった。
これにより、ゲゲルをしてクウガに倒されたのに画面に全く登場しない怪人が多く存在することとなり、テレビに登場したズの怪人でゲゲルをしたのは、6号(ズ・バヅー・バ)だけだったりする。
後半は、未確認生命体とクウガの関連といった謎の部分に触れたりしてより連続性を高めたため、怪人の登場の間を開けるようになってくるが、終わってみれば0号から47号までの47体(2号・4号はクウガなので除く。11号は2体いる)の怪人体のうち、てれびくん全プレビデオの40号を含めても画面に登場したのは半分の24体に過ぎないという妙なことになってしまった。
なんと半分しか登場していないのだ。
まぁ実際のところ、時間の経過についての説明はたった一言だったりすることが多く、余程注意深く見ていないと見落とすような描写だったわけで手放しで褒めるわけにはいかないのだが、連続ものでありながらなんとかリアルタイムの番組であろうとし続けた『クウガ』スタッフの努力は、やはり特筆に値するだろう。
『アギト』の場合はどうか。
アギトでは、はっきりと日付が出ることが少ないが、それでも何度か日付が登場している。
1話『戦士の覚醒』(1/28放送)では、劇中時間は1/21(最初の被害者:佐伯信彦が死ぬ前日に撮った写真の日付が1/20)だ。
そして、2話『青の嵐』(2/4放送)で氷川の携帯に『2001/1/30』の文字がある。
これのお陰で『クウガ』との繋がりがどうなのかという問題が起こったのは有名な話だ。
8話『赤い炎の剣』(3/18放送)では、『風谷伸幸の命日が過ぎたばかり』という描写があるので、3/10を少し過ぎたくらいと思われる。
9話『2人のG3』(3/25放送)では、三浦智子と翔一の待ち合わせが3/25のPM1:00だったことが語られている。
この8話と9話の間には、G3の北條用への調整や北條の訓練期間が置かれているはずなので、2週間くらい経っていても不思議はない。
そしてこの後、30話『隠された力』(8/26放送)での花火大会(8/24)まで日付が出てこない。
ただ、翔一・青年の逮捕の時間関係等である程度の推測がきく。
3/25に逮捕された翔一は、翌日(3/26)に送検されることなく釈放され、それと入れ替わりに青年が逮捕されたわけだが、13話『父の手掛かり』(4/22放送)で河野が氷川に青年が措置入院となったことを教えている。
法律上、送検は逮捕から72時間以内、送検後身柄を拘束できる期間は20日(正確には24時間以内に勾留し、その日を初日として20日間)だから、普通なら3/26から22日後、つまり4/16には起訴するかしないか決定されることになる。
青年は精神鑑定されて不起訴となり、遅くとも4/17には精神病院に入院していた。
河野がそのことを氷川に教えているということは、入院して数日経っているはずだが、一方でこの日はレイウルス・アクティアを倒す前の日で、しかも真魚の誕生日の前々日だから、真魚の誕生日が分かればこの日が特定できることになるが、計算上は4/18ころということになる。
ここまではかなり現実時間に則した日付になっているが、これから物語の密度が濃くなるに従って現実時間とのズレが大きくなっていくのだ。
榊亜紀は、アギト捕獲作戦で涼が死んだと早合点して姿を消した後、翔一にアパートの鍵を郵送している(18話『新しいボス』5/27放送)わけだが、このときの消印が4月中だから、この時点で1か月のズレがある。
この後しばらく日付が出ないまま続いて、8/24に沢木が真魚の治癒能力を目覚めさせている(30話『隠された力』8/26放送)。
次に日付が登場するのは、なんと10/14(37話『暗闇の戦士』10/14放送)だ。
涼がアナザーアギトのキックを受けて病院に運ばれた際のレントゲン写真には『10月14日撮影』の文字がある。
これ以後45話『奪われた力』(12/16放送)まで日付描写は出ていないが、日数経過を考えると、この段階で番組内時間は10/18のようだ。
つまり、12/16現在で2か月近く遅れているということになる。
それだけでも結構凄いことなのだが、『アギト』の場合、時間の経過がかなり無茶だから、よく考えるととんでもないことになっている。
『クウガ』では特筆すべき事件のない時をすっ飛ばすことで現実時間に追いつけたが、主人公が3人もいる『アギト』では、ほかの2人に何もなくても、もう1人には何か起きていることが多く、描写を途切れさせることができないからだ。
例えば、アギト捕獲作戦で散々撃たれた涼が亜紀のアパートに到着して翔一に看病されるまでの間に、亜紀から翔一にアパートの鍵が郵送されてきて、司龍二による花村久志殺害事件が起きているが、鷹羽の計算によれば、この間は6〜7日後だ。
つまり、涼が亜紀のアパートに向かって倒れながら歩いていくのに6〜7日掛かったということになる。
涼のことさえなければ、この間に2週間くらい経っていてもおかしくないのだが、状況から考えてほとんど飲まず食わずで歩いているであろう涼が、1週間近く生きていることでさえ驚異的なのに、それ以上の期間フラフラ歩いているというのは、やはり違和感が拭いきれない。
翔一もあかつき号から海に落ちて2週間漂っていたから、変身能力を身に付けることで肉体の耐久性や生命力が強くなっている可能性は否定できないが、この当時の涼は変身しただけで生命力を失っていくのだから、同列に論じるわけにはいかない。
また、比較的時間の掛かりそうなG3大破からG3-X完成までの時間も、アピス・メリトゥスの暴走期間と重なっているため、さほど長かったとは思えない。
アピスが普通の人間を殺している状態は、アンノウンの行動としてかなりとんでもないことであり、しかもあまり長いと、その間にアギトに倒されてしまう。
実際、暴走したG3-Xがメリトゥスの前に到着したとき、既にアギトはメリトゥスと戦闘中で、倒すのも時間の問題という感じだった。
ちなみに、このとき涼は、G3とアギトを相手に大暴れした後遺症で寝込んでいる。
困ったことに、その後も真魚の家出騒ぎの間中ずっと涼が川に浮かんでいたりするため、あまり時間が進まないのだ。
話を分かりやすくするため、『アギト』の番組内時間と現実時間の一覧表を作ってみた。
番組内ではっきりと日付が出た後は、『予想される日付』もそれに準拠して作り、これは今後も順次修正していく予定。
ついでなので、劇場版を紺色、スペシャルを紫色で挿入してみた。
様々な条件から、ここにしか入らないという部分を選んで無理矢理挿入してみたのだが、やはり結論はパラレルワールドということで落ち着かざるを得ないようだ。
なお、この一覧表では、雪菜の自殺を1999年4月ころとしているが、これは翔一が雪菜と最後に会ったのは風谷教授が殺された日の朝ということによっている。
実はこれは、27話『涼、死す…』で翔一が話した「姉が自殺するちょっと前に海水浴に行った」という話に抵触する。
半年も前、しかも前年のことを『ちょっと前』などとと言うのはおかしいし、雪菜の死後1年半にわたって翔一が1人暮らしをしていた上に専門学校の学費を自分で稼いでいた(或いは貯金を食いつぶしていたか)ということや、1年半も経ってから『津上翔一様』の封筒を見付けたことも理解に苦しむのだが、あの朝以来会ってないのに海水浴に行けるわけがないので、仕方なくそうしたことをお断りしておく。
実は、28話『あの夏の日…』(8/12放送)でのエキヌス・ファメリカーレとギルスの戦いも、涼が死ぬ数週間前ということになっているが、この計算で行くとそんなことはあり得ないことが分かる。
というのは、この回に登場する浅野一輝は、翔一がパン屋をやっていたころの常連客だったというセリフがあるのだが、翔一が美杉家に戻るのは亜紀が死んだ後のことだ。
そして、亜紀が死んだ日にG3は大破し、G3-X完成と同時に翔一は記憶を取り戻して2〜3日後には再び記憶喪失になり、同じ日に涼は死んでいる。
つまり、28話を挿入できる場所は、G3大破からG3-X完成までの間しか考えられないのだが、前述の理由でG3-Xは僅かの間に完成(AI制御)していなければおかしい。
一覧表に緑色文字で示したとおり、この辺りにしか挿入のしようがない。
すると6/3〜6/7ころということになり、涼が溺死したのが6/14のはずだから、10日前がいいところだ。
数週間どころか、2週間も経っているはずはないのだ。
こういった時間的矛盾は『アギト』にはよく見られる。
どうしてか?
マンガやアニメと違い、実写である『アギト』では、冬に真夏の物語をやるのは結構辛い。
撮影の方はどうにでもなるが、放映時の季節と齟齬するような実写物は、見る側にとって違和感がつきまとうからだ。
1年続くテレビシリーズとしては、やはりその辺を気にせざるを得ないのだろう。
以前鷹羽は、35話『謎の救世主』(9/30放送)のレビューで、展開上9/1くらいのはずなのに突然衣替えしてしまったことについて
…衣替えって9/1からだったっけ?
とコメントしているのだが、実はこの原稿を書いている最中に、夏服への衣替えが19話『解散決定?』(6/4放送)からだったことに気付いた。
この話は、司龍二の前後編の後編に当たる。
前編である18話『新しいボス』(5/27放送)とは、内容的に繋がっており、しかも時間的には翌日から翌々日までの話なのに、だ。
ここから考えると、
放送日が6月に入るから衣替えさせちゃえ!
とやったような気がしてならない。
となると、35話で冬服に衣替えしたのも
放送日が9/30で、翌日から世間が衣替えになるから
だったと考える方が自然だ。
ならば、ある仮説が成り立つ。
つまり
『アギト』は全て連続した話だが、番組内時間は現実時間に準拠している
ということだ。
そして、番組中ではっきりと出た日付は、この説で説明できてしまう。
1/28放送で1/21の佐伯信彦死亡
2/4放送で1/30の佐伯夫婦死亡
3/25放送で3/25の三浦智子死亡
6/3放送で6/1からの衣替え
8/26放送で8/24の花火大会
9/30放送で10/1からの衣替え
10/14放送で10/14撮影のレントゲン写真
と、見事に放送日前後の出来事ばかりだ。
唯一ずれているのが
5/27放送の亜紀からの封筒(消印が4月)
だけだから、この仮説はほぼ間違いないと言えるだろう。
これなら、G3大破(7/1放送)から涼が死ぬ(8/5放送)までに約5週間あるから、数週間前という表現ができる。
小沢が半袖だった日から3日後なのに10/14になっているのも納得だ。
そうか、たとえストーリー上は同じ日でも、放送日が変わると違う日になるんだね。
なぁんだ、解決じゃん♪
…番組制作の態度として、何か間違っちゃいませんか?