『仮面ライダーアギトスペシャル』
新たなる変身

2001/10/1放映

(Story)

 白昼のオフィスで1人の男が灰になった。
 回りには火の気もなく、着ていた服に異変がないことから、アンノウンによる不可能犯罪と断定され、被害者(むらの・すすむ)の弟に護衛が付くことになった。
 そして、捜査会議の席上での北條のG3-Xだけでは戦力不足である旨の主張に対し、上層部はG3の改良型であるG3・MILDの量産を検討することになり、試作型の装着員を警視庁内で募集した。
 尾室はG3・MILDの装着員に立候補することにする。

 そんなとき、刑事が護衛していた被害者の弟がカブトムシ怪人(スカラベウス・フォルティス)に殺された。
 駆け付けたG3-Xとアギトによってスカラベウスは逃走したが、アギトの紋章キックもG3-XのGX-05ランチャーモードもスカラベウスには効かなかった。

 その戦いの帰り道、翔一は心理学者で精神科医の国枝東に出会い、美杉邸に連れてきた。
 国枝は、翔一が記憶喪失で発見された後入院していた際の担当医であり、翔一が美杉教授に引き取られるに当たって橋渡しをした人物だった。
 珍しく酒を飲んだ美杉教授が酔いつぶれたあと、国枝と話していた翔一は、スカラベウスの出現を察知し、駆けだした。
 後を追ってきた国枝は、スカラベウスに締め上げられた翔一がバーニングフォームに変身する姿を見て、息子の広樹を思い出した。
 スカラベウスはバーニングフォームとも互角に戦い、アギトを殴り飛ばして消えた。
 敵を見失ったアギトは、見境をなくして近くにいた国枝を襲う。
 国枝の「翔一!」という声で我に返ったアギトは変身を解き、そのまま意識を失った。

 翌朝、夕べの被害者が発見された。
 北條は河野に、アンノウンを人間と見立ててプロファイリングすれば、その行動の先回りができるのではないかと言い、河野に知り合いの心理学者を紹介された。
 そのころ、意識を取り戻した翔一は、完全に制御していたつもりのアギトの能力を制御できずに国枝を襲ったことでショックを受けていた。
 北條は、紹介された美杉教授の家を訪ね、そこが津上翔一の家だと知って驚く。
 さらに、家の中から聞こえてきた翔一と国枝の会話から、翔一がアギトであることを知った北條は、翔一を捕獲してアギトの能力を研究しようと考える。
 翔一は、すっかり元気をなくしてしまい
    ピーマンの肥料を買ってくる
と言い残して出て行ってしまった。
 そして、真魚はそれを嘘と見抜いて涼に探して欲しいと頼みに行った。
 一度は断ろうとした涼だったが、「ピーマンの肥料を買ってくる」という翔一の言葉が嘘だと感じた真魚の直感を信じ
   俺の知っているあいつは、余程じゃなかったら嘘をつけるような奴じゃない
   特に君にはな

と探しに行くことを了承した。

 散々探し回って翔一を見付けた国枝は
   お前は自分に押し潰されそうになってるんだ
と言って、背を向けた翔一を殴り倒す。
 翔一が逃げる気をなくすまで殴りまくった国枝は、翔一に広樹の話を始めた。
 半年ほど前に死んだ広樹は、死ぬ少し前にアギトに変わり始めていたという。
 それに心が耐えられなくなった広樹は
   父さん、俺、俺でなくなっちゃうよ
   俺、死ぬよ。俺が俺でなくなる前に

と言い残して飛び降り自殺した。
 国枝は、広樹がアギトに負けたのだと言い、翔一に
   お前はアギトに負けるな
と励ます。
   空はいつだって空だ
   晴れてても雲ってても、雲の上は変わらん。ホントはな
   だけど、おんなじ空なら晴れてる方がいい

という国枝の言葉に、記憶を失ったばかりのころに空を見て「生きてるっていい」と思ったことを思い出した翔一は
   俺、一からやり直してみます
と元気を取り戻すのだった。

 その頃、次に狙われるであろう少女がスカラベウスに襲われ、必死に応戦する護衛の刑事にスカラベウスが迫る。
 その気配を察知した翔一は、その場所へと急ぐが、途中、北條のパトカーに道をふさがれた。
 北條は
   一緒に来てくれませんか
   津上翔一、いや、アギト

と言い、翔一をパトカーに乗せて連行する。
 そんな翔一を見付けた涼は、パトカーの進路を妨害して翔一を逃がした。
 そして、北條の顔を見て
   お前か…!
   一度お前を殴りたいと思ってたんだ

とぶん殴り、翔一の後を追った。

 一方、スカラベウス出現の報を受けた警視庁でもG3-X、G3・MILDが出動したが、初陣に興奮したG3・MILDが先行しすぎ、スカラベウスに一撃で吹き飛ばされて失神してしまった。
 遅れて到着したG3-Xも、モーニングスターと盾で武装したスカラベウスに苦戦し、バッテリーを消耗しきってピンチに陥る。
 意識を取り戻した尾室がG3-Xのバッテリーパックを自分のものと交換したお陰でG3-Xの出力は回復したものの、やはりスカラベウスに苦戦を強いられる。
 そこに到着した涼と翔一が、それぞれギルス、アギトに変身し、3人で共に戦う。
 それでも敵わず弾き飛ばされたアギトが空を仰ぐと、装甲がひび割れ、シャイニングモードの姿が現れた。
 再びスカラベウスに挑むアギトは、今度は圧倒的な勢いでスカラベウスを追い詰め、シャイニングカリバー・ツインモードで切り裂いて勝利を収めた。

 その後、尾室は役に立てなかったことに落ち込んでいた。
 だが、氷川も小沢も尾室はよくやったと慰める。
 そして、尾室の
   小沢さん、アンノウンはますます強くなってますよ
   G3-Xでも対抗できないくらいです
   もしかしたら、もっと強いシステムが必要になるんじゃ…

という言葉に、小沢の表情は曇った。
 その夜、小沢は1人Gトレーラーの中で、G4の設計図を見つめながら
   G3-X以上のシステム…
   でも、これを世に出すわけにはいかないわ

とつぶやいてコンピュータを待機状態にし、G3ルームを出ていった。
 そして、それと入れ替わりにGトレーラーに忍び込み、G4の設計図を見つめる女の姿が…。


(傾向と対策)

 大雑把に言って、目的は果たした特番だったと思う。

 このスペシャルの目的は、『仮面ライダーアギト』を知らない人にアギトを見てもらい、そのまま本編の方に牽引したいということと、ラストでG3-X以上の能力を持ちながら“世に出すわけにはいかない”G4システムと、それを狙う謎の女の影を出すことで、劇場版への興味を惹こうというものだ。
 そういうわけで、この特番は、主に3種類の視聴者層をターゲットにしている。
 つまり
   1 本編をほとんど見たことのない昔の子供達
   2 本編も劇場版も見ている視聴者
   3 本編は見ているが劇場版を見ていない視聴者

で、最後にG4の設計図が出たのが3の視聴者対策と言える。
 だが、スタッフが一番気にしなければならないのは、当然1の普段見ていない人達だ。
 うまくしてレギュラーで見てくれることになれば、視聴率やら商品販売やらに良い影響を与えるのだから。
 そのためには、『アギト』世界の非常に複雑な構成を、受け入れやすいように描写する必要がある。
 冒頭で『仮面ライダー』の文字までついたアギトらの説明を入れたり、番組中でも登場人物に字幕で名前を入れたりして、レギュラーキャラクターの多い『アギト』という番組に親しみやすいようしているわけだ。
 また、戦闘シーンに流れる曲(ED)をロック調の『DEEP BREATH』ではなく、“いかにもヒーロー物”な初代ED『BELIEVE YOURSELF』にしているのもそのためだ。
 被害者やその親族の名前すらロクに出てこない(被害者の名前が1回呼ばれただけ)のに、灰になって崩れていく死に方の描写やその親族の護衛状況、G3-Xの発進シークエンスとGトレーラーでのモニター状況がきちんと描かれていたりするのもそうだ。
 また、話をややこしくするあかつき号関連や真魚の超能力の話には全く触れずに、アギト(バーニングフォーム)に振り回される翔一とその克服という部分に話を集中するなど、分かりやすい構成に腐心している。

 反面、レギュラー視聴者に対するサービスも怠っておらず、G3-XとG3・MILDとのガードチェイサー併走やG3-Xのバッテリーパック交換、G3-X初のGG-02使用、涼と翔一が並んで現場に到着し、連続で変身して戦うなど、本編どころか劇場版でも見せたことのない“燃える”展開を見せる。
 また、翔一が元気を取り戻したきっかけが“空が綺麗だと思ったこと”だという話が出たり、涼が北條を殴って「一度お前を殴りたいと思っていたんだ」と言うなど、本編を見ていればこその展開も忘れない。
 翔一が元気になったきっかけについては以前本編で触れているし、涼のセリフは、アギト捕獲作戦のときに北條が指揮する警官隊に散々撃たれたことに対する恨みだ。
 また、細かいところだが、美杉教授が普段酒を飲まない人だという設定の裏側として、美杉は非常に酒癖が悪いという風にもってきている。
 これにより、23話『資格ある者』で、翔一が小沢に言った「うち、お酒飲む人いませんから」という些細な一言が生きてくる。
 ほとんどの視聴者が忘れていそうなセリフだが、きっちりオチがついてしまった。

 同様に、河野が北條に「昔の事件繋がりでな…」と美杉教授を紹介しているわけだが、これは風谷伸幸殺害事件の絡みで美杉と知り合ったことを示唆している。
 念のため書いておくと、風谷が死の直前に喫茶店ラビットで誰かと口論しており、その当日にしか配っていない特製マグカップが美杉邸にあったことから、視聴者の間には美杉が怪しいという説も結構多かった。
 警察は、被害者の義弟である美杉をちゃんと調べていた。
 もちろん容疑者として調べたわけではなかろうが、それでも事件当日の美杉の行動くらいは裏を取っているだろうから、今更ながらだが、美杉が風谷伸幸を殺した可能性はゼロと言ってよかろう。
 あのコツコツタイプの河野のことだから、ラビットで美杉の写真くらい見せているはずだ。
 その辺の部分が果たして今後描かれるかどうかは難しいところだが、今回チラッと出てきたところをみると、脚本家に忘れられているわけでもなさそうだ。

 そして、レギュラー視聴者・一見さん双方のバランスを取るため、本編の展開とはひと味違う部分を描写して、両者の知識量の差が影響しないよう構成している。
 美杉教授が翔一を引き取る橋渡しをした人物:国枝東を中心に描いたことによって、本来アンノウンの事件とは全く関係なく、しかも初登場のキャラクターである国枝の目を通して普段とは違うアプローチをしている。
 翔一が「あれ、アギトって言うんです」と説明しているところを見ると、どうやら「アギト」という名前は世間には浸透していないらしいが、これはレギュラー視聴者にもよく判っていなかった部分だ。
 また、広樹のアギト化は、普通の人もアギト化する可能性があるということの傍証であり、投身自殺したことは、翔一の姉:雪菜の自殺とオーバーラップする。
 つまり、レギュラー視聴者には、雪菜も広樹と同じように変わりゆく自分の姿・制御しきれないアギトの力に絶望して自殺したのではないかと思えるわけだ。
 だが、知らない人に対しても「え? 普通の人間もアギトになるのか?」という疑問を提示することはできる。
 こうして、知らないことが理解できないことと直結しないようにしているわけだ。

 国枝は、どうやら息子広樹を失ったショックから抜け出しきれないため、ひたすら前向きで明るい翔一の様子を見て自分も元気になろうと思って美杉を訪ねてきたようだ。
 だが、息子と同様にアギト化して沈んでしまった翔一を見たくないから帰ろうとし、それでもアギト化することに苦しんでいた広樹を救えなかった分、翔一を救おうと考えて戻ってきた。
 翔一に向かって言った「おんなじ空なら晴れてる方がいい」という言葉は、自分にも向けていたのだろう。

 テレビ初登場となったシャイニングフォームは、光の残像を残したパンチやキックなど、単純ながら非常に効果的な演出で眩しい空の化身として魅せている。
 せっかくだからスカラベウスの盾を真っ二つに斬って欲しかったというのは贅沢だろうかと思えるほどの演出だった。
 だが、ふと考えてみると、シャイニングに初めて変身したという感慨はあまり湧かない。
 というのも、まるで変身できることが分かっていたかのように戦い始めてしまうからだ。
 また、本編でも劇場版でもスペシャルでもあまりにも当たり前のようにバーニングフォームに変身してしまい、なんだか拍子抜けしてしまう。
 まぁ、劇場版やらスペシャルやらあるから、敢えてどれが最初かという部分をぼかしたのかもしれないが、新しいフォームだという印象が弱いのだ。
 一応、テレビ本編での真魚の弁当を食べた後にバーニングフォームになったのが正当な流れなのだろうが、あれにしても最初から変身ポーズが普段と違っており、今までと違う姿になることを承知の上で変身していたようにしか感じられなかった。
 以前に変身ポーズが1回変わっているから、またポーズを変えただけという見方もできることはできるが、やはり姿が変わったことについて翔一が何も感慨を持たないせいか、新鮮味に欠けてしまう。
 本来なら一大イベントであるはずの強化変身が、当たり前のように受け止められてしまうのは勿体ない気がする。
 もうちょっと驚いても良さそうなもんだけどな〜、特に氷川が。

 それと、変に中途半端なところがあるのも欠点と言えるだろう。
 アギトばかりでなく各登場人物の名前に至るまで字幕で説明しておきながら、その相関関係は全くと言っていいほど説明されない。
 説明は、前述のとおり、ちょっとした会話の中で触れられる程度であって、初めて見た人、つまりアギトがもの凄くややこしいストーリーであるという覚悟をせずに見た人には、非常に不親切な作りだ。
 これしか見ていない人が本編を見ると、訳の分からない展開に度肝を抜かれるかもしれない。
 また、既にギルスの変身副作用はなくなっているのに、冒頭でのギルスの説明では「変身するとダメージを受ける」などと説明しており、現状の解説としてはおかしな点もある。
 スペシャルで初めて『アギト』を見た人は、やはりあの後涼が倒れるものと思っただろう。

 これは、初めて見る人にも分かりやすい展開をしようとした部分と、ずっと見ていた視聴者へのサービスの部分とが混在しているが故の中途半端なのだ。
 そして、番組改編期の特番として作られたことによって、時期的に中途半端にならざるを得なくなった。
 このスペシャルが放送された10/1現在、本編はまだ10/1(前日まで小沢達は夏用制服を着ていた)の夜で、木野がアギトに変身したところだ。
 10/7放送の36話『4人目の男』は、その日付を受け継ぐわけだから、当然10/1から始まることになる。
 スペシャルでは最初から小沢達が冬制服を着ているから、確実に36話以降の物語ということになる
 例えば北條は、本編ではあかつき号乗客とアンノウンに何らかの繋がりがあるという手掛かりを掴んで動き回っている最中だ。
 もしアギトの正体が翔一だと分かれば、さすがにアギト捕獲作戦Part2くらい計画してもおかしくないが、いきなりプロファイリングでアンノウンの次の狙いを探そうなどという素っ頓狂な作戦を立てている暇などない。
 つまり、北條がアンノウンの被害者を調べてあかつき号関連の情報を一通り手に入れてしまうまでは、プロファイリングに手を出す余裕もないわけで、本編中で北條の行動に区切りがつくまではこのネタが入り込む隙間はない。
 これはやはり、連続性の非常に高い『アギト』ならではの問題点だろう。
 だから、今回北條が、アギトの正体が翔一だと知ったり、涼に殴られたりしたことについては、少なくとも当分は気にする必要はないだろう。
 必要なら本編でまた触れるはずだ。
 もっとも『アギト』のことだから、忘れたころに「涼に殴られた」とか、「翔一がアギトだと思ったのに」とかいうネタが当たり前のように振られてしまうかもしれないが。

 なお、番組ラストで、Gトレーラー内に入ってG4の設計図を見つめる女が登場するが、鷹羽的には、そこだけ宣伝用オマケ映像としてカット、という解釈を取りたい。
 この女が劇場版に登場の深海理沙だとすると、劇場版と話が繋がらない。
 なぜなら、劇場版を見れば分かることだが、深海がG4のデータを盗んだのは夏服シーズンだったのだ。
 こっそりと何度も足を運んでG4のデータを盗んでも悪いとは言わないが、それってとってもマヌケだと思う。
 どんな大容量のデータか知らないが、そんなに何度も足を運ぶほどのものではあるまい。
 もちろん、あの女が深海とは別人で、Gトレーラーのコンピュータのパスワードを知っているG4ふぇちという可能性もゼロではないが、それはもっと嫌だ。
 また、画面上に出ていたG4の設計図には、小沢が設計したにしては妙な点がいくつかある。
 このネタは長くなるので研究室第2回『G3シリーズの系譜』で書くことにするが、1つだけ言うと胸のマークが抜けているのだ。
 左肩には「G4」の文字まで入っているのに、あからさまに空白になっている胸のマークは怪しさ大爆発だ。
 警察の装備、しかもG3の後継機である以上、本来桜の代紋がが入っているはずなのに、どうして抜けているのか?
 それは、G4のデザイン画から起こした図をそのまま流用したからではないだろうか。
 つまり、自衛隊マークのアレンジであるG4の胸のマークだけ消して、そのまま使ったのではないかと思えるのだ。
 そういうわけで、鷹羽は実質のこのスペシャルのラストシーンは国枝の
   いや、「いえ〜っ!」じゃなくて、家、どこなんです?
というシーンだと思っている。
 あとは、スポンサーナレーションのバックシーン&映画の予告編ということで…。


 さて、ある意味非常に新鮮だったG3・MILDだが、これは非常によい発想だと思う。
 “人に優しい”からマイルド、というネーミングセンスはともかくとして、G3をベースにG3-Xでの改良点を加えて廉価型にしたのは正解だと思う。
 正式名称は
   第三世代対未確認生命体戦闘用強化外筋及び外骨格 簡易生産化試作版
であり、機能を単純化するなどして生産性を高めたシステムらしい。
 小沢以外の人によってアレンジを加えられたシステムということだろう。
 有頂天になった尾室が先走りすぎ、よりにもよって単独で丸腰という素晴らしい戦いを挑んだためにやられてしまったが、G3-Xと同時に到着して連携行動を取れば、結構いいセンいったんじゃなかろうか。
 オートフィット機能によって誰でも調整なしに装着でき、G3-Xと同じバッテリーパックシステムを使用することにより、今回のようにG3-Xの補給用予備としても使える。
 かなり軽量化もされているようで、バッテリーを外した状態、つまり単なる金属の鎧の状態でも尾室がヨロヨロと歩いている。
 一旦倒れた後は、這って移動するのが限界だったようだが、本家のG3もG3-Xも、スイッチを入れる前はハンガーに固定して装着者に重量がかからないようになっていることから考えると、相当軽くなったのだろう。
 しかも、その状態でスカラベウスの蹴りを喰らっても尾室はかすり傷程度で済んでいる。
 これは、攻撃力や運動性はともかく防御力は申し分ないことを示している。
 各警察署に常備してアンノウン出現時の時間稼ぎに使ったり、G3-Xの支援用に使うには十分なシステムと言え、開発意図は達成できそうな気がする。
 今回は試作機1体だったから尾室が死にそうな思いでバッテリー交換をする羽目になったが、MILDが数体あれば、歩く補給庫にすることも可能だ。
 もっと面白いのは、GX-05用のスペアマガジンが装備されている、つまりGX-05を装備することも視野に入れられているということだ。
 これが正式採用されれば、GX-05の集中砲火ができることになり、破壊力はかなり上がるだろう。

 で、初めてバッテリーを消耗しきったG3-Xだが、恐らく翔一達が到着するまで長時間1人で頑張っていたのだろう。
 5つ点灯状態からいきなり0に消耗したのは御都合的だが、あのスカラベウスを相手にフルパワーで戦っていればバッテリーの消耗もそれなりに早いだろうし、まぁいいことにしよう。
 で、バッテリー回復後、G3-Xの動きが妙に良くなったことに疑問を持つ人もいると思うが、あれはあれで正しい。
 というのは
Emergency
LOW BATTERY
  (緊急事態 バッテリー出力低下
とか
DANGER
CHANGE BATTERY
危険 バッテリーを交換してください
とか表示されているときには
A.I. CONSCIOUSNESS level:FAIL  (AI機能不全
と警告が出ていたのだが、尾室のバッテリー交換で
BATTERY:FULL  (バッテリー充電済み
の表示になった途端
A.I. CONSCIOUSNESS level:NORMAL  (AI機能正常
となったからだ。

 つまり、バッテリー残量低下の影響でAIがコントロールするG3-Xのスピードやパワーが落ちてしまっていたのが、通常時の能力に回復したから急に強くなって見えたということだ。
 高村教授のAI制御チップによって、AIの機能自体はかなり抑えられたものの、やはりAIのサポートなしにはG3-Xは能力を発揮できないのは理に適っている。
 また、MILDを装着していた尾室がバッテリーパックの交換の仕方を知っている人間だったのは大きい。
 小沢からは
   あなたならできるわ。誰にでもできるんだから
だの
   彼こそ正真正銘の凡人よ
だの言われ、氷川にまで
   尾室さんなら必ずできます。誰にでもできるんですから
などととんでもないことを言われていた尾室だが、曲がりなりにもバックアップスタッフだけあってシステムの細かいところをちゃんと知っていたのは偉かった。
 MILDの重量に耐えながら必死にバッテリーを交換する尾室は格好良かった。
 自分の背後のバッテリーを外した怪物くんの腕にも興味がある。
 勇み足さえなければ、ヒーローになれたかもしれなかったのに…。
 でも、あれって、尾室の独走を許した氷川の責任もあるよね。
 一緒に到着できるようスピードを上げられなかったのか?
 両者の重量の違い?


 さて、鎖状のあごひげがラブリーなカブトムシ怪人スカラベウス・フォルティスだが、スカラベウスは甲虫属の学名、フォルティスはラテン語で強いとか固いという意味だ。
 無茶苦茶固いこいつには大変似合っている名前だが、スカラベウスがフンコロガシの学名でもあるというのは悲しい。
 カブトムシの学名をそのまま使えばいいのに。

 で、スペシャル版の見所だが、“涼に助けられた後、数百メートル後ろのバイクを取りに戻る翔一”だろう。
 どうやら涼も戻るのに付き合ったと見え、2人して到着が遅れてしまった。
 その間にG3-Xは散々苦戦していたわけだね。


戻ります