仮面ライダークウガ研究室(第8回)
 
   また質問のメールが来ているので、ちょっと紹介してみよう。
 
 グロンギって、あれ「種族」なのですか?
 いえ、あのひと達つらつら見てますと、いかにも「人間が戦争する為にこさえた理想的な軍事兵器」よね…と。
 「種族」と呼ぶには構造的にあんまりバラバラで、「種族」ってより仕方なく必然的に孤立した群れっていうか「民族」に思えて。
 なんで起きたらいきなり殺人ゲームなの?? とか考えたら、もしかして軍事上の命令系統が無くなったから、刷り込まれてる「訓練プログラム」だけが延々と繰り返されているのでは…などと考えてしまいました。
 何なんでしょう、グロンギって?
 教えてください、お願いいたします(ぺこ)。
 
 要するに、「グロンギとは何者で、何のためにゲームをしているのか?」という質問なわけですね。
 というわけで、今回は
グロンギって何者?
というテーマで考えてみることにしよう。
 
 鷹羽としては、研究室の第5回で書いたとおり、“グロンギは呪術的に変身能力を付加された普通の人間である”というスタンスで見ている。
 彼らを一種の邪教集団と考えると判り易いのではないだろうか。
 頂点に立つのが0号として、その下に何階層かの階級社会があって、ゲームをクリアすることで階級が上がる。
 「ゲーム」を単なる遊びでなく、自分の能力を示すための儀式のようなものだと考えれば、この構造は納得がいくだろう。
 グロンギ「族」というのだから、単一種族の可能性が高そうだが、彼らは種族としての同胞意識よりは、同一の団体に属するものとしての意識の方が強いような気がする。
 
 それで、質問にあった「理想的な軍事兵器」という点についてだが、彼らは“兵器”というより“兵士”ではなかろうか。
 確かに彼らは、頑丈で攻撃力も高い。
 ワンマンアーミーとしてなら優秀だが、問題は“自分勝手すぎる”ということだ。
 しかし、兵器としては制御が効かなすぎる。
 ゴオマのように、何度言っても言うことを聞かないようなヤツは、兵器としては使い勝手が悪いのだ。
 
 元々グロンギが生物兵器だという意見は、関東医大の椿が雄介の身体を初めて診た時に出たものだ。
 この時、椿は“雄介がやがて自分の意識を保てなくなり、狂戦士になってしまうのではないか”という不安を表現するために「生物兵器」という言葉を使った。
 椿は、“戦うこと自体が存在目的の生物”という意味合いで「生物兵器」という言葉を使った。
 勿論、雄介が“グロンギを殺すためだけの存在になり果てる”可能性が払拭できない現段階では、雄介に対してこの言葉を使うのは問題ないだろう。
 ただ、椿が「奴らと同じ、戦うためだけの生物兵器だ」と言った当時は、未確認生命体がどうして人を殺すのか判っていなかったから、こういう言い方になったわけだ。
 グロンギは、“ゲームとして”殺人を行っている。
 ある種の制限の中での殺人となれば、確かに訓練として有効かもしれないが、明らかに自分より弱い相手を殺していても、兵士や兵器の訓練としては効率が悪いような気がする。
 
 そして生物兵器にしては、指揮命令系統がしっかりしていない。
 『強殖装甲ガイバー』に登場する獣化兵(ゾアノイド)のように、司令塔である獣神将(ゾアロード)の命令に絶対服従するように作られていれば、確かに兵器として利用価値が高いのだが、グロンギにはそれがない。
 一応、各集団にリーダーのような存在がいるし、バルバのようなお目付役もいるが、“メ”のリーダー的存在だったガリマ(カマキリ種怪人)は、新入りであるガルメ(カメレオン種怪人)からは、同等よりちょっと上程度にしか扱われていなかったように見える。
 また、勝手にゲームを始めてしまったザイン(サイ種怪人)など、統制を乱す存在がいたことも確かだ。
 その上、ビラン(ピラニア種怪人)は、ザインの勝手な行動を放置していた(或いは気付かなかった)バルバが面白くなかったのか、クウガと戦闘中のザインを邪魔しにわざわざ出掛けている。
 このようにまるっきり制御されていない彼らは、生物兵器としては勿論、兵士としても問題なのだ。
 
 従って鷹羽は、グロンギが生物兵器だとは考えていない。
 元々この“グロンギ生物兵器説”は、グロンギの戦闘能力の異常な高さから発生した考えであって、グロンギの思想等のことは考慮していない。
 彼らは、明確に何らかの目的をもって殺人を行っている“人間の集団”なのだ。
 目的とは、つまり“ゲーム”だ。
 
 次に、何のためにゲームをするのか、という点について考えてみよう。
 彼らのゲームには、幾つかのルールがある。
 番組中から判るものとしては

 1 バルバに選ばれたプレイヤーだけがゲームを遂行できる
 2 プレイヤーの妨害は一切してはならない
 3 ゲーム以外では、むやみにリントを殺してはならない
 4 ゲームの手段には、それぞれの階級によって格差がある

といったところだろう。

 このうち1と2についてだが、前述のとおり、ザインが勝手にゲームを始めた挙げ句、ビランが妨害行動をしている。
 しかしこの場合、ザインは腕輪を受け取っていないので、目標人数もなければ昇格もなく、正式なゲームではない。
 よって、ビランの行動はゲームの妨害には当たらない。
 また、バヂス(ハチ種怪人)は、腕輪をなくしたことについて「こいつ(ゴオマ)のせいでなくなった」と言っているが、ゴオマは別段妨害はしていないし、バヂスも「こいつに邪魔された」とは言っていない。
 腕輪をなくしたのは、確かにゴオマの責任もあるが、一番の原因はゴオマに憎まれ口を叩いていたバヂス自身の不注意だ。
 
 そして3については、少々変則だが、ゴオマの存在が体現しているのではないだろうか。
 ゴオマはEPISODE2で、ゲームに関係なくリントを殺し、またクウガと戦っている。
 EPISODE3で、バルバはゴオマに「クウガと戦ったそうだな」と言い、ゴオマが「そうさ。かなりクウガを痛めつけたぜ」と答えている。
 バルバがゴオマを痛めつけたのは、その後だ。
 世間ではこのセリフから、クウガとの戦いでグムン(クモ種怪人)を見捨てて逃亡したゴオマが大きな口を叩いたことから、以後仲間から蔑視されるようになったと思われているようだ。
 しかし、鷹羽はどうも違うような気がするのだ。
 というのは、バルバがその後「(東京には)リントどもが多く住むそうだ」と言うのだが、それに対してゴオマが「もっと多く殺せるんだな」と返した時にも「違う!」と、バルバの口調が結構きついからだ。
 その後もバルバは、隠れていた一条を殺そうとしたゴオマを「今は放っておけ」と、制していたりしている。
 そもそも、この時点で既にザイン達初期プレイヤー組は東京に集結しており、彼らがバルバから呼ばれたのは、復活した翌日…つまりゴオマが連続殺人を犯していた頃だろうと思われる。
 つまり、ゴオマは当初東京には呼ばれていなかったようなのだ。
 バルバは、放っておくと勝手に殺人に走るゴオマを目の届くところに置いておくために、東京に連れて行ったのではないだろうか。
 そして、目の届くところに置いておく手っ取り早い方法として、付き人のような使い方をしているのだと考えられる。
 そう考えると、ゴオマがゲームをしたがる度にバルバが怒っていたのも理解できる。
 バルバとしては、ゴオマをゲームに参加させるつもりは元々なかったのだ。
 その後、ゴオマは出番を与えられないまま、ゲームが“メ”に移行してしまった。
 これも、勝手にリントを殺したゴオマに対するお仕置きだったのかもしれない。
 もっとも、公式設定によれば、ゴオマは今でもこっそりリントを殺してはその持ち物を傘に飾っているそうなので、バルバの監視はザルみたいなものだが。
 
 面白いことに、ドルドがカウントしている“ゴ”は勿論、完全に自己申告制だった“ズ”も“メ”も、獲物の数を不正に申告してはいない。
 このことからも、彼らにとってゲームが神聖な儀式なのだということが判る。
 
 ところで、不思議なのがバルバの指輪だ。
 あの指輪を怪人のベルトに差し込むと、何らかの力が怪人に送り込まれるようだ。
 爆発する原因かと思ったが、指輪を受けていないグムンもメビオ(ヒョウ種怪人)も爆発しているから、やはり爆発はベルトのせいだろう。
 とすると、指輪の力というのは何だろう?
 “ゴ”になってから、指輪の突起が二段重ねになったことからも、あの指輪はゲームの質やプレイヤーの格に関連しているようだ。
 例えば、指輪がプレイヤーの封印された実力を解放するものだとする。
 プレイヤーになる前後でクウガと戦ったのはバダーだけだが、能力にさほど変化があったとも思えない。
 獲物の数を不正申告させないための安全措置というわけでもなかろう。
 それだと、“ゴ”になってから指輪がバージョンアップしたことの説明がつかない。
 では、何だろう?
 鷹羽は、出撃前の怪人の情報をセーブしているのではないかと思う。
 あれを元に、倒された怪人も復活できるのではないか、と。
 だから、強力な“ゴ”の怪人の分にはより容量の大きい指輪が必要になるというわけだ。
 そう考えると、ゲーム外でクウガに本気で戦いを挑んだのが、落第組で血の気の多いザインだけだったということの説明もつく。
 勿論、あの指輪自体が何個もあるわけではなく、その情報はどこかに保存されているはずだ。
 クウガの攻撃では、あのとおり怪人は爆発四散してしまうから、本来なら墓など作りようがない。
 とすれば、EPISODE1で0号が「よみがえれ〜」と言ってグロンギを復活させたのは、そのデータを保存していた“何か”が埋まっていた場所と考えられる。
 データが保存されている“何か”とは、あのベルトではないだろうか。
 出撃する怪人達のデータは、墳墓の中にベルトと共に保存されており、それを統括するのが0号だとすると、0号の力によって、倒された怪人達はいつでも復活できることになる。
 復活の鍵を握る0号を封印すれば、もしかしたらまだ倒していない怪人連中もアオリを食らって、一緒に封印されるのかもしれない。
 まぁそうでもないと、先代のクウガがたった1人で、200体からいたグロンギ達を封印しまくったことが奇蹟に思えてくるし。
 もっとも、現代人の雄介よりも、素体となる人間の体力が優れていて、その分強かったのかもしれないが。
 
 さて、ゲームの最終的な目的は何だろう?
 現在のセミファイナル・ゲームが終了すると、ファイナル・ゲームが行われる。
 バルバのセリフによれば、クウガを倒さないとファイナル・ゲームには進めないという。
 この『進めない』というのが、本当に“始められない”という意味なのか、“重大な障害になる”という意味なのかが判らない。
 しかも、バダーは、EPISODE33で「最後の1人クウガを殺し、次はアンタを殺し…」と言っている。
 『アンタ』と言いながらバルバの方を睨めつけていたようなので、どうやらセミファイナル・ゲームが終わったら、バルバを殺すつもりだったらしい。
 それは何故か。
 そもそも、バルバとは何者なのか?
 一条は、B-1号(バルバ)が0号かもしれないと言っていたが、声のことを置いておいても、どうも違うようだ。
 EPISODE5でバヅーがゲームを開始する直前、グロンギ達が集まっている場所で、謎の男が「準備は整ったか?」とゲームの開始を促しているからだ。
 この男は耳元が少し見えただけで、何者か判らず(ザジオではない)、しかもしゃべり方からしてバルバよりも上位のように見える。
 この男が0号だったとすると、ゲームを総括しているのは0号で、実際に進行役をしているのがバルバだと考えられる。
 バルバの階級は明かされていないが、“ラ”のドルドはバルバの下でカウント係をやっている。
 彼らゲームの進行役は、どうしてゲームに参加しないのか?
 
 当初、“ズ”や“メ”の連中は、昇格するためにゲームをしていた。
 それは全て“ゴ”になるためだった。
 そして、“ゴ”になれた者だけが、セミファイナル・ゲームに参加する資格があり、セミファイナル・ゲームの成功者はファイナル・ゲームに進む。
 つまり、グロンギの連中は、ファイナル・ゲームの参加資格を得るためにゲームをしていることになる。
 そこで問題になるのは、ファイナル・ゲームの方法と目的だ。
 これまでは難易度を適度に上げるためのお邪魔キャラ扱いだったクウガが、いると邪魔になるようなゲームをする。
 それは、歯ごたえのないリントを殺す程度のものではなく、自分達と同等かそれに近い相手と戦うことのように思える。
 そこで、バダーの「次はアンタを殺し」を考えると、バルバ達を相手に同士討ちとも言える戦いをするのではないかという気がしてくる。
 つまり、バルバやドルドのようなゲームの進行係をしている連中は、既にファイナル・ゲームへの参加資格を持っているという考え方だ。
 そしてグロンギ同士の血で血を洗う戦いの後、勝利者は0号の後継者として向こう1万年を生きるのだ…って、そりゃ『BLACK』か。
 しかし、0号の跡取り云々はともかくとして、名誉の類より実益の方を優先しそうな彼らのことだから、やはり特殊なものを目当てにしているのではないだろうか。
 次のゲームの管理者になるのが目的とか、ね。
 地位としてもさることながら、他人の生死を手の平に載せるというのは、古今東西を問わず、優越感を与えてくれることだから。
 バダーがバルバを真っ先に血祭りに上げようとするのも、これまで自分を手の平に載せていた存在だからと考えると、なんとなく納得できる。
 それぞれの集団が、ゲーム進行上で絶対的なイニシアチブを持っているバルバにタメ口を利いていることからも、彼らがバルバを尊敬していないことが判る。
 バルバの地位には、誰もが上り詰めるチャンスがあるから、『いつか蹴落としてやる』といった感情を持っているのかもしれない。
 
 そういうわけで鷹羽は、今回のゲームが、次のゲームの管理者を決めるためのものではないかと考えている。
 新しい管理者が決まったら、死んだ怪人達を蘇らせてもう一度最初からゲームをするのだ。
 その時は、以前管理者だった者は一番下の位に落ちている、と。
 延々と無駄なことをやっているようだって?
 人間だって、トランプで大富豪とか、いつまでもゲームやってたりするじゃないの。

 
 
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