欲しいものあれこれ9 変身ベルトレストア日記

鷹羽飛鳥

更新日:2015年12月9日

 『仮面ライダー』放映当時、ポピー(現:バンダイ)から“光る!回る!変身ベルト”が発売されました。
 当時、いつの間にか父が買ってきてくれていて、大喜びでブンブン回して遊んだものです。

 ところで、この『変身ベルト』という商品、ポピーが生みだした『超合金』に並ぶエポックの1つです。
 これは、日本で初めての変身アイテムグッズなのです。

 月光仮面のような“変装”の類でない“変身”ヒーロー自体は、ウルトラマンに端を発すると思います。
 変身をウリにする番組では、変身シーンが見せ場の1つになるわけで、テレビを見た子供達は変身シーンを演じるために変身アイテムを欲しがることになります。
 『秘密のアッコちゃん』を見て母親のコンパクトを持ち出し、懐中電灯をウルトラマンのベータカプセルに見立てて変身したりするのは、少しでも本物気分を味わうためです。
 眼鏡を掛けるときに「デュワッ!」と掛け声を上げるのも、似たようなものですね。
 ベータカプセルなら、多分放送当時もオモチャは出ていたでしょう。
 ただ、それは例えばスーパーガンや流星バッジとセットのような売り方であり、形状はともかくギミックは仕込まれていなかったはずです。

 当時の技術では、玩具に仕込むのは無理でしたし。
 だからこそ、変身シーンを見せ場にはしても、それを商品展開に結びつけるという考えそのものがなかったわけです。

 当の仮面ライダーにしても、最初はベルトの風車に風を受けて変身していたわけで、風車が回るベルトの玩具を売り出そうなどということは全く考えていません。
 『仮面ライダー』の放送が始まった昭和46年のトクサツ作品は、『帰ってきたウルトラマン』にせよ『スペクトルマン』にせよ、アイテムを使わない変身をしています。
 “光る!回る!変身ベルト”は、ポピーの偉い人が自分の子供用に個人的に作ったものが周囲に受けたため、「これは売れる!」と商品化したものだそうです。
 こうして“変身シーンを再現できるギミックを備えた”変身アイテムが誕生しました。
 逆に、新1号の変身シーンのベルトのエフェクトアニメーションは、変身ベルトのギミックに準じたものになっているのだと思います。
 2号のエフェクトとの違いは、そこから生じているのでしょう。

 ちなみに、スーパー戦隊で変身ブレスが変身シーン再現機能を(一応)持つのは、『超獣戦隊ライブマン』のツインブレスからであり、それ以前は作中にオモチャで再現可能な機能・演出を持たせた変身シーンはありません。
 『電撃戦隊チェンジマン』のチェンジブレスは、通信機能やブレスレーザーの再現はあったんですけどね。

 さて、この変身ベルトですが、今と違い本体が鉄で出来ています。
 所謂ブリキオモチャの系列です。
 黎明期のためか、基本的に組み立てた後はもう分解できない仕様です。
 バックル前面のカバー部には上下3か所にネジがあり、一見すると外せるように思えます。
 しかし、このバックル前面からは爪状パーツが生えていて、ビニールのベルト部分を貫通して折り曲げて固定されているため、爪を伸ばさないとベルト部分から取り外せないのです。
 電池ボックスの部分だけベルトのビニールに穴が開いていて本体が露出しているというわけです。
 鉄で出来た爪ですから、伸ばしたり折ったりしていると金属疲労で折れてしまいます。
 要するに、外すことは予定されていないわけですね。

 ちなみに、ネジは先程の3か所以外に使われていません。

 さて、ベルトからバックル部を外し、ネジも外してカバーを取ります。
 裏返して見ると、風車部分の透明カバーも爪で留められているのが分かります。

 本体の構造は、円形の鉄板の上に半透明赤色の風車状に切ったプラ板を置き、横置きしたモーターからピニオンギア経由で回転させるようになっています。

 

この回転する鉄板の直径の3分の1と3分の2の辺りに赤の麦球を1つずつ配置することで、板が回転すると赤い光の輪が2つできるというわけです。

 とりあえず電源ボックス内の液漏れ部分を削り取って通電することは確認しましたが、風車はウンともスンとも言いません。
 そこで、別のコードを用意してボタン電池を使ってテストしようとすると…

 あれ? 麦球が点いた?

 まだ、「−」しかコード繋いでないよね? なんで?
 すぐに麦球は消えてしまいましたが、どうやらボタン電池の「+」側がギアボックスに触れたことで点いたようです。

 なんと、ギアボックスそのものがコードの役を果たしていたのです。

 電池ボックスから出ているコードは「+」から1本、「−」から2本です。
 「−」からのコードは、それぞれモーターと麦球に繋がっていて、「+」からのコードはギアボックス内のスイッチに繋がっています。
 このスイッチは、「く」の字型のプラスチックのパーツで、内側にある方の端に「+」からのコードを繋ぎ、スイッチを倒すとテコの原理でギアボックスの壁にコードが触れる仕組みになっています。
 ギアボックスの鉄板自体が「+」のコードとして、モーターを固定している爪を通してモーターに、ギアボックスを貫いている風車の回転軸を通して麦球に繋がっているようです。
 構成部品が鉄で出来ているという時代背景を感じさせる作りです。

 どうやらこのスイッチの端子部分が腐ってダメになっているようで、直接ギアボックスに電池を繋ぐと導電する、と。

 風車パーツをよく見ると、下地の鉄板の下に一回り小さい鉄板があり、この小さい方に麦球への「−」のコードが繋がったバネ状のパーツ(写真の丸で囲んであるところ)が触れていることで、回転しても常に給電し続けることが出来るようになっています。

 「+」の方は、前述のとおりギアボックスと回転軸経由で大きい方の鉄板に繋がっていて、2枚の鉄板それぞれに麦球の「+」と「−」のコードがハンダ付けされているのです。
 よく考えてあるなぁ…。

 さて、もう一度ボタン電池を繋いでみても、麦球は点くけれどモーターは回りません。
 なにせ40年以上前のものですから、モーターが錆びてダメになってしまったのでしょう。
 となると、モーターの交換が必要ですねぇ。

 ここで、1つ問題が。
 このギアボックスも爪で固定しているものなのですが、困ったことにギアボックスを風車の回転軸が貫いているので、ギアボックスを分解できないのです。

 要するに、分解を前提としない固定方法なので、下手に分解しようとすると軸が折れてしまいかねません。
 仕方がないので、まず、バックルの裏板から爪を起こしてギアボックスを外します。
 このギアボックスも上下の鉄板が爪で固定されているので、モーター側の爪2本だけを起こして半分こじ開け、モーターを引っ張り出します。
 回転軸が曲がらないよう、ギアボックスが歪まないよう、非常に気を遣う作業でした。

 取り出したモーターを見てみると、円筒形で、端子がありません。
 「−」のコードは、なんとモーターの側面にハンダ付けされているのです。
 「+」の側にはコードは付いていません。
 これもビックリですが、モーターを固定するための爪がそのままモーターへの「+」端子になっているのです。

 つまり、このモーターは、現在の一般的なモーターと違い、端子が付いていなくてモーター側面全体が半分ずつ端子の役を果たしているというわけです。
 外したモーターに直接ボタン電池を繋いでみても、回りません。
 やはり、モーターがダメになっているようです。
 では、似たような大きさのモーターを買ってくるしかありませんね。
 ギアボックスに固定できるようなサイズと形のモーターを探さないと。
 あと、「+」側をどうやってギアボックスに繋げばいいかな。
 壁にハンダ付けかなぁ…。

 などと考えながら、ミニ四駆用のハイトルクモーターを買ってきました。
 早速ボタン電池を繋いでみると…あれ? 回らない?
 いや、新品なんだから、そんなわけないでしょ。
 って、まさか…。

 ボタン電池を3個に増やしたら、回りました。

 そうだった、モーターは電流量が必要なんだった。
 ボタン電池と乾電池の違い、それは発生する電流の出力…。
 もの凄く嫌な予感に苛まれながら、ベルトのモーターにボタン電池3個を繋ぐと…よかった、回らない。
 念のため、モーターとコードが触れる場所を変えていくと、場所によっては回ることが分かりました。
 つまり、磨いてサビを落とせば、モーターはそのまま使える、と。

 新しいモーター、いらなかったじゃん…。

 ま、まぁ、新しいモーターを買ったお陰で、この間抜けなミスに気付けたんだしぃ、結果オーライってことでいかがでしょうか先生、ダメですかそうですか。

 気を取り直して。
 モーターを磨くと、無事回るようになりました。
 再びギアボックスにモーターをねじ込みます。
 とりあえずボタン電池を繋いで、光る回るができるか確認します。
 無事回ったので、ギアボックスの爪を折り曲げ、バックルの裏板にはめてこちらの爪も折ります。
 作業のために電源ボックスからのコードを外していたので、折角だからコードの皮を少し剥いてハンダ付けし直して。
 後は、スイッチに新しい端子(百円ショップのLEDライトから引っぺがした)をハンダ付けして終了、と。
 結局、今回のレストアで新しくしたのは、この端子だけでした。

 あ゛あ゛、モーター…。

 さて、それでは早速電池を入れてスイッチを入れましょう。
 …光るけど、回らない…?
 麦球側のコードを外すと、光らないけど回る。
 麦球側のコードを付け直すと光るけど回らない。

 …うにゃ〜〜〜〜! どうなってんの、これ!

 この状態で、更に外部から電源を供給すると、光る回るになるってことは、回路が悪いってわけじゃないよね。
 3日間悩んだ末、思いつきました。

 これって、単なる出力不足では?

 試しに新品の電池に替えると…光る! 回る! やったー!

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 3日も何を悩んでいたんでしょう。
 視野が狭くなるってやーねぇ。

 というわけで、無事。そう、無事! にレストアは終了しました。
 LEDライトはいらないやつをバラしたものだから、材料費ゼロ!
 いや〜、何事もなく直って良かった良かった。

 …余ったモーター、どうしよう?

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