戦隊ヒーロー無理心中
柏木悠里
更新日:2003年12月4日
  先日、私はとある掲示板の書き込みを見て、久しぶりに泣きました。
 感動で泣いたのではありません。


怒りで涙がこらえられなかったのです。



 書き込みの内容は、東京ドームシティアトラクションズのスカイシアター(旧後楽園遊園地野外劇場)での出来事についてでした。

 戦隊ファンならご存知の通り、現在スカイシアターでは『爆竜戦隊アバレンジャー』ショーに、演じている役者本人が出演する、いわゆる“本人ショー”の真っ最中です。
 その舞台上で、役者の自己紹介中、アバレッドこと白亜凌駕役・西興一郎氏が、「凌駕ー!」と応援されているのに対し、「違います、西興一郎です」と返事をしたとの事。


 一般の演劇では上演終了後役者が挨拶に出て“〜役の○山△夫で〜す”等の自己紹介をします。
 しかしヒーローショーなどでは通常、夢ぶち壊しになるこの自己紹介をやらない事が多いのですが、去年辺りから役者名をバラしてしまうという事をやっているみたいですね。
 ただ、今回の『アバレンジャー』ショーでは敵なのに本人出演という特殊なキャラ、“アバレキラー”がいるので、アバレキラー役の田中幸太郎氏の立場を思いやれば、こういったネタバレも致し方ないのかもしれません。
 まさかそのまま出てきて「アバレキラー仲代で〜す! 応援ありがとー」と言う訳にはいかないでしょうから。


 ……しかしそういった背景があるとしても、役名でコールされたのにわざわざ役者名を名乗って訂正する人物が存在するでしょうか?
 

 同じ事を大人しか集まらないような、トークショー等で言ったのならギャグで済むでしょう(それも苦しいけど)。
 しかし、彼は“白亜凌駕”を見に来ている人達……中にはそれが本当にアバレッドであると信じている子供達も見ている舞台で「そんな人は居ません」と宣言したのです。
 『爆竜戦隊アバレンジャー』ショーに必要なのは“白亜凌駕”であって、はっきり言って西興一郎氏はいらないにも等しい舞台上で。
 また、それ以外でもこの本人ショー、アバレブルー役の富田翔氏もセリフを覚え切れていなかったり、初日から千秋楽のお遊びのような余計なアドリブを入れたりしたそうで、けっこうショーを見に行った方達からは悪評でしたが、これなんかも“役者としての自分”を売り込むのに必死で、本来演じなければならない“三条幸人”をやるのを忘れていたのでしょうね。 
 ましてや、一部の若い女の子のファンが、アバレブルー(変身後。もちろん中身はスーツアクターさん)が出てくるとブーイングしたり、変身前の彼らばかり持ち上げていたらしいので、役者が勘違いしてしまうのも解らなくはないのですが……。
 しかも、あまりにもやりすぎていたらしく、スタッフから教育的指導をくらうハメになり、改善されたとか。
 

 西氏のこの発言は、私が直接聞いたセリフではありませんし、所詮インターネット上の掲示板の書き込みなので、もしかしたら作り話かもしれません。
 それでも、残念ながら「彼ならやりそうだ」と納得してしまう話でもあったのです。

 例えこの話そのものは濡れ衣だとしても、元々西氏はTV媒体の『アバレンジャー』でもあまり真摯に演技をしている姿勢が感じられませんでしたし、雑誌のインタビュー等を見ても、特撮番組……というより、役者という職業そのものをナメてかかっているような態度が見受けられました。

 これは有名な話ですが、西氏は「今回の『アバレンジャー』オーディションに受からなかったら、吉本にでも行こうと思っていました」と公式に発言し、特撮ファンからもお笑いファンからも失笑を買っています。



 今までにも「本当はこういう子供番組イヤなんだよな〜」という態度が伝わってくる演技をしてしまう役者というのはけっこういました。
 脚本・演出上のミスでそんな事を考えていないにもかかわらず、そう見えてしまう不幸な役者もいるでしょうが、本当にイヤイヤ戦隊に出ていたというのを告白している人も大勢います。

 例えば『五星戦隊ダイレンジャー』の天風星・リン役の高橋夏樹氏は雑誌の座談会で「リン役は降板したくてたまらなかった」とおっしゃっています。

 しかしこれは考え方の違いであり、演技さえしっかりやってくれれば(態度が透けて見える段階で本当はダメかな? とも思いますが)文句をつける気はありません。
 とはいえ、その役をやっている真っ最中に「この役はテキトーにやってま〜す」と宣言したも同然の事をして絶賛評価してもらえるとでも思っているのでしょうか?
 前述の高橋夏樹氏も、記憶の範疇では番組放映中のインタビューや本人ショーなどで「本当はイヤなんですぅ〜」などと言った事はないはずで、10年たったからもういいだろうという事でお話しされたようです。


 どうもこの「今年のレッドは何だかなあ」というのは、私個人だけが感じていた訳では無いらしく、ざっと調べた範囲でも『爆竜戦隊アバレンジャー』を見なくなったという人達の理由に「レッドがキライだから」というのが多いこと多いこと。
 脚本・演出上嫌われているにしては、少々異常なほどに。


 一番の問題は、単体ヒーローなら西氏一人の被害で済む所が、グループヒーローである戦隊シリーズ、中でも主役中の主役レッドだという事。
 もちろん、『アバレンジャー』には「?」と思われる演出があったり、メカの造型の問題(個人的に爆竜クン達は好きですけどね)など、人気の出ない要因は他にもあるのですが……。
 しかし、彼がイエローやグリーンなら「あのキャラが嫌い!」=「もう見ない!」には直結しづらいのではないでしょうか?

 レッドが嫌われる……という事は、他の人がいくら頑張っても作品の評価は下がり、視聴率が落ちる結果を呼ぶ。
 これはつまり、本人に自覚は無くとも、他の出演者を巻き込んだ無理心中に他なりません。


 今更な話ですが、特撮番組……特に戦隊や仮面ライダー、ウルトラマンの3つには、出演してしまうと、良かれ悪しかれいつまでもそのイメージを持たれてしまうという現象が起きます。
 昔はそれがとてつもなく嫌がられていました。
 そりゃあ元々JAC(現JAE)出身で、アクション役中心の方達はともかく、役者にとってはいつまでも何年も前にやった役名でしか認識されないなんて屈辱でしょう。
 だからこそ、後から「あの役キライでした!」みたいになってしまうのは、ファンとして残念だと思いますが、これまた仕方が無いと思ってきました。
 しかし最近では照英氏、オダギリジョー氏、涼平氏等、とにかく特撮出身だからといって、活躍の場が狭められる事は無くなったみたいで、これでもう「特定のイメージがついちゃうから特撮はちょっと」みたいな人達が減って良かったと一安心していた矢先の事。


  勝手を承知で。
 ……むしろ特定のイメージがついていつまでもそのイメージなんだ、と思って出演してくれる人の方がいいかもな。 


 西氏は最近の特撮が“お子様向け”のみで無く“お父様・お母様”を視野に入れて作られているから、メインターゲットの視聴者(子供達)を裏切っても「特撮出身イケメン」として持ち上げてもらえるとでも思っているのだろうか?

 彼のプロフィールによると、嫌いな人のタイプは「ダラダラしている人」だそうだ。

 ほお? 君の演技はその嫌いなタイプそのものの演技じゃないか?

 もー、誰だよ、こんな奴スカウトした奴はー
 (↑どこかの後藤夕貴の文章から引用)?



 さて、ええ……。
 自分の中の人が言うわけですよ。

 「何をこいつはこんな下らない事を真剣に語っているのだろう?

 と。


 確かに。
 いい大人が子供番組の役者に苦言?
 しかも役者萌え〜(はぁと) とかでもなく?

 とも。

 しかも私には子供もいないので、子供をバカにしないで! とも言いづらい。


 でも。 
 
 昨年、自分は凄まじくシャレにならないくらい落ち込んでいました。
 「もう何もしなくてもいいや」
 と思うほどに。

 でも、『忍風戦隊ハリケンジャー』に大葉健二さんが出演した事で、それを見て立ち直るきっかけをつかんだのです。
 正直、大葉健二さんが大人になってからファンになった普通の俳優さんだったら、久しぶりに画面で見られたからといって「嬉しい」以上の感情は湧かなかったでしょう。

 小さい頃の想い出のヒーローだからこそ、これだけの影響力があったのだと。
 

 だからこそ、最後に。
 自分の経験から鑑みて、ヒーロー番組が子供に与える影響の大きさをなめるな!!

   
 特撮をなめるな!! ……と声を大にして言いたいのです。


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