夜が来る! 〜Square of the MOON〜
久々にやり込んだアリスソフトの本格RPG。俺っちはこれで今年のGWをほとんど潰しました。
こういうのって結構久しぶりかも。
1.メーカー名:アリスソフト
2.ジャンル:RPG
3.ストーリー完成度:C
4.H度:C
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:B
7.その他:BGMは「アトラク=ナクア」でおなじみのShadeさん。しかし、今回はイマイチ耳に残る曲が少ないか…高レベルだとは思うんだけどね…
(ストーリー)
真月(しんげつ)…夜空にもう一つの月が現れるようになって3年が経過していた。
それは現れた当初こそ人々に恐れられたものの、今となってはすっかりと日常に溶け込み、もはやそれがあるのが当たり前であるが如く、今宵も夜に浮かぶ。
主人公・羽村亮は高校の二年に進学し、これまでと変わらない日常を営んでいた。
そんなある日、同学年の七荻鏡花に天文部に誘われた亮は、見学と言うことで夜の校舎に向かう。
しかし、そこで待っていたのは覆面をした二人の暴漢の襲撃だった。
これらを何とかしのぎ、這々の体で見学場所に指定された屋上に向かう亮。
意外にも、そこには印象的な…一度見たら忘れられない様な紅い色の眼をした少女が静かに佇んでいた。
そして、彼女…天文部部長であり、光狩と呼ばれる怪物を討つ火者である火倉いずみは亮に告げた。
「一緒に戦って欲しいの…」
長い…戦いの幕が開ける…
いや、大したものだ。
ここ最近、すっかりとストーリー関係を中心にレビューを行ってきたものだが、ホントに久々にシステムが面白い作品をやらせてもらった。
総合的に見れば、手放しで誉められる作品ではない。
ストーリー関係に欠点がかなりあるし、何より結構致命的なバグがあるのはいかんともし難い。修正ファイルは必須。
しかし、ちょうど2000年に発売された「D+VINE[LUV]」以来の、なかなか良く練れた傑作RPGと評してもいいだろう。
プレイ時間は個人差があるだろうが、ファーストプレイなら12〜15時間。
とかくお手軽路線に走りがちなこのHゲーム世界においては長い部類だが、RPGとして見るのならば、適度と言えなくもない。ここらへんのバランスは絶妙だ。
まずはシステムに目を向けてみよう。
一定時間内にダンジョンに潜り、その時間内で訓練値や経験値といったキャラクターをレベルアップさせるものを稼いだり、月片(かけら)というお金に相当するものや、アイテムなどをゲットしたり出来る。
一定の期間に発生するイベントダンジョンは、時間制限がなく無限に使える回復ポイントがあるかわりに、訓練値が稼げないというペナルティがある。
まず、評価したいのはこのダンジョンが実に無駄なくゲームに溶け込んでいる事だ。
ゲーム進行に必要なアイテム、経験値、全てここで揃うように上手くバランス調整されているのだ。実際、よほど間抜けなプレイをしない限り、EDまでいけないとか敵が強すぎてハマるなどという現象は起きないだろう。
感覚的には同社のかつての名作「闘神都市U」に近い。
もちろん、後半の敵がヌルいという事もあるのだが、こういう全体を把握した上でのバランス取りは、なかなか難しい事だと思う。
こういうのは一種の職人芸だろうか。
また、一回ゲームを解き終わったあとでレベルやアイテムを全部継承できるのも嬉しい。
前作…という訳ではないが、似た雰囲気を持つ同社の「ぱすてるちゃいむ」では解き終わったあとに継承出来るのがアイテムのみでがっくりきたものだが、今作ではレアアイテムのゲットにしろ月片集めにしろ、この作品を徹底的に遊び尽くそうとすれば、どうしても全継承が必要になってくることだし、現に全てのEDを迎えたとしても、この作品の半分も遊んでいない事になるかもしれない。
どこかのHPの掲示板で主人公の武器の能力をアップさせる要素石にレベル10が存在する事を知った時、正直目が回りそうになったものだ。
4人のEDを見た段階で俺っちはレベル5の石を各色1〜2個持っていたに過ぎないのだから。
しかし、そう言ったマニアックな遊びを抜きにしても、シンプルかつよく考えられたダンジョンは十分に評価出来る。ちょっとプレイすれば、隠された罠や敵が配置された場所も解る様になるし、戦闘シーンも思った以上にスピーディーでストレスを感じさせない。
しかし、反面欠点がない訳でもない。
まず、何と言っても、キャラクターの性能差があまりにも激しい点。
全体攻撃やグループ攻撃を持っているキャラクターがはっきり言って有利すぎる。しかも、そのほとんどは女性キャラに集中しているというやるせなさ(笑)。
結局、全体攻撃が出来る鏡花や真言美が一人いるだけでゲーム難易度(特に二つ目のダンジョンの下の層あたりから)が一変してしまうのは問題だ。
また、体術使いでありながら、最後にとってつけた様にグループ攻撃が入るマコト、通常攻撃がHPを消費するとはいえグループ攻撃のいずみ…これに対して、男性キャラは百瀬が少しグループ攻撃を、かなりの高レベルで新開さんが複数攻撃を憶えるだけという…男性キャラに攻略性がないとはいえ、ここまであからさまなのもどうかと思う。
男性キャラもかなりいい味出しているだけに、なおさらだ。
しかし、キャラクター格差という点において、もっとも文句を言いたいのは、どう考えても主人公が最弱だという事に尽きる。
具体的には、EX技がないという事がある。つまり、主人公はどんなに頑張っても、グループや全体を攻撃したり、高い攻撃力の技で勝負を賭けたりする事が出来ないのだ。
もちろん、主人公にも要素石で武器をパワーアップ出来ると言う能力があるにはある。
俺っちは発見していないが、いずみの武器「界離」の様にグループ攻撃が出来る要素石の組み合わせもあるかもしれないし、レベルの高い要素石を拾えば、他のメンツを遙かに凌ぐ攻撃力が身に付くのかもしれない。
だが、これらは極めプレイに入ってから出来る事であって、普通のプレイではまずよほどの運がなければ不可能だ。
他のキャラは武器は固定だが、レベルが上がれば攻撃力などは変化するし、結局主人公と素のままでも大差ない能力を持てる。
要するにEX技がないという事実は、紛れもないハンデにしかなっていないのである。
もうウチじゃ、すっかり彼はアイテム使いと化してたもんなあ…設定上、もともと火者であるいずみやマコトに能力で劣るのはしょうがないにしても、こういうのはちょっと勘弁してほしいものだ。
また、ダンジョンにどんどん深く潜れるのはいいのだが、一回下の層に行ってしまうと前の層に戻れないのも、ちょっとした欠点だろう。
敵が強い場合に、少し下の層へ戻って経験値稼ぎをするという事が出来なくなるのは結構痛い。
それでいて、強い敵と戦ってもビックリするほどの見返りがあるわけでもないので、下手に深い層に潜って強い敵と戦いボロボロにされて、休憩を多くはさむ様になると、結局経験値や訓練値を稼ぐ効率が悪くなるという、ちょっと困った一面がある。
特に、逃走を選択しても攻撃を一回受けなければならないほど素早い飛金剣や、混乱+眠り攻撃でハメてくる沈顔はかなり厄介なモンスターで、下手にこれらがいる階層に足を突っ込むと、途端に稼ぎの能率が下がってしまう。
あと、普通にゲームをやる分には問題ないのだが、数回プレイしたあとで出現するハードモードの敵の強さははっきり言ってメチャクチャ。
これで進めるとクリアは一気に困難なものになるだろう。ハマリも十分にあり得る。
ここら辺はあくまでもお遊びであり、本来の評価からは若干外れた事かもしれないが、このモードが出る頃にはノーマルモードの敵ではそろそろ物足りなくなっている時期。そこにきて、このハードモードの敵の強さのギャップはいかんともしがたい。
噂ではハード以上の、エキスパートモードがあるらしいが…
次にストーリー関係。
基本は一本道ストーリーであり、各ヒロインのルートに進んだ段階で、おのおの違う視点で各イベント見るという形を取っている。
例えば、鏡花の姉・七荻ミサト関連の突っ込んだエピソードは、鏡花ルートでしか描かれないし、キララが誘拐される経緯はマコトルートでしか知る事が出来ない。
本来なら、こういう事はマイナス要素になる事ではない。
むしろ、誰のルートで行っても基本シナリオに変化はない訳だからイコール破綻をきたさないという点に関しては、むしろ評価してもいいぐらいだ。この作品がADVだったらね…
先にも書いたが、この作品のクリア時間は12〜15時間、レベルとアイテムを継承しても10時間前後はどうしてもかかってしまう。
その上で基本ストーリーが変わらないのに、たった数個のイベントを見るためだけに4人ものヒロインを攻略しなければならないのは、実際のトコロかなりツラい。
単純にそのイベントが独立型として成立しているのならばまだいいのだが、それらを見ることによって全体の流れを補完するシナリオになっているので、どうしても散発的に感じられてしまうのだ。
最初から極めプレイ前提にこの作品をやるのならば、その経過上で4人のヒロインのルートを通るのは難しい事ではないだろうが、あくまでもクリアのみを目標にしているプレイヤーが、果たして何人オールクリア出来るのか、俺っちとしては甚だ疑問である。
だが、こういう点を度外視しても、まだまだ問題は多い。
まず、何と言ってもすっきりしないのが、新開さんを再びパーティーに入れる条件の意地悪さ。
敵に操られていずみを襲ってしまった新開さんが、行方不明になったまま帰ってこない可能性があるのははっきり言ってかなり不満。
3カ所もあるニュータウンを2周以上やらせて、やっといずみを見つけられるというのに、更にニュータウンを探索しろ、などというのは引っかけ以外の何者でもない。
ご丁寧にも、ストーリー的にいずみが見つかった段階で、学校に即座に向かわせるよう誘導している程だ。
ちゃんとパーティーに加わるキャラクターだけに、事件後からEDまで一切顔を出さない可能性があるのは、さすがにマズイだろう。いたとしても少数派だろうけど、ファーストプレイで新開さんをずっと入れていて、コレに気付かなかった人はかなり困るはずだ。
ちょっと、FFYのシャドウを助ける方法みたいな意地悪さで閉口。
仮に新開さんを入れるのに失敗しても、最後の戦闘シーンで乱入、ぐらいのイベントはあっても良かったと思うのだけれど…
上のシステムの所でも触れたが、何か全体的に男性キャラがぞんざいに扱われているのは気のせいだろうか?
星川とミズキがらみのイベントだって、もっと見せようがあったはずだ。
特にミズキは、EDでどうなったのか一番知りたいサブキャラだっただけに、たった一行だけで「星川はミズキを追って東京の学校に転校した」で片づけられたのは、拍子抜けもいいところだった。
正直、キャラクターの見せ方自体はかなり上手い。
迷宮に入っている時にランダムで主人公と組んでいる人間とのおしゃべりが挿入されたり(しかも、全パターン存在する様だ)、日常イベントでの会話シーンでも、一癖も二癖もあるキャラクターの個性を良く引き出している。
だが、それがストーリー関係に上手に絡んでいるかと言うことになると、特に男性キャラの事も踏まえれば、答えは「否」だ。
どうしてもイベントに行き着くまでに時間のかかるRPGというシステム、そして一部のすっきりしない展開、男性キャラの手抜き描写、あまり上手にシナリオに作用しているとは言えないだろう。
また、かなりシナリオ自体に謎が多く、スッキリしない点が多いのもマイナスポイント。
主人公が見る夢と「火倶奴の火女の伝説」が何故ダブるのか、最後まで回答が得られないのはどうしてだろうか?
もちろん、ある程度の予想はつく。
伝説に出てきた光狩の女王が最後に産み落としたという双子の赤子の片割れの子孫が主人公だろうというのは解る。
更に深読みするならば「他の火者が外国に出かけている」というのも、主人公の親たちの事を指しているのかな、ぐらいは推測出来る。
こう考えればゲーム序盤の主人公の親の手紙の内容も納得がいくし。
だが、推論はあくまでも推論。どうしてもこれ以上は思い浮かばないのが現状だ。
他にもコウヤの「おねえちゃん…」というセリフや、真言美に女王を憑依させた時の事、主人公に対してコウヤが言う「む…瞳の中に蒼い炎…」の呟きなど、語られない部分が多すぎる。
これらをプレイヤーの想像力で補填するのは、かなりムチャだと思うが。
(総評)
一定の時間にどうこうと言うと、かつての同社の「零式」などが思い浮かぶが、あれほどシビアという訳ではないので、安心快適にプレイできるだろう。
最近のアリスはこういうどこかしらに「詰め」を要求してくる作品が多いが、これはあまりそういう意識をしなくてもきちんと進めるので、かなり安心した。
しかし、とにかく評価が難しい作品だ。ゲームとしてみればかなり面白いが、シナリオまで含めて総合的に見ると「?」と言わざるをえない。
ゲーム部分とシナリオ部分、何処まで割り切ってプレイするかが、この作品を楽しめるかの分岐点だろう。
なんにせよ、久々の高レベル作品には違いない。
(梨瀬成)