神咲薫/評価B

☆“神咲一灯流退魔道”という、剣術と祓い師の能力を兼ね備える武術を習得している薫は、霊剣・十六夜を手に、近辺で発生する霊障を解決する仕事を行っている女子高生。
 土佐弁と、風紀委員の如き厳しい姿勢を武器に、だらしない真雪や美緒と日々戦いを繰り広げている(?)
 彼女は、警察の依頼で、深夜に寮を出ていく事も珍しくはない。
 しかしある事件に関わってから、薫の心境に変化が訪れる。
 「自分は、霊を殺しているだけの殺戮者なのでは…?」
 そんな時、十六夜とは別の霊剣が発見されるのだが…

 
 私は、初プレイで一番気に入らなかったキャラクターから攻略するクセがある。
 美緒以上に気に入らなかった薫はどんなシナリオになるかと、期待(半分不安)を膨らませて挑んでみたら、これがなんともしっとりした良いお話で…。
 薫はいまだにキライだけど、シナリオそのものとその中での彼女の姿勢は、素直に評価したいと思った。

 比較的早いうちから、十六夜を紹介する都合で自身の事情を説明するため、設定の突飛さはともかくとして、意外と唐突な印象は受けない。
 薫は学生であると同時に、仕事として祓い師も行っているため、早いうちから身辺の事情を描きこんでおく必要がある。本シナリオでは、それを順当にクリアしている。
 第一章から登場する住人達は、愛を除いていずれも特殊な事情を抱えている。
 第二章からの登場人物に(特殊な描写を必要とする)異能力者がいないのは、その描写を綿密にすると展開がダレるからだ。
 薫の場合は、家系の説明・お家事情・能力の説明・十六夜との関わりなど、説明すべき事柄があまりに多い。
 私がプレイ当初一番恐れていた事は、あくまで寮内での出来事を中心に話が進む本作の中で、その活動が一番外に向いている彼女の描写だった。
 薫自身があまり感情をあらわにしないタチなので(VS真雪&美緒は例外なのは言うまでもない)、どこまで感情移入できる展開を用意するかにも期待してしまう。
 結果、クリアしなくてはならないノルマが異常に増えてしまうのだ。

 しかし、演出は予想外の手法を取る事によって、これのほとんどをクリアしてしまった。
 主人公の認知圏外で活動しているという設定を逆手に取り、さらには子供の頃からの付き合いの十六夜に語らせる事で、側面的な描写もやってのけた。
 秩父での事件解決後、雨に打たれながら帰って来たイベントは秀逸だ。
 あれだけ気丈な薫も、事件解決のためとはいえ霊を数多く(力ずくで)浄化してきた事に、心を痛めていた。
 すでに悩みに捕らわれている薫を主人公の前に劇的に登場させるというショートカットがうまく作用していて、その後の展開が非常に趣深くなる。
 薫自身が、これまでの自分の所業を切々と語る場面は、胸を締めつけるものがある。
 バス事故によって死んでしまった子供達の親の言葉を聞く場面は、本シナリオ最高の盛り上がりを見せる。
 主人公も、精神的に追い詰められる彼女をうまく支え切った。
 とにかく優しさに関してはほとんどスキのない主人公・耕介恐るべしである。
 多少薫への恋愛感情発生のくだりが突発的な印象を受けるが、先の件から初めて結ばれる展開までの流れは、結構自然に受け止められた感があった。

 このままのノリで最後まで行ってくれれば評価は間違いなくAだったのだが、その後“御架月”が登場してから、物語のバランスが悪くなった感がある。
 大きくバランスを崩すわけではないのだが、伏線が張られているにも関わらず唐突な印象が拭えない御架月の登場や、神咲の者を殺す目的で行動していた筈なのになぜか神咲一灯流が使えてしまったり(主人公に憑依するのはいいが、彼が神咲の技を練習しはじめてからほとんど時間が経っていない)と、いい加減な描写が突然登場する。
 まるで、その場のノリで思いつきを組み込んだようにしか思えない。
 また、せっかく盛り上がりつつある肝心なシーンでなごやか系の音楽を流したり、畳に布団布きの薫の部屋に、Hシーンの時だけベッドが出現したりと、演出上のミスが後半連発するという問題もある。
 エンディングも、一応の解決として納得できなくもないが、イマイチ綺麗に締まっていない。
 御架月の異常な変貌の仕方は笑って許せるとしても、なんか四割ほどしか解決していない気がするのは私の気のせいなのだろうか…
 
 またシナリオ評価には加えていない欠点として、薫自身に真剣を所持する心構えというものが著しく欠如しているというものがある。
 事件関連外の場所で…あまつさえ、寮内の些細ないざこざにまで十六夜を振るいまくるのはいかがなものか。
 これは、「うる星やつら」で面堂終太郎が日本刀を振り回しているのとは、全く事情が異なる
 はじめからギャグとしてのスタンスで、意味不明に日本刀を取り出して振り回すというなら、そういうものだと納得する事は可能だが、剣について緻密な設定があり、警察にその必要性を認められているという状況が説明されている以上、薫の場合は真剣を振るう事にいちいち理由が必要になってくる筈なのだ。
 日本には銃刀法という法律があり、また同時に、真剣や銃器を所持する資格・免許も存在する。
 薫がそれを正当に取得しているかどうかは知らないが、仮にあったとしても、それを自宅敷地内で自由に振り回して良い事には繋がらない。いや正確には練習程度ならともかくとして、冗談や峰打ちだったとしても、人間相手に振り下ろして良い訳がない
 対象の人間に当てるつもりはないからと言って、銃口を逸らしてライフルやショットガンを撃つのと同様の事だ。
 ましてや薫は、真雪編に至っては後ろ向きの状態の真雪に向かって、木刀を振り下ろすという暴挙をやっている。
 どうもこの辺が、「ドタバタギャグ」というのを言い訳にした理不尽な演出に見えて仕方ないのだ。
 ギャグだからどんな事をやっても構わない訳ではない。最低限のルールがある。
 ギャグ面とシリアス面での常識観念…設定を、自在に変更・改訂しまくって良い筈がない。
 薫の場合、自身のキャラ描写の中に組み込まれている筈の常識観をすべて逸脱してしまう所に問題があるのだ。 
 そもそも、それ以前に薫という存在を警察がどの程度認知して仕事を依頼しているのかすら、不明瞭だというのに。
 どう考えても、薫が真剣を振るって霊を浄化している作業は、警察側が「黙認」しているだけとしか思えない。
 だから不用意な場所での使用は、彼女にとっていつでも不利な状況になってしまう筈だ。
 それくらいの事、ちょっとみれば誰しもが考えつく事なのだから、安易に演出に取り込んで欲しくはなかった。
 あれのために、薫は十六夜の本体自身を大切に扱っているという印象が皆無になってしまった。
 私が、薫を好きになれない理由がこれなのである。


 なお第三章での薫の言葉から、「とらハ1」の春原七瀬と思われる幽霊の存在が報告されるが、この辺はサービスなんだろうね。
 七瀬激萌えだった私は、ここで号泣したした(大嘘)。
 薫は、真一郎達と同じ学校なんだものね。千堂瞳と同じクラスだし。
 こういうさりげない前作との繋がりは、面白いね♪

 ところで薫って、別ヒロインの展開に登場した方がキャラが立ってると思ったのは自分だけ?


そげな格好で寮内ばうろつかれては困ります!