仁村知佳/評価D
☆さざなみ寮の住人で、唯一家族(姉)が同居している少女。
知佳は生来の奇病を患っており、遺伝子異常によって人間を遥かに超越した力を発揮する事が出来る。
天使のような美しい翼と念動力、そして自粛してはいるものの強力な読心術も持っている。
その異能からこれまで辛い思いを数限りなくしてきた彼女も、姉・真雪や、他の住人の暖かな理解を得て幸福な生活を営んでいた。
しかしある日、彼女が通う病院に自分と同様の能力を持つという少女が現れ…
まずは全体の流れ。
第二章までは、知佳という特殊な存在を巡って、あくまで一般人の域を出ない主人公の気配りと行動、兄妹関係を模した付き合い方からどういう離脱をして結ばれていく事になるのかを、まったりとした雰囲気を維持しながらも明確に描いており、なかなか微笑ましい。
またデパートで主人公を迷子として呼び出しを掛けたり、岡本みなみと特に仲良く友達付き合いしている描写を挿入したりで、さりげなく面白い演出を加えて変化をつけている。
多分に他キャラとの共通ルートを通過する都合上、微妙な味付けの場面がどうしても多くなる。
だが知佳の場合、誰のシナリオでも重要なキーパーソンを果たす場合が多いため、それでも存在感をアピールするには充分なのだ。
だから、海に遊びに行った時の能力全開や、その後の真雪の激怒などのシーンに、さらに厚みが感じられる。
知佳の能力・人と違う部分への注意をなんとなく忘れた頃に、そういうイベントを配するバランスは素晴らしいと評価したい。
しかし、知佳の場合はその能力についての問題点をある程度解決しなければならないというノルマがある。
それを消化しようとし始めた第三章になった途端、話がおかしな方向に向かってしまうのは非常に残念。
先の評価が著しく下がってしまった原因は、ここにあるのだ。
ストーリーをご存知の方はピンと来ると思うが、これは寮の住人の中で唯一第三章から登場するリスティーが最大の原因だ。
知佳と主人公の恋愛関係をだいたい描ききってしまった以上、第三章を丸々新しい事件の展開としているのは構わないのだが、物語は完全にリスティ中心に動いてしまい、知佳を巡った展開はおざなりになってしまう。
知佳と同タイプの存在を後から出したからといって、その子の説明を省略するわけにはいかない。
その描き込みのために、本来知佳を巡るエピソードに費やさなくてはならない期間を利用したのだ。
結果、一部知佳の視点と主人公の視点が交互に入れ替わるという場面があるものの、事実上の主役はリスティになる。
主人公を含めたすべての人間が、クセありの新住人・リスティに注意を向けてしまうため、一体なんのシナリオなのかがわからない。
まして、だいたい同様の内容をこの後に紹介するリスティ編でもやっているのだから、工夫次第ではいくらでも省略が可能だった筈だ。
あまりに変わってしまった雰囲気は、第二章までの淡いイメージを完全に破壊してしまった。
またエピローグに向かう過程でリスティが暴走するというトンでもない盛り上がりがあるため、もはや知佳が四枚羽を振り乱しても収集が着かない状態となり、物語の統一感は完全に破綻を来してしまう。
場面それぞれを繋ぐ過程と余韻を思いきり省いてしまっているため、プレイヤーは展開に置いていかれてしまう。
ましてや寮がほとんど破壊されるという程の惨事にまで発展するにも関わらず、これらを表現するCGが皆無のため、彼女達の力の恐ろしさが全然伝わってこないという弊害もある。
ここでも、盛り上がる(べき所)で必要なものを忘れてきてしまうといういつもの問題点が露呈しているのだ。
ましてや、知佳が出かけた時に着ていた服が、イベントCGのものと食い違っているという根本的なミスもあるし…。
知佳とリスティを絡ませる事自体が、実はあまり大した意味を持っていないという問題のために、エンディング付近はものすごくぞんざいな印象ばかりになってしまう。
突如、それぞれの能力を活かした仕事をしたいと言い始めて、国際救助隊特殊分室室長代理などという奇妙な部署に配属されるというエンディングには、もう馬鹿馬鹿しさしか残らない。サンダーバードじゃないんだからさぁ。
明らかに、途中でキャラクター描写を放棄しているのではないか、これは?
確かに、物語としてはオチを付けているかもしれない。
異常な能力に悩む二人の少女が、自分たちにとって最高になりうるかもしれない未来を手に入れたというのは、確かに幸福な結末なのだろう。
…だが、肝心な何かが置き忘れられている。
他のヒロインのエンディングで、その能力を(多分)隠して普通のOLになったという物があったが、そちらの方がよっぽど納得出来るし、説得力がある。
制服を着て、翼を展開して、にっこり笑って敬礼しているCG一枚だけで納得しろって方が無茶だ。
せっかくこんなに良いキャラになったというのに、その扱い方を勘違いしたために全てを台無しにしてしまったように思えてならない。
なお、彼女は遺伝子異常の弊害なのか、標準体重が147Kgにも達しているという設定がある。
それを念動力で普通のレベルまで軽くしているそうだが、時々その設定を忘れてしまう。
熱を出して不意に倒れ、主人公が普通に抱きとめるという場面が何度か登場する。
ずいぶん反応が素早く、放り出された土鍋の動きにとっさに補正を掛ける事が出来たりするが、こういう時までそれが出来ているとは到底思えない(土鍋の件を始めとして、トラブルの場面はすべてに説明が付加されている)。
さらに、キャラデザが…
これはあまり言いたくない事だが、やはり誰もが思った事らしいので、記しておく。
どー見ても「柏木初音」にしか見えないデザインは、イメージ的にもマズイと思う…
ましてや性格や年齢まで(!)一緒なんだもん。
ある意味、これが最大の欠点かもしれないね。