槙原愛/評価C
☆舞台となるさざなみ寮の若きオーナー・愛は、耕介より一歳年上の従姉に当たる獣医のタマゴだ。
別名・カナヅチペンギンあるいは陸まんぼう。
10年前に祖父を亡くしてからというもの、天涯孤独な身の上で生きてきた彼女は、心の中に耕介との思い出を秘め続けてきた。
しかし、すっかり愛の事を忘れていた耕介は、初対面のような態度で寮にやってくる。
それでも暖かい笑顔で彼を迎えた愛は、その想いを伝える事なく…
うーん…
最後に一番重要なキャラを…と思って順番を組んだら、どうやらこれが一番グランドエピローグにふさわしいシナリオだったらしい。
つまりは、このゲームのグランドヒロインは愛だったという事なのだろうか。
小さい頃にちょっと出会っただけなのに、身寄りの少ない彼女は主人公を思い続け、逆に主人公は忘れていた。
それなのにそれを責めたりせず、優しさを以て接する愛の態度は、まこと涙ぐましいものを含んでいる。
おそらくは前作の小鳥にあたる存在ではないかとも思うが、小鳥の存在をさらに煮詰め、孤独というエッセンスで味付けし直したのが愛だったのだろう。
終始“優しさ・暖かさ”を抱く彼女の仕草は、プレイヤーの心を和ませるのに充分だ。
しかし、いかんともしがたい欠点をこのシナリオは含んでいる。
愛はその性格のため、ほとんど自己主張する事がない。ゆうひの対局に位置すると言っても良いくらいだ。
すなわちそれは、独自に与えられたシナリオの中でも深く印象付けるものが弱いままである事を意味している。
シナリオそのものは、非常に上品でそつなく仕上がっている。
互いに告白したからと言って、そのままHシーンになだれ込む展開にやや違和感を覚えたり、付き合い始めてからも互いに敬語で会話し続けたり(会話場面は従来のものを流用しているために起こる弊害)という問題点は目立つが、まぁ許容出来る範囲ではないかと思われる。
しかし、あまりにおっとりし過ぎていて感情の起伏が伝わってこないというのはいかがなものか。
おかげで、彼女独自のイベントとしてはっきり記憶しているのは、壮絶なお弁当と廃車になってしまったミニクーパーの件くらいだ。
しかも弁当の件は、知佳が絡んでいるから記憶に残り易いという理由もある。
これだけ内面に秘めた思いという大切な要素を秘めながら、それを有効利用したようには到底思えないのだ。
非常に惜しいマイナス点だ。
さらに、獣医を目指して頑張っているにも関わらず、そちら方面の活躍が本編内に皆無というのもツライ。
他のキャラクターは、それぞれが属している事柄を煮詰めたシナリオを展開しており、善し悪しあれど結末まで導いている。
ゆうひの音楽や薫の退魔道、みなみのバスケなどがそれだ。
一見別ルートを辿っているようにも思える瞳やななかにしても、護身道というものがバックに存在していなければ、物語の中に登場する事だって出来なかったかもしれないのだ。
しかし、そういったレールから愛だけは外れている。
理由は不明だが、愛にとって本当に大切なものというのをはぐらかされたような後味さえ残ってしまうのだ。
一生懸命勉強している場面をちらちら映す事だけで、印象を変えられるレベルの問題ではない。
これが、第一に気になったポイントだ。
第二に、ここでも第三章からリスティーが関わってくる事になる。
彼女の登場は、さざなみ寮全体にとって大きな変化である事には変わりないため、どうしても愛シナリオで関わらせなければならない事はよく解る。
しかし実際に発生するイベントが他のシナリオの流用ばかりでありイマイチ独自性がないばかりでなく、愛が身を以て気持ちを伝えて分かり合おうとする場面も、先の問題が関係して感情が伝わってこない。跡が残るやけどまで負っているというのに、だ。
ピントがズレている感があるのだ。
また、リスティーが他シナリオよりも妙に早めに和解するため、どうしても廉価版イベントという印象が拭えない。
後の、主人公と愛を親に見立てて甘えるリスティーの図はとても良好な雰囲気に仕上がっているため、非常に残念だ。
だが、ラスト間際の演出にはやはり目を見張るものが多いのも事実。
普段あまり感情的にならない愛が、ぼそりと呟いた「お別れは嫌です」という言葉は、ある意味このゲーム全体の根底にある気持ちの代返ではなかろうか。
とらいあんぐるハートには、基本的に一度関係を持った者同士が別れたり、外因の影響で切り離されたりという展開がほとんどない。
それは、制作者がそういう描写を露骨に避けているという証明ではないかとも考える。
とはいえ、その理由は只一言のこの台詞に代返されているのだ。
誰だって、親密な関係からの別れを望んだりはしない。抱いて当然の感情なのだ。
だがそれを、別れという事柄にトラウマを抱いている愛に語らせる事に意味がある。
主人公と本格的に結ばれようとする時に、まるで彼と入れ替わるように廃車になってしまった祖父の形見の車は、とても意味深な存在となって消滅する。
ここに別れは確かにあったが、代わりに新しい出会いを得る事が出来たのだ。
暴走トラックとの接触で車は大破したというのに、誰も怪我人が出なかったというのも、偶然ではないのだろう。
その辺りを深く考えさせてくれただけでも、このシナリオには充分な魅力があるのだ。
ベランダでのプロポーズの場面で二人を見守る住人達の姿は、オリジナルCGでもって描かれている。
まるでグランドエピローグそのものではないか!
ここがある意味で、さざなみ寮という舞台が描き出した本当の結末だったのかもしれない。
さりげなく心を熱くさせてくれる、良い場面だった。
で、こいつのバッドエンドが2つあるという事実を後から知って、慌てて再プレイしたんだけど…書く事がない。
だって、「きちんとしないでだらだら続く」ってのと、「ミニクーパーから脱出して死亡」だけなんだもん。
前者は「エンド」にすらなってない。
ううっ、こんなのをわざわざ確認するためだけに、あんな大仰な訂正申告しちゃったのか…恥ずかしいかも…(鬱)