Rainy Blue
 
 恋人を失った後に、何を想うのか…。
 
1.メーカー名:R.A.N-software
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:C
5.オススメ度:B’
6.攻略難易度:C
7.その他:ED曲も、CD音源にして欲しかった〜
 
(ストーリー)
 主人公・北山緋路(ひろ)の幼なじみで恋人の司条蒼(しじょう・あお)は、ある雨の日、緋路が絵を描いている最中に、女の子を庇って交通事故で死んだ。
 そのトラウマから、絵を描くことができなくなってしまった緋路。
 絶望して自殺を図った緋路を諫めたのは、かつて蒼がくれたマスコット人形だった。
 勝手に動き出した人形・蒼依(あおい)に励まされ、元気を取り戻しつつある緋路だったが、依然として絵を描くことは出来ない。
 そんな時、蒼に瓜二つの少女・烏丸碧(からすま・みどり)が転入し、美術部に入部してきた…。
 
 『Silver Moon』に続いて、色をタイトルに盛り込んだR.A.N-softwareの新作。
 今回は、「絵」がキーワードになっているせいか、路を始めとしてしろ子・次郎・也・緒利(さおり)・恵・パステルと、名前が色で統一されている。
 また、緋路達が通う高校の名前も、都(あやみや)学園と、色関連の名前になっている。
 鷹羽は、こういうこだわりのあるネーミングが大好きだ。
 
 テーマとしては、“恋人を失った少年が心の傷から立ち直るまでの物語”ということで、どの娘と結ばれても、緋路は再び絵を掛けるようになっている。
 
 失恋、それも思春期に初めての恋人と死に別れるというのは、かなりヘビーな経験であり、ましてやそこに“守ってあげられなかった”という悔恨なんぞ加わった日には、ちょっと簡単には立ち直れない。
 けれども、人はそれでも生きていかなければならない。
 どんな悲しみも乗り越えて。
 二度と恋をしないという人も中にはいるが、大抵の場合、いずれは新しい恋を見付けることができるものだ。
 このゲームは、そうやって周囲の人達に支えられながら立ち直っていく少年を描いた物語なのだ。
 
(真黄シナリオ)
 このゲームで最も行きやすいシナリオらしく、誰ともくっつかないと、真黄シナリオのバッドエンド扱いになることが多い。
 小さな頃から一緒に住んでいた妹的存在である真黄が、緋路にとって、やはり大切な存在であるという観点から「支えてあげたい」「ずっと側にいて欲しい」という想いの転化として、恋に至るという展開。
 一緒に住んでいた幼なじみが外国の親の元に行くことになり、出て行きやすいように彼女が出来たフリをするという結構よくあるパターンのため、イマイチ物語としての厚みに欠ける感がある。
 紅子との恋人ごっこをもう少し何とかすれば、もっと厚みのある物語が描けたのではないかと思うと、惜しい気がする。
 …ていうか、紅子いい人過ぎ。
 でも、そこだけ3人称なのはちょっと…。
 
(紅子シナリオ)
 真黄シナリオ終了後に現れる番外編。
 ほとんどバレバレの紅子の恋心の種明かし編だが、ゲーム中の人物に、緋路の人柄を語らせるのが目的と言えなくもない。
 あれで、プレイヤーが客観的な緋路像を掴みやすくなるようにしているらしい。
 最終的に紅子が橙也と付き合うことになる理由は、「側にいてくれないと寂しい」=「大切な人」という真黄シナリオでの結論と近いものがある。
 だからこそ、真黄シナリオの後に出現するのだろう。
 どうでもいいが、最後に紅子が橙也撃墜に使ったのが『民明書房』の霊界大事典だったところに、スタッフのシュミが見えた気がする。
 
(碧シナリオ)
 かつての恋人と瓜二つの少女という、これもよくあるパターンながら、碧に“前の恋人に自分を見て貰えなかった”という過去を与えたため、このゲームで一番深みのある物語に仕上がった。
 碧は、“一番好きでなくてもいいから、自分のことを見ていて欲しい”という一歩譲らざるを得ない恋心と、“自分だけを見ていて欲しい”という当たり前の独占欲の葛藤から、前の恋人と別れたという経緯がある。
 
 勿論、緋路に蒼という彼女がいたことを知った上で緋路と付き合おうとしたのだから、当初、緋路が自分に蒼の面影を見ていたであろうことは承知していたはずだ。
 ただ、彼女は、それでも緋路が自分を『碧』として見てくれると信じていた。
 だからこそ、緋路に抱かれた後で『私でいいって言ってくれた』という言い方をしているのだ。
 碧はその時点で、緋路が蒼より碧を選んだという感覚になっていた。
 そのため、緋路の部屋に書きかけの蒼の絵があるのを見て、自分が蒼の代替品であると感じて傷ついたのだ。
 
 一方、緋路にとっての碧の存在というのは大変微妙なもので、実のところ、緋路自身判っていない。
 やはり、碧が蒼そっくりであるということがネックになっていて、緋路は自分が碧を蒼のそっくりさんとして見ているのではないかと疑心暗鬼に陥っている。
 本当は、緋路は蒼と正反対の性格の碧の行動に、意外性のようなものを感じて惹かれていったようだ。
 “あ、こんなところが蒼と違う”という風な興味の持ち方だ。
 恋愛というものは、相手に対する強い興味から始まるものだから、緋路が碧を好きになる素地は最初からあった。
 ただ、緋路の純粋さ(或いは蒼の死に対する後ろめたさ)が、“碧を蒼の代替品にしているんじゃないか”と感じさせているに過ぎない。
 
 一般的な話をしよう。
 初恋の人とそのままゴールインできる幸運な人はそういないから、大抵の人は複数の異性を好きになっている。
 そして、人には本人が意識するかどうかはともかく、“好みのタイプ”というものがある。
 が、好みのタイプは最初から決まっているわけではなく、恋愛経験を重ねるうちに変化していくものだ。
 一度付き合った相手というのは、好きになった要素というものを持っているわけで、それが新たに“好み”に加わる。
 だから、新しい恋人は本人が意識するしないは別として、前の恋人にどこかしら似ているものなのだ。
 つまり、“前の恋人に似ているから”好きになったのではなく、“前の恋人同様、好きなタイプだった”から好きになったのだ。
 
 緋路の場合、碧の外見から気に入ったという経緯があるから、必要以上に気にしているが、要するに碧の顔は緋路の好みだったのだと言ってもいいだろう。
 少し乱暴だが。
 その上、絵を描くのが好きで話が合うときている。
 それは、気にならない方がどうかしているだろう。
 緋路を縛っているのは、自分の気持ちに対する自信の不足からくる不安に過ぎない。
 
 最終的に碧は、身を捨てて自分を助けた緋路を信じることが出来るようになった訳だが、彼らが将来も付き合い続けたとして、蒼の影が消え去ることはないだろう。
 緋路が描きかけの蒼の絵を完成させた時、2人は本当に、蒼を思い出の存在として認知できた時なのだと思う。
 
(ましろシナリオ)
 ましろの明るさと死を恐れるギャップがイマイチ鼻につくが、全体的なストーリー自体はかなりいい。
 何より、他のシナリオでは銀次郎や緋路を救うために奇跡を起こしてきた蒼依が、ましろを1人では死なせないという約束を守ったに過ぎないところに、“蒼依の力では、まだ死んでいない人を助けるのが精一杯”という限界が表れている。
 
 このシナリオは、緋路が大切な人を再び失ってしまった傷から立ち直るという、ましろが残してくれた勇気を描きたかったんだと思う。
 奇蹟を起こしたのは、ましろの強さだった。
 だからこそ、エンディングでましろの背中には、天の使いの証である羽があるのだと思う。
 あのビデオは、緋路にとっては、まさしく福音だったから。
 
 ただ、ましろがどう見てもせいぜい中学生というところはいただけなかった。
 いや、Hしないなら小学生だって構いやしないけどね
 何と言っても、緋路がましろを好きになる過程というのがほとんど描かれていないものだから、どうにもこうにも納得がいかない。
 また、ましろが思いっきり幼児体型だからね〜。
 
 それともう1つ、ましろの“自分のせいで蒼が死んだ”という罪悪感を、もっと正面から描いて欲しかった。
 緋路の罪悪感と同質で、しかももっと深いはずなのだから。
 
(トゥルーエンド)
 このゲームの音楽モードには、ED曲『Wish You』が入っている。
 にもかかわらず、これまでのどのエンディングでも、流れるのはOP曲『Blue Rain』だった。
 それで、「最近流行の未完成品かな〜」とか思っていたんだけど、ちゃんとあったんですね。ED曲が流れるシナリオ。
 よって、これがトゥルーエンドです。
 
 ここから先は、あまりにもネタばらしになるので、平気な人だけ読んでね
 
(総論)
 シナリオの出来自体はイマイチだけど、テーマの深さやオチの付け方は、前作『Silver Moon』よりも上だと思う。
 “大切な人との死に別れ”という人生で避けては通れない悲しみと、それでも立ち直る強さというものをテーマにして、よく頑張っている。
 これは特に碧のシナリオで顕著で、それ故に、鷹羽はやはりメインのシナリオは碧シナリオだと思う。
 トゥルーエンドは緋路にとって救いではあっても、やはり自力で立ち直った碧シナリオの方が、正しい立ち直り方だろう。
 前にも書いたが、“それでも人は生きていかなければならない”のだから。
 
 
(鷹羽飛鳥)


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