二重影 〜SHADOW AND SHADOW〜
 
 前作「終ノ空」で独特の世界観を披露したケロQの新作。
 古事記などの古い文献を参考及びベースにして物語が展開するなど、今回もなかなかの話題づくりをしてくれた本作。
 このメーカー独自の和風ファンタジー世界を堪能しよう!
 
1.メーカー名:ケロQ
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:A
4.H度:A
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:C
7.その他:久々に男キャラがカッコイイ作品をやらせて頂きました。
 
 
(ストーリー)
 世は戦乱の時代がようやく終わり、徳川の太平の世に移り変わる頃。
 主人公・二つ影双厳は、生まれた時から二重影という、影が二つ出来る呪いを持つ異形の剣士だ。
 二重影は、事あるごとに彼の体を支配しようと、苦痛を与え、精神への攻撃を試み、また凶行に走らせたりもする。
 この呪いを解くため、放浪の旅を続けていた双厳だが、呪われた島として名高い淡炎島(あわほむらじま)に何か手がかりがあると踏んだ彼は、そこの海賊対策の用心棒の仕事をするため、島に渡る。
 だが、そこでは双厳の想像を絶する、とてつもない事件が待ちかまえているのだった…
 
 
 さて、前作「終ノ空」でシュールな世界観と謎だらけの世界観、両方を見せてくれたケロQさんの新作というコトで、期待半分怖さ半分で購入した。
 正直な事を言うと、「終ノ空」自体は俺っち自身の評価はあまり高くなく、どちらかと言えば「かなり難あり」というものだった。
 しかし、それでも独特の着目点やテーマを持った作品作りなど「切って」しまうには、少し惜しい作品でもあったため、今回の「二重影」には注目もしていたのだ。
 実際、もしこれでダメならケロQは切るつもりだった
 そして、結論から言うと、どうやら俺っちの心配は杞憂だった様だ。
 久しぶりにのめりこんでプレイしてしまった。
 俺っちのゲームスタンスというのは、一日に一時間から二時間程度時間を決めて少しずつ進めていくタイプで、一気に駆け足プレイをするのは本当に稀だ。
 だが、今回の「二重影」は少ない時間を縫ってやったものの、ストーリーの先が知りたいがために一気にやり遂げてしまった。
 こういうのは最近では「Kanon」ぐらいのもので、本当に久しぶりだった。
 
 
 まず、何と言ってもストーリーが非常に面白い。
 古事記に出てくる伝説をベースに、淡炎島で展開される冒険活劇はテンポも良く、また後半になるにつれ様々な謎が紐解かれていくため、非常に読んでいて心地よい。
 これが上でも書いている、俺っちが一気にストーリーを知りたくて進めたくなった要因になっているのだが、シナリオはとにかく謎解き要素が強く、様々な伏線を一つ一つ解決していく事で、やがて全貌が見えてくるというタイプで、感覚的にはかつての名作「EVE bursterror」に近い。
 特に島の中で行われている儀式が六日目を過ぎ、裏の儀式に入り始めてからの展開には、かなり感心させられた。
 蛭子の呪いによって次々に殺されていく他の用心棒達や、結構いい味出しているサブキャラまでこの呪いによって容赦なく死んでいく様は、近年まれに見るハードさ。
 シリアスな雰囲気にぴったりと沿っていて実に良い。
 そして、生来孤独であるはずの双厳が、それらに心を痛めこの呪われた島の儀式に立ち向かう様は異様に説得力がある。
 蛭子の呪い、島を取り囲む無数の鳥居、この島で唯一生き残れる双子である巫女イル・スイの存在、と呼ばれる海底火山、蜃気楼の島・淡島……
 後半、ようやく儀式の全貌が明らかになり、その意味が分かった時、協力者の柳生十兵衛が「コレを考えたヤツは、よっぽど頭がおかしいな」と言う場面があるが、よくもまあ、こんな複雑に絡み合ったシナリオを、しかもちゃんと消化しきって考えたものだ。
 クライマックスも、巫女であるイル・スイが、彼女らに残された「可能性」を双厳や彼を信じるヒロインに託して、自分たちは本来行かねばならない場所に還っていくという、ありがちなのだけれど涙を誘う展開で、これまた良い。
 こういうのは、徹底した作品の雰囲気作りと練れたシナリオがあったからこそ陳腐にならなくて済むものだ。
 
 次に評価したいのが、とにかく作品全体の雰囲気がカッコイイ事。
 まあ、何と言っても、上でもちょっと触れているが、名サブキャラと言っていい柳生十兵衛
 男の世界をたっぷりと堪能してくれと言わんばかりの格好良さにホレた!
 一度は命を狙った事もある経緯から、なかなか心を開こうとしない双厳に対して協力者という態度で接するのだが、情に厚く、最後の宿敵・無影との決戦の時など、普通の剣が通用しない無影と対峙して時間稼ぎをするなど、アツすぎる展開が多々ある。
 また、主人公・双厳も孤高の剣士という雰囲気が良く出ていて実にいい。
 幻の剣技・愛洲陰流の使い手であり、またかなりの見識と素養の深さをもっている、とても一浪人とは思えないスーパーキャラクターなのだが、何故彼がその様なものを身につけたかの理由も後半明白になるし、なにより鋭い洞察力を持つ双厳が、この島の謎を解いていくのは爽快だ。
 何て言うか、ちょうど「AMBIVALENZ」のシュラと「EVE」の天城小次郎のギャグ要素を取り除いて足して2で割った感じのヤツ、というのが解りやすい表現だろうか。
 シリアスな台詞回しも手伝ってカッコイイ事この上ない。
 特にED直前の愛洲舞香との「これは、私たちみたいに戦いに明け暮れた人間への最後の罰かもしれないわね…」から続く会話は冗談抜きでくるものがあった。
 他にも、戦闘シーンの時に挿入されるラフ画っぽいCGなども、なかなかのセンスの良さで雰囲気を盛り上げてくれる。
 ここら辺は、演出の勝利と言ったトコロだろうか。
 
 システムも前作「終ノ空」に比べると、格段に進歩した。
 まず、とにかく処理が早くなった。
 前作の、台詞をウインドウに表示し、状況説明や心の中の台詞などは画面を暗くしてヴィジュアルノベル風に文章を表示する手法は今回も健在なのだが、画面がすぐにぱっぱと切り替わる様になったので、全然気にならなくなった。
 また、この作品は特定の移動先に行くことによりシナリオが進むタイプで、コマンド総当たり的な事をしなくてはならないのだが、何もない所では文章が殆ど表示されないで次の移動先のコマンドが出るので、意外とストレスは感じない。
 他に秀逸なのは、ストーリーで解りにくいトコロはフレキシブルレーションシステム、略してRATIO…じゃなかった、フレーズインストラクションシステム(P・I・S)を採用し、用語解説をしてくれる点だ。
 ちょうど、ウチのHPで鷹羽飛鳥氏後藤夕貴氏がよく使う、用語解説と同じ様なものを採用しているのだ。
 ちょっと考えれば、誰でも考えつきそうなシステムだが、前作の「とにかく解りにくい」シナリオの反省点を活かし、上手な注釈の入れ方を採用した点は評価高い。
 ちょっと、シナリオライターの知識ひけらかしの様なイメージも受けるが、古代日本の伝承をテーマにしているこの作品においては、必要なシステムだったと思う。
 この作品の良い要素として、知識欲を満たしてくれる、というのがあると思う。
 P・I・Sの事を度外視しても、なかなかに色々な知識…特に伝承系の知識が多く学べるのはいい。
 そして、こういう作品の特性を理解し、プレイしやすい環境を色々とシステムに組み込んでいる点は評価してあげたい。
 全く、「終ノ空」のあのストレスだけしか記憶に残らないシステムがウソの様だ(笑)
 
 
 さて、さんざん誉め倒したので、少し欠点にも触れておこうか。
 
 まず、原画の方が今回も3人いる様だが、今回は全員、比較的ウケ線の絵の上に、似た絵柄だという事も手伝って「終ノ空」ほどの違和感は感じない。
 しかし、未確認だし確定ではないのだが、どうやらキャラクターごとに違う原画さんというやり方ではなく、あくまでもバラバラに担当している様なのだ。
 例えば、桔梗
 彼女の普段の立ちポーズCGと、HシーンのCG、そして彼女が死ぬイベントの時のCGは、どう考えてもキャラデザが同一人物だとは思えない。また、Hシーンの時も随分違う絵柄があったりして、目が点になってしまった。
 仮に、彼女のキャラデザがあくまでも同一人物の手によるモノだとしても、今度は絵がが安定していない事になる。どちらにしろマイナスだ。
 
 次に、エンディングを迎える事が出来るヒロインに、あまり魅力を感じられない点。
 はっきり言ってしまうと、この作品のメインディッシュはあくまでも主人公・双厳であり、悪い言い方をするなら女の子キャラは、おまけ程度にしかなっていない。
 あえて言うなら、イル・スイの二人がヒロインという事になるのだろうが、彼女らとのエンディングは存在しないし、蔵に閉じ込められているという設定上、あまり双厳と顔をつき合わせないので、どうしても今ひとつヒロインとしての生彩に欠ける。
 しかし、脳天気な風玲や、イマイチ性格のつかめない、そして終始ムっとした態度を崩さないイル・スイの護衛の桔梗では、どうにもヒロインとしては弱すぎる。
 最後の展開がイル・スイがらみのため、あえて言うと桔梗がヒロインなのかな、という気もするが、やはり弱い。
 それよりなにより、一応マルチエンディングなのだが、最後の所以外は誰のルートでも大して内容が替わらないので、全エンディングを確認するのはシナリオが長い事も手伝ってかなりかったるい。
 いっそ、エンディングは一つにした方が良かったんじゃないかな。
 ついでに指摘すると、後半淡島に乗り込む時にパートナーとしてそのルートのヒロインを連れていくけど、淡島での彼女らの対応が、台詞まわしまで含めてみんな殆ど同じなのには閉口。
 これが、ヒロイン達の個性を潰しているのに一役買ってしまっている。
 また、ヒロインと言えば、紗枝は最後どうなっちゃったの?
 いかにもヒロインという顔で出てくる割には、十一日目に取り乱して姿を消してから一回も登場してこない。
 この段階で島から脱出できないはずだけに、非常に気になる。
 まさか、六日目のあの中途半端なエンディングが紗枝エンドのつもりだろうか? 脇にしておくには少々もったいない様な気もするが…
 
 あと、最後に書いておきたいのが、たまに文章に変なトコロが出てくる事。
 双厳が思考中の文章の最中に、突如シナリオライターの見解が入ってきたりするのは、かなり解りずらいし、混乱の元だ。
 また、戦国時代の日本(に近しい)世界観の物語なのだから、台詞の中に「キス」とか「サービス」って単語を使うのはヤメて欲しい。
 何も無理に時代がかった言葉を使え、と言っている訳じゃない。
「キス」は「口づけ」でもいいだろうし、「サービス」はあの場面なら「余興」あたりで十分だと思うが。
 こういうトコロに統一感を持たせるのは、結構大切な事だと思う。
 その点では「AIR」のSUMMERシナリオなんかが秀逸だったね。
 
 
(総評)
 若干の文句はあるものの、総合的な出来はかなり良く、コンシューマに移植されたのも納得だ。
 開始直後にいきなり残酷シーンのオンパレードなのは若干引くが、そんなことを差し引いてもゼヒともオススメした一品。
 ちなみに発売されたのが2000年11月下旬。
 入手したのが2001年1月だったのだが、ホント、出来うる事ならあと2ヶ月早く出会っておきたかったものだ。
 
 とにかく、一度は切ろうとしたケロQだけど、コレは正に起死回生の一発だったと言っていいだろう。
 次回作も大いに期待!
 
(梨瀬成)



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