Kanon
 
 7年振りの雪の街に降り積もる物語…
 
「ブレイザーキャノンっっ!!」1.メーカー名:ビジュアルアーツ/KEY
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:A
4.H度:D
5.オススメ度:A
6.攻略難易度:D
7.その他:初夏に発売された、冬が舞台の物語。そう言や、クリスマス頃発売の予定だったんだっけ…。
 
(ストーリー)
 両親の海外赴任のため、叔母の家に下宿することになった主人公。
 以前は夏休みや冬休みの度に遊びに来ていた家なのに、7年前からは一度として訪れたことはなかった家。
 不思議なことに、電話1つしたこともない。その頃の記憶もはっきりとしない思い出の街…。今、この街で物語が始まる…。
 
 よそのメーカーの作品ではあるけれど、このゲームは一応、『MOON.』、『ONE〜輝く季節へ〜』の流れを組む作品だ。
 そして根本に流れるテーマも、“つまらない日常の大切さ”という、これまでも主人公達が守ろうとしてきたものだ。
 今回は、“日常”を一旦失ってしまった後で、何とかして取り戻そうとあがく主人公の“想い”がメインになっている。
 特にあゆのシナリオでは、7年という長い空白を埋め、主人公自身の失われてしまった思い出までも取り戻している。
 まあ、一旦失われた“日常”が簡単に取り戻せるわけはなく、結局のところ、超常的な要因によってもたらされた“奇蹟”によって、幸せな日常が蘇るわけなのだが、その“奇蹟”自体が、誰かの強い“想い”によって生み出された力であるということも、このゲームの特徴の1つだ。
 それは例えば、あゆの“天使の人形”であったり、舞の力と心の分身たる“希望”だったりするのだが、その“想い”自体が長い年月を経ているものだから、嘘っぽくならなくて済んでいる。
 またあゆは、主人公が自分以外の女の子を好きになってしまった場合、自力で人形を見付け出して消えてゆくわけだが、その相手の女の子があゆと関わりがあった時には、その子に降りかかった不幸を取り除くために最後の願いを使っている。
 主な理由としては、主人公を悲しませないため、ということになるのだろうが、何にせよ、自分以外の誰かのために貴重な最後の願いを使ってしまうというところが、あゆの願いの切なさなのだと思う。
 あゆの心残りは、直接的には、自分の恋の成就ではなく、夕焼けの中に見た主人公の涙を拭うことだったのだから。今、彼を悲しませている原因を取り除くこと、それがあゆの最後の願いとなるのだ。
 元々は主人公の力で望みを叶えるはずの“天使の人形”は、栞のシナリオで語られるように、7年間のあゆの想いによってその性質を変えた。
 鷹羽は、主人公とあゆの願いが重なった時に、あゆの想いの力によって願いが叶うのだと思う。だからこそ、舞や真琴といった、あゆの知らない人のためには力を発揮しないのだ。
 というわけで、各シナリオの寸評いってみようか。
 
(月宮あゆ)
 本編のヒロイン。良くも悪くも、『Kanon』という作品は、あゆの存在抜きには語れない。
 主人公があの街のことをほとんど忘れているのは、あゆとのことを忘れたついでに過ぎないのだから。
 そして、あゆの存在をさっさと感じ取って、何かと主人公と一緒にいられるように計らってやっている秋子さんがとってもいい感じ。
 7年前に渡しそびれた赤いカチューシャをつけて現れたことと、復活の後、カチューシャをしていなかったことには、やっぱりそれなりの意味がある。
 私服で、試験のない学校。主人公が学校で言ったという言葉。
 料理ができないくせに母親と2人暮らしだと信じていたこと。
 高所恐怖症なこと。
 全てがラストに向けての伏線となっている。
 星占いで運勢が悪くて、「たい焼きが食べられなくなったらどうしよう?」などと騒ぐ姿には、「もう二度と食べられないと思っていたたい焼きも食べられた」という言葉がかぶるのだ。
 とにかく、あゆのシナリオの深みは、『Kanon』の中で群を抜いている。
 ただ、OPでの主人公のモノローグの後、同じ形式であゆのモノローグをやってしまったのはいただけなかった。
 あれのお陰で、鷹羽は最初、主人公のモノローグなんだと思っていた。ちょっとばかり混乱を招くよね。
 さんざん思わせぶりな展開をしているから、てっきり死霊だと思っていたのに、生き霊だったんで少し驚いた。
 
(水瀬名雪)
 ヒロインの座はあゆに奪われてしまったものの、キャラクター的には鷹羽のイチオシ。寝ぼけ姿が超ラブリー♪
 買い物に付き合うのを渋ると、夕飯がたくあんだけだの紅しょうがだけだのと言い出して、これまたラブリー♪ Hシーンがサマになるのも名雪だけ。
 最後まで痛がるだけっていうのも、なかなかにナイス。
 7年前に、あゆのこと自体は知らなかったものの、事件のことをある程度わかった上で、告白をしたという悲しい過去の持ち主。
 主人公が7年間音信不通だった理由も、事件のことと一緒に自分の告白さえも記憶から追い出しているであろうことも恐らくわかっているだろうに、変わらずに接してくれる強い子でもある。
 そんな名雪の性格形成上、秋子さんの存在が大きかったことは間違いなく、それだけに、秋子さんが死ぬかもしれないという時に、主人公と共に生きていく決意をしたことの意味は大きい。
 結局、あゆのお陰で秋子さんが助かったために、ちょっとばかりコメディタッチなエンディングになってしまったが、駅前で待つ主人公の前に名雪が現れたことは、彼女にとって一世一代の決意だったのだ。
 
(美坂栞)
 唯一、主人公と過去を共有していない娘。
 “いかにも”な展開過ぎて、先が読めまくったのが少々残念だった。
 折角だから、香里とのエンディングでも派生させて欲しかったところではある。
 香里の方が面白い話になりそうだし。
 
(川澄舞)
 ラストの、主人公が描く未来の生活があるために混乱してしまうのが惜しい。
 剣を捨てたところで、舞がさほど弱くなるものでもあるまい。
 ただ、甘え方が下手なことや、主人公への想いを隠してるつもりなのに丸わかりというエンディングは、彼女の不器用さがよく出ていた。
 ついでに、あからさまにいい人過ぎる佐祐理さんのコンプレックスが見られる派生エンディングがあるのもポイント高いぞ。
 
(沢渡真琴)
 …獣姦
 んでもって、今回のお笑い担当。…なんだけど、中盤からどんどん話がシリアスになっていって、一番重たい話になってしまった。
 真琴が少しずつ壊れていく様は、見ていて本当に痛々しい。真琴のラストだけハッピーエンドにならない辺りもなかなか。
 エンディングで、天野が「約束、守ってくださってるようですね」と言うのは、かつて彼女が「(真琴が消えてしまっても)強くあってください」と言っていたことを受けてのことだ。
 つまり真琴は死んで、というか、消滅してしまったのだろう。
 真琴の存在自体が『つかの間の奇蹟』だったから、エンディングで、更なる“奇蹟”は起きなかったのだと思う。
 天野は、一目で真琴の正体を見抜いてしまうような、体の良い説明役でありながら、同時に、真琴の存在と消滅に意味をもたらすキャラでもあった。
 真琴を介して、同じ悲しみを共有した主人公と天野には、心の交流が生まれたからだ。
 恋に発展するかどうかはともかく(鷹羽としては、そうあって欲しいのだが)、真琴の存在した意味はあったのだ。
 真琴は、単に悲しみをもたらしたのではなく、かつて心を閉ざしてしまった天野に、再び暖かさを与えた。
 天野がいなければ、主人公は混乱の中で潰れていただろうし、主人公との交流がなければ、天野は笑顔を取り戻せなかっただろう。
 それがシナリオ上の狙いだったかどうかはわからない。
 でも、主人公の真琴に対する想いは、やはり女の子に対するそれではなく、病気で死にそうな可愛いペットに対するそれに近いものだったと思えるから、やはり真琴の物語は、主人公と天野を引き合わせるためのものだったと思いたい。
 そんな深読みができる辺り、なかなか良いシナリオだった。
 
(総評)
 全体的には、よくまとまっていると思う。
 各シナリオのバランスが取れていて、「なんじゃ、こりゃあ!?」というシナリオがない。
 また、あゆと栞のシナリオで、“奇蹟”の意味が説明されるから、『ONE』の時のように、「結局、永遠の世界って何だったの?」的な疑問も発生しない。
 真琴については、前述のとおり天野が説明してくれるし、舞についても一応の答が与えられる。この点に関する限り、『ONE』を超えたと言ってもいいだろう。
 ただ、同じようなテーマを連続してやったことで、多少問題が生じてしまったことは否めない。
 雪の中で名雪やあゆを待ち続ける主人公や、伝言アイテムでの励まし、「私、笑っていられましたか」と言う栞など、どこかで見たような演出が結構ある。
 考えてみれば、自分の前から消えゆく幸せを繋ぎ止めようとあがく主人公の姿は、ある意味では、消えていく主人公が自分を繋ぎ止めようとした『ONE』へのオマージュ的な存在でもあるのかもしれない。
 しかし、ちょっと似過ぎている感が強過ぎる。
 一応余所のメーカーのゲームなんだから、もうちょっとひねるなりして欲しかった。これは結構マイナスだよ。
 まあ、50万円のヌイグルミが安売りされていたというネタは、あからさま過ぎなくて良かったけどね。
 もう1つ、栞以外のキャラは全員が主人公と過去を共有しているということが、結構ネックになっている。
 例えば舞と主人公が一緒に遊んだのは、冬じゃない。
 このことは、主人公にとっての“毎年冬休みに遊びに来ていた白い街”という印象を揺るがす存在ではあるまいか。
 更に、「さわたりまこと」という上級生に対する主人公の憧れは、世間一般で言うところの「初恋」というものだと思う。
 そうなると、明らかにそれより後のあゆとの初恋と矛盾する。
 まあ、主人公が「あれは初恋なんてもんじゃないんだ〜」とでも言うなら、それを認めるにやぶさかでないが、ホントにそうかい?
 とにかく、そういう点を差し引いても、相当に出来の良いゲームだ。
 いいんだけど、敢えて難を言えば、18禁で出す意味があまりないような気がする。
 名雪以外のキャラでは、Hなしでもちゃんとエンディングを迎えられる。
 逆に、Hシーンが邪魔になっているキャラさえいるのだ。例えば真琴や舞がそうだ。
 特に舞のHシーンは、舞が自虐的になった結果でしかない。
 Hシーンに嫌悪感を抱かせるというのは、恋愛系の18禁ゲームとしては致命的な欠陥だ。
 なんか、プレステにでも移植することを前提に作られたようで、非常に腹が立つ。
 だったら18禁として作らなければいいじゃん。
 他の部分が全体的にいいもんだから、そんなとこだけ粗が目立つんだよね。18禁であることを大事にして欲しい。
 鷹羽が『ONE』の時に、澪だけHなしでもハッピーエンドになれることを喜んでいたのは、澪にはHシーンが却って邪魔になるからだけじゃない。
 Hがいらない理由があることも重要なファクターだったのだ(鷹羽の『ONE』評論を参照のこと)。そして、それが澪1人だから意味があった。
 鷹羽は、18禁だからと言って、全員がHしなきゃならないとは思っていない。
 ただ、それが“メインヒロインだから”という理由だったら嫌だけどね。
 何にせよ、もっとキレイにHシーンを見せて欲しかったな〜。
 そんなわけで、鷹羽としては、『ONE』を超えられなかったかな〜? とか思ってる。残念ながらね。
           
(鷹羽飛鳥)

 
 
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