Kanon
 
「アースカノン、発射!」(←声:速水奨) あの名作「ONE」から一年、感動の物語が再び帰ってくる。果たして、どんな物語が待ち受けているのだろうか?
 あ、ちなみに、今回の主人公は浩平君よりは悪辣じゃありません。ちょっと残念(笑)。
 
1.メーカー名:ビジュアルアーツ/KEY
2.ジャンル:ADV
3.ストーリー完成度:S
4.H度:E
5.オススメ度:S
6.攻略難易度:E
7.その他:某タ○タ君の陰謀によってコンシューマにまで進出したね〜(苦笑)
 
(ストーリー)
 両親の突然の海外出張で、一人暮らしを却下された主人公は、七年ぶりに叔母の住む雪の降る街で、居候として暮らす事になる。
 雪の降りしきる街。今までとは違う環境。寒さ。
 次第に慣れるだろう。
 だけど……
 真っ白い雪がキレイだ……
 だけど、違和感がある……
 キレイなはずなのに、懐かしいはずなのに
 思い出したくない……
 何か、何かが、引っかかって、いる。
 でも。
 オレは、ここに帰ってきた。
 ヤクソクトイウコトバニミチビカレルヨウニ……
 
 まず、最初に一言言っておきたい。
 何を考えてるんだ、ここのサウンドスタッフは!?
 もはや犯罪レベルだようぅ、このサウンドは。こんな素晴らしいBGMにお目にかかれたのは、ホントに久しぶり。
 とりあえず、俺っちの琴線に触れまくりの澄んだ音色のBGMが、シナリオの適材適所で上手に使われているので、本当に参ってしまった!
 個人的には、ピアノと笛みたいな音(フルート? 音楽に詳しい訳ではない俺っちにはちょっとわかんないけど)との組み合わせが見事としか言いようのない「冬の花火」と、これまたピアノが美しい「凍土高原」、そして思わず空を見上げてしまいたくなる「残光」がお気に入り。
 他の曲も全体的にレベルが高い。初回特典のアレンジCDもいい仕事してるしね。そう言えば、全くの余談なんだけど、ここのスタッフって、遊佐未森のファンがいません?
 初回特典CDのブックレットの作り方なんか、そっくりだし、それに彼女の曲にそのものずばり「ONE」っていう曲があるんだけど、ゲームの方の「ONE」の世界観にダブる歌詞が凄く多いんだよね。
 ほら、今のうちに白状しちゃいなさい(笑)。
 さて、この作品には五人のヒロインがいる。そして、メインヒロインはずばり、あゆだ。
 ひいては、良くも悪くもあゆのシナリオをどこでやったかによって、イメージはだいぶ変わってくると思う。個人的には、あゆのシナリオは最初か最後がベストだと思っている。
 これはどういう事かというと、この作品のキーワード「奇跡」というものに関わるキーパーソンが他ならないあゆだからだ。
 確かに、プレイヤーは、ちょっとこの作品をプレイすれば、あゆが普通の人間ではない事に気付くだろう。
 秋子にあれだけ思わせぶりな台詞を言わせるは、あゆ自身もおかしな言動を取るわ、あげくにオープニングの1シーンでは天使の翼まで生やしやがる(笑)。あやしさ大爆発モンである。
 だが、あゆのシナリオを最初にプレイしておけば、この作品の世界観をいち早くつかめる事となり、後の別シナリオを理解するのが非常に楽になる。
 逆に最後ならば、今までのシナリオで謎になっていた部分が解明されるので、これはこれで味わい深い。
 ちなみに俺っちは舞→名雪→真琴→栞→あゆの順でクリアした。
 そして俺っちが評価しているのは、その世界観というものが「ONE」と比べると、格段に分かり易いという事。
 今回のテーマ「奇跡」もまた、シナリオライターの方は明確な答えを出してはいない。
 だが、前作のテーマ「永遠の世界」という世界観を、伏線の張り方の失敗によって解りづらいものにしてしまった「ONE」に比べ、今回は「あゆシナリオをやる」という事自体を伏線にしたため、その世界観はより明確に浮き彫りにされたと思う。
 さて、それでは、個々のシナリオはどうだっただろうか?
 
・水瀬名雪
 いとこであり、主人公が居候する事になる家の娘である名雪は、主人公と一番多く、顔をつき合わせるキャラだ。
 故に、キャラの描写の仕方は申し分なく、ボケボケおっとりな性格は見ていて微笑ましい。特に糸目なゆなゆは最高。これで名雪に転んだヤツは多数いると思うが、どうか? 
 まあそれは良いとして、シナリオとしては無難かつそつなくキレイにまとめているし、「奇跡」の使い方も分かり易いので、非常に取っつきやすいシナリオだと思う。
 ただ、他のシナリオと比べてみた場合の特異性が薄いのもまた事実なので、俺っちの印象はかなり薄い。
 話が悪い訳ではないが、この「Kanon」という土俵ではインパクトが足りなかったというのが、正直な感想だ。
 
・川澄舞
 夜な夜な学校に出没するという「魔物」という存在を討つ為にそこに居続ける、無口な女剣士、それが舞だ。
 かなり後半になるまで展開が読めない、なかなかに面白いシナリオだった。
 正直な事を言うと、俺っちは「魔物」という存在については、「舞の狂言まわし」だと思っていた。
 結論から言えば、それは半分は正解であり、半分は間違いだった訳だけど、この演出は非常に良かったと思う。
 姿が見えない「魔物」は、だがしかし、実際に主人公に危害を加える事もある、という非常に謎めいた存在で、またそれを追う舞というキャラを、より不可思議な(良く言えば、神秘的な)雰囲気に仕立て上げている。
 ただ、エンディング間際の最後の展開は、意味が解らなさすぎる。まあ、この突き放され方が、この作品らしいなあと苦笑してしまったが。
 最後にこのシナリオで起こった「奇跡」は、はっきり言えば、いまいち解りづらい。
 どうも展開からすると、「奇跡」の恩恵を受けたのは佐祐理の様だ。
 だがそうなると、舞がどうして最後生き返ったのかが説明出来ない。
 舞に起こった奇跡とはなんだったのか?
 俺っちの解釈としては、あの時舞は死んだが、幼い頃の舞が今の舞を取り込む事によって奇跡が起こったと思っている。
 舞は生まれつき不可思議な能力を身につけていたのだから、そういう事が出来たとしても不思議はないし、舞が本来のあるべき姿に戻れた、という事にもなる。
 あゆの起こす「奇跡」はそれに手を添えた、手助け的なものだったのかもしれない。
 とはいえ、なんか苦しいなあ。
 まあ正直に言うと、舞のあのシーンに関しては「とりあえず、ショッキングなシーンでも見せておこう」的な色が強いので、どうにも解釈が難しい。
 皆さんはどうだろうか?
 「何寝ぼけた事、言ってるんだ! 俺の解釈はなあ……」という方がいらっしゃったら、奥付までご一報を。
 俺っちも、他人の意見をどんどん聞いてみたいしね。
 
・沢渡真琴
 個人的には、この作品の中で一番好きなシナリオだ。とにかく、後半の怒濤の様な展開に圧倒されてしまった。
 「結婚したい…」の台詞でドカンと特大パンチをもらい、最後のものみの丘でボロボロ泣く真琴を見て、完全に俺っちKOされちまいました。
 つーか、本当にいいシナリオ、いや、近年まれに見るスマッシュヒットシナリオ。
 さて、このシナリオ最大の謎は、やはり真琴は結局、どうなってしまったのか? という事だと思う。
 普通に解釈すれば、真琴はあのまま消滅しちゃいました、終わり、という事になるのだろう。
 「奇跡」が起こった形跡もないし、あゆと、真琴・舞の二人は面識がない。
 ただ、面識がなければ「奇跡」が起きないのかは、もう個々のプレイヤーの解釈次第だと思うし、シナリオライターも、どうやらそれを狙っている様だ。
 個人的には、あゆは真琴や舞にも「奇跡」を起こしてくれる可能性がある、と解釈している。それが何故かは、あゆの項で触れようと思う。
 確かに、他のシナリオでの最後の「奇跡」が起こるシーン(白い画面に、台詞がスクロールしていく場面)が真琴シナリオのラストにはないのだが、最後の天野とのやりとりで、天野に「何か、願いがかなうとしたら、何を願いますか?」という質問に対し、主人公は「それは、もちろん……」と言う場面がある。
 そして、エンディングの真琴の絵が表示される訳だけど、俺っちは、これをあゆが主人公の願いを聞き届けてくれた結果だと見てもいいと思う。
 主人公が真琴との邂逅を望んでも、不思議はないし、あゆは、他ならない主人公のために「奇跡」を起こしてくれるのだから……。
 ただこのエンディングに関して言うと、この「答えを明確に提示しない」やり方が、上手に作用しているとも思う。
 最後のピロとものみの丘でお昼寝している真琴のCGからは、あの真琴は幻ともとれるし、ただ単に主人公の望みをCGで表示しているだけかもしれないし、ひょっとしたら、ひょっこりピロとともに主人公のもとに帰ってくるかもしれない、という希望を残してくれている様にも見える。
 この哀しい物語なのだけど、でも一筋の希望の光明が見える、というやり方は、かつてのSFC「聖剣伝説2」のラストを彷彿とさせ、とても気に入っている。
 
・美坂栞
 この作品の中で、最も分かり易いシナリオ。
 ただ、それだけに先の展開が読めちゃう上に、予想通りというちょっと困ったちゃんなシナリオでもある。
 しかしそういう事を差し引いて、シナリオの内容のみを見た場合、良く出来てるのもまた事実。
 「ONE」の長森シナリオの時のテーマだった「涙と笑顔」というキーワードを上手に引き継いだシナリオな訳だけど、普段、笑顔の栞が後半の自殺未遂シーンを語る場面などは、CGの効果も手伝って、とても痛々しく抜群の演出だったと思う。
 「起きないから、奇跡って言うんですよ」は、この作品でも屈指の名台詞だろう。
 欲を言うなら、姉である香里をもうちょっとシナリオに絡ませても良かったのでは? と思う事ぐらいか。
 ただこのシナリオで思うのは、「仮に奇跡が起こっても、栞は結局助からない」みたいな結末にしたら、印象はがらりと変わったんじゃないかという事。
 「Missing」という作品で、弥生というキャラが脳腫瘍という病気で、結局最後は助からないというシナリオがあるんだけど、これに近い内容だったら、どうだっただろうか?
 まあ、そんな胸算用は置いておいて、やはり先読みが出来る、というのがマイナスになってしまった、ちょっと損なシナリオだと言えるだろう。
 
・月宮あゆ
 さてさて、メインヒロインのあゆあゆである。
 客観的に見れば、やはりこの作品のシナリオ最高峰という事になるだろうか(個人的には、真琴ナンバー1なもんで…)。
 イベントの数も多いし、やはりこの作品の根幹にあたる部分のシナリオなのだから、出来がいいのは当たり前。
 スタッフの気合いがバリバリに入りまくっているので、プレイする方も気合い入りまくり、ついでにもらい泣きしまくり。
 あゆは不思議な存在だ。このシナリオをエンディングまで迎えれば、確かに納得のいく回答は得られる。
 だが問題点がないわけではない。
 それは、あゆ自身をどの様な存在としてとらえるか、だ。
 普通に考えれば、主人公の前に現れたあゆは幻の様な存在だろう。
 一番近いのは「究極超人あ〜る」で登場する、幽霊の小夜子じゃないかと思うのだが、もっと詩的な表現をするならば「夢現(ゆめうつつ)の様な存在」という事にでもなるのだろうか?
 しかし、このシナリオのまずいトコロは、月宮あゆという存在がどう考えても血を得、肉を得た「現実味ある存在」であるという事を強調し過ぎている点にある。
 あゆの本当の肉体は、どこかにある病院で眠っているはずだし、あゆ自身は精神体としての意味合いの方が強いはずだ。
 とは言うものの、そこら辺の事を突っ込んでも、この話は美しくないし、全くの無意味だとしか言いようがない。
 あら探しなんかしたって、つまらないだけだ。
 だけどこのあゆシナリオ、当然と言えば当然だけど、Hシーンが存在する。
 それは、とりもなおさず肌と肌との触れ合い、肉体同士の交わりを意味する。
 そしてこの時点で、それまでの「夢現(ゆめうつつ)の様な存在」という不思議な位置づけであったあゆを、妙に現実っぽいキャラにしてしまった。
 これは、この作品内でも数少ない失敗例だったと思うのだが。
 さて、ついでなので真琴の項で触れた、面識のない人間にまであゆの奇跡の力は及ぶのかについて考えてみよう。
 この謎を解くキーワードは、物語の前半終わり際から出てくる「あゆの探し物」にある、と俺っちは思う。この「捜し物」とは結局なんだったのだろう。
 単純に考えれば、幼い頃主人公があゆにプレゼントした、天使の人形という事になるし、それは半分は間違いではないだろう。
 しかし、あゆ以外のシナリオの後半「捜し物が見つかった」とあゆに言われるイベントがある。
 そしてそれ以降、あゆは登場しなくなるのだが、このイベントが起きるタイミング、よくよく考えると、そのシナリオのヒロインと主人公の結びつきが強固になった時期に発生する(しかも、名雪と真琴に関してはH出来る状態まで、シナリオが進んだ直後)。
 俺っちは、捜し物の本当の意味は、あの天使の人形に込められた願い=奇跡の力を、使うべき対象が見つかったと言っているのだと思う。
 それは主人公のため、いや、主人公が本当に大切に思っている存在(そのシナリオごとのヒロイン)のために力を、願いを使うという事。
 そして、それがあゆと主人公との決別にもなるのだ。
 「ONE」の永遠の世界の描写で、現実の世界を、手が届きそうで届かない別世界から見ているという表現があるけれど、今回は、あゆがそんな感じの存在になっている様に思えてならない。
 それに、これは友人に指摘された事なのだけれど、あゆは何の知識もないのに、主人公の家の周りをウロウロしていたりもする。
 それならば、あゆと直接面識のない人たちの事も、あゆは客観的に知っているのでは? と思うのだ。
 だから、「奇跡」の力が真琴や舞シナリオに及んでもいいんじゃないかな、と俺っちは思っている。それにその方が、物語としても美しいじゃん(笑)。
 それにしても、てっきり死んだと思いこんでいたあゆが、実は意識不明状態の「眠り姫」だったというオチは、ああ成る程と素直に感心したね。

 こうやって個々のシナリオに目を向けても、長所が目立ち短所があまりない。非常に質の高いシナリオに唸らせられた。
 前作のシナリオの分かりづらさを改善しつつ、更に読ませ、考えさせられるストーリー展開には、ただただ脱帽だ。キャラクターも光っているし、ところどころに散りばめられたギャグも、申し分ない。
 個人的な欲を言うならば、あゆシナリオは他の四人を解いたあとで選択出来る、ラストシナリオとして用意した方がよかったのでは? と思うが。
 まあそれ程までに、この物語において、あゆのポジションは重要な訳だ。
 そしてあゆの起こす「奇跡」。
 この作品最大のテーマにして謎である、このキーワードは、一体何だったのか? 
 あゆのシナリオをやれば解る事だが、「奇跡」を起こしてくれる、いわゆる「触媒」にあたるものは、例の天使の人形に間違いはなさそうだ。
 だが当然ながら、この天使の人形は、幼い頃主人公があゆにプレゼントするために、大枚をはたいて手に入れたゲーセンの景品に過ぎない。
 それ単体では何の力もないし、ましてマジックアイテム(笑)な訳でもない。
 かと言って、あゆが単体で「奇跡」を起こす訳ではない。
 この天使の人形は必要不可欠なのは事実だろう。
 ここで重要なのは、あゆは「奇跡」を起こす力のある存在ではなく、「奇跡」を使う権利を持っている者でしかない、という事だ。実際、天使の人形がかなえてくれる願いは「主人公が出来る範囲の事」でしかなかったはずなのだ。
 だけど、主人公は秋子を復活させるすべを持っていたとは思えないし、栞の病気を直す力を持っていたとも思えない。
 このプレイヤー各々が、様々な解釈を得、考える事によって解答を得られる、という点がこの作品の難しいトコロでもあり、面白いトコロでもある訳だ。
 俺っちは「奇跡」というのは一種の「言霊」の様なものだと思っている。
 幼い頃のあゆと主人公が結んだ約束が……言葉そのものが、本来眠り姫のはずのあゆに感応して、力を得たのだろう。
 触媒はもちろん思い出の天使の人形、使役するのはあゆ、そしてその「言霊」はあゆの願い、主人公の願いすらも取り込んで「奇跡」という最後の魔法を生んだのだと、俺っちは解釈している。
 そう考えれば、この作品のタイトルが「Kanon」なのも納得出来る。
 すなわち、
「Kanon」=「神音」=「言霊」=「奇跡」
という図式が描けたのだ(俺っちの私見でしかないが)。

 もちろんプレイヤーによって、こういう解釈というのは様々だろうが、この想像力の翼を広げるという行為を促すほどに、シナリオが訴えかけてくれるのは嬉しい限りだ。
 これは次回作に期待するな、という方が無理というもの。
 さてさて次は、どんなのがくるんだろう?
 あ、でも、度重なる発売延期はもうやめてね。
 確かに、時間をかけていいものを作ってもらえれば嬉しいは嬉しいけど、あんまりこういう事が重なると、信用なくすぞ。
 それに最後の一ヶ月の延期は、ユーザーを煽っている様にしか思えなかったし。
 
(総評)
 さて、随分と大騒ぎの末に、ようやく発売となった、この「Kanon」だけれども、実際出来の方はどうだったのだろうか?
 実際俺っちの周りにも、この作品をやっている人間は多く、色々な方面から色々な評価を聞いているんだけど(評論やっている性質上、情報収集が欠かせなくなっている)どうやらみな、共通で思っている事があるらしい。
 それは「この作品はONEを越えられなかったのではないか?」という事。
 事実俺っちも、全員解き終わるまではちょっと物足りなさを感じており、上と同じ様な見解だったのだが……正直全てを解き終わった今、俺っちの私見ではこう思っている。
 「Kanon」は見事、「ONE」の欠点を克服し、名作を作り上げた、と。
 まず、シナリオのポテンシャルが全体的に高い点。
 俗に言うマルチシナリオタイプに良くある「外した」シナリオがない。どのシナリオも完成度が高く、非常にのめり込めるストーリー展開で、飽きが来ない。
 今イチ解りづらい舞シナリオと、先読みが出来てしまう栞シナリオですら、他の同タイプの作品に比べれば、遙かに良い出来なのだ。
 そして、前作での反省点をちゃんと活かしているのもポイント高い。
 上で世界観が分かり易くなったという事にも触れているが、今回嬉しかったのは、とにかく難易度が下がった事。
 以前の本「九拾八式降臨」ではとりあえず触れなかったのだが、前作「ONE」は非常に難易度が高く、とにかく下手に選択肢を誤ろうものなら即座にバッドエンド確定、あげくにその選択肢自体がとてつもなく意地悪という、結構シャレにならん作品だった。
 ところが、今回は選択肢がとても分かり易いものになっており、そんなに神経質になる必要がない。
 この作品はストーリーを楽しむものなのだから、意地悪選択肢でプレイヤーをイライラさせるのはナンセンスだ。おかげで、ストレスなくシナリオに没頭出来た。
 そして、最後に絵の事。
 ここの原画の方、正直そんな達者な絵描きさんとは言えない。俺っちは嫌いじゃあないけど、上手か? と言われれば「?」だし、好みもはっきり別れる絵だと思う。
 現に我々のメンバーの一人後藤夕紀は、この絵にはかなりの難色を示しているし、俺っちも「ONE」の時の激突七瀬のCGなんかは「こりゃ、ねえよな」とか思った。
 ただ、今回は絵自体がかなりレベルアップしてるのもさることながら、各キャラの服装が、非常におしゃれなのに驚いた。
 あゆのダッフルコート+天使リュックとか、栞のストールなど、細やかなところにちゃんと気を配っているのは実にいい。
 こういう努力を俺っちは高く評価したい。
 まあ、とにかく、久々の大本命大ハマリ作品であった。
 正直、これほどHゲームでキたのは、かの名作「痕」以来かもしれない。
 欲を言えばあと1・2人ほど、ヒロインとシナリオがあっても良かったと思うのだが、無理をしてシナリオの質を落としてしまう危険性もあるし、これはゼイタクというものだろう。
 ウィンドゥズマシンを持っているのなら、是非ともオススメしたい、一般作品と比べても全く見劣りしない、絶品だ。
  
(梨瀬成)
 
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