星空ぷらねっと
遠い日に見付けた、自分が自分である理由。その想いをいつまでも…
1.メーカー名:D.O.
2.ジャンル:恋愛SLG
3.ストーリー完成度:D
4.H度:B
5.オススメ度:B(佳多奈シナリオのみA)
6.攻略難易度:C
7.その他:各シナリオが個別に存在しているゲームと考えよう、うん。
(ストーリー)
主人公:今村正樹は高校2年生。
とある事情で幼い頃に引っ越した天美市に帰ってきて1年経つが、幼なじみ達とのかつての友誼はほとんど途絶えていた。
そんな時、昔転校していった幼なじみの瞳が転入してきて、再び動き始める毎日。
いきなりネタばらし。
これを踏まえておかないと、以後の文章は意味不明となるので、最小限の共通設定を先に書いておくことにする。
主人公正樹の母夏樹は、天美市のはずれにあった三陸技研でロケットの研究をしていた技術者で、佳多奈の両親もここの技術者だった。
正樹は、小学生時代にそこに出入りしていて、エンジンの燃焼実験を見たい一心から、佳多奈の案内で抜け道を使って研究室内に潜り込み、そこで実験の失敗による爆発に巻き込まれてしまう。
幸い正樹はかすり傷程度だったが、夏樹や佳多奈の両親は死亡、佳多奈も脳に破片が突き刺さるという重傷を負ってしまった。
正樹は、夢を叶えてくれるはずのロケットの実験で母を亡くしたことからショックを受け、宇宙飛行士になるという夢に疑問を抱いてしまった。
その後正樹は、逃げるように父の住む田舎に引っ越してしまったため、天美市に戻った後も、当時の友達には気まずくて近寄りがたい状態になっている。
1年後輩として入学してきたゆかりと、明るく、積極的に正樹に絡んでくる瞳の存在により、正樹は周囲と接点を持つようになるのだ。
宇宙飛行士になるなどという夢は、現実的にはほとんど無理な話で、事故のことを持ち出すまでもなく夢自体色褪せてきているのだが、まだ捨て切れていない正樹は、日々悶々としている。
そんな中で、誰かと一緒にいるうちに情熱を取り戻していくというのがこの物語の基本フォーマットだ。
さて、今回は、鷹羽がクリアした順番に各シナリオを見ていくことにしよう。
(真田恭子シナリオ)評価:C
幼い頃に姉弟のように育ち、いじめっ子から正樹を守るために剣道を始めた恭子は、今や女子剣道部の主将で、ボーっとしていた少女時代とはうって変わってきびきびとしていた。
そんな恭子に気後れを感じていた正樹だったが、男子剣道部の宮本武蔵(たけぞう)から頭数合わせの助っ人を依頼されたことから、恭子の近くにいる時間が多くなってきた。
そのうちに正樹は、恭子の本質は全く変わっていなかったことに気付く。
そして、全国大会の最中、正樹を襲った不良に対して恭子が剣を振るったことで、剣道部は失格、恭子は無期停学となった。
その時から動き出した恭子の婚約話。
そして…。
女の子の方が強いという一風変わったシナリオだ。
“守ることで支えられている”という、よく恋愛系の終盤で気付く価値観の逆転劇を、男女逆にした発想が面白い。
弟:卓を失い、保護欲を持て余していた幼い恭子の前に現れた正樹は、弟代わりに可愛がるには丁度良かった。
同様に愛を注がれた大介が、守られるのではなく対等に付き合うべく距離を置いたことと、守られる対象であり続けた正樹の差が、結果的に恭子が正樹を選んだ最大の理由となったのだが、それだけではなく、正樹がちゃんとものを考え、“守られることで支える”という自分なりの愛し方を模索していたことには好感が持てる。
幼い頃の突然の引っ越しで、正樹は“逃げた”、恭子は“守れなかった”という罪悪感を持っているため、当初ギクシャクした関係になっている。
また、正樹がいない間に大介と恭子がそれなりの関係に進んでいるという、割とありそうな展開をちゃんと描いているのもいい。
恭子がチンピラに剣を振るったことについても、“正樹を守るために始めた剣道を、正樹を守るために使ったのだから”と、信念を持っている恭子には共感できる。
そして、恭子が有段者であるが故に“絡まれた友人を助けるために咄嗟に剣を振るった”という言い訳がきかず、大会を失格になったことから、女子剣道部員から恭子に大ブーイングが起こるのもリアルだ。
ただ、いつの間にか守られる側、待つ側に転じてしまった恭子が、ちょっと…。
(相馬蘭子シナリオ)評価:B
蘭子は陸上短距離の特待生として、練習も他の部員とは違う扱いになっており、天狗になっていると評判だった。
正樹は、かつて天美市を離れる直前に蘭子を傷つけていることの気後れがあり、蘭子が正樹を無視し続けていたこともあって、2人は1年にわたって無干渉のままだった。
ある時、蘭子が雨の中で練習していて倒れるのを目撃した正樹は、保健室に運び、それ以来2人の仲は昔に戻り始める。
だが、肺炎を起こしかけて入院した蘭子は、高校総体の予選を欠場し、特待生の地位が危なくなってきていた。
蘭子が走る理由、それは、小学校時代の運動会に遡る。
誰も出たがらなかったリレーに1人で出ようとし、正樹が加わり、瞳が加わっていった。
最終的には、蘭子が足を痛めた(実は仮病)ため、正樹が2人分走ることになったのだが、その時に正樹が「走ろうよ」と励ましたことが、蘭子が言うところの「私のルーツ」なのだ。
責任感と義務感から全てを背負おうとして、かつ、重圧に押し潰されて逃げ出してしまうという蘭子の性格が、このシナリオの縦軸となっている。
何のために走るのかという目的を見失い、陸上部内でも校内でも孤立していた蘭子は、その重圧から逃げ出すために身体に負荷を掛けてわざと膝を壊したが、そのために走ることそのものへの未練が残ってしまった。
結局、正樹の励ましによって、正樹と別れて長丘大付属に転入して膝を治し再起を図ることになる。
正樹は自分の道を歩くべくSASを受験することになり、2人はそれぞれの道を歩くが、いつかは再会する日が来るだろう、という終わり方になっている。
“好きな人と一緒にいる”ということと“自分の夢を追う”ということは、なかなか両立できないわけで、“夢を叶えた上でもう一度巡り会おう”という、青春系の終わり方なわけだ。
更に、SASに受かるところまで行かないで終わるのはこのシナリオだけであり、蘭子が復活できるかどうかも分からないわけで(バッドエンドでは復活しているから大丈夫だろうが)、敢えて中途半端な終わり方をすることで、限りない未来という余韻を持たせようとしたことが分かる。
ラストシーンで、スターターピストルが鳴るのは、そのためなのだ。
(サーシャ・ノーブルク シナリオ)評価:E
サーシャは、フスクス王国から留学してきた国王の第2王女で、王位継承権2位。ただし、校内では身分を隠しており、フスクスの富豪の娘ということにしている。
正樹は、ひょんなことからサーシャと知り合い、その秘密を知ったことで距離が近くなった。
やがてサーシャの護衛のディネイの信頼も得た正樹は、サーシャの良き友人となっていく。
そんな時、サーシャの父である現国王が死んだ。
そのため、サーシャは第1王女ミネリアとの政争のためにフスクスに帰らなければならない。
別れを惜しむ2人は、駆け落ちをすることになって…。
お笑い担当と言うべきなんだろうか。
とにかく、シナリオのほとんどが、サーシャに近付くべく警護の壁をかいくぐろうとする正樹や、日本の常識を知らないサーシャという構図で笑いを取ろうとしているようにしか見えない。
唐突にミネリアの刺客であるイワンが襲ってくるのもいただけない。
その後もサーシャは平気な顔して学校に居続けるんだもんな〜。
教師として刺客が赴任して来るくらい危ない情勢だということと、サーシャの脳天気さが相容れないのだ。
王女になって、王制を廃止した挙げ句正樹の元に帰って来るというのはいいエンディングだとは思うけど、その時こそはディネイが姉として現れて欲しいような気もする。
とりあえず、サーシャの胸にマスクメロンが2個ほど詰まっていることもあって、巨乳嫌いの鷹羽は、このシナリオが一番嫌いなのだった。
(星見 瞳シナリオ)評価:B
突然転校してきた明るい少女は、かつて涙で別れた瞳だった。
別れ際の約束『今度会うときは、笑ってみる』をあっさりと果たされてしまい、もう1つの約束『一緒に宇宙に行く』を果たせそうにない自分に後ろめたさを感じる正樹。
宇宙飛行士という夢へ後押しを始めた瞳やジョンからのプレッシャーを感じる正樹は、母の死を思い出し、つい瞳を遠ざけるようになった。
そんな時、瞳が倒れた。
実は、瞳は先天性心臓疾患の持ち主で、自分が宇宙飛行士にはなれないことを知って、せめて正樹にはなって欲しいと考えていたのだ。
子供の頃の作文などを見て、あの頃の情熱を取り戻した正樹だったが、瞳はどこかへ引っ越していた。
正樹は、瞳との約束を果たすべくSASを目指す。
このゲームのメインシナリオなのだが、イマイチ好きになれない。
押しつけがましいのがネックかな?
瞳やジョンが正樹に期待するのは、個人的感情からだ。
それはつまり、思い入れのある正樹に宇宙飛行士になってもらいたいという彼らの側の都合に過ぎず、正樹の気持ちというものを無視しているのだ。
考えてもみてほしい。正樹は、ロケット開発の最中で母:夏樹を亡くしているのだ。
夢を追うことで犠牲を払わなければならないこともあるということを、そして残された者の悲しみを小学生で体験してしまうということが、トラウマにならないわけがない。
そんな正樹に対して、宇宙飛行士になることを強要できる人間がいるだろうか。
少々乱暴なことを言わせてもらえば、瞳が心臓病であるという事実は、正樹には何の関係もない瞳の勝手な都合だ。
正樹が夢を諦めたからといって、瞳にとっては、約束が反故になるだけの話でしかなく、そもそも瞳自身、約束を果たせない状況なわけだから、自分が果たせない夢を正樹に押しつけるというのはエゴだ。
単に正樹の成績のことでハッパをかけるくらいならいい。人の心の古傷をえぐるようなことをしてどうする。だったら、自分の心臓病を手術で直すなりなんなりして、その痕跡すら残さぬほどにカルテを改竄してみせろってもんだ。
更に怒りに油を注ぐのが、部長の言葉だ。
では、貴様の言い分はこうか。
他人より優れた位置にいないと、何もするつもりがないと。
何もする意味はないのだと!
なんの障害もないお前が……
色盲の私と違って、なんの障害もないお前が!
世の中にはな……平凡にすら達することのできない人間もいるんだ。
お前はそういうことを考えたことがあるか?
五体満足なお前が!
彼女は、この瞬間以外では、実戦フルコンタクト天文学などという訳の分からないものを振りかざしている変人(或いは大バカ)でしかない。
その部長から、いきなりこんな世迷い言を言われてみても、だから何? としか言えない。
“宇宙開発という夢を追った母が死んだ”ということが『他人より優れた位置にいないと何もする意味がない』ということとイコールになる状況というのは、果たして存在するんだろうか。
これは、部長が色盲であることのひがみだ。
確かに正樹は身体に障害はないが、心に傷を受けたのは事実だ。
文句があるなら、自分の母親を目の前で殺してみればいい。
色盲だなんだということが馬鹿らしくなるはずだ。
この部長には、こんな言葉を贈ろう。
では、貴女の言い分はこうか。
他人より劣った位置にいるから、何もするつもりがないと。
何もする意味はないのだと!
地上勤務をするならば、なんの障害もない貴女が……
色盲だからと言って、成績に問題のない貴女が!
世の中にはな……平均点にすら達することのできない人間もいるんだ。
貴女はそういうことを考えたことがあるか?
成績優秀な貴女が!
ま、部長の成績が本当に優秀かどうかは置いといて。
瞳はともかく、本当に自分では何もしていない部長に、あそこまで言われる筋はないね。
ついでに言うと、部長が色盲であるということは、全編通してここでしか語られない。つまり、突然降って湧いた設定だ。
好意的に解釈すれば、部長は正樹にハッパをかけているのだけど、ちょっとうがった見方をすれば、『何言ってんだ、バカ。ひがんでんじゃねぇよ』と言い返して終わりだ。
この辺りの描写の下手さが、このシナリオのレベルを落としている。
幼い頃、2人で満天の星空を見上げながら、“いつか2人で星の世界へ行く”ことを誓い合った正樹と瞳。
正樹との「今度会うときは、笑ってみる」という約束を支えに、心臓病という絶望を克服し、「Passoin
is power。笑ってると元気になって、元気になると情熱が出て、情熱は活力で原動力で行動力なんだもん。だから…私は笑うの」と笑顔で言い放つ瞳。
その言葉に、情熱を失った正樹が、もう1度夢を目指して立ち上がる、というかなりおいしいシナリオのはずなのに、爽快感に欠けるのが残念だ。
(藤原佳多奈シナリオ)評価:A
虚ろな目をして校内をさまよっている佳多奈。
彼女をそうしたのは、あの事故の時、佳多奈を誘った自分だと、自己嫌悪を感じずにはいられない正樹は、佳多奈の面倒を見るようになった。
佳多奈は、人智を超えた記憶力や計算力を持つ代わりに、情緒的な面はほとんど持っていない。
やがて佳多奈の行動に改善が見え始めるが、文化祭の花火の光と音に三陸技研の爆発を思い出した佳多奈は…。
このゲームで最高のシナリオだと思う。
結論から言うと、事故で脳に刺さった破片は、佳多奈に特に悪影響を与えてはいなかったようだ。
佳多奈がおかしいのは、元々自閉症であったが故の特殊能力…情緒的に欠けている分だけ、他の能力が突出しているという、イディオ・サヴァン(Idiot
savant :フランス語で”知能障害を持つ天才”の意味)故ということだったらしい。
正樹は、佳多奈の両親が残していた日記で、正樹という同年代者の存在が、佳多奈に情緒を会得させる希望の光だったことを知った。
この時点で、“佳多奈に大怪我をさせた”という正樹にとっての重荷は取り除かれている。
後は“佳多奈を見捨てて田舎に逃げた”ことを償うため、正樹は佳多奈の面倒を見続けることになるわけだ。
佳多奈が7年間にわたって“壊れて”いたのは、あの事故の直前に正樹が何気なく口にした『宇宙人と出会うことはできるのか』という疑問に対する答えを計算していたからだ。
体育祭の日に出た答えは、12万5742日19時間35分後。
その時に、宇宙人と出会えるということらしい。
佳多奈は、そのデータ収集のために、自らの意志で電磁波をも感知できるよう身体を造り替え、計算に脳の力の大部分を割いてしまっていたが故に、ほとんど何もできない人間になってしまったのだ。
つまり、この計算をやり終えた時点で、佳多奈の能力は解放されているはずなのだが、どういういわけかその後もあまり変わらない。
実際には、佳多奈はこの時から、不要になった電磁波を見る能力等を捨て、日常生活モードに身体を戻し始めている。
本当ならそのことをきちんと描かねばならなかったはずなのだが、正樹がエピローグでそのことに気付くようネタを引っ張り、佳多奈の様子が少し変化したことを描写するに留まっているため、文化祭ダウンの後で復活する理由がはっきりしないのだ。
これは結局、一度は佳多奈を見捨てて逃げた正樹に“再び壊れた(らしい)佳多奈の側に居続ける”という贖罪のチャンスを与えるためと、体育祭で「いっとうしょう」をやるために作った流れだと思う。
これで流れが分断されたのは痛かった。
もう1つ、人間を識別できなかった頃の佳多奈が正樹の絵を描いているシーンで、「動いちゃダメ」と言うが、彼女は、正樹がどんな格好をしていたとしても一瞬で完璧に記憶することができるのだから、このセリフはナンセンスだっただろう。
佳多奈は、記憶しているものならば、モデルなどいなくても写真より写実的に絵を描くことができる。
恭子の卒業の際、回復後には1度も会っていない佳多奈が恭子の絵を渡すことで恭子の努力が報われるというシーンは、この「動いちゃダメ」とは共存できない。
恭子は、幼い正樹がいなくなった後、佳多奈の世話を焼いていた。
前述のとおり、恭子は庇護すべき対象を求めている。
正樹という対象を失った恭子が佳多奈を庇護対象とするのは、自然な流れだ。
しかし恭子の場合、庇護対象から慕われるという反応を要求することになるため、いつまで経っても症状が改善されない佳多奈では、恭子の保護欲を満足させることはできなかった。
花火の光と音で佳多奈の症状が悪化した後、恭子が佳多奈の面倒を見なくなったのはそういう理由からであり、実に理に適っている。
そして、その後会っていない佳多奈が、恭子の顔を描ける…、つまり、人間の個体識別ができなかった頃も、恭子を識別できていたことの傍証を与えることで、恭子の努力が無駄でなかったことを示しているのだ。
通常、絵を描く際には人間をひまわりマークに置き換えてしまう佳多奈が、正樹の絵を描けたことは確かに意味があったのだが、恭子の絵という演出が無駄になるような形にしたのは失敗だったね。
ところで、佳多奈のシナリオが素晴らしいのは、佳多奈が自我を目覚めさせ、『……ずっと、一緒にいて』と言ってエンディングテロップが流れた後で始まる、エピローグの方だ。
単なるエピローグの長さではなく、こっちの方が本当の物語だと思えるくらいに書き込まれている。
佳多奈は、まだ小学生程度のメンタリティでしかないが、きちんと自我を持って能動的に生きていけるようになった。
その上、人智を超えたレベルの演算力・記憶力の持ち主でもある。
そんな佳多奈が正樹と一緒にいるために取る行動は、一緒にSASを目指すこと。
そして、この方面においては、佳多奈の方が数段優秀であり、そのことが正樹のコンプレックスを刺激することになる。
どうやら、正樹は元々優秀な頭脳を持っているらしく、ほとんどのシナリオで無事SASに合格しているのだが、それでもやはり普通の人間だ。
当たり前だが、試験を受けて合格できるかどうかという、結構ギリギリの位置にいる。
ところが佳多奈は、飛び級で推薦合格が決まるような、レベルの違う天才なのだ。
正樹が鬱屈していくのも納得できるだろう。
しかし佳多奈自身にはその自覚がない。
自分が正樹の側にいるために身に付けた能力が、正樹自身によって否定される…、そのことに深く傷ついた佳多奈は、心を再び閉ざしかける。
かつて、『宇宙人に会える日は来るか』という何の気なしの言葉に答えるため、7年間も計算モードに入っていたように。
ここに至って、ようやく正樹は、能力的に劣っていたとしても、自分が佳多奈の庇護者でなければならないことに気付く。
佳多奈の意識の中では、あくまで正樹が世界の中心にいるということが実感できたからだ。
更に、佳多奈が、その優秀な能力のために生命力の消耗が激しく、長くは生きられないことが分かった後、正樹には、佳多奈が死ぬその日まで支え続けようという決意が芽生える。
正樹との会話の一部始終、睦言まで逐一覚えた佳多奈が、「まー兄の秘密、握った」と言って、他言しない条件として、再び「……ずっと、一緒にいて」と答えて終わるこの物語は、鷹羽にとって、この1年間で最高のシナリオだった。
鷹羽的には、佳多奈のメンタリティがある程度育つまでエッチしていないこともポイント高い。
相手がお子様なのをいいことに手を出すのって、なんか嫌だもんね。
あと、瞳がヤキモチ焼きまくるのもこのシナリオだけなんだけど、それは多分、正樹が、瞳以外の女の子のためにSASを目指す形になっているからだと思う。
自分との約束をすっかり忘れて、それでも同じ道を目指しているということが、瞳には気に入らないのだろう。
(山本ゆかりシナリオ)評価:B
1年後輩として入学してきたゆかりは、昔と変わらずに気安く付き合える相手だった。
学内のカフェ『迎賓館』のウェイトレスであることもあって、何かと顔を合わせるうちに、何となくいい雰囲気になってきた2人。
更に、ゆかりの積極的な性格から、文化祭のデートを賭けての競走をしたり、修学旅行先に付いて来たりと、波乱に富んだ付き合いが続く。
そんな中、SASの入学案内を見たゆかりは、正樹を焚き付ける。
正樹は、かつて胸の奥に封じた宇宙への夢をもう1度燃え上がらせた。
というわけで、シナリオ解説終了。
ゆかりのシナリオは、そのほとんどがラブコメとして進む。
幼なじみの中で、唯一ゆかりだけが過去に事件を共有していないため、再会した幼なじみと改めて接近していく物語として描かれているからだ。
ただ、何の事件も起きないだけに、ゆかりとのイベントは結構頻繁に起きるし描写も細かい。
少々ぶっ飛んだキャラクターであることに腹が立たなければ、かなりイケるシナリオではないだろうか。
特に、文化祭での「平凡だけど、恋に生きるのもいいかなあって思ってます、今」とか、“負けたら何でもいうことをきく”という賭けに負けた正樹に突きつけた強引な告白「あたしのそばにいてもらう。(有効期限は)どっちかが死ぬまで」は、ゆかりのキャライメージに合っていて、実にすんなりと受け入れられた。
このように、絵柄的には好みが分かれそうだが、1つ1つのストーリーは実にデキがいい。
では、なぜストーリー完成度がDなのかと言うと、各ストーリーが単体で存在してしまっているからだ。
鷹羽は、マルチエンディングというのは一種のパラレルワールドだと思っている。
「一種の」というのは、“もしもあの時○○と言っていたら”どうなっていたかという、その変化を追体験できるシステムだと考えているということだ。
そのためには、どのシナリオでも、行動、会話等の選択から導かれる変化以外の状況は共通項でなければならない。
誰かの言動に違いがあるからこそ、ストーリーの流れも変わるはずなのに、人為的でない部分にまで変化が及ぶのはおかしい。
例えば、あるシナリオで主人公がヒロインをデートに誘ったとする。
ヒロインがOKすると当日が雨になり、断ると晴れるとしたらどうだろう?
或いは、それまでの好感度で晴れるか雨が降るかが変わるとしたら…?
それはおかしいでしょ? 選択と関係ない部分が変化するってのは。
ところが、このゲームでは、そういったことがしばしば起こるのだ。
例えば、ゆかりシナリオでは、京都での2日目の夜には花火があるが、他のシナリオではそんなイベントは起こらない。
その年のその日に、京都でどんなイベントがあるかは、正樹の行動には全く関係ない。
また、サーシャのシナリオで赴任してくるイワンは、他のシナリオでは登場しないが、フスクスの情勢も、正樹の行動によって変化があるのは、サーシャの気持ちに左右されることに限定されるはずで、ミネルバの刺客が送られてくるかどうかはあずかり知らぬことのはず。
京都での流星雨にしても、瞳が望遠鏡を持ってきていたり、生徒がわんさと集まっていたり、シナリオによって状況がまるで違う。
正樹が誰と一緒に行動するかという話は、修学旅行の一行にそんなに重大な変化をもたらすほどのことなのか?
そうかと思うと、どのシナリオでも、特定の日に迎賓館に行くと、停学中の恭子がやってくるイベントが起こる。
恭子が停学になるのは、正樹を庇ってチンピラに怪我をさせたからであり、それは恭子のシナリオでしか起きないイベントなのに、だ。
恭子が停学になるような事態は、ほかには考えられない。
鷹羽は、こういうのをシナリオに整合性がないと呼んでいて、大嫌いなのだ。
(総評)
好き嫌いが分かれそうなキャラデザだが、鷹羽はさほど気にならなかった。
胸がミサイルになって飛んでいきそうなゆかり、マスクメロンを胸に隠しているサーシャなど、鷹羽的にはお近づきになりたくない風体のキャラも多いが、陸上やってるだけあって胸が丘陵部な蘭子と、栄養が身体の成長に使われていない幼児体型の佳多奈という、モーモーさんじゃないキャラがいることがかなりプラスポイントだった。
偏った体型ばっかりのゲームってなんか手抜き臭くて嫌いなのよ。
どう見ても超能力葉っぱ少女な佳多奈のデザインはちょっと難があったけど、彼女の儚さが醸し出された描写に助けられて、さほど気にかからずにすんだし。
それと、『好きとか嫌いとか最初に誰が言い出したんだろーなー』とか、『立つんだジョー』とかいったお遊びも結構ありね。ネタ多過ぎちゃって忘れたけど。
このゲームでは、統一テーマとして“ルーツ”というものがある。
瞳にとって、正樹との別れの「今度会うときは、笑ってみる」であり、蘭子にとっての「走ろうよ」であり、佳多奈にとっては正樹の存在そのものであり、恭子が剣道を始めた「正樹を守る」や、正樹自身が夏樹に誓った「僕が火星に一番乗りする」とかいった、幼い日の大切な約束なのだ。
OPのタイトルにもなっているこの『ROOTS』が、どのシナリオでも大切にされているのが、このゲームの良点だ。
1つ1つのシナリオは結構いいのに、全部集めると無茶苦茶という凄い物語になっていなければ、きっと手放しで褒めただろうに。
なにしろ、当時の正樹の日常をちょっと考えてみると、蘭子を庇って慎太郎にいじめられつつ、恭子から守られ、恭子の家に入り浸っていて、三陸技研にも入り浸って佳多奈になつかれ、ゆかりに引っ張り回されて遊んでいるのだ。
1週間って何日あるんだっけ?
更に、引越間際の展開は
瞳の引越
爆発事故、佳多奈入院
夏樹の葬式
恭子に連れられて三陸技研に家出(2〜3日間)
部屋に蘭子がやってくる
という具合に、ゆかり以外の幼なじみとのイベントが目白押しだ。
特に恭子との家出は、栄養失調で死にかけたくらいなんだから、もっと大事になっても良かったような気がするんだけどな〜。
結局詰め込みすぎだよね。繰り返すけど、佳多奈のシナリオだけだったら、鷹羽は手放しでこの1年間で最高だったと褒めたんだけどなぁ。
(鷹羽飛鳥)