この際豪快に目を瞑ろう
…と書いたけれど、無粋を覚悟であえてこの儀式のあり方に斬り込んでみよう。
実は、この「灰被り姫の儀式」というものを黒魔術的な意味合いで見てみると、こういう施行方法は決してイレギュラーなものではなくなってしまうのだ。
それどころか、かなりポピュラーな方法という事になってしまう。
具体的な事はおいといて、過去に実在した“黒魔術を行っていたとされる人物”の記録によると、大規模な乱交は常識的に行われているようだ。
一例を挙げるなら、1900年代から20年代にかけて活躍し、大悪魔コロンゾンを召還しようとしてこれに成功したとされる黒魔術師・アーリスター・クローリーが有名だ。
伝説的な黒魔術主義者であり、彼の活動を記した記録書もかなりある。
彼はとある黒魔術組織間の抗争の果て、自ら新しい組織「銀の星」を結成するが、そこでは赤子を生け贄とした黒ミサや悪魔召還儀式、男女入り乱れての輪姦乱交パーティがしょっちゅう行われていたらしい。
黒魔術では、人間の身体の中に悪魔を宿すとか存在を悪のベクトルに変えるという目的で乱交を用いるというのはよくある事で、それにはドラッグが用いられ恍惚状態で行われるのが普通のようだ。
さらには近親姦や同性愛・複数でのまぐわり等、いわゆるキリスト教などで固く戒められている行為を行う事にも意味があるらしい。
こういう宴を総じて“サバト”というが、要はそういう状態の人間には“何か”が取り憑きやすいというのが彼等にとっての定説となっている。
魔女裁判などが行われていた時代、ヨーロッパ各地で秘密裏に行われていたとされる“魔女の資格を得るための”サバトでは、こういうのに加えて、司祭の血を飲むとか生け贄の内臓を喰らうとか、身体に印を付ける等、それこそ色々な形式の儀式があったとされている。
この辺の感覚は、永井豪の原作版「デビルマン」の一話を読んで貰えればなんとなくわかるかもしれない(乱交ではなく、サバトについてという意味ね)。
その他、何か邪悪な目的意識を持って乱交を行ったとされる記録は意外と多く存在する。
資料が不足していてあまり例が挙げられないが、そういう視点からならこういうのもありなんだろう。
ただ「灰被り姫の儀式」の場合、その場に直接“司祭的位置付け”の人物がいなかったり、乱交が強制でかつ恍惚状態にある者がほとんどいないという違いがある。
こういう状況でやらされるというのも、なかなかに酷である事は結局変わらないのだが。
儀式の後の桜子が、それまでとまったく違う人格に変貌してしまったというのも、これならなんとなく納得できるような気がしないだろうか…?