フォークソング
小さな田舎町を舞台に繰り広げられる、小さな恋の物語。
1.メーカー名:龍乃巣(REWNOSS)
2.ジャンル:マルチシナリオ恋愛ADV
3.ストーリー完成度:B
4.H度:B
5.オススメ度:B
6.攻略難易度:B
7.その他:う〜ん、これでウン千円出すというと、いやがる人も多かろうなぁ…。
(ストーリー)
ここ神谷上町(かみやがりまち)はかなりの田舎で、ほとんどの住人が顔見知りという、悪いことの出来ない町だ。
美夏と陽太・透・道成は、それぞれ近所に住んでいる幼なじみ。
小学校の時に引っ越し、中学の時に戻ってきた志帆と5人で、よく行動している。
美夏と陽太は、本人以外は誰もが認める幼なじみカップルで、当人同士も告白のタイミングを計っている状態。
透は志帆を好きだと公言しているが、志帆には中学からの彼氏がいる。
道成は1年年長ながら奥手で、その手のことには疎い。
この5人に、去年の秋に引っ越してきた歩が加わった。
歩は、転びそうな祖母を助けてくれた道成に一目惚れ。
6人が織りなす恋模様はいかに?
このゲームは、美夏と陽太・志帆と透・歩と道成という固定のカップリングで、それぞれに主眼を置いた3本のシナリオで構成されている。
当然のように、あらゆる設定は統一されており、ただ選択肢による分岐で、各カップルの結末が変わるだけだ。
ただ物語の時期はバラバラで、おおよそ正月ころから始まり、展開の早い美夏&陽太で夏、志帆&透は秋にエンディングを迎えるが、一番展開の遅い歩&道成では、翌年の春までかかる。
たっぷり1年以上掛かるわけだ。
そして、それぞれのハッピーエンドバージョンの時間軸が共通しているらしく、どのシナリオでも美夏と陽太の喧嘩のことが描かれ、歩&道成編の秋以降では志帆が透と付き合い始めたことに周囲から驚きの声が上がっている。
しかし、複数の女の子とくっつくことがないから設定に無理がなく、安心して見ていられる。
また主人公を1人に絞らなかったことで、誰が主人公になるかによって物語の雰囲気がガラリと変わるという効果があった。
Hシーンの数を補うためなのか、それぞれのシナリオに登場するサブキャラのHシーンがあるが、単なるHキャラに留まらずいい味を出している。
特に、歩&道成編に出てくる旅館の跡取り娘芙雪(ふゆき)と工場の作業員祐介の恋は、歩に対して少なからず影響を与えるものだったようだ。
ただ、八ツ樫神社の巫女である薫が、祀られている神体「ヤツカ様」の恋人だった人で、荒神「八つ首様」と共に封じられているヤツカが目覚める日を数百年にわたって待ち続けているという設定には、ぶっ飛んでしまった。
会話から何となく判ることではあるけど、でも何でそんな存在が周りに知れ渡らずにいられるんだろう?
というところで、各シナリオの寸評いってみよう。
(鉄壁の幼なじみ 美夏と陽太)
花見の帰りに、酔った(おいおい高校生だろうが)陽太が勢いで美夏を押し倒してしまったことから大喧嘩になり、仲直りするまでの話だ。
“顔を見ると素直になれない”という美夏の照れが、事態を紛糾させる。
陽太からの告白END、美夏からの告白END、取り敢えず仲直りしたけど進展なしENDという具合に分かれているが、どれも結局はドタバタしたストーリーだ。
まあ、頭の軽いカップルなのだから仕方なかろう。
良く言えば2人ともアクティブなんだけどね。
(近くて遠いふたり 志帆と透)
志帆が彼氏の久志と喧嘩しているのを偶然見てしまった透。
志帆は、久志を好きなことは好きなのだが、自分の心にズカズカと入り込んでくる久志の態度に戸惑っており、久志はそんな志帆の気持ちを疑い、イライラしている。
志帆が口数の少ないキャラだけに、本当に何が不満なのか判らないというシナリオだ。
結局のところ志帆は気持ちを押しつけず、少し距離を置いてくれる透を好きになってしまい、「もう1番じゃない」という一言で久志をフってしまうわけだが、透が久志のことを悪く言い続けると、志帆は「透も久志と同じだよ」と言って、結局付き合えないで終わる。
志帆が彼氏に何を求めているのかに気付かないとハッピーエンドにはならないわけだが、透の“とにかく真っ直ぐで無邪気”という設定に従って攻略していけば、付き合うことができるだろう。
透 「危なくなったら走って助けに行くよ」
志帆「こういう時、普通は『飛んで行くよ』って言うんじゃないの?」
透 「だって、俺飛べねえもん」
という会話の数日後に、本当に志帆のピンチに透が駆け付け、志帆が「本当に危ない時に走って助けに来てくれたね」というセリフが入るシナリオが一番いいかな?
でも、まだ初H前の時に、志帆は下着姿、透は上半身裸で一緒のベッドで寝てたのはなぜ?
(見つめている瞳 歩と道成)
引っ込み思案な歩と、超奥手な道成。
歩の言動にいちいちオタオタする道成がちょっと笑える。
本人は大真面目なんだから、笑っちゃ悪いんだけど。
このシナリオでは、唯一サブキャラが話に関わってくる。
前述の芙雪と祐介の恋がそれだ。
芙雪は、母が1人で切り盛りしている旅館を継ぐため、どこかの旅館の三男坊と見合いすることになっていた。
見合いと言っても、会いさえすれば即結婚が決まっている状態になっている。
母のため、家を守ることを最優先せざるを得ない芙雪と、その想いを知って身を引こうとする祐介を見た歩達。
彼女らは口を出せる立場ではないから、心配することしかできない。
美夏が「駆け落ちしちゃえばいいのに」と言うのに対して、歩と道成は、「逃げることはいつでもできる。大切なのは、その前にできることを全部やることだ」と言った。
結論から言うと、祐介が旅館に入ることで解決を見るか、そのまま身を引いてしまうかなのだが、歩はこの時の“大切なのは、できることをやること”という言葉を胸に、勇気を振り絞って道成に告白していくことになる。
大したシナリオではないが、自分の言葉に責任を持って行動するのは大切だと思う。
彼らの物語は、最終的に何かを生み出すわけではない。
淡々と、恋をしている彼らを描写しているだけだ。
『共感できる物語』という売り文句にふさわしい作りの物語だったのだ。
田舎町という舞台設定が、この感覚に貢献していることは間違いない。
誰もが知り合いで、幼なじみが同じクラスにいるという、ある種のノスタルジックな感覚を自然に持たせてくれる。
かと思えば、デパートでバーゲンという現代的な一面も持っている。
この中途半端さが、一種のリアルさを演出している。
嘘過ぎない程度にディフォルメされた世界。
でも、揃いも揃って黒電話なのは勘弁して欲しい。
今時そんな田舎ないだろって。
(総論)
このゲームはノベル系のセオリーどおり、クリアする毎に選択肢が増え、展開が増えていく形を取っている。
と言っても、おまけシナリオやギャグシナリオの類はなく、サブキャラの恋が描かれたりするだけのことだ。
だが、この柔らかな雰囲気を持つ絵柄や描写には、似つかわしい作りだったと言えるだろう。
この龍乃巣というメーカーは、北海道所在の複数のメーカーから有志が集まって一時的に結成したソフトハウスだが、原画が小池氏であることや、シナリオの雰囲気が似ていることなどから、『終末の過ごし方』に似ている印象がある。
そのため処女作であるにもかかわらず、アボガドパワーズの新作だと言っても誰もが納得するものになってしまったのは、ちょっと惜しかったかもしれない。
原画の影響が一番大きいんだろうな。
某『ぴあ・キャロットへようこそ!3(コミケ編)』も、そういう部分あったし。
もっともアレの場合、スタッフのほとんど全てが一緒だったようだが。
完全三人称で、その時々によって主役格のキャラが変わるという作りをしているので、場面転換が結構激しく、万人向けとは言えない。
一人称型に慣れている人には、拒否反応も出るものと思われる。
それと、起きる出来事が全て卑小な事件ばかりなので抑揚に乏しく、平坦な物語が嫌いな人には辛かろう。
この『九拾八式工房』の元締、後藤夕貴氏には絶対にオススメできないソフトだ。
梨瀬氏辺りにはオススメかも。
(鷹羽飛鳥)