エクソダス・ギルティ
プレイステーション用ソフトとして発売された、菅野ひろゆき氏プロデュース作品。
そう、ご存じ(旧)剣乃ゆきひろブランド作品の正当後継者なのである。
移植モノではなく、はじめから家庭用ゲームとして、しかもプレステ用として作り上げられた『エクソダス・ギルティ(以下、EG)』は、果たしてどんなゲームだったのだろうか?
1.メーカー名:Imadio(Abel)
2.ジャンル:ADV。もちろん、かなりクセモノなシステム。
3.ストーリー完成度:C
4.H度:E…プレステだから、この項目不要じゃないかって? 実はね…(後述)
5.オススメ度:C
6.攻略難易度:………B
7.その他:色々言いたい事はあるけど、菅野(剣乃)シナリオとしては、結構気楽にプレイ出来るレベルなのは、ポイント高い。
(ストーリー)
=紀元前1200年頃(過去編)=
集落ウル・アークに住む“大地の剣士アーレス”。
彼は、ウルの巫女的存在である“神の唄・マーサ”によって育てられた。
マーサは、炎の神官・フレアにより重傷を負わされ、余命幾ばくもない状態であった。
アーレスはマーサより、彼女と同じ“神の唄”の称号を持つ、ウィルという女性に会うため旅立つよう命ぜられる。
人々を苦しめているだけにしか思えない、大いなる“神の意志”に疑問を抱く人間達。
そして、それらを事実上支配する、4つのエレメントの力を持つ「神官」の存在。
それらの謎の解明を求めて、愛するマーサをウル・アークに残して、アーレスは旅立つ。
ウィルのいるという、南の集落プレン・アークを目指して。
しかし、そこでは予想外の事態が発生していた!
=西暦2000年(現代編)=
18歳でありながら、世界有数の実力と経験を持つトレジャー・ハンター真道カスミ。
彼は、旧知の橘レイナが行っている、遺跡発掘を見学するために南ヨーロッパへとやって来ていた。もちろんその真の目的は、遺跡に眠るお宝。
彼は、「モーゼの十戒」に記された“さだめの地”が、エルサレムではなく、この遺跡の地の事ではないかと考えていた。
そして、それについての答えが記された「十一戒」めを追い求めていたのだ。
観光客を装い、遺跡へと接近していくカスミ。しかし、当然ながら他のトレジャー・ハンター達も、次々と遺跡を目指して、人知れず集まり始めていた。
7つの小道具を駆使し、カスミの知恵と勘と経験を生かした、争奪戦の火蓋が切って落とされた!
=西暦13800年(未来編)=
花屋の娘として育てられた少女・スィーは、18歳の誕生日を迎えたその日、ふとした事から、自分が王女であり、王族最後の生き残りであるという事実を伝えられる。
そして、自分が常に持っている“KEYofWILL”を狙って、何者かが迫ってくる事も…。
王は、突然発生したクーデターにより殺され、ザザンという仮面の騎士が、国を治めるに至っていた。
ザザンの追っ手が、情け容赦なくスィーに迫る!
スィーは、幼なじみであり、従者であるラーライラと、ペットのレイルルと共に逃亡の旅に出た。
しかし、その旅には一つの目的があった。
賢者ウーに会い、“KEYofWILL”を渡す事。
大地の自然はすでに朽ち果て、海や空の色すらも変わってしまった遠い未来の世界で、スィーの冒険は始まった…。
色々な意味で、話題となった本作「EG」だが、結果から言えば、かなり面白い部類に入る作品だと思っている。
プレイ時間も、このタイプのゲームとしても、剣乃作品としては比較的短めだし(ただし、とんでもないオチが付いてきた……後述)、システムもわかりやすい。
今回は、3人の主人公のストーリーが独立して存在しており、プレイヤーの意志で、自由自在にザッピング(視点移動と言えばいいのかな? ゲーム「街」で使われていたアレと思えばOK)出来るのが面白い。
ところどころに少々強制転換ポイントっぽく感じる謎解きもあるのだが、実は、別シナリオでフラグを立てたり、極端な話、他シナリオで入る情報を仕入れなくても、答えさえ合っていれば(当てずっぽでも)先に進めてしまう。
数打ちゃなんとかの方法が通用してしまうのだ。
情報を得るために、わざわざ話を途切れさせなくてもいいし、さっさと降参して、情報を得るためにザッピングしてもいい。
この辺、意外に自由度が高くて個人的にポイントが高い。
「EVE」などでは出来なかった、1本ずつシナリオを順番に完結させてもいいし、あえて制作者の意図するルートを辿って、要所でのザッピングを行いながら進めるのもいい。
私としては、実は後者の方がオススメだ。理由は後述するけどね。
この「EG」、過去編と現代編は壮大なプロローグと考えて良い。
本編…というか、物語の決着は未来編で着く事になる。過去&現代編の主人公は、それぞれのアプローチで未来編に登場(!!)し、スィーのストーリーに影響を与えていく。基本的な骨組みは、こんな感じだ。
今回は、まずそれぞれのストーリー別に解説と分析をしてみたいと思う。
ちょっと長くなっちゃうけど、堪忍してね。
『過去編 アーレス』
うぉっ、マーサの格好がエロエロだーっ! 不〇火舞タイプの衣装で、しかも巨乳だ、フルアニメーションだ!
うおぉぉぉ燃えるゼ!! ………ハッ!? …し、失礼しました。
しかしまぁ、まずはあっさりさっぱりしたストーリーで(他の2シナリオに比べれば…だよ、念のため)、モロにプロローグってる物語と展開。
だけど、その分キャラクター同士の関わりや各々のこだわり、そして感情の変化がもの凄く丁寧に描かれているため、実は一番、プレイヤーの感情移入度が高い(のではないか?)。
当初はアーレスの敵に等しい存在であった4神官が、アーレスのひたむきさに触れる事によって一人ずつ心を通わせ合い、仲間になっていく展開は、おそらく全編を通して一番説得力のある部分だろう。
育ての親であるマーサを、目前で焼き殺したフレアを、はじめは憎みながらもやがて自分の恋人として受け入れていくアーレス。
こう書くと「なんでやねん?」と言われそうだが、フレアとアーレスのやりとりを見ていると、なんか納得しちゃう。
まぁ少々古臭い展開っぽいけれど、本当、凄くいい。
4神官の協力が、「神の意志」と出会うために必要不可欠であるという理由もあるのだけど、アーレスは、憎んでも憎みきれないフレアを受け入れるために、それこそ血が滲むような思いで憎しみと怒りを呑み下し、逆にフレアの心の深いトラウマに触れ、これを取り除く。
そのため、途中からフレアがアーレスにベタベタになってしまうが、これも許せてしまう。
本編のメインストーリーは、4神官全員と出会う事であり、「神の意志」と出会う展開は、エンディングの演出の一部である。
アーレスは、どうやら4神官全員と会うために、プレイヤーが感じ取る以上に長い旅をしていたらしい。その間に、神官達との心の交流が深まっているのが解る。
その部分をも、ちゃんとイメージシーンとして描いているため、神官の考えが、彼・彼女等の主である「神」を中心としていたものだったのに、だんだんアーレスの事を中心に考える様になっていく過程が見える。
そのため過去編終了時、未来へと旅立ったアーレスの帰りを、彼・彼女達はいつまでも想い、そして待ち続けているのだ。
未来編の話になるが、スィーやカスミが各エレメントのアイテムを入手する度に、神官達の幻影が現れる。
そしてその主人公にではなく、アーレスに対して、“お前が帰ってくるのを、いつまでも待っている…”といった言葉を残して消えていくのだが、これはかなり唸らせられたね。
もう一つの側面として、この過去編はプロローグであると同時に、後の2編のための伏線の集合体と考えて良いくらい、謎が山積みのままで終了してしまう。
だが、物語自体がサッパリ仕立てなのも手伝って、あまり気にならないどころか、ほとんど気付かないものも多い。一番、良く出来ていたシナリオなのかも知れない。
問題点。これはこのシナリオに限らない話なのだが、フラグ立てが、実に面倒くさい。
特に、砂の神官と出会う方法を知るために、クエイクを探し回るイベントはヒドイでしょ。
相手は、マップ全体を逃げ回る、こっちはそのため、ほとんどスタート地点に近い所まで戻って、また追っかけ続けて、そんな事を4〜5回も繰り返させられる。
その間、一切物語は進行しない。かなりキツイよ。
どう考えても、プレイ時間を長引かせるためのトラップだよなぁ(なぜ、プレイ時間延長がトラップかというと…後述)。同じタイプのフラグが、未来編でもあるのだけど、これはもっと悪質。
もしも、よくある“おつかいイベント”ってやつの発展か応用のつもりで作ったのだとしたら、本当にヒドイと思う。
少々、時間がかかるのは、プレイヤーも覚悟しているだろうけど、このゲームの真の目的がアレなんだから、そういうゲームに、こういう事を仕掛けてはいけないと思うのだよだよ。
その他では、与えられる情報が抽象的すぎて、ほとんど何がなんだかわからない状態で放り出される事が多い点かな。
もちろん、これは前述の「他シナリオの伏線」という奴だけど、もう、こっちは大弱り。
アーレス以外のメインキャラクター全員が、「私は、貴方の知らない秘密を握っているんですよおぉぉ」ってな感じで登場するもんだから、ひとりだけおいてけぼりにされている気分が終始抜けない。
とくに、アーレス自身が自分に与えられた情報と状況をあんまり分析しないタイプなのもあって、疎外感が強まってしまう(現代編のカスミが、これと全く正反対のタイプのため、この点があまり気にならないのだ)。
このゲームでは、主人公がいない場面も、演出の一環として映し出される。
主に敵側の思惑といったシーンだが、適度に短く構成されているため、「途中で主人公以外の視点が入っているうぅぅ! ウキー、許せんザマスゥ!」という事にはまずならない。
アニメ的演出がところどころインサートされているのは、興味深い。
戦闘シーンも、時にはフルアニメーションになってたりする。
風の神官との対決シーンなんか見ると、「アーレスって、なんかスゲー技使えるのな。案外つえーんじゃんか?」と、思ってしまうだろう。
……しかし、肝心の本シナリオでは、そのアーレスの強さが微塵も感じられないのは、いただけない。
心の強さはわかるが、本来の実力というのが全然といっていいくらい証明されていないため、違和感がある。
よ〜く考えてみたら、アーレスって、“大地の剣士”という称号をひけらかしている事によってのみ、強さをアピールしていただけにも、思えてしまう。
後のカスミが、充分にその実力を証明しまくってくれているため、それと比較しても、アーレスの表現は弱い。
かえって、未来編に登場した時の方がインパクトがあるし…。
それと、この物語は仮にも「紀元前」なんだよな。
だけど紀元前の地球のどこか…というよりは、「異世界編」と称した方がしっくりくるくらい、世界観に違和感がある。
まぁ、もともとこの時代は過去編でも、「古代の失われた文化の一つ」みたいな扱いをされていたから、本当はどーでもいいのだけどね。
ちょっと、中世時代入ってて、混乱したよ(炎の神殿なんか、なんで南アメリカのピラミッドなんだろ? 南ヨーロッパだろ? ここ)
ちなみに、はじめの方に出てくる「マーサの胸がはだけたシーン」は、プレステゲーム界に波紋を投げ掛けかねないくらいの、スゴイインパクトだゾ。
先っぽこそ出てないものの、あの巨乳が、ほとんどフルオープンで画面に出た時は、ひっくり返りましたぜ、あたしゃ。
後でまとめるけど、他シナリオでも、(プレステ的に)問題のシーンが連発しているのだ。
…ひ、必見…!!(笑)
『現代編 カスミ』
過去編とうって変わって、非常に濃厚なシナリオ。
基本的に、どこかがひねくれた人間の集まりのため、素直な連中の集まりだった過去編とは、一線を画している(…?)。
主人公・カスミは周囲のキャラクターに対してだけでなく、プレイヤーに対しても非常に「毒」が強い。18歳のガキと思っていると、マジでとんでもない衝撃を与えてくる、そんな奴だ。
もともと他人を騙して、欺いてなんぼの物語なのだから、仕方ないといえば仕方ない。だが多分、主人公の中でこいつが一番キライだって人、多いだろうなぁ。
「YU−NO」などでも出てきた考古学探究型のストーリーで、本当、菅野氏はこういうのがお好きの様で。
時代は変わっても、舞台は同一というコンセプトのEGだから、当然このシナリオで出てくる遺跡というのは、過去編アーレス主人公のシナリオの痕跡を意味している訳だ。
レイナが発見した遺跡とは砂の神殿の事であり、マリーン湖の底では、水の神殿が朽ちながらも存在している。
プレイヤーはそれらの正体を当然知っている訳だから、ここでニヤリとさせられる。
しかし同時に「ああ、アレはもうこの時代だとこうなっちゃってるのか…」という、一抹の哀愁感が漂う。
この辺の感覚の使い方は、いつもながら実にうまく、楽しめる。
古い引用になって恐縮だが、「DE−JA2」という昔のゲームがあったが、アレの場合は、現実に存在している遺跡を巡る解釈にオリジナルの解釈を加えてアレンジした物語だった。
この場合、結末に“?”マークが付いてしまう事があるが(たとえ面白かったとしても)、EGの場合、遺跡の由来そのものがそもそもオリジナルの訳だから、そういった違和感を感じなくて済む。
「YU−NO」でもそうであったが、菅野作品にはこういうのが目立つ。一番、うまいやり方だろうね。
さて本編。とにかく、カスミという人物像が、異常な程に浮き出ている。
タイプとして、一番近いのはおそらく「EVE」の天城小次郎だろうが、こいつはあんなもんじゃない。
目的のためなら、人前で平気で人を撃ち殺す! また、人の力に全く頼らない。完全な一匹狼だ。
途中、アルゲリーチと行動目的を共にするが、日給制で雇っての事だし。
非常に徹底された人物像で、個人的には(強調!)、こいつが一番好きだ。
とにかく、今までの菅野作品の主人公キャラクターの中では、異彩を放っているのは間違いない。
とっさの行動力と瞬間的判断力に長けており、その実力は嫌という程に伝わってくるのだ。
また、その自分の能力を完全把握している所もあるため、ほとんどスキがない。
唯一、許嫁のアイに対する態度にムラがある程度。同シナリオに登場する他のキャラクターを完全に突き放してしまっている。
しかし、それがまたシナリオ上の問題に見えてしまうのも、また事実だ。
カスミは、常にトレジャーハンター御用達のスペシャル装備を携帯している。
一時的に、正体不明の相手に盗まれたりもするが、基本的に、かなり有効範囲の広いアイテムを持ち続ける事となる。
しかし、なぜかそれを使用する場面が異常に限られていて、閉口させられてしまうのだ。
一例が、一億円もするアイテムで、障害物の向こう側の空間の有無を調べられる“Trough
Found”というメカ。
これを使うことによって、遺跡内の壁の向こうに空間がある事が解るのだが、なんと、解っただけ…。そこ以外の場所での使用は、一切思いついてくれない。
一体、何のために持ってきたアイテムなのかわからない。
あれだけ完璧なスキルを持つカスミなら、もっと有効利用しそうなものなのに、変な所で抜けているのだ。
他にも聖者の墓地など、充分使えたと思うのだが(たとえ中に入れなくても、空間の有無が解るだけでも、デカイと思うが…)。
暗視スコープ“NightVISION”にしても、首をかしげたくなる使い方しかしてくれない。
なんと、内蔵されている通信機を使うだけだ。それも、たった2回。暗視なんか一回もやってくれない。どうしたんだ、カスミ!?
全体的にこんな感じで、アイテムの有効性が全然発揮されていない。
もっと活用していれば、さらに早く謎の核心に迫れたかもしれないという思いばかりが先行して、プレイヤーはかなりのストレスを感じる筈だ。
また、橘レイナと許嫁のアイの二人が、完全にカスミにとってのお荷物になってしまっていて、もう邪魔で邪魔でしょうがないというのも、大弱りした点。
フラグが立ち、話が進むぞ〜…という所で突然乱入してきて、ストーリーをブッた切るレイナに、とにかくカスミの邪魔をするためだけにしか登場してこないアイ。
しかも、アイに至ってはもの凄く気が強く、もはや嫌味の域に達しているキャラだ。
あれだけボロクソにカスミの事をけなしておいて、その胸の内には、許嫁である彼の事を想っている……なんて言われたって、説得力ゼロだぜ。
せいぜいカスミに傾きかけたレイナに嫉妬心を抱くぐらいしか、そういった描写はない…と、言い切ってしまいたいくらいだ。
もちろん、他にもカスミが好きなんだなーってわかる所はあるんだけど、我の強さがそれを覆い隠してしまって、全く印象に残らない。
あげくに、ファントムにとっ捕まった上にカスミにひっついて未来編にまで登場してしまう図々しさ。
あ〜もう! イライラさせるだけじゃんか、コイツはーっ(怒怒)!!
一方、レイナはレイナでスゲー事をやっている。
実は、(アーレス編での、マーサの乳の話も含まれるが)本作「EG」の評論で、“H度”の項目をそのまま残しておいた理由が、ここにあるのだ。
なんと! このシナリオでカスミとレイナは「ヤッちゃう」のである……!!
嘘じゃないよ、本当だよ。
もちろん、ビシバシかましている最中のシーンやセリフはないけれど、一戦交えて、服を着直しているレイナのアニメーションがちゃーんと存在しているしね。
おいおい、いーのかよこれプレステだろ? 随分と描写がきわどくなってるなぁ。
規制問題は緩和したのか?
「ダブルキャスト」でも、なんかスゴかったっていう話じゃんか(「九拾八式降臨」参照)。
未来編だと、スィー達3人のセミヌードがバシバシ続くシーンがある。ちなみに、入浴シーンだけどね。
なんか、結局Hゲームの範疇から抜け切れていないような気もするが…。
と、とにかく、レイナはそんなシーンの後、やたらとカスミにひっつきまくり、アイの詮索を受ける事になるのだが、ここでもまたうっとうしさが倍増する。
なんで、この話に限ってヒロインはこんなのばっかなんだろーかなー?
全体的に見た場合、とにかく現代編の特殊性は際だっている。
一番菅野色が濃いパートでもあるし、お得意な要素が充満しまくっている。
アーレスの話が、キャラクター同士の心の交流を主軸にしてあるのに対して、本シナリオは相手の腹をさぐり、騙し、騙されて進めていく、とても腹黒いストーリー。
だから、カスミの様な毒のある主人公が必要になるのは解る。
では、ウィルと共に未来へと旅立った後の彼は…というと、実は、なーんにもしない奴になってしまうのである。
もちろん、シナリオを進めるためのフラグ立てはちゃんとやるのだけど(当然か)、あの溢れる行動力はどこへやら、未知の場所にやって来ても、ただ通るだけ。
疑問も抱かなければ、謎を解くための行動もとりはしない。
挙げ句の果てには、未来編のキャラクターとも、ろくに話をしようともしないという有様になってしまうのだ!
この、極端な変貌ぶりはどうにかならなかったものかなぁ…?
ちなみに、この話は情け容赦なく人が死ぬ死ぬ! 何人死んだか、マジでわかんねーぞ。
カスミの宿敵・トレジャーハンターのファントムも、殺すわ殺すわで、もースゴイ。
しっかし、「誰もその姿を知らない、伝説のトレジャーハンター・ファントム」は、実に良い味が出ていたと思う。
なにせ、ただでさえ腹黒いシナリオに、「犯人(?!)探し」の要素をも付け加えたんだから。
途中で正体バレバレになっちゃうけど、いいんでないでしょうか。
軍隊レベルの規模で活動するトレジャーハンターって、奇妙なリアリティがあって個人的にはGOOD! …死に様は、もっとGOOD…。
ちなみに、剣乃名台詞『くそっ、なんでこんなにイライラするんだ?』『おわっ』も、期待通りに挿入されているぞ!
『未来編 スィー』
ベースのストーリーが単純なのに、まず閉口。
まぁ、未来編はもともと他の2つのシナリオとリンクして、完結へと進む話なんだから仕方ないかもしれないけど、それにしても単調なのが厳しい。
スィーをはじめとして、ラーライラや途中参加のティティ、タツタのキャラクター性の高さで、なんとか補っている状態だったりする。
しかし、徹底された背景描写や、その世界に生きる人々の様子の描き込みが素晴らしく、引き込んでくれる。
自然が完全に破壊し尽くされた世界で、青空を知らない生活をする未来の人々。
本当ならば、暗く塞ぎ込んでいるだろうと思われる人々は、彼等なりの明るさをもって生きている。そして、生きるためのこだわりをちゃんともっているのだ。
架空世界の設定というものでは、かなり高レベルのものと考えていいと思う。
特に、赤い海は圧巻。
特になにもないのだけど、これは様々な印象を各キャラに与え、そのうち一人は完全にブチ切れたりしていたから、充分なエッセンスでしょうな。
この未来編は他の2シナリオに比べて、マップがメチャクチャに変わってしまっている。
大陸は裂け、海に没してしまった部分もある。風の神殿跡なんざ、完全に消滅してしまっているし。
しかし、残っている場所にまつわるエピソードは、非常に効果的で興味深い。
一例が、旧主都ザール。
ここはすでに崩壊してしまい、大勢の人々が死んだ街なのだが、ここから、(孤島となってしまっている)“迷いの森”などのあるエリアへ進む事になる。
はじめは、海を渡れないため(強酸海!)足止めを食うが、やがて条件が整う事により、進める様になる。
このザールは、他のシナリオでは「聖者の墓地」にあたり、それぞれのシナリオでも、まだ行ってない所へ進むための重要なポイントとなっていた。
つまり、形状は変わってても役割はちゃんと継承されているのだ。
こういう所は、スゴイよね。ただ、そのザールに幽霊が出るっていうのも、場所が場所だけに、なんか嫌〜。
他にも、アーレスに導きを与えた水の神官・アクアの住んでいた湖跡で、過去編で必要なヒントが用意されていたりする。
時代を超えて、アクアはアーレスを、同じ場所で助けたのだ。
さて、とりあえずウーに会うという目的のために、各地を放浪するスィー達は、持ち前の明るさとボケで、我々プレイヤーを実に楽しませてくれるが(色仕掛けのシーンで、笑わない人って、いる?)、なんと、物語が核心に迫ってくれば来る程トーンダウンしてしまうのだ。これが、この未来編最大の欠点だろう。
そもそも、いい加減おつかいイベント応用の、ポイント通過式のフラグ立てにも、プレイヤーがうんざりする頃というのも手伝って、かなりこちらもだれてくる。
また、旧首都ザールでの幽霊騒ぎでタツタが死んでから、ストーリー上の起伏があまりなくなってしまう。
一時的に、現代編のカスミがこの世界にやってくる辺りが盛り上がるけれど、前述の通り、カスミはこのシナリオでは何にもしてくれないため、どうも空振りした気がしてならない。
また、全体的にかなり疑問の残る要素があり、それがEG終結のエピソードの印象を悪化させているかもしれない。
第一に、4神官の力の込められたエレメント・アイテムの入手のし方だ。
先に、入手した時の演出が良いとは書いたが、入手方法自体は「何故?」と疑問符。だって、クイズを解かなきゃならないんだぜ。
どーして、ここまでやって来ていきなりクイズなんかやらなきゃならないのだろうか、私はどうしても納得出来ない。
物語の流れは、答えが解らなければそこで止まってしまうし、クイズ自体も決してすぐに解るレベルのものではなく、かなりややこしく表現されている。
ちょっと、悪意すら感じるぞ(これからやる人のために、答え書いちゃうけど、炎→溶岩、風→空気、水→魚、砂→山だよ。こんな所で詰まると、ほんと、馬鹿見るぞ)。
本なのに、先に書かれている事が“クイズに答えなくちゃ読めない”っての、だれが納得するんだ?
第二に、「2本の杖」と、「神の意志」の正体についてと、それを巡る中枢人物達の思惑。
これらが、もうなにがなんだか全然解らない。もはや、遠い世界ヴァルハラの彼方のやりとりみたいなのだ。
2本の杖が時代によって様々な形で現れ、二つが一緒になると、世界が滅亡する…ってのはいいとして、杖の形のアザを持っているスィーが、いわばマーサの生まれ変わりとしてこの未来に転生したのはわかるが、もう一方の杖のアザを持っているのは、転生も何にもしていない、マーサが現役で生きていた時代にいた“神の唄・ウィル”自身なんだよな。
んで、ウィルは現代編にも登場しているけど、現代編には、ウィルを別にしても2本の杖は(ちゃんとした杖の形として)出てきているんだよな。
…と、いう事は、現代では3本杖があった事になる筈だ!
現代編の杖はレプリカだろうって?
…しかし、「様々な形で…」というくだりがある以上、それが本物になってしまっている可能性もある。
事実、悪魔の方の杖を持っていたリヒテルは、自分の杖がレプリカと知りながらももう一方の杖のある家には、近づこうとしていない。どーいう事なんだ?
また、ラストのラストで登場するアーレス(爆笑)の考えと、ウーの考えのぶつかり合いなんてのは、もはや宗教家同士のののしり合いレベルの口論で、こんなもんでファイナルバトルもなく、ショボショボと終わってしまうのだ。
「神の意志」ってーのも、結局何のバケモンだったのか全然わからないままで終わってしまい、メチャクチャ不満だ。
まさか、あんな奴が「本当に神様でした」なんていうオチだったってーんじゃねーだろーな??
またスィーもスィーで、なにがなんだか解らなくなってウィルと一緒になって、杖の力発動させちゃうし、ラーライラ意味もなく死んじゃうし、発動したらしたで「そんなんあり?」っていう、スゲーオチ。
カスミも元の時代に(アイと共に)戻ってしまい、めでたしめでたし……
……オイ! なんだぃこのオチは?
まだあるぞ。
死んでいたティティの父親、死に際に、有馬広大も驚きなくらいの文章量の遺書を残している。そんなゆとりあったら、とっとと迷いの森から脱出しろよ…。
さらに、イーと兵士をおっかけ回すイベントは、単なる二重苦にしかなっておらず、まして虎牢関の鍵を持っている兵士は、最終的にスィーのシナリオ自体から姿を消してしまい、カスミ側に視点移動しなければ永久に捕まらないという、もはや意地悪としか思えないレベルのフラグとなっている。
視点移動にしても、せっかく前半の方では強制力もほとんど無く快適だったのに、未来編では、強制的に移動させられる事が多くなる。
これは仕方無い場面もあるからいいんだけど、なにせ、カスミ達はなんにもしないに等しいもんだから、わざわざこんなスタイルのシナリオにしなくてもいいんじゃないか? という気分になってくる。
いいところは良いのに、また、せっかくキャラクター達の魅力で引っ張ってきたシナリオを、こんなにお粗末に締めてしまった未来編。
残念ながら、ワーストであったと言わざるをえない。
絶対、こんなお粗末なオチは予想出来ないと思うよ(カスミとアイが戻って来た時、一緒に連れてきてしまった誰かさんのくだりは、個人的に好きだが)。
しかしエンディングの後に、これらを上回る程の“とんでもない”事があったのだ!
それは…………………
(総評)
プレイ当初の取っつきは、案外良好。プレイ中も、少々のストレスがあるものの乗り越えてしまえれば、かなり面白いストーリーを楽しめるようになる。
しかし、結末が迫る程尻窄みになり、第一印象とは全く異なる、疑問が残りまくる結末を叩き付けられる。
…「EG」とは、そういうゲームだ。
そのため、どうしても評価が「C」よりも上にいかない。
また、最大級の疑問点が、それこそ最後の最後に炸裂する。
それが、「プレイヤーランク」!!!?
何で? と、思った方もいるだろうが、このゲームもちろん一本道であり、時間こそかかれど、クリア出来ないという事はほとんどない。
しかし、ゲーム終了時「あなたのランクは…」として、トレジャーハンターの能力ランクに引っ掛けて、何段階かの評価を下すのだ。
基準は……なんと、プレイ時間の長さ。
ダイヤモンドハンターランクに至るためには、無駄なく素早く、進めなければならない…らしい。
では、アレをもう一回やり直せとおっしゃるのか? という事になる。
いくら菅野シナリオにしては短いといっても、「バイオハザード」じゃないんだから、タイムトライアルなんかやる意味は完全にない筈。
ちょっと、マジで頭を疑いましたな、今回ばかりは。
これで、トップランクだったら結末が変わります…って事になってたら、もうそれはゲームではなく、単なる制作側の自己満足に過ぎない。
間違いなく、ランクのために再プレイを試みる人間はおるまい。
問題は山積みではあるが、菅野(剣乃)シナリオ好きの人ならば、それなりに楽しめる出来になっている。少なくとも、定価分の価値はあるのではないか。
確かに、ラスト付近の締まりのなさは食傷気味だが、とにかくプレイ中は楽しく、3つの世界観をふんだんに味わえる。
キャラクター達も魅力的で、いままでのよりも、かなり社交性がアップしていると思うよ(笑)。
また、シナリオの核心に触れるのであえて深く書いていないが、未来編には衝撃の事実が一つ仕掛けられており、プレイヤーに切なさを感じさせる。
過去編のアーレスは、未来編ではどうなってしまったのか、そして、なにを見てしまったのだろうか…?
過去編のエンディングで語られる事実は、メチャクチャインパクトが強く、絶対レベルで必見だ。
それを感じるためには、ザッピングプレイをオススメしておく。
色々考える事が出来る、深みのあるストーリーだったのかもしれない。
もしスィーが本当に、マーサの生まれ変わりだったとしたら、アーレスの関わり方は、もはや悲劇以外の何物でもなかった筈。
当ライターの一人・みっちんがよく言うところの「女の子一人が犠牲になって、お涙頂戴」パターンではなく、いわば新パターンなのはポイント高い。
とにかく、今回“ティーナ”や“御堂真弥子”に匹敵するのは、「アーレス」君以外になし! …なんて、勝手に思ってます、ハイ。
今後の、Abelレーベルの作品に、期待を寄せられる一本であると、断言は出来ると私は思う。
ちょっと、Hゲー化してWIN-98用にされたら嫌かな〜なんても思っているけど、及第点。オススメはしておきます。
…って、アレ? 次は「プレゼントプレイ」だったんですか? マジ?
(後藤夕貴)
PS:
また、大阪出張中にプレイしてしまった……。
「EVE」といい「DESIRE」といい、私にとって大阪と菅野(剣乃)作品には、因縁めいたものがあるのだろうか…?