『たとえそれが間違いだとしても、僕はまたこの結末を選ぶ』
<商品概要>
DCソフト、「北へ」の原画師として有名な大槍葦人氏が立ち上げたブランド、リトルウィッチのデビュー作。
従来のADVとは全く異なるシステム、FFDとSSPを採用した新感覚のADVです。
最近、DCへの移植が決定しましたね。
<ストーリー>
西暦2008年、東京。
軍との結びつきと巨大な政治的背景によって、超法規的な活動を行う秘密機関「古痕(ここん)」
その中にあって、主人公・津名川宗慈は遺伝工学の天才として、あるプロジェクトを一任されていた。
そのプロジェクトとは、人間の基底遺伝子を改良し、さらに人間には無い24対目の遺伝子を組み込んだ生命体、「エクストラ」を創造し、命の可能性を模索する「エクストラ・プロジェクト」であった。
津名川によって生み出されたエクストラは3人の少女。
不安定な彼女達と共に過ごす穏やかな日々。
だが、事態は津名川の研究所が突然の襲撃を受けたことから一変する。
否応なしに戦いと陰謀に巻き込まれる津名川達の命運やいかに?
<システム・演出>
1.基幹システムとプレイ概要
本作は、主人公・津名川と彼のエクストラ(以下EX)を中心としてストーリーが展開する全10話のADVです。
各話ごとにOP、EDがあることから、1クールのアニメ作品を意識して作られていると思います。
前述しましたが、本作には従来の「グラフィックとテキスト」で構成されるADVとは異なるFFD(フローティング・フレーム・ディレクターシステム)と呼ばれるシステムを採用しています。
このシステム、アニメと漫画の良い点を併せ持ったようなシステムで、漫画におけるカットやコマをアニメーションさせることにより、そのキャラやグラフィックの動きや変化を表現するといったものです。
FFDにおける最大の利点は「臨場感」です。
最初の内は動く漫画を読んでいる様に思えますが、本編内で度々起きる戦闘シーンでは「キャラクターの動き」を十分に堪能できると思います。
情景描写も練りこまれていて、このシステムを開発・プログラミングした方にはただただ拍手です。
音声が無いのはシステムの煩雑性ゆえ、仕方ないといったところです。
無くても楽しいですけどね。
しかし、もう一つのシステム、SSP(ストレイ・シープ・プログラム)は、その機能を果たしているとは言えません。
SSPとは、ADVにあるプレイヤーに選択肢を与え、それを選択させるという手法を主人公以外のNPCキャラに行わせることによって、そのキャラの選択、行動の過程を演出するといったものなのですが、本作が基本的にストーリー一本道の話の為に各攻略ヒロインの攻略状況を知る為の目安としてしか機能していません。
本作がパラメーター育成型のような作品であれば活用出来たのかもしれませんが…
2.グラフィック・音楽
メーカーを立ち上げた大槍氏本人が原画を担当しています。
パソコンで作ったと言うより、水彩画をCG加工したと言った方がいいです。
主に淡い色調を使ったグラフィックは複数のスタッフが手がけたものらしいですが、統一感もありなかなかの高水準だと思います。
キャラクターに眼鏡をかけた人が多いのは…スタッフの好みなんでしょうか?
…それはアリです。
絶対にアリですとも(笑)!
品藤はその最たるキャラですから。
その他は……あら? 男ばっかり?
音楽はボーカル曲を入れて全39曲。
ピアノとギターの旋律が感傷的な気分にさせるメインテーマ「透明な感覚」を初めとして、ハイレベルな楽曲が多いのですが、特筆すべきはボーカル曲のバリエーションでしょう。
OPとED用の3曲と、本編未使用の作品イメージソングで全4曲あります。
PCゲームを始めて長くはないのですけど、イメージソングがあるPCゲームなんて、僕はこれが初めてでした。
3.シナリオと演出
演出については、FFDの視覚効果もあいまって満足出来る物でした。
ただ、演出の基盤となるシナリオがかなり削られている印象を受けた為消化不足な感があります。
これはシナリオライターの力不足と言うより何らかの理由でシナリオを削らざるを得なかったと僕は見受けました。
端的な例はヒロイン別シナリオでしょう。
ちなみに、本作は1回目のプレイは必ず同じ結果になるので、2週目からが本格的な攻略になります。
本作の攻略ヒロインは津名川のEX3人なのですけど、基本的に全く同じシナリオを進むことになります。
おそらく、一人一人の出生秘話を絡めて各ヒロインのエピソードを構成しようとしたのかと思われますが、本筋となる話をまとめるのが限界でそちらまで手がいかなかったのだと思います。
あと、本作、各話ごとにOPとEDが用意されてますが、OPについては感心できない部分があります。
OPはアニメーションなのですが、画像が粗めの上、そのカット割りや演出がとあるアニメ作品と酷似…
あからさまに言えば、「エヴァ」なんです。
まあ、世界観とか設定とか似てる作品同士なんですけどね(笑)。
4.Hシーンと操作性
18禁が18禁たる理由、Hシーンですが、EX3人に各4回とハーレム、その他を入れて、結構なボリュームです。
ちなみにこのシーンは普通のビジュアルノベルと同じです。
細かくは述べませんが、シナリオ上、無くても良かったような気もしますね。
本作の本筋は独自のシステムと大槍氏のグラフィックによる演出、ストーリーが主たるものでしたからHシーンに関しては体裁と言ったら乱暴ですけど、オミットしても問題ない気もします。
18禁と言ってもHだけでは無くて、それ相応のハードなシナリオが故の18禁ゲームなんてのがあっても良いと思うんですが…
特に、シナリオが弱い本作はHの為にシナリオが削られたかと思うとホント惜しいんですよねぇ……(泣)。
操作性は至って快適です。
セーブポイント、シーン・CGモード(Hシーンのみ)、音楽モード、一通り揃ってます。
バックログとスキップ既読判定はシステム上ありませんが、さして苦になりません。
ただ、バグが確認されてますのでOHPで修正パッチを組み込まなくてはなりません。
僕は音源関係のトラブルが数回ありました。
<キャラ紹介>
○津名川宗慈(つなかわ・そうじ)
本編の主人公。
研究機関「古痕」の研究員で、遺伝工学の天才。
EX計画を一任され3人の少女、EXを誕生させる。
理性的な性格ではあるが、悩みや弱さをあまり人に見せようとしない面がある。
幼少から一人きりで生活してきた為の孤独と遺伝工学者としてのトラウマを抱えていて、EXを家族の様に思っているが、同時に自らのエゴで作ったEXが苦労をする事に罪悪感を感じてもいる。
○透花(とうか)
津名川のEXの一人。
3人の中で長女的な存在。
思慮深く、優しい子だが、津名川に激しい思いを抱いている。
3人の中では能力、精神共に最も安定しているが、身体的に不安定でちょっとした環境の変化によってよくアレルギーを起こしてしまう。
彼女の名は、津名川が研究者として、EXに過去への謝罪の念をこめてつけられたものだと思われる。
○沙友(さゆ)
津名川のEX。
天然気味の能天気な性格。
ロマンチストで自分の感情を最優先させる少女。
3人の中で最も強靭な肉体を持つが、脳の機能が十分でない為、言葉足らずで、感覚器官が不安定。
おそらく、津名川の友人、倖(さち)が彼女のモデル。
○エマ
津名川のEX。
欲望に忠実で、子供っぽい純真さを持つ少女。
自身を抑制することが苦手で、わがままを言うこともしばしば。
心臓に先天的な疾患を持っているが、戦うことを望み、そのなかで充実したいと思っている。
本来の計画では生まれる予定は無かったが、ある事故をきっかけに彼女は生まれることとなった。
○品藤聡美(しなふじ・さとみ)
古痕の情報部部長。
同時に若年にして古痕の創設者、グラハム・ヘゼルの右腕となった才女。
個人主義で、厳しい面も持つが相手を包み込む優しさを持った女性。
以前、津名川と恋人関係にあったが、今は気の合う友人として関係を持っている。
○高宮(たかみや)エレン
津名川と同じくEX計画に携わる研究者。
プライドが高く、EXの見解について常に津名川と対立している。
強大な戦闘力を持つEXを兵器としてみており双子のEX、知佳・知登(ちか・ちと)を作り上げた。
○荒山鳥人(あらやま・とりひと)
国家公安委員会のエージェント。
かつてはEX計画の責任者であったが、グラハムと意見が対立し、古痕を去る。
自らの正義に絶対の信念を持つ男。
また、彼がいた当時のEX計画は彼自身が実験の被験者を兼任していたららしく、遺伝操作によってEXと同等の能力を持っている。
品藤とは津名川より前に恋人関係にあった。
<総括>
「名作の片鱗を見せる良作」であると思います。
独自の演出システムには目を見張るものがあり、従来のADVに飽きたという方にはお勧めできる一作です。
シナリオが弱かったのが残念ですが、完全版なんてのが出たらやってみたいと思える一本でした。
お気に入りキャラ:荒山鳥人
設定、立ち振る舞い…まさしく本作のアナベル・ガトーです(笑)。
DC版は大塚明夫氏がCVをあてるんでしたっけ?
彼は、結果としてそうなるキャラです。
主人公の恋人の元恋人、熟練の戦士、主人公(本作ではEX3人)に
とって越えるべき壁…考えれば考えるほどまんまなんですよ(笑)。
そんなキャラに惹かれる僕も僕ですが(爆)。
DC生産中止の報を受けてから結構経ちますけど、PCゲームの移植が一気に増えた為に俄然ソフトラインナップは増えてきました。
元々PS2がライバルハードでしたから、DCのスペックそのものはトップとは言えなくても、一線級の域です。
SS時代からのPCゲーム移植は必然の流れなんでしょう。
今回の「白詰〜」と同時に2タイトルほど移植が決定したタイトルがあるんですが、「18歳以上推奨」というかなりあいまいな制限がついてます。
そこらへんがこれからのDCソフトの鍵ですね。
移植版に期待したくなるのが人情ってもんですよ(笑)。
シナリオについては思うところがあったんです。
僕の知る限り「白詰〜」の情報が一般に流れ始めたのは2年前の夏頃。
丁度、「君が望む永遠」「パンドラの夢」あたりが各雑誌で特集されていた頃ですよね。
その頃の設定を見た時、本編には無い画面、設定が多々あったのを覚えています。
本来本作に使われたであろうその設定はユーザーの期待と納期の間で費えてしまったのだと思います。
そして、何を削るかを考えた末の決断がシナリオのカットだったのでしょう。
そう思うと、本編の各所に見えるEXのルーツらしきファクターが、スタッフの無念にも見えてきます。
ハイクオリティで有名な海洋堂さんのフィギュアは、小粒ながら大変よく出来たものでした。
OHPの方でも塗装コンテストを行ったりしていて、相当ヒートしてましたね。
こういったものを集めるのが趣味の方にはたまらん一品かと。
ちなみに僕は、チョコエッグのカニの造形に惚れた人間です!?
(ワークス様)
うひゃっ、マジですか?! <DC移植
なんか、さりげなくまだまだ元気いいみたいですね、DCの新作ソフトラインナップ。
私は一年前に「MISSINGPARTS」のレビュー書いた時点で「いつまで持つか」なんて不謹慎な発言しとりましたが、まるでX68000の末期の如きしぶとさ(注:誉め言葉)を感じさせます。
サターン末期も、似たような事になりましたね。
当時、セガ側には某協会から「サターンをエロゲ移植専門ハードにして存続させたいんだけど、許可プリーズ」という申し出があったらしいですが、蹴っ飛ばしたようですね。
DCでも、似たような事があれば面白いんですが…許可しないだろうなあ、セガ。
なにせ「某ハート」の移植まで蹴っ飛ばしたくらいだし(爆)。
やっぱり、そういう方向性だけでもいいから存続して欲しいですよ、ホント。
まだ消えるのは早過ぎですよ。
PS2ソフトが市民権を得るようになって久しいですが、私はいまだにDC>PS2です。
さて「白詰草話」といえば、忘れてはならないのが「初回限定フィギュア」の存在でしょう。
海洋堂・K&M(ちょびっツやハウス劇場のガシャポン等で有名)によるもので、彩色版とセピアカラー版の計8種類がありました。
ソフト購入時に、フィギュア1体とセット購入用のチケット(?)がもらえ、これを利用する事でようやく全部揃う…という販売方法でしたが、実は2002年7月頃、東京・秋葉原と大阪・日本橋の特定PCショップにだけ限定販売(形式はガシャなので、何が出るかはわからない)されました。
もちろん、瞬殺レベルで完売した事は言うまでもありません。
しかし、その後「コンプティーク」誌上でもさらに別な彩色バージョンのフィギュアプレゼントが行われ、フルコンプは相当難度が高いものになってしまいました。
現在でも、彩色&セピアのセットは10000円前後くらいでネットオークション上で行き来しています。
以前より落ちついた感はありますが、これはガシャフィギュアマニアの人達でも、ちょっと驚くくらいの珍しい事態に発展したものです。
(後藤夕貴) |