(プロローグ)
3年前、両親が交通事故でこの世を去った。
同じ事故に巻き込まれながらも一命を取り留めた十崎巧巳(主人公)は、それから妹の由衣と二人だけで暮らしていた。
幼馴染の御月香苗、その友人・麻宮梗、由衣の親友・四堂鈴、もう一人の幼馴染・織部裕貴、寡黙だが頼りになる・九条楓…
気の合う友人達と、何気無い平穏な日々を過ごしていた。
しかし両親の三回忌が近づくこの夏、一人の少女、荒良木円が転校してきた。
彼女は、昔の巧巳を知っているような素振りで近づいてくる。
それが合図だったかのように、その日を境に変わり始める周囲の関係。
転校生が語る巧巳の過去とは…
(内容)
ストーリーは前半のギャグ調な日常生活と、主人公が自分自身の正体に気付いてからの、どシリアスな後半に分けられる。
(演出)
良い。
まず立ち絵の陰影がしっかり取られてました。
昼、夕方、夜の違いに応じて、顔などへの光の当たり方、影の付き方を変えてある等なかなか凝ってます。
また、電話や違う部屋から話しをしてる時は声をぼかしたり、音量を下げたりして、声の遠近をしっかり取っていたのには感心しました。
よくできてます。
(エロ)
……薄(汗)。
主人公、早漏(爆)。
あるシナリオに至ってはH無し…ってダメじゃん。
(音楽)
特に問題なし。
ヴォーカル2曲は信頼の証、I’ve。
ゲームの内容ともマッチしていたと思う。
挿入歌の入り方も良し。
(キャラクター)
○御月香苗
幼馴染、クラスメイト、天然、お隣さんとありがちなキャラ。
一応メインヒロインですが他のヒロインが強烈すぎて影薄し。
○十崎由衣
主人公の妹。
エロゲーにはびこる「にゃあ」とかいったちょっと変わった「義妹」ではく「実妹」。
元気でハイテンション。
何かと主人公の世話を焼く。
○四堂鈴
後輩。
妹、由衣のクラスメイトで神社の巫女さん。
無口で恥ずかしがり屋。
○麻宮梗
クラスメイト。
元気少女、口より先に手が出る乱暴娘…
○荒良木円
転校生。
主人公の事を知ってるかのように近付いて来る。

(注意)これより以下、ネタバレ多々。

ズバリ主人公の正体は「Kanon」の月宮あゆ(笑)……
本来は3年前の交通事故で両親とともに死んでいた筈の存在で、術を施し無理矢理この世に留めているに過ぎず、主人公の実体は事故の後、ずっと病院で眠り続けている。
そして、術によってこのまま3年間彼自身がそれに気付かずに過ごせば、現在の彼の生霊? が本体に戻り、完全に生き返る筈だった。
…が自分の本体を見てしまい、自身の正体を知ってしまった時…というのが後半。
(御月香苗シナリオ)
2段構えのシナリオ…主人公と同じく、香苗も実は10年前に死んでいる筈の存在で、主人公と同じ術を施されたが失敗してしまっていた。
この辺のドンデン返しは上手かったが、結局謎だらけのまま呆気なく終わってしまった。
最後の真シナリオの繋ぎみたいな感じだった。
(十崎由衣シナリオ)
繰り返しますが「実妹」。
実は彼女は今の兄が生霊なのを知っていて、毎週日曜日には病院で眠り続ける主人公の本体の見舞いに行っている。
元々事故の後、主人公の復活を願ったのは彼女で、その為には「どんな方法でもいい」というほどの強いものだった。
そしてその代償が彼女に降りかかる事に…
全シナリオ中最大の鬱。
正に「Kanon」の真琴、「某空気」の観鈴ちん。
ジワジワと追い詰められていく様と、合間に入る過去の回想の演出が非常に上手くできてます。
(麻宮梗シナリオ)
前半は、主人公が成り行きで陸上部に入り彼女にシゴキ倒されるが、告白後、一途で可愛く大変身。
個人的に一番萌えた。
唯一、複数回えちい有り。
前半、さんざん陸上ネタで進んでおいて、後半それが全く無関係になってしまう。
主人公の正体を知ってしまった事で、彼が消えてしまう。
…一言でいってしまえば「ONE」…
このシナリオでの主人公の復活の仕方が、一番納得の行くものだと思われます。
(四堂鈴シナリオ)
影が薄いです。
この娘以外のシナリオだと、出番もほとんどありません。
後の荒良木円のシナリオと密接に関わっていて、円シナリオと合わせて1つの物語といった感じです。
(荒良木円シナリオ)
物語の鍵を握る重要キャラ。
そして彼女こそが、主人公や香苗に術を施した張本人。
シナリオの内容の方は、主人公の復活とは離れたサイドストーリーといった趣だが、何故彼女が主人公をそれほどまでして助けようとしたのかがよく解るでしょう。
彼女のシナリオのみが唯一別れのENDとなるが、これは正解でしょう。
彼女が本当に愛したのは、正確には主人公ではないのですから。
(香苗・カナエシナリオ)
5人攻略後にルートが開く、御月香苗の真シナリオ。
球技大会で、ソフトボールの打球を顔面に受けて病院に運ばれた主人公が出会うのが、綾波レイ(笑)ことカナエという少女。
彼女は感情が欠落してしまっている上、血を流しても「痛い」と感じる感覚すら持っていない存在。
主人公と出会う事により、カナエが次第に感情を取り戻していく様子も良く描かれています。
しかし、このカナエとの接触が取り返しのつかない事態を招く事になる。
さすがに、メインシナリオだけあって、良く出来ています。
最後に挿入歌が流れるシーンの演出は、秀逸の一言です。
(総評)
キャラクターは非常によく立っていたと思う。
シナリオも全体的に高レベル。
ただ難点は、主人公の正体が分かる2周目以降は、後の展開が読めてしまう為、マンネリ気味になってしまうのは避けられなかった。
また、どのシナリオもあれだけ苦悩する状況なっているのに、あまりにご都合主義な終わり方だ。
鍵系のゲームと酷似している部分も多々あり新鮮さに欠けるが、全体的には高いレベルでまとまった良作といっても良いと思う。
萌え萌えなキャラ絵で、学園モノといえば少し前の「ダ・○ーポ」というゲームとかぶるが、キャラ萌えだけでシナリオの方が地雷に等しかったあのゲームよりは、圧倒的に上だと言ってもいいでしょう。
(オジンガーZ 様)
キャラのパターンを増やしたり、細かい書き込みというのはよく見られる努力ですが、キャラに陰影を付けるのは面白い。
さりげない部分に、無意識に働きかける演出はプレイヤーも気が付かないものですが、「マブラヴ」での、プレイヤーの表情を表現するために画面をフル活用した手法とは、ほぼ逆の渋さを感じますね。
個人的には「的良みらん」氏のキャラは萌え系だと捉えてますので気にはならないんですが、アピールとしては弱い。
本職の漫画も最初はエロ色が強かったのに、最近はめっきりソフトになってきた。
そのため、絵とゲームの方向性だけはマッチしている様です。
ここでもI'veが活躍しますか。
活動の幅広さと仕事量には頭が下がります。
それで悪い評価を聞かないのだから凄い。
隠し、と言うか真シナリオを織り込むパターンは結構使われていますが、しかし、ヒロインを本人のシナリオとは別にもう一度絡ませますか。
ラストの状態をどう捉えるかにもよりますが、こういう場合、香苗が(もともと影が薄いとは言え)軽んじられているような気がしないでもありません。
各シナリオでキャラへの愛着を深めさせておいて真でまとめる…という構成なのでしょう。
決して「一本のシナリオの中で消化し切れなかったから個々に分割した」訳ではない、と思いたい。
繰り返しのプレイに難アリなのは避け難い。
他のゲームと似通っているのも、それをとっつき易いと見るか、ワンパターンと見るかで評価が変わりそう。
とりあえず、キャラから走っても十分満足行くレベル。
(Mr.BOO) |